バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第48話 明哲者

『勝った……』

 

 「かなり強かったわ。圧倒的な力で押してくるってだけで、なかなか大変だったね……」

 

 幾本もの黒い槍に貫かれ、ピクリとも動かなくなったケテルベアーを眺めながら、カナンは言う。

 

 ケテルベアーは、隙が大きいとはいえオレすら一撃で倒せる攻撃手段を持っていたのだ。凶悪な膂力に加えてあの青い光線は、本当に厄介だった。

 

『作ったばかり・弱めの調整とはいえ、妾の高位魔導生命人形(ケテルベアー)を破るとは。あやつが気に入るのも頷けるのじゃ』

 

『んだよアヤツって?』

 

『それはヒミツなのじゃ! 言ったらあやつに怒られるからのぅ!』

 

 まーた何か意味深な事を言ってくる癖に、こちらの疑問には答えてくれない。なんなの管理者ちゃん? ケテルベアーをけしかけて来たのは、100歩譲ってまあいい。〝管理者〟ならそういう役割があるのだろうし。

 だが、意味深な事を言って惑わしてくるのはなんか納得いかない。

 

『悪いがケテルベアーの魂と死体は妾が回収させてもらうのじゃ。代わりに、褒美として特別な能力(アビリティ)をくれてやろうぞ!!』

 

『はぁ?』

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 「〝オウカ〟……あれ? おーちゃん大丈夫?」

 

 「ごめん……なんだか疲れた……」

 

 ひどく体が重くてクラクラする。

 うーん……以前、アレ(・・)の日が来た時に似ているが、少し違う。今回のは単なる魔力切れっぽい。

 ……アレはあれだ、女の子のアレだ。いちいち言わせんな。

 

 「よいしょっと。ありがとおーちゃん。お疲れさま」

 

 「はは、〝主様(おねえちゃん)〟こそな」

 

 動けぬオレを抱き抱え、カナンは後方に退避していた冒険者らやコルダータちゃんと合流した。

 さっきの巨大アンデッドは、コルダータちゃんが処理しておいてくれたようだ。

 

 「二人ともおかえりです! 二人なら必ず勝てるって信じてましたーっ!!」

 

 「おーちゃんもいるから当然よ! ふふん!」

 

 抱えられながら頭を二人に撫でられる。

 恥ずかしいからここではやめてくれ。

 

 「……ナデナデ中悪いが、冒険者の皆さまにオレの事を説明(・・)するんだろ?」

 

 「そういえばそうだったわね」

 

 「忘れてました」

 

 おいおい。

 

 

 「さっきのあの美しい魔霊は一体何なんだ? ……そこのオーエンちゃんが変身したのか?」

 

 「どうでしょー? 何だと思う?」

 

 クラッドさん含む冒険者の多くが、オレを見て困惑している。

 そりゃあ、あんな化け物の姿になって同じ化け物を殴り殺したんだからな。それがこんな幼女の姿になったなら、驚くのも当然である。

 

 「もったいぶらずに言おうよ主様(おねえちゃん)……」

 

 「おーちゃんがそう言うならしょうがないわねー。

 ――私とおーちゃんは、ある上位悪魔(グレーターデーモン)と契約してるの。

 あの子を召喚する時は、おーちゃんの肉体を一時的(・・・)に依り代にする約束になってるわ。

 ただし、恒久的に肉体を使わせない代わりに、私の魔力を常時全部上位悪魔(あの子)にあげてるの」

 

 なるほどなるほど。ほとんど何を言ってるのかわからん。

 ただ、辛うじてオレの幼女形態と悪魔形態が別物という事にしてるのは分かった。

 

 「――そうか、なんとも奇妙で美しい関係性だ」

 

 あえて深くは詮索しないでおこう。――そう言って、クラッドさんは後方の冒険者達の方へ戻っていった。

 

 

 さて、今度こそ迷宮核のある部屋へ入ろうと再び大扉の前までやってきた。オレは相変わらず体が動かせない為、カナンに抱っこされたままである。

 

 それはそれとして。

 

 「凄いですね、アレが……」

 

 「思ってたより綺麗だな」

 

 「綺麗ね。けど壊さなきゃいけないのかー……」

 

 想像以上に、そこは美しかった。

 大扉をくぐると、今まで通ってきた道とは比べものにならないくらい透き通った青色の小さな空間があった。

 ここまでが遺跡のような人工物風だったのに対し、ここはまるで洞窟のようだ。青い光を放つ鉱物のようなものが、床や壁からたくさん突出している。

 

 そんな空間の中心に、大きな蒼い水晶の塊のようなものが浮いていた。

 これが〝核〟か? どうやって浮いてるんだこれ?

 

 「……むっ?! なんだこれは?」

 

 「どしたのクラッドちゃん?」

 

 「いやなに、ここから先、見えない壁に阻まれて進めないのだよ」

 

 クラッドさんが空中をノックすると、コンコンという音が響いた。本当に壁ができてるようだ。

 

『心配せずとも、お主らを閉じ込めた訳ではない。部外者を入れないようにしておるだけなのじゃ、安心せい』

 

『部外者って……確かにこんな狭い所に人がいっぱい入ってきても困るけど』

 

『それもそうじゃが、一番の理由はお主らにくれてやろうと思っていた物の横取りじゃな。核を壊す前に、さっき妾が与えた能力(・・・・・)をそこら辺に使ってみるのじゃ』

 

 そこら辺って。一見何も無いように見えるけど。

 まぁ、試しにやってみるけどさ。

 

 「おーちゃんどうしたの?」

 

 「ああ、ちょっと試したい事があってな。核を壊すのは待ってくれ」

 

 試す……と言っても、別に派手な事をする訳ではない。

 管理者になんか勝手に与えられた能力(アビリティ)を試すだけだ。

 

 

 《――■■■■■■■へのアクセス権限を確認。動作テスト中……成功。能力(アビリティ)【明哲者】は問題なく作動しました》

 

 

 「うわっ!?」

 

 「どしたのおーちゃん!?」

 

 び、びっくりした……なんかいきなり声が聞こえてきたんだが、何だこれ。

 これが……【明哲者】?

 オレがさっき管理者に勝手に与えられた能力なんだが……。

 

 

 《指定の範囲内を解析中……。希少性の低い物体を除外。

 5件の情報の解析に成功しました。尚、除外設定は任意で変更可能です》

 

 え、え? えー……

 

『それはアレじゃ。超絶高度な人工知能みたいなものじゃな。お主の認識できる範囲内にある物を解析し、お主に理解させる事が可能な能力じゃ。

 ただし演算能力は無いから、そこはお主自身ががんばるのじゃぞ』

 

『な、なるほど……』

 

 つまりこれは、鑑定能力らしい。相手の能力だとかが一目で解るようになったりしちゃう?

 

 要検証だな。

 

 

 《5件の解析済み項目を提示します。

 

 ◆個体名:カナン

 

 ◆個体名:コルダータ

 

 ◆コクマー迷宮:簡易核

 

 ◆魔鋼・鉱石

 

 ◆霊晶魔鋼(アダマンタイト)・鉱石

 

 

 脳内に一覧が表示される。

 

 「魔鋼に、アダマンタイトぉ……? なんじゃそりゃ?」

 

 「おお、おーちゃん!? ななな、なんて言いました今!?」

 

 「そこのそれとそれらみたいのが、魔鋼とアダマンタイトらしい……だけど?」

 

 何だろう、コルダータちゃんがやけに慌てふためいた様子で聞いてきた。

 

 「あああアダマンタイトってそれ、伝説の鉱石ですよっ!?」

 

 「そ、そうなのか?」

 

 興奮した様子で、床や壁から生えている鉱物らしきものに触れ、それを確かめるように何度も眺めるコルダータちゃん。

 

 「これは……お母さんの言う通りです! 確かにこれはアダマンタイトですよ!! 初めて見ました!!」

 

 「そんなに凄い物なの?」

 

 「よくわからんな」

 

 「そりゃあもちろんですよ! アダマンタイトは、魔剣の材料になる金属なんですから!! それも、ここにあるものはかなり上質なものみたいです! あぁ、この魔鋼だけでもかなり希少なのに、アダマンタイトまであるなんて……!」

 

 えー、確かメルトさん、元鍛冶職人なんだったっけ。

 なんだか職人感あまりないけど、娘であるコルダータちゃんもその素材に関する知識は大いにあるようだ。

 

 

 

 

 「――よし、これで全部みたいですね!」

 

 「了解。じゃあ、サクッと迷宮核(ダンジョンコア)を壊しちゃうわよ? いい?」

 

 いいですよー! と、オレとコルダータちゃんの声が重なる。

 

 そこら中にある鉱物を、コルダータちゃんの地操作魔法で取り出した側からオレが収納しておいた。ピッケルも何も使わない採掘って、そういう仕事をしてる人が泣きそうだな。

 

 「クラッドちゃーん! 今から私たち(コア)をぶち壊すわねー!」

 

 「おっ? 了解だお嬢さんたちー!」

 

 了解も取れたしと、抱えるオレをコルダータちゃんに渡したカナンは、鞘から剣を抜き出した。

 

 柄の部分にハートの模様が刻まれた、美しい剣。

 

 カナンは目の前に浮いている巨大な青い水晶に、その剣を振るう。

 

 

 パリイィィン!!!

 

 

 重なった剣に砕かれて、半透明の破片が飛び散った。

 

 舞い散る水晶の欠片はまるで、雪が降っているように見える程に美しく――

 

 「うわっ!?」

 

 次の瞬間、真っ二つに砕けた水晶の中から眩い光が溢れだし、迷宮内の人間全てを包み込んだ。

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