バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第43話 くまぁ!

 カナンがオレ達を飲み込んだ事件から2日経った。多少は強い魔物――例えば、頭が熊の大蛇とかに遭遇したものの、大概はカナンの怪力の敵では無かった。

 そうして、より広い道へと潜ってゆく内に、景色に少し変化があった。

 

「色が変わってきたわね」

 

「だな。迷宮核(ダンジョンコア)が近いのかも」

 

 青一色だった遺跡のような迷宮の色合いに、うっすらと緑がかかるようになってきたのだ。

 これはさしずめエメラルドグリーンって所か。

 

 そこから更に果て無く続く迷宮の奥へと進むと、ついに突き当たりへたどり着いた。

 

「これは――」

 

  なんだこれ……?

 迷宮内でこんなの、初めて見た。

 

 それは、巨大な扉。幅も高さも大きくて、家一軒くらいの高さはある。

 扉には熊をデフォルメしたような紋様が刻まれており、この先にいかにも何かがある事を示していた。

 

「なんでしょう、この先に強い魔物が待ち構えていたりして……?」

 

「なーにっ?! それなら早速!!」

 

「いやまて主様(ますたー)、ここはあえて慎重に行った方がいい。大抵こういう場合は、罠か桁外れに強いボスがいるのがお約束だ」

 

「ふうん、おーちゃん詳しいね?」

 

 いやなに、ここもテンプレっぽいなと。

 ゲームとかだったら間違いなくここがセーブポイントになってるだろうな。

 だからここで準備を整え、万全の状態で突入するべきだと思ったのだ。

 

「――おーちゃんの言う通りですよ。油断してまたゴブリンの時みたいになっても大変ですし」

 

「うーん、仕方ない。まだお昼ごはんも食べてないし、一旦休憩ね」

 

 という訳で、オレ達はこの奇妙な大扉の前でランチをする事になった。

 スライスしたパンにお魚とトマトを挟んだ、サンドイッチ風のお昼。

 

 もぐもぐ。

 

 うん、サンドイッチおいちい。

 

 ……と、くつろいでいた時の事だった。

 

「おや、君たちは……」

 

「あら?」

 

 オレ達が来た道とはまた別の所から、ガタイの良い顎髭おじさんを先頭にぞろぞろと複数人の冒険者が現れた。

 その数……何十人いるんだ? なんか多くない?

 

「なんでこんな所に子供が……?」

 

「君たちどこの班の冒険者だ? 私達はB班の探索隊だ。はぐれたのかい?」

 

 おじさんが丁寧な口調で聞いてくる。

 班? なにそれ、ずっと三人で潜ってたんだけどそんなのあるの?

 

「班……なんて聞いてないわ? それぞれのパーティで勝手に調査するんじゃないの?」

 

「ふむ……本来ならばそうだが、今回は危険な魔物が多くてな。複数のパーティで固まって進む方針になったのだ。事前に聞かされていないのなら、どうやってここまで来た? というか君たちランクはいくらだい?」

 

「私たち? 私とコルちゃんはDランクよ。それから……」

 

 

 あっ。

 

 と、オレとカナンの声が同時に出た。

 その訳は、オレである。オレ、冒険者じゃないもん。冒険者じゃないのに迷宮へ勝手に入っちゃってるの。

 

「怪しいぞ! そいつら、本当に冒険者か? もしかしたら、幼い子供の見た目で騙して人間を襲う魔物の類いかもしれないぞ?」

 

「なによ失礼ね?」

 

 ムッとした顔で冒険者の集団に抗議するカナンが動くと、冒険者たちも一定の距離を保とうと後ろへ移動する。

 万一襲われても逃げ出せるようにって事か。本気でカナンがこいつらを殺そうと思ったら、そんな距離あまり意味無いと思うけどな。

 

「……あ? てめえら、入り口で会ったガキどもじゃねぇか? そこの黒髪は知らねえけどよ」

 

「ん? 誰?」

 

「忘れてんじゃねえよ、このベルナ様をよ!?」

 

 いや、誰だっけ。

 こんな目のつり上がった奴に知り合いなんていないですけど。

 

「……ったく、これだから貧民は。どうせAランク冒険者に勝利したってのも眉唾ものだろ」

 

「待て、Aランク冒険者に勝利だと……? もしやキミ、カナンちゃんか?」

 

「そうだけど、なんで私の名前知ってるのよ?」

 

「そうか、やはりキミがあのアガスを倒したという子供か」

 

 なるほど、カナンが闘技場であいつをぶっ飛ばした事件は、冒険者の間で広まってるらしい。何はともあれ、危険な魔物疑惑は払拭されたみたいでよかった。

 

  「……で、君たちはたったの三人でここまで来たのかい? それに黒髪の子なんて明らかに冒険者をやれる年齢じゃないのにここまでたどり着いているあたり、ただ者ではないだろう? 正体はさしずめ魔人といった所か?」

 

 あっ。

 どうしよう、結局オレの疑惑はまだ晴れてないじゃーん。それどころか正体までバレかかってるし。

 どうしよう、ここはある程度正直に言うべきだろうか?

 

「〝班〟とやらがあるだなんて、聞いてなかったわ。ギルマスには、迷宮へ行って好きに暴れたらいいとしか言われてないもの。

 それと、この子の名前は〝オーエン〟よ。私のかわいい妹なの」

 

「あぅえっ!?」

 

(おーちゃん、この人達の前でだけそういう体でいかせて?)

 

 うーむ、仕方がないとはいえ、思い出したかのように妹設定を持ち出してきたな。やれやれ、一芝居打ってやるか。

 

「お、おねえちゃん……この人たちこわいよぅ……」

 

「よしよしおーちゃん、お姉ちゃんが守ってあげるから怖くないよー」

 

 目元を潤ませながら、カナンの後ろに隠れるしぐさをする。

 我ながら名演技だと思う。その代わりに、いくらか男のプライドが犠牲になったが。

 

「ぶふぉっ」

 

 オレを見ていたコルダータちゃんが、咳き込んで誤魔化しつつ噴き出した。くっそ、オレだって恥ずかしいんだからな?

 

「あぅ……やっぱりこわいよぉおねえちゃん……ふえぇん」

 

「あぁん、おーちゃん泣いちゃったじゃない。よしよし、大丈夫、この人たちは悪い人じゃないからねー」

 

 自らの心を殺して幼女になりきる。

 それを見ていた冒険者の皆さま方は、オレがただの幼女だと信じ暖かい目線を向ける者と、むしろ疑惑のまなざしを強める2通りに分かれていた。

 

「おーちゃんはね、魔法がとっても得意なぶんとっても泣き虫なの。だから、優しくしてあげてね?」

 

 「そうか、姉妹愛とはなんと美しい……」

 

 「……へ?」

 

 「おっとこれは失礼、何でもない。改めて、私はクラッドだ」

 

 なんか変な人だな。美しいとかなんとか言って。独特な価値観をお持ちの方なのかな。

 

 「私はカナンよ。こっちはおーちゃん」

 

 おっさん改めクラッドさんがカナンに握手を求め、応じる。

 しっかりした頼れそうな印象だ。長い顎髭がカッコいい、イケオジって人種だろう。

 

「それから――」

 

「コルダータ……です。よろしくお願いします」

 

「コルダータちゃんか。美しい名前だ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 緊張した表向きで応えるコルダータちゃん。まだシャイな所がけっこうあるな。

 

「さて、私たちはこの大扉を調べようとしてたのだけど、あなたはこれが何か知ってるのかしら?」

 

 そう言って、カナンは大扉に手をかざす。別に開ける意図はない。

 

「何度か未探索迷宮に潜った経験から言うと、この扉の先に迷宮の核がある。そしてそれを守るおそらくSランク級以上の魔物も。

 班の全員で総力をあげて戦うつもりだが、美しい(・・・)君たちも力を貸してくれるかい?」

 

「もちろんよ。むしろ足手まといにならないよう気をつけなさい?」

 

 カナンったら自信まんまんだ。

 

 それからしばらく話し合い、大扉を開くにあたっての役割が決まった。

 

 まず、身体能力の高い者が直接扉を開き、魔法の使える者は扉の中から何が出てきてもいいよう、扉から少し離れた位置で攻撃魔法を準備しておく。

 そして、他者を回復させる能力がある者は、後方で待機だ。

 

 ただしオレ達3人は班のメンバーではないため、魔法使いの皆さま方と一緒に待機中である。

 

「せぇーのっ……!」

 

 クラッドさんを初めとするガタイの良い冒険者たちが大扉の凹凸に手をかけて一斉に引っ張った。

 

 ズズンと音を立てて扉の中心に縦の直線が走り、人が1人通れる程の隙間が作られた。

 そして――

 

「よし、少し様子を見て――」

 

「ははっ! 俺様が一番乗りだぁっ!!」

 

 なっ!?

 皆が扉の向こう側を警戒する中、ベルナの野郎が突然扉を通って向こう側へと走って行ってしまったではないか。

 なんて身勝手な……

 

 てか、ヤバいんじゃない? Sランクの魔物なんて、この間のリッチ並の――

 

 

 

 ドォン!

 

 ドゴオオォンっ!!

 

 

 

 扉の向こう側で突如、爆発音のようなものが二回響き渡った。

 それから汗だくで息を荒くした大慌てのベルナが出てきた。

 

「た、助けろぉ! 俺様を守りやがれ貧民どもがぁ!!!」

 

 怪我はしていないようだが、よほど恐ろしかったのか後方の回復担当の皆様の所へと走って行ってしまった。

 

「クソ、あの美しくない貴族のボンボンめが……」

 

 忌ま忌ましそうに歯ぎしりをしながらも、クラッドさんは扉の向こう側からやってくるソレへの警戒を怠らない。

 

 ……ヒタヒタと、軽い足音が近づいてくる。思ったよりも小さい魔物なのかもしれないな。

 緊張と恐怖が混じりあった静寂が、辺りに満ちる。

 

 

『ククク……そこにいるのは、妾の自信作である魔物じゃ!』

 

 急に管理者の声まで聞こえてきた。

 それによると管理者(ラプラス)の自信作っていう事は、ロクな事になりそうにない。

 

 そして、足音が扉の隙間をくぐり抜け、音の主がその姿をついに現した。

 

「……は?」

 

『クック! そいつこそ妾が生み出した【高位魔導生命人形〝ケテルベアー〟】なのじゃーっ! お主らの力を魅せてみよ! アーッハッハッハ!!!』

 

 管理者の高笑いが頭に痛くなるほど響き渡る。

 しかし、現れた〝強大な魔物〟のその見た目の前には、そんな事は些細な問題でしかなかった。

 

 

 

 

「くまぁ!」

 

 

 誰もが驚き目を丸くした。

 

 誰がどう見ても小さくて可愛らしい熊のぬいぐるみ(テディベア)が、大扉の向こう側からてこてこ歩いて入ってきたのだったから。

 

 

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