バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第59話 竜人騎士との決闘

 ……どうしてこうなった。

 

 どうしてバレた?

 

 昨晩はギリギリ見つからなかったのに、なぜ?

 

「抵抗はするな。さすれば我らが神の御力をもってその魂を救済して差し上げましょう」

 

 深い闇に包まれた深夜。

 悪魔フォームのオレを〝潜影〟で影の中に潜ませ、カナンとコルダータちゃんは港へ向かう。

 

 その最中、突如辺りに金色の結界が展開され、同時にまばゆい光に照らされたと思ったらこの有様という訳だ。

 

 あれは明光石と鏡を利用したライトか。

 それもかなり大きい。

 それらを構えてこちらに語りかけてくる連中は、昨晩しげみで出会った金ぴか鎧の騎士どもだ。

 

 見た感じこの辺りの住民の避難も完了してるっぽいし、周囲一帯に張られた結界の強度はかなり高い。オレ達が来る事をあらかじめ予想していたのだろう。

 

 また、あの結界はカナンが殴っても壊れないくらい頑丈だ。時間をかければ壊せるだろうが、騎士どもがそれをさせてくれるはずはない。

 

「……救済って何よ?」

 

「我らは神の代理人。神の力を持って、貴女たちのニンゲンに穢れた魂を浄化するのです」

 

 騎士の中でも細身細目で高身長な男が、慈愛に満ちた微笑みを浮かべてオレたちに語りかける。

 

「意味がわかんないわ。殺す事と何が違うのよ?」

 

「あぁ、憐れな……。殺すのではありません、穢れた肉体から解き放ってさしあげるのです。その上で、魂を浄化するのですよ」

 

 ……会話にすらならないな。

 

 パッと見の強さでは、こちらが優勢。ただ圧倒できるほど実力が離れている訳ではない。

 それぞれが連携して来られたら少しキツいか?

 

 だがまあ――

 

 

「コルちゃんは動かないで」

 

「了解ですカナちゃん!」

 

「面倒だしさっさと終わらせるわ。かかってきなさい!!」

 

 カナンは、剣を構えて戦いに臨む。

 こうなったら船は使わず飛翔して脱出する他あるまい。この騎士どもを片付けたら、すぐに飛び立とう。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

 

 

「大口叩いてた割には何の成果も無さそうだね、ドラヴァンさん。お困りなら俺が助けてあげるよ!」

 

 脱走者の捜索に疲れ、港町へ交代制の休憩に戻ってきた騎士たちのリーダー。鎧の隙間から見える赤い鱗と角が印象的な竜人の若者だ。

 そんな彼に白髪の少年が話しかけた。

 

「必要ない。だいたい貴様が失敗したからこんな事になっているのだ!」

 

「だからこそ俺も協力する責任があると思うんだけどな~」

 

「だからラクリス! 貴様の助けなど必要ないっ! 我輩らだけで十分だ!!」

 

 声を荒くして少年を拒絶する。対して少年は飄々とした態度を崩さず騎士を挑発的に見つめた。

 

「そこまで言うなら君らが負ける所を見守っておいてやるよ」

 

「減らず口を……!」

 

「あーそうそう、良いこと教えに来てやったんだった。今夜この街の港に〝17番〟が来る。せいぜい頑張れクソ野郎!」

 

 少年は騎士の耳もとでそれだけ呟くと、立ち去った。

 

 少年の脳裏には、絶望し泣きじゃくる少女の姿が浮かぶ。思わず、嗜虐的な笑みが零れ出すのであった。

 

 

 *

 

 

「この私が救済してみせましょう!」

 

 最初に斬りかかってきたのは、あの細身の騎士だった。

 華奢なカナンと剣を合わせるも、見た目とは真逆にパワーはカナンが大幅に勝っており、そのまま押し返して騎士を弾き飛ばす。すると、肌に赤い鱗を纏う騎士が弾き飛ばされた者を受け止めた。

 

「怪我はないな?」

 

 あら、意外と仲間思い。

 

「にしても多対一なんて卑怯ねー」

 

 口ではそう言っているものの、わりかしカナンは余裕そうだ。

 重い剣やら槍やらの攻撃をひょいひょい避けて、鎧の上から剣の腹を叩きつけて吹き飛ばす。

 

 カナンにこいつらを殺すつもりは無さそうだ。

 

「私に物理で勝てるとでも思ってるのかしら? 魔人なのに張り合いが無いわね」

 

 確かにそうだ、こいつらは魔人。竜の角のある者や翼のある者等、魔の力を有する存在なのだ。なのになぜ魔法を使わないのか。

 

 ……なるほどそうか、コルダータちゃんを巻き込まないためか。

 

「烏合ね」

 

「くっ……嘗めるなよぉ!!」

 

 大きな斧を持った緑肌の大男がカナンに大振りを叩きつける。

 そんな攻撃が当たるはずもなく、簡単に回避して腹部に蹴りをねじ込んだ。

 

「ごふっ!」

 

 メキャリと鎧がひしゃげる。その場に大男は倒れこむ。

 と、そこでヤモリのような頭をした小柄な騎士が、長い舌を出しながらコルダータちゃんの背後に気配を消しひたひた回り込んできた。

 

「ケヒヒヒッ! 器の守りがおざなりだぁ!!」

 

「ふふっ、どうかしら?」

 

 コルダータちゃんの背中に手が伸びる。

 あと少しで届きそうなその時、明かりに照らされて伸びた影の中から金属質で巨大な腕が飛び出し騎士をデコピンで弾き飛ばした。

 

「うぎゃっ!?」

 

 言わずもがな、オレの腕である。

 

 〝影〟の中なら、完全召喚された状態でも時間制限を気にせずにいられる。部分召喚でもいいが、あっちはカナンの近くにしか出せないのでコルダータちゃんを守るならこちらの方が便利なのだ。

 

「これが報告にあった魔霊……!?」

 

「くっ、やむを得ない! 魔法の使用を許可する!!」

 

 げげっ、魔人が使う魔法はさすがに警戒するべきか?

 近接でカナンと戦っていた魔人騎士たちの武器に、魔力が込められる。

 

「相手は魔力の無いだけの小娘だ! 魔霊と共に畳み掛けろ!!」

 

「チィッ!」

 

 騎士に囲まれる中から一旦離脱し、オレとコルダータちゃんの元に戻ってきたカナン。

 カナンは近接勝負なら圧倒できても、遠距離からや広範囲に影響を与える魔法には弱いのだ。

 

「食らってみな! 〝空刃狼(ウイングウルフ)〟!!」

 

 狼の形をした真空の刃が駆けてくる。

 上位魔弾に匹敵する結構な威力の上、逃げても追尾してくる。ならオレが防いで――

 

 

 バキバキバキ!

 

 

 

 『げぇっ!?』

 

 足元の地面の土が大きなトラバサミのような形状に変化し、オレ達にかぶりついてきた。

 マジかよ、こいつは地操作魔法か?

 

 更に――

 

 

「腐れ落ちるといいっス!! 腐毒魔術・蠅縄!」

 

 今度は握りこぶし程の大きさの黒い蠅が何匹もこちらに特攻してくる。毒って事は、触れたらマズそうだな。

 

「大丈夫ですか?」 と少し心配そうなコルダータちゃんにオレは問題ないと応えた。

 

 魔法はオレの領分だ。

 

 

 ――凍てつけ。

 

 

 オレはコルダータちゃんの影の中から全身を出し、魔法を発動させる。

 瞬時に黒ずんだ半透明の膜が、ドーム状に展開しオレ達を包みこむ。

 騎士たちの魔法はその膜に阻まれた途端、消滅した。

 

「防御結界か……!」

 

 これは〝心象顕現〟を会得する為に必死に練習していたら覚えた副産物だ。

 

 オレ達を閉じ込める結界と、攻撃を防ぐ氷結結界。

 範囲は向こうが勝っているが、純粋な強度だけならオレのものの足元にも及ばない。

 

 とはいえずっと展開しっぱなしにするのは魔力がもったいない。

 飛んできた魔法が消えた事を確認したら、結界を解除する。

 

「どうやったら倒せるんだよコイツら~」

 

「序列上位の騎士が束になっても敵わないなんて無理っスよ!」

 

 騎士たちの中に戦意が失せてきた者が出てきたな。このまま全員やる気無くしてくれたら万々歳だが……

 

 

「……小娘よ! 我輩は序列16位、竜人のドラヴァンと申す者!! 我と一対一(タイマン)の対決を申し込みたい!! そちらが勝利すれば、結界を解除しよう!!」

 

 竜人のドラヴァン。昨晩茂みへ探索に来たヤツだな。

 こいつがこの中で一番強く、強度階域は第5域(カラミティ)にまで達している。ざっくりカナン単体よりやや弱い程度だ。今まで前に出ないで様子見していたようだが、いよいよ痺れを切らしたか。この中で唯一警戒すべき存在である。

 

「悪しき魔物だとか調伏するとか言ってた癖にずいぶん調子いいわね……けどいいわ。その誘いに乗ってあげる!!」

 

「来い! ティマイオス様への供物に捧げてくれる!!」

 

 

 戦いが始まった。カナンとドラヴァンが戦っている間は、騎士どもとこちらは互いに不干渉という条件だ。

 

 強度階域では互角。第5域:災害級(カラミティ)の両者、実際にはカナンの方がやや強いらしいが、魔法を一切使えないカナンに対しドラヴァンには大きな魔力がある。

 

「……それで戦うつもり?」

 

「これが我輩の武器なのでな」

 

 赤黒い魔剣を構えるカナンに対し、ドラヴァンは何の武器も持たずに対峙する。それどころか、金色の鎧を脱ぎ去ってしまったではないか。

 そしてその赤い拳に妙な気配を纏わせていた。

 

「お手並み拝見ねっ!!」

 

 先攻はカナンだった。カナンは一気に間合いを詰めると、当然のようにドラヴァンの喉元めがけ寸分狂わぬ打突を放つ。

 

「むうんっ!!」

 

「あはっ!!」

 

 カナンの打突を拳の背で受け流し、ドラヴァンは更に間合いを詰めた。そして剣先を伸ばして無防備なカナンの胴体に拳を入れようとする。

 

 すると、体を捻ってそれを回避するカナン。

 

 両者数倍の体格差の間に、いくつもの攻防が入り乱れる。

 

「さすが竜人ね。私の動きに対応されたのは久しぶりだわ」

 

「そっちの方こそ冷や冷やさせる」

 

 一見互角に見えるが、圧倒的なパワーと速度で仕掛けるカナンについていくだけで既に消耗している様子だ。むしろカナンに食い下がれるドラヴァンも相当強いのだろう。

 

 ただ、まだドラヴァンは一切能力(アビリティ)や魔法の類いを使っていない。

 

 そこが唯一の警戒すべき点である。

 

 カナンには、ドラヴァンの能力(アビリティ)がどんなものか教えられていない。

 地力では大きく勝るとはいえ、負ける可能性もなきにしもあらず。

 

「破っ!!!」

 

「甘いわっ!!」

 

 カナンの僅かな隙をめがけて突きを繰り出すドラヴァン。だが、その距離では拳が当たる前に避ける事はカナンにとって容易い事だろう。

 

 カナンは、カウンターを狙い拳をあえてギリギリで避ける選択をした。

 

 

 が、しかし。

 

 

 

 

「……っ! チッ!」

 

「むっ!! これを見切るかっ!!?」

 

 拳が当たるよりもかなり早く、カナンは回避行動に出た。まるで、目に見えない何か(・・・・・・・・)を避けるように。

 

「それがあなたの能力ね。案外厄介そうだわ」

 

「初見でこれを避けるなど、貴様こそただ者ではない」

 

 互いに間合いから離れた距離から言葉を交わす。

 一体、今の一瞬の間に何が起きたのか?

 他の騎士たちもコルダータちゃんも困惑していた。

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