バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第6話 じぇのさいどごぶりん

 視界がゴブリンの赤い血で染まり、絞り出されるようなかすれ声が鼓膜をくすぐる。

 

 ゴブリンの頸に刺さった剣が無造作に引き抜かれると、紅黒い液体が剣を滴りカナンの白い手を汚す。

 粗末な薄着と長い金髪を血に濡らした小さな少女は笑っていた。

 

 「ブギャッ!」「ゴブルァァ!!」

 

 同時に襲ってくるゴブリン数匹に対し、カナンは全身を捻るようにして纏めて斬り抜く。

 そうして血しぶきが顔にかかってもお構い無しに、次から次へと敵を斬り捨てる。

 

 「あはは! 魔法がダメな代わりに剣の素質があったのね私!!」

 

 ゴブリンも一応人型してるんだから、もう少し躊躇するかと思ってたぞ。

 なのに、ずいぶん楽しそうに切り刻むなぁ。連続殺人鬼……いや、殺人姫?

 

 それに加えてオレも変だな。人型の生き物がバラバラに刻まれる光景を見て、何とも思わない。そういえばマンティコアを殺した時も罪悪感は欠片も無かった。

 むしろ楽しかったし、今もなぜかワクワクしている。それが少し怖い。

 

 「カナちゃん、本当に1人で大丈夫なの? わたしが戦えないばかりに……ごめんなさい……」

 

 狂喜乱舞するカナンに、紫色の髪をした冒険者の少女――コルダータちゃんは言った。

 

 「へーきへーき!! 今は最高の気分なのよ! コルちゃんはしっかり守るし、私は楽しませてもらってるのよ!? むしろWINWINよWINWIN!!」

 

 「うわぁ……そ、それなら……よかったです」

 

 おぉ、コルダータちゃんがヒいてるぞ。その気持ちは分かる……と言いたい所だが、オレも殺戮したい欲求がうずうずしている側である。シリアルマーダーの悪魔ってもう響きがヤバいな。

 

 「それにしても、こいつら無限に湧き続けるわね」

 

 「こんな数、明らかにおかしいです。戻ったらギルドに報告しなきゃ……倒しきれるんですか?」

 

 そう言ってコルダータちゃんは不安そうにカナンを見つめてきた。

 なぜなら、いくらネジの消し飛んだ殺戮姫といえど、体力には限界がある。

 

(まだ出れない?)

 

『あと2分耐えるか、あと10体殺すかすれば少しは出られそうだ』

 

 オレの中に、例えるなら水桶のような感覚がある。その中にある水は時間経過でも増えるが、ゴブリンを殺すごとに大きく増加するのを感じる。

 そこにはオレの召喚が可能になる基準値もあり、それを下回るとさっきのようにカナンの中へ戻されるらしい。

 

 「あと9匹……7匹!」

 

 コルダータちゃんを守りながら、順調にゴブリンを斬ってゆくカナン。

 このままオレが出られれば、その時点で勝利がほぼ確定する。

 コルダータも、あと7匹……いや、6匹倒せばカナンが何かをすると察しているようだ。

 

 「残り5匹……! あれ?」

 

 しかし、そうは問屋が卸さなかった。

 あと5匹という所で、ゴブリンどもが急に攻撃をやめ、距離を取りだしたのだ。

 まさかオレの存在に気づいたのか?

 

 「……コルちゃん後ろっ!」

 

 一瞬の事だった。

 

 「え?」

 

 コルダータちゃんの背後に、熊ほどの体格を持つゴブリンが、粗末な大剣をバットのように構えて立っていた。まさに、コルダータに叩きつけられる寸前だった。

 

 バキンッ!!!

 

 「ぎゃんっ!」

 

 寸前でカナンがコルダータちゃんを突き飛ばし、代わりに大剣のフルスイングを食らってしまう。数メートル吹き飛ばされて木の幹に激突した。

 

 痛い。かなーり痛い。だが、驚いた事にカナンは鼻血を拭ってすぐに立ち上がった。いくら剣で防御していたとはいえ、普通なら死んでいるはずだ。

 

 「おーちゃんと契約しているおかげかな。身体性能が格段に違うわ」

 

 え、これオレのおかげなの?

 ともあれカナンが無事そうでよかっ……あれ? 剣はどこ行った?

 

 「折れてる……」

 

 刀身の砕けた柄を握り、残念そうに首を横に振るう。

 

 「あ……あぁ……来ないで……」

 

 地面にへたりこむコルダータちゃんへ、あの巨大なゴブリンがのっそりと近づいてゆく。

 

 「私の友達(・・)にぃ、手を出すなぁ!!」

 

 カナンが駆け出すと、100m走で軽くギネスを取れそうな程のスピードが出た。

 その勢いを活かしたまま、デカゴブリンの後頭部へドロップキックをぶちかます。

 

 「ゴギャッ!?」

 

 バランスを崩し、地面に顔から激突するデカゴブリン。

 そこで、転んでいる間にコルダータを連れて距離を置く。手出しこそしてこないものの、普通のゴブリン共が辺りを隙間なく埋め尽くしている。

 

 「コルちゃん、その剣を貸してくれる?」

 

 「えっ……その……いいですよ。後で必ず返してくださいね」

 

 カナンはコルダータから頑丈そうな両手剣を受けとった。紫のハート型の装飾が、派手すぎず邪魔にならない程度に柄を飾り立てている。

 

 「ゴバァッ!! ギョグオォ!!」

 

 起き上がったデカゴブリンが近づいてくる。その瞳は、よくもやってくれたな、とでも言いたげだ。

 なお、コルダータちゃんはカナンから少し離れた位置で見守っている。戦闘の邪魔にならず、かつ何かあってもカナンが助けられる距離だ。

 

 「遅いわね」

 

 デカゴブリンがカナンをかち割ろうと大剣を振るう。地面にヒビを入れるくらいその威力は凄いようだが、身軽なカナンには当たらない。

 

 「ガアァ!!」

 

 すると、苛立ち、無茶苦茶に剣を振り回す。当たれば大ダメージ必至な攻撃を、カナンはひょいひょい身を翻して避けてゆく。

 

 「私に命を捧げてくれる?」

 

 決着は、一瞬でついた。

 カナンの剣がデカゴブリンの首を素早く斬り飛ばしたのだ。

 生首が地面に転がり、頭を失った胴体がびくびく脈動しながら地に伏せる。

 

『この感じは……そろそろ出られそうだ』

 

(えーもう? お願い、あと10匹だけ殺らせて!)

 

『はぁ……好きにしろ。ただ、コルダータちゃんもいるんだから、ほどほどにな』

 

 「やったぁ!!」

 

 まぁ、もう少し魔力(エネルギー)を溜めておいた方が安心できるか。

 そこへ、デカゴブリンが死んだ瞬間、距離を取っていたゴブリンどもが一斉に襲いかかってきた。

 

 そんなゴブリン達を、突き刺し、引き裂き、撒き散らし、恍惚の表情を浮かべながら殺してゆく。

 

 ――鮮血を纏うカナンの姿を、蒼い月光が照らし出す。その光景は恐ろしくも美しく、ある種の神秘的な雰囲気に満ちていた。

 

 

『――さて、もう10匹どころか30匹以上は殺しただろ。早くオレを呼べ』

 

(うーん残念。冒険者になったらまた来ようっと)

 

 近寄って来た数体のゴブリンを斬り抜いて、カナンはコルダータちゃんのすぐ隣へ移動した。

 

 「カナちゃん?」

 

 「私の切り札を見せてあげる」

 

 「え?」

 

 おや、ゴブリンの中にちらほらさっきのような巨大な個体が混じっているな。

 もしこのまま戦い続けていたら、苦戦を強いられていたかもしれない。

 

 だがそれは、あくまで仮定の話。

 

 「〝オウカ〟」

 

『フハハハハハ!! 我は汝! 汝は我……!!』

 

 体の感覚がカナンから分離し、夜風の涼しさが体に染みる。

 

 「おーちゃん今の何?」

 

『あ、いや何でもないっす。とにかく、ここからはオレに任せろ!』

 

 さーて、オレのターンの始まりだ!

 覚悟しろ、ゴブリンどもめ。

 

 「グギャアアァァ!!!」

 

 なぜかゴブリンの多くがオレを指差してくる。この集団を呼び寄せた個体が、オレの事も伝えていたのかもしれない。

 まあどうでもいいけどな。

 

『潰れろ!』

 

 これは蟻を踏み潰す事と同義である。足を振ればそこにいたゴブリン数体が弾け飛ぶ。

 また、オレの胸くらいの身長のデカゴブリンが2~3体接近してきたので、拳を振り下ろして頭を叩き潰す。

 

 ガキィン!!

 

 おっと、背中に一撃食らってしまった。

 しかしノーダメージ。体も防御力高いんだな。そのまま叩いてきた奴の頭を握り潰してやった。

 

 

 「あ、あの魔物は何なのですか?!」

 

 「安心して。あれは私の使い魔のおーちゃんよ。言ったでしょ、切り札を見せてあげるって」

 

 「切り札って……まさかあんな化け物を使役してるなんて、カナちゃん何者なんですか!?」

 

 「ただの元奴隷だわ」

 

 

 

 ――んにしてもこいつら、死ぬのが怖くないのか? 何体か潰せば後は怯えて散り去るかと思ってたんだが。

 むしろ、増えているような……

 

『こうなりゃ魔法を使う。二人ともオレの側にいろ』

 

 「おーけー。よろしく!」

 

 オレは二人を黒い翼で包み込むようにして、【氷結魔法】を発動させた。

 今回はなるべく広範囲を殲滅するようなイメージだ。

 

『全て凍てつけ!』

 

 

 ――その瞬間、ゴブリンの声で騒がしかった森が静まりかえった。

 

 オレとオレの翼の内側以外、ゴブリンも木々も見渡す限り全ての物が、オレを中心に広がる巨大な氷塊の中に漬け込まれていた。

 

 この氷はかなり硬くなるようイメージしている。だから、ゴブリンにこの氷は砕けないだろう。無数に居るかに思えたゴブリンどもは、このまま冷たい氷の中で瞼1つ動かす事も許されず、窒息死してゆくのである。

 

 「は……え?」

 

 「うわあ、やっぱり凄いわねおーちゃん」

 

 翼を広げると、中にいた二人が顔を出す。

 カナンは目をキラキラさせて周辺を見渡すが、コルダータちゃんは顎が外れたのかと思うくらい口を大きく開いて、唖然としていた。

 

『ひとまず片付いたが、さっきみたいにまだまだ援軍が来るかも。そうなりゃキリが無いし、だから――』

 

 「きゃっ!?」「おーちゃん!?」

 

 そこでオレは二人を捕まえ、両腕で優しく抱き抱えた。落ちないように、それでいて体に負担がかからないように。

 

 それから、背中の翼で飛び立った。

 

 「お、おおぉ~!? 凄ーい!!」

 

 「あ……はは……これは夢かな……」

 

 翼があるなら飛べるだろ。

 そんな安易な発想だけど、間違いでは無かった。

 背中に力を込めると、ばっさばさと翼がはためいて、足が地面から離れた。

 

『遠くにたくさん明かりの集まった場所が見えるな。あれが街か?』

 

 高度を上げ、木々よりもはるかに高く上昇する。あの灯りが街かと聞くと、無言でコルダータちゃんが必死そうに頷いた。

 

『OK。目的地までひとっ飛びだぜ』

 

 オレは二人を抱え、夜空を飛翔した。

 

 

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