バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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性癖ッッッ


第38話 上位魔霊アイトワラス

「あーん♡」

 

 カナンがオレを口の中へ放り込む。咄嗟に逃げようと舌の上でもがくものの、逃げ道(くちびる)はすぐに閉ざされ、口内を湿った暗闇が包みこむ。

 そして、迫り上がる舌がオレを唾液と共に喉の奥へごくりと突き落とした。

 

 

 むぐぅ、苦しい……。狭くてぬらぬらした管の中を、壁にもみくちゃにされながら下ってゆく。するとどくどくと脈音が徐々に近づいてきて、――妙なモノが見えた。

 

 

 

 

 ぐちゅっ……ドボン!

 

「げほっげほっ……そりゃ確かに〝絶対に手の届かない場所〟だけどさあ!?」

 

 狭い食道をぬらぬら落ちていたと思ったら、いきなり開けて水の中に落とされた。酸っぱい臭いがキツい。

 

 あぅ……ここがカナンのお腹の中? うわぁ、胃壁ってしわしわなんだな。おまけに壁も床もどこもかしこもうねうね脈打ってるおかげで、まともに立つ事すらままならない。せっかくのゴスロリが胃液でびしょびしょだ。

 しかしな、オレを食べちゃいたいとか言ってた事あったけど、まさかホントに食う奴があるか?!

 

 ……つっても、ここで何か言っても聞こえないだろうし、文句は出てからにしよう。

 

 

 ぎゅるるる……ごぽッ

 

 

 ところで、胃の中にはさっき飲んでたポーションがオレの腰くらいまでプールみたいに溜まってる。これで胃酸のダメージを中和するつもりなんだろうか。

 その上、呼吸ができるよう空気もかなり飲み込んでくれてたらしい。カナンって変な所で気が効くよな、おかげで体内なのに思ったよりは快適そうだけど。

 

 ……てか、これ出る時どうすんの? まさか()からか? うぅ……それだけは絶対に嫌だ!!

 

 頼むカナン! オレが腸の方へ送られる前に事を済ませてくれっ!!!

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

「上位魔霊……」

 

 私を睨む、漆黒のドラゴンのような姿をした存在。尾の先端がぼうぼうと燃えている。

 まさか、ゴブリンが上位魔霊を召喚するなんてね。なるほど、異質物(アルカナム)らしき小槌で人間を小さくして拐ってたのは、召喚するための生け贄にするつもりだったのね。

 

「グルオォォン!!」

 

「うふふ……カナちゃん史上一番のピンチかも……」

 

 咆哮をあげる竜魔霊の頭に、回転して勢いをつけた剣撃を思い切りおみまいする。

 

「ボウッ!」

 

「まあ、効かないわよね」

 

 魔霊に物理攻撃はほぼ効かない。煙を斬れないみたいに、魔霊はそもそも物理的な肉体を持たないので物理の攻撃は受け付けないの。

 魔力で作った疑似的な肉体で物理法則に従う事はできても、それが自らに及ぼす害は無効化する……ちょっと羨ましい能力ね。

 

 なんにせよ、ここは退却した方がいいわね。

 

 隙を見て、部屋の出口へと駆け出していく。私は魔法が一切使えないから、中にいる二人と話し合って作戦を立ててから殺しに行く事にするわ。

 

 速さは私の方が上。コルちゃんも取り戻した事だし、今は戦略的撤退を……

 

「あれ?」

 

 何よこれ、ガラスみたいな半透明な壁が出口を塞いでいる。

 思い切り剣を叩きつけてみるけど……ダメね、通れない。

 

 魔霊の能力かしら、完全に閉じ込められたわね……

 

「ゴウッ!」

 

「チッ!」

 

 魔霊がその長い尾を私に向けて叩きつける。

 先端が燃えており、あれに当たったらかなり熱そう。

 まあ、動きは大して速くはないから簡単に避けられるんだけど。

 

 しかし、私の攻撃も効かない。

 これじゃあ私が圧倒的に不利。何より、あまり時間をかけすぎると、体内のおーちゃんとコルちゃんを消化してしまう。おトイレで二人の変わり果てた姿と対面するなんて絶対に嫌だわ。でもおーちゃんなら生きたまま下から出てきそうな気がするわ。それはそれでちょっとイケナイけれど。

 

 危険だけど吐き出してあげるべきかしら?

 弱体化しているとはいえ、二人の魔法ならワンチャン……

 

「グボボボボボォッ!!!」

 

「なっ!?」

 

 魔霊め、この密室で炎の息を吐き出してきやがったわ。

 かなり広範囲に炎が広がってゆき、逃げ場が限られてゆく。

 

 ……そうよ! 私天才ね、またいいこと思いついちゃったわ。

 敵の攻撃を逆に利用しちゃえばいいのよ!!

 

「私ったら凄いわ。おーちゃんもそう思うよね?」

 

 ……

 

 おっと、私からはおーちゃんの声がよく聞き取れないんだった。

 

 魔霊が吐き出した炎に剣をくべる。

 すると刀剣は熱を帯びて赤い光を纏った。

 

「ははっ!」

 

 さっそく斬りかかってみる。

 最初と同じように、空中で回転し、その反動を利用して勢いを上げる。

 

 

 パリィィン!!

 

 

 魔霊の額に剣が当たり、ガラスが砕けるような高い音がした。すると、ほんの僅かだけど斬った部分に小さな傷がついていた。

 

 ……予想通り効いたには効いたけど、想定外にダメージ量が少な過ぎるわ。

 これじゃ首を切り落とすのに千回はやる必要になりそうね。

 今の一撃を当てただけで、もう剣の熱は冷めちゃったし。

 

 

 ……やっぱりおーちゃんがいなきゃ大変ね。

 

 

「オオッ!!」

 

 魔霊は、再び尾で叩きつける攻撃をしかけてくる。やっぱり、こちらの攻撃さえ通用すれば大したこと無い。力はあるけど知性が薄く、行動が読みやすいわ。

 

 だから問題なく尾の攻撃を回避して、再び炎を吐いてくれるのを待つ。

 そして、魔霊は顎を開き咆哮をあげながら、炎を吐き出し――

 

 

 炎を全身に纏った。

 

 

「え、ちょっとなにそれ?」

 

 なんという事でしょう? 真っ黒な竜の姿をしていた魔霊が、オレンジ色の炎の巨竜へ変わってしまったではありませんか。

 

「ルオォォォォッ!!!!」

 

 

 

「え?」

 

 ――気がつくと、私は宙を飛ばされていた。

 

 また、油断してしまった。

 炎を纏った途端、魔霊のスピードが段違いに上がったのだ。油断していた私は、ヤツの尾の一撃をお腹に受けて吹っ飛ばされていた。

 

「がはっ……!」

 

 壁に激突して床にずり落ち、倒れこむ私。そこへ魔霊がゆっくり近づいてくる。幸い、炎による速度の強化は一瞬だけだったみたいで、もう黒い姿に戻っていた。

 

 でも、頭が回らなくなってきたわ。ちくしょう、このままじゃ……

 

 

「カナちゃんっ!」

 

 

 お腹がじんわり暖かい。この感じは……コルちゃんの治癒魔法?

 コルちゃんが体内から直接治癒魔法をかけてくれたみたい。おかげで内臓に響く痛みがみるみる内に引いていく。

 

『ありがとコルちゃん…… 二人とも今の平気だったかしら?』

 

 念話で二人に話しかける。

 

『わたしもおーちゃんも何とか無事です。ただ、こんなにカナちゃんが苦戦する敵ってやっぱり……』

 

『ええ、上位魔霊よ。私の攻撃が全然通用しないわ』

 

 コルちゃんやおーちゃんの魔法なら、案外あっさり倒せてしまうのかしら。

 でも今の小さくされた状態じゃまず通用しないでしょうね。あっさり潰されておしまいよ。

 

『なあ主様(ますたー)。ここは一つ、オレとコルダータちゃんに協力させてくれないか? 試したい事があるんだ』

 

『いいけど、何をするつもりなのかしら?』

 

『んー、結論から言うと、体内にいるオレとコルダータちゃんが、主様(ますたー)の魔石の代わりになる』

 

 ま、魔石?

 

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