バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第50話 ずっと一緒に

 ひどく蒸し暑い。

 オレとカナンの触れ合う肌が、じんわりと汗で湿って蒸し暑さを促進している。

 

「カナちゃーん! おーちゃーん! 早くー!」

 

「あ、ごめーん! すぐ行くわー!!」

 

 オレと主様(ますたー)は、かなり狭い個室の中でなぜか一緒に着替えていた。他に個室あるのに、なんでわざわざ一緒に……

 

「それにしてもおーちゃん、その翼大きくなったわね。それに尻尾も長くなって、にぎにぎしがいがあるわねっ!」

 

「ひゃうっや、やめて……それはせめて帰ってからに……」

 

「言ったわね? なら帰ったら覚悟しなさい?」

 

「あうぅ……」

 

 

 

 

 

 着替えが終わり、木製の個室の扉を開けると射し込む、水面に反射した日の光。

 足を踏み出すと、さらさらの砂が足の指にまとわりつく。

 

「とっても似合ってるわよ、おーちゃん」

 

「……そっちこそ」

 

 カナンの露出度の高い格好を見て、オレはそう返す。

 面積の少ない布で腰と胸を覆った……つまりは水着である。

 

 オレも同様の格好をしており、それを見ているカナンがニヤニヤと嬉しそうに笑った。

 

 

 ――今回の目的は、街にほど近いこの海水浴場に出現した魔物の討伐だった。

 

 つむじ風を起こすサメの魔物。

 なんかチェンソーで切り刻まれそうな能力をしていたけど、カナンが一撃で仕留めていた。

 

 ……実の所討伐とは名ばかりで、オレ達は貸し切りを良いことに海水浴を楽しもうとしてるのだ。

 ターゲットの魔物は既に適当に退治したので、後は遊ぼうってこった。ズルいね。

 

 なぜ遊んでいるのかって?

 

 それは、明日でこの街を後にするからだ。

 

 

 迷宮攻略から一月。異質物(アルカナム)発見の報酬金をたんまり貰い、迷宮を攻略した功績や魔物の討伐実績やらエトセトラ……

 

 なんやかんやでカナンとコルダータちゃんはBランクまで上がった。

 そこでルミレインに、一緒に他の国へ行ってみてはどうだと提案されたのだ。元々ここに留まるつもりは無かったけれど、いざ出てみようと思うと寂しくなるな。

 

 それにしても、海が綺麗だ。

 

 けれど何だろう、地球の海とはまた何かが違う、深い青色してるんだな。

 もしオレと同じ異世界人がこれを見たら、同じ感想を抱くに違いない。

 

 カモメやサメが飛び回り、海は凪いで風が心地がいい。

 

 サメも片付け、カナンもコルダータちゃんも楽しそうにしていて、素敵な1日になりそうだ。

 

 

 

 ……と、思っていた時期がオレにもありました。

 

 初めは数人の人影が見えた事。砂浜に繋がる湾の反対側の舗装された道路で横並びになり、道行く観光客に近づいては大きな声をあげている。

 

「人間……べ……穢……!!」

 

  かなり離れていたのでよく解らなかったが、なんかヤバそうな連中だ。

 近づきたくないなーって思っていたら、遠くにいるはずなのになぜかその内の1人と目が合ってしまった。

 

 するとその数人は、なぜだかこっちに走ってきて――

 

「ちょっとあんたら!! 何て事をしてるの!?」

 

「へ?」

 

 それは、耳が尖った女の子達だった。

 何か悪い事をしてしまったのだろうか? きょとんとするオレ達に、彼女たちはなぜかオレに憐れみの表情を向ける。

 

「可哀想に、また人間が魔人をいじめていますわ」

 

「ふぇ? いじめって……何の事?」

 

「我慢しなくてもよいのです。あなたは〝かわいそう〟な事に、愚かな人間から差別を受けているのですから。我々へ救いを求めて向けた眼差し、しっかりと受けとりました」

 

 ……え?

 言っている意味がさっぱり分かんないんだけど。なんかオレを勝手に憐れんで、なんか手を差しのべてきてるんだけど、どゆこと?

 

「逃げましょう。安心してください、わたしたちは貴女の味方です」

 

「いや? ちょっとま……」

 

 なんかオレの手を取って、無理矢理引っ張り連れて行こうとしてるんですけどこの人たち。

 やめてと抵抗すると、「もう人間なんかに縛られなくていいんですよ」等と意味不明な供述を……じゃなくて、まさかのピンチ!

 

「ちょっとおーちゃんをどこに連れてくつもりよー!!?」

 

「劣等種の人間に答える義理はありません。あと穢れが移るから触らないでいただけます?」

 

 その時、カナンとコルダータちゃんの中で何かが同時にカチンと鳴った。

 

「知りませんよそんな事! いいからおーちゃんを離してくださいっ!!」

 

「痛っ! ……な、殴ったあぁぁぁ!!? 魔人(わたしたち)を差別するなんて、やっぱり人間は悪!! 恐ろしい……!!」

 

 殴ったというか、オレを掴む手を引き剥がそうとしただけ。

 理由は意味不明だが、人間を敵視し、おそらく善意で魔人を連れ去ろうとするイカれた集団という事はわかった。

 

「離せって! オレはお前らなんかについていくつもりねーから!!」

 

「あぁ、可哀想に。無理して心にない事を言わなくてもいいのですよ。もう、我慢しなくてもよいのです」

 

 あっ、ダメだ。こいつら何言っても聞く耳持たないわ。

 

「なんなのよ!? おーちゃんから離れないと、あんたら殺すわよ!?」

 

「こ、殺すですって!? すぐ力ばかりに頼るから人間は愚かなんですわ! そっちこそ死ね!!」

 

 えー……なんかヤバいぞこの雰囲気。

 そもそもカナンの「殺す」は脅しじゃないからな。マジでやるからという警告なんだ。これ以上刺激されたらオレでも制御が――

 

「お前達、一体何をしている?」

 

「……誰ですか? 部外者が勝手に割り込んで来られると困るんですけど?」

 

「部外者ではない。ボクはこの子達の保護者だ。言いたい事があるならボクが聞こう」

 

 そこに現れたのは、赤い水着の上に白いパーカーを羽織ったルミレインだった。

 ……相変わらずデカイ。

 

 そんなルミレインは、カナンを制し連中のオレを掴む手を離させてくれた。

 

「保護者ぁ? 人間が魔人を奴隷化するなんて犯罪ですよ!? わかっているんですか?」

 

「フン。彼女が奴隷である証拠があるの? そもそもボクを含めてこの場に『人間』はいない。気になるなら、魔石の有無を視てみればいい。エルフの十八番だろう? まさか尻尾や翼や角(見た目だけ)で判断していたの?」

 

「はぁ?! そ、そんな事初めからわかってますけど! 一言も魔人じゃないなんて言ってませんから! 馬鹿なんですかあなた? というか勝手に首を突っ込んで来て何様のつもりですか?」

 

 なんなのこの人達……

 主張が支離滅裂で怖いんですけど。カナンもコルダータちゃんも唖然としていると、ルミレインはパーカーのポケットから何かを取り出した。

 

「……これ以上話しても無駄。これを見て、お前らが誰に文句を言っているのかよく考えて」

 

「一体何ですの? そんなものは……え? 馬鹿なっ!? この女神の犬めが、覚えてなさい! いずれあなたには神罰が下りますから!!」

 

 ルミレインが何かを見せると、連中は青ざめた顔をしてあっさりと引き下がっていった。よくわからんが、ルミレインのおかげで助かったようだ。

 

「ありがとう助かった。あの連中は一体……」

 

「フン。知りたいならば相応の対k――」

 

「プリン奢るわよ!」

 

「よしきた」

 

 いいのかそれでルミレイン。

 甘い物につられ、ルミレインは少しだけ口を開いた。

 

「アレは〝デミウルゴス教〟という宗教の信者。

 論理の欠片も無い罵詈雑言をさも真理のように押し付けるしか能の無い連中。相手にするだけ無駄」

 

「すげえ言いようだな……だいたい合ってるけど」

 

 にしても宗教か。

 そりゃあ女神とかいるんだし、それを信仰する人々がいてもおかしくはないよな。

 

 そういや連中、ルミレインに〝女神の犬〟とか言ってたな。

 

「ルミちゃんがさっき見せてたアレは何かしら?」

 

「ん。今はお菓子を積まれても教えらんない。いずれ分かる」

 

 いずれって。まー今後はしばらくルミレインと行動する事になるし、そのうち教えられる日が来るのだろうか。

 

 ま、いっか。

 

 

 

 

 

 

 ――

 

 

 

 

 

 

 

(カナちゃん……起きてますか?)

 

(起きてるわ)

 

 深夜、隣で寝ているコルダータちゃんがふと小声でカナンに話しかけてきた。なんだかオレを起こしたと思わせるのは申し訳ないので、寝たままのフリをしておく事にした。

 

(カナちゃんの夢って、『明星の女神さまと友達になる』ですよね。なんでそんな願いをしようとしてるんですか?)

 

(それは……神さまと友達になればお願い叶えてもらい放題じゃない? それに……

 ……いいえ、違うわ。本当はね……)

 

(本当は?)

 

 カナンはそのまま言い淀み、答えを口にする事は無かった。

 そんなカナンの鼓動が少しだけ速くなり、何かに怯えている感覚が僅かにオレの中へ流れ込んできた。

 

(……本当は、どうしてかしらね。そう言うコルちゃんは、街を出てからやってみたい事はあるかしら?)

 

(わたしはですねー、(いにしえ)の時代に海底へ沈んだという〝人魔大国(アトランティア)〟を、一目見てみたいですねー)

 

(そっか。素敵な良い夢だわ。いつか三人で一緒に行って、見てみましょう)

 

 カナンの脈はコルダータちゃんの願いを聞いて、すぐに穏やかに治まった。

 そしてオレの頭を撫でながら、優しく微笑む。

 

(これは夢じゃなくて目標です。わたしの夢は、ふたりとずっと一緒に(・・・・・・)いる事ですから)

 

(ふふ、それなら約束しましょ? 私達は〝いつまでも、ずっと一緒〟って)

 

(もちろんです。大好きなふたりとなら、わたし何処へだって行けますから!)

 

 ふとんの中で、握手を交わす二人。

 その時、二人の胸の奥で何かが一瞬だけ小さく優しく光った気がした。

 

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