バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第39話 きずなのちから

 ちょうど心臓の裏辺りだろうか。飲み込まれ、胃に送られる最中にオレは妙なモノを見た。

 

 脈拍と連動して青い光を発する、十字の形をした何か。

 一瞬しか見えなかったけれど、もしかするとあれがカナンの魔石なんじゃないか?

 

 

 

 

 

 時折カナンのアクロバティックな動きで激しくシェイクされる胃の中で、灯りとなる明光石を抱えあぐらを組んで過ごす。

 

 時々激しく揺れるけど、それ以外は存外に居心地が良かったりする。

 ずっと居たくはないけどな。

 

 

 それからカナンの心音や呼吸音、時々聞こえる独り言を聞きながらぼんやり過ごしていたら、ふと視界に変化が起こった。

 暗い所で目が慣れるみたいに、何かが胃壁を透かした向こうに見えてきたのだ。何だろう、あの細長いの?

 

 それをもっとよく見ようとしていたら、カナンがまた何かを飲み込んだらしい。上の方でごくりという音がした。

 

 

 

 ずりゅっ……べちゃっ

 

 

「えほっ……あれ、おーちゃん?」

 

「あ、コルダータちゃん。いらっしゃい」

 

 コルダータちゃんが胃液とポーションの海に落ちてきた。

 目を丸くして、状況がどうなっているのか理解できてない様子だ。

 

「あのおーちゃん、ここはどこなんですか? まるで生き物の体の中みたいですけれど……」

 

「その通りだ。ここは主様(ますたー)のお腹の中だ」

 

「え、じゃあわたしカナちゃんに食べられちゃったって事ですか!?」

 

 そうなるな。食べたというよりは、安全な場所に隠してくれてるつもりらしいけど。でもせめて了承を取ってからにしてくれよ。

 

「ここがカナちゃんの……カナちゃんの……中? えへへ……カナちゃん……」

 

 あ、うん。思ってたリアクションとだいぶ違うというか、嬉しそうだな。

 うわ、ハアハア興奮しながら胃壁に頬擦りしてるよ。

 楽しそうで何よりだ……。うわぁ、変態だ……

 

 

 

 

 カナンの声が聞こえてくる。どうやら上位魔霊と戦ってるらしいが、大丈夫だろうか? 物理攻撃が効かないんだぞ?

 

 だとしたら今、オレにできる事は無いだろうか?

 

 そう思い、さっき胃壁の向こうに透けて見えていた細長い何かを、もう一度注視する。

 

 

 アレってもしかして……?

 ふと、前世の記憶(ちしき)が思い起こされる。

 

 腸から吸収された栄養の多くは、太い静脈に乗って肝臓を経由し心臓へと送られる。

 そして、心臓から動脈に乗って全身に栄養が届けられるという訳だ。

 

 じゃあ胃の下から伸びてるアレ、静脈じゃないか?

 上を見ると、真っ直ぐではないが心臓の位置まで続いてるのがわかる。

 そもそもなぜ透けて見えるのか?

 

 おそらく、吸収した魔力を帯びているからだ。

 だから飲み込まれた直後、真っ暗なハズなのにオレには胃の中がぼんやり見えたのだ。

 多分、直前に食べた、蜘蛛の魂の魔力が残っていたからだろう。

 そしてよく見れば、管みたいなものの中を赤いものが流れている。やはりあれは血管だな。

 

 では、オレに魔力を感知できる力があるとして、なぜ静脈しか見えないのか。血中に魔力があるならもっと他の器官が見えるはずた。

 

 その原因は多分、魔石だ。

 本来全身へ届けられるハズの魔力を、オレの本体である十字の魔石がほとんど取り込んでしまっているのだろう。

 

 だからカナンは一切の魔法を使えないのだ。

 

 

 

 ドオン!

 

 

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

 

 いきなり、胃に何かが強くぶつかったかのような、激しい衝撃がオレ達を襲う。

 まさか魔霊の攻撃をモロに食らってしまったのか?

 

「うぅ、大丈夫かコルダータちゃん……?」

 

「わたしは平気ですけど……カナちゃんの体が心配です……」

 

 今の衝撃で、内臓に傷がついてたりでもしたら大変だ。念のためコルダータちゃんの魔法で回復を――

 

 と、その時、ふとオレの脳裏に一つのアイデアが降りてきた。

 

「コルダータちゃん……地操作魔法って、もしかして物に魔力を血管みたいに通して操ってるのか?」

 

「うぅ、そうですけどおーちゃんどうしたんですか?」

 

 やっぱりな。これなら、主様(ますたー)に限定的だけど魔力を与える事ができるかもしれねえ。

 

 

 

「――なるほどです。わたし達が魔石の役割をするって事ですね」

 

「問題は主様(ますたー)にやりたい事をどう知らせるか……だが」

 

「それなら任せてください!」

 

 胸を張って言うコルダータちゃん。胃壁に触れながら治癒魔法を発動し、そして大きく息を吸い込んで――

 

「カナちゃんっっ!!!!」

 

 めっちゃ大きな声で叫んだ。思わず鼓膜が痛くなるくらいに。

 すると――

 

『コルちゃん?』

 

 おお、ホントに念話が来た。額を合わせなくても発動できるようになったのか、体内にいるからできるのか。今はどうでもいいけど。

 

『――という訳で、オレ達は主様(ますたー)の魔石の代わりになる。とりあえず、しばらく右手でお腹に触れていてくれ』

 

 カナンへ手短に試したい事を伝える。

 そしてコルダータちゃんとオレは、腹側の胃壁に手を当て、魔力を込めた。

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

 お腹に手を当てていろ、と言われたけれど、二人とも何をするつもりかしら?

 

 コルちゃんのおかげでダメージはほぼ完治しているけど、ゆっくり歩み寄ってくる魔霊の油断を誘うためにまだダウンしたふりをしておく。

 

『……繋がりました! 後はおーちゃんの魔力を注入して――』

 

 ……え?

 私の服は、さっきの一撃でお腹の部分に焦げた穴が空いていたのだけれど、そこから露出しているお腹に、ちょうど胃の位置を中心に黒い木の根っこみたいな模様が浮かび、広がってゆく。

 そしてそれは、じわじわと触れている私の手にも侵食してくる。

 

 これは……魔力?

 

 ……っ!?

 

「何よ……私の手が……」

 

 私の手が、腕が、漆黒に染まり、めきめきと形を変えてゆく。

 

 そうして私の右腕は、黒く金属質な、ガンレットを思わせる甲殻に包まれていた。

 

 これってまるでおーちゃんの……

 

「ゴ……グルオォォォ!!」

 

 魔霊が怒った? 私のこの腕を見たからかしら?

 怒るって事は、この腕の攻撃が効きそうね。

 

「おーちゃん、コルちゃん。よくわかんないけどありがと!」

 

 怒り、激しく咆哮しながら私へ走って向かってくる魔霊。

 なら、その頭に正面から一撃食らわせてやりましょう。

 

「ルアァァァァ!!」

 

「はああああああ!!」

 

 顎を開いて迫ってくる魔霊。立ち上がるついでに、私は右腕でアッパーをおみまいし――

 

 

 ガキィンッ!!

 

 

「ガガッ……アア……!?」

 

 

 一撃殴っただけで、魔霊の下顎が消し飛んだ。

 通用するどころか、あと数発殴れば倒せそうねこれ。

 

「あはっ♡」

 

 背面に回り込んで、忌ま忌ましい尻尾に手刀で斬りかかる。

 すると、野菜でも切るかのように簡単に切断できた。

 さっきまで攻撃が効かなかった事が、まるで嘘みたいね。切断された尾は、黒い煙となって消えていった。

 

「ガガ……ッ!?」

 

「今度は私が攻撃する番よ?」

 

 うっふっふ……ついに怯えだしたわね。今私とってもいい気分だし、一撃で楽にしてやるわ!

 

 部屋の入り口の障壁を解除し、そこから逃げ出そうとする魔霊。

 当然逃がすつもりなんて無いわよ♡

 

「あはははははは!!!」

 

「ギャッ――」

 

 正面へ回り込んで、その無駄に大きな胴体へ全力を込めた右拳を放つ。

 

「これがっ、絆の力よっっ!!!」

 

 黒い拳はめきっと魔霊の肉にめり込み、拳圧は次の瞬間、魔霊の全身を粉々に吹き飛ばした。

 

 

 ドォンッ!!!!

 

 

 爆発音が響き渡る。

 魔霊の体は粉微塵に消しとんで、肉片の全てが煙となって消滅する。そして漂う黒い(たましい)を、私の背中から伸びる鎖が捕まえた。

 

「やっと終わったわね……」

 

 今はまだ、捕まえた魂は食べない。お腹におーちゃん達がいるから、外に出してあげてから味わう事にするわ。

 

 ……あら? 右手の色と形状が元に戻って行く。……とほぼ同時に、小部屋の奥の壁が扉みたいに手前へズズンと開いた。

 

「あれって……」

 

 その奥には、異質物(アルカナム)らしき小槌が、青い石の台座の上に置かれていた。

 

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