バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第5話 コルダータちゃん

 木々の隙間から青い月光が射し込んで、草の茂る道を照らす。

 

「目指すは街よ。こんな森さっさと抜けて、最強を目指す冒険を始めるの!」

 

『そうか最強か。なら、オレの腕に抱きついているか弱い女の子は誰なんだ?』

 

 そうオレが茶化すように言うと、震えながら腕にしがみつく金髪幼女(カナン)が不服そうに睨んできた。

 

「べべ、別に暗い所が怖いとかじゃないんだからね!? 勘違いしないでよね!!」

 

 ツンツンしてんな。

 カナンは、森に入ってからやけに足取りが重い様子だ。その上、時々オレを呼び出してはこうして抱きついてくる。さっきのドS女王様はどうやらツンデレ幼女に進化したようだ。

 

 ガサッ

 

「ひゃうんっ!?」

 

 茂みから小さなネズミが飛び出したのに驚き、思わず小動物みたいな鳴き声を発する。

 

『ぷっ……カナンにもかわいい所ってあるんだなぁ』

 

「うー、もうっ! いいから黙ってぎゅーってさせて! 私の命令は絶対って約束したでしょ! もう!!」

 

 

『この調子じゃ日が昇るまで休んだ方が良さそうだな……』

 

「怖くないもん! だから休まない!! 私の中に戻ってて!!」

 

 やれやれ、意地っ張りだこと。

 そもそもカナンは裸足だし、できる事ならこんな所を歩かせたくない。だからいっそオレが抱えていきたいが、カナンのプライドがそれを許さないのである。

 

「あーあ、おーちゃんが小さい女の子だったらよかったのに」

 

『はぁ?! なんじゃいそりゃ!?』

 

 女の子って、今のカッコいい見た目じゃ不満なのかよ。

 あーあ、女の子にはわからんのですあの姿のカッコよさが。

 

『しかし、向かっている所って一体どんな所なんだ?』

 

「トゥーラムル王国の街よ。大洋に接する国で、大陸の国々の港の役割を果たしている大国らしいわ」

 

『ふーん。詳しいな、行ったことあるのか?』

 

「無いわ。本で読んだだけだもの。ちなみに今向かっている所は辺境ね。特にこれといったものもない田舎よ田舎」

 

 田舎かよっ!

 大陸の港っていうくらいだから大きな船がたくさん停泊してるのかと思ったのに、ちょっぴり残念。

 

 

 

「――ねえおーちゃん。何か聞こえない?」

 

『おん?』

 

 いかんボーッとしてた。カナンに言われ意識を聴覚に集中させる。

 すると確かに聞こえてくる、子供の声と剣を打ち合うような金属音。

 

「助けて……誰か」

 

 おいおいこりゃ、子供が何かに襲われてないか?!

 

『助けに行かないと!』

 

「……うん!」

 

 カナンは声のした方向へ走る。

 そして茂みを超えた先に見たものは、紫の髪をした幼い少女が、緑の小人のような生き物の群れに襲われている光景だった。

 

「あれは……多分ゴブリンね。魔人のなり損ないらしいわ」

 

 尖った大きな鼻に耳。確かに見たままゴブリンだ。棍棒を持ったゴブリンの集団が、少女を取り囲んでいる。その総数は20人……匹か? を優に超えている。

 そして、奥に控える一際大きな個体がリーダーらしい。そいつが指示を出す事で群れは反撃を避け、一方的に少女を攻撃している。

 

 一方、少女も剣を持ってはいる。が、扱い慣れていないのか、とても扱えているようには見えない。ゆえに戦況はかなり不利で、既に立っているだけでやっとな状態だ。そこにカナンが

 

「助太刀するわ!!」

 

 と言って飛び出した。

 その時、ゴブリンの一体がふらついた少女へとどめとして振り下ろした棍棒を間一髪、カナンが剣で受け止める。

 

「お、女の子……?」

 

「詳しくは後! あなたは冒険者?」

 

「そ、そうなん……です。ごめん、わたしもう……」

 

 少女は傷だらけで、きっと長いこと不慣れな剣で戦ってきたのだろう。

 そこで、カナンは少女の手を引いてゴブリンから距離を取る。

 

「後は任せて休んでなさい」

 

「ほん……と?」

 

「冒険者になりたいから、後でギルドに連れてってね。それがお礼って事で」

 

 そんなカナンの言葉を聞いたのを最後に、少女は意識を手放した。医者ではないので重篤な状態かどうかは分からない。だが、最優先事項は目の前の敵を倒す事だ。

 

「ギャアァァァっ!!!」

 

 そりゃあ怒るだろう。あと一撃で倒せた獲物を、横からかっ攫われたのだから。

 ところでこの娘を倒してどうするつもりだったのだろう。食べるのか? それとも…… やめやめ、変な事考えるな。

 

「〝オウカ〟お願い」

 

『結局オレ頼みか我が主様(マイマスター)

 

「グギャ!?」

 

 いきなり巨大な敵が現れた事により、動きを止めるゴブリン共。奥のリーダーが目を見開き驚愕した表情をしているのが何だか面白い。

 そこでオレは、動揺するゴブリンの集団へ手を伸ばして【氷結魔法】を発動させた。

 

『穿て!』

 

「グギャアァァァ!!!」

 

 ゴブリンどもの断末魔が響き渡る。地面や空中から勢いよく伸びる無数の氷柱がゴブリンどもを串刺しにしてゆく。蜘蛛の子を散らしたように、群れはてんやわんやで統率の欠片も無い。とりあえず、一匹も逃がさないよう注意しながら魔法を使う。

 

「どーよ私の使い魔のおーちゃんは? カッコいいでしょー? マンティコアを一撃でKOできるんだよー?」

 

 戦ってるのはほとんどオレだってのに、自慢げに話すカナン。ゴブリンに言葉が通じるのか知らないし、通じてもそれ所じゃないだろう。

 

「ギュアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 うるせぇっ! 何なんだいきなり。

 けたたましく叫ぶリーダーとおぼしき最後の一体を直接握り潰して屠ると、カナンが少女を抱えて近づいてきた。

 

 ……おっと? 何だか急に体がだるくなってきた。強い脱力感に包まれ、オレはカナンの中へ強制的に戻されてしまう。

 

「おーちゃん?」

 

『うぅ……すまん、多分エネルギー切れだ。まさか時間制限があるとは……』

 

「そうなの? 今後は時間を気にして召喚しなきゃね」

 

 思わぬ欠点を見つけた所で、カナンの視点は助けた少女へ向けられる。

 紫の髪をした、カナンと同年代の少女。シンプルな服とスカートは動きやすさを重視しているのだろう。ゴブリンどもに全身を強く殴られた彼女に、今のところ意識が戻る気配は無い。

 そこでカナンは彼女の懐にある小さなバッグをごそごそ物色し始めた。

 

『おま、まさか盗む気じゃ!?』

 

「違うわ。冒険者なら回復薬(ポーション)を持ってるハズなのよ!」

 

 回復薬(ポーション)だと? 飲むかかけるかすれば、瞬く間に傷を癒す、ファンタジーでおなじみの、あの?

 

「あった!」

 

 バッグの中から青い液体の入った小ビンを取り出した。それからビンの口に填められたコルクをポンと耳触り良く外し、液体を少女の口に注ぎ入れる。ミントに似た清涼感のある香りだ。

 

『おぉ!? ポーションの力すげぇ!』

 

 目を疑う光景だった。

 なぜなら、みるみるうちに顔や全身の痣が引いていくのだ。そして数秒後には、もはや無傷と呼べるレベルにまで回復していた。

 

「うぅ……ここは?」

 

「あっ、起きた! 大丈夫? 立てる?」

 

 差し伸べたカナンの手を頼りに立ちあがり、辺りを見渡す少女。初めはぼんやりしていたが、大量のゴブリンの死体を目の当たりして思い出したようだ。

 

「まさか、君がやったの?」

 

「まさか。おーちゃんの魔法だよ」

 

「おーちゃん? 仲間がいるの?」

 

 キョロキョロ周囲を見て探すが、そんな所にオレは居ない。いや居ないつってんだろ、なんで自分のスカートの中を捲って見てんの。

 

「今は訳あって姿を見せられないの。それより自己紹介しましょ? 私はカナン。色々あって逃げてきた元闇奴隷よ」

 

「闇奴隷……?! 大変だったのですね。わたしはコルダータ。これでもEランク冒険者です」

 

 コルダータちゃんか。カナンとは対照的で自信無さげな表情をしている。

 

「コルダータ……よし、コルちゃんって呼ぶから、私の事はカナちゃんって呼んでくれる?」

 

「あ……わかりました。カナちゃんは、冒険者になって何をするつもりなんですか?」

 

「最強! 強い敵をいっぱい倒して、最強になる!」

 

「最強……ですか?」

 

 うきうきしたカナンの言葉に戸惑うコルダータ。聞けば誰だってこうなるだろう。

 

「そうそう最強! 明星の女神(ステラデウス)を打ち負かせるくらいのね!!」

 

 

 

 二人はそれから長いことガールズトークを弾ませた。とはいえ、ほとんどカナンが話してコルダータが聞くだけだったが。

 

 しばらくして、少しうんざり気味なコルダータが切り出した。

 

「あの、そろそろ街に戻りたいのですが……十分休んで回復したので……」

 

「そう? じゃあ行こっか!」

 

 立ちあがり、出発しようとした矢先の事だった。

 がさがさと辺り一帯のしげみが騒ぐ。その次の瞬間、音の主らが一斉に飛び出してきた。

 

「ゴブアァァァ!!!」

 

「なっ!? ゴブリン!? なんて数よ……!?」

 

 さっきとは比べ物にならないほどの数のゴブリンに、二人は取り囲まれていた。その光景はまるで、凶悪犯を包囲する警察のよう。

 まさかあの時叫んだ最後の一体が呼んでたのか……?!

 

「〝オウカ〟! ……あれ?」

 

 しまった、燃料(まりょく)切れでうまく外に出られねえ。

 

『すまん、オレはまだ出たくても出られねえ』

 

「まあいいわ。おーちゃんに任せきりじゃ、私が強くなれないものね!!」

 

 カナンはこれまた嬉しそうに笑いながら剣を構えるのであった。

 

 

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