バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第68話 晨星落落

 黒い風が泣いている。

 

 夜空に瞬く星の他に明かりはひとつも無く、アトラスという都市が有った場所には、黒い灰と瓦礫だけが積る平野が広がっていた。

 

 その中心で、身を雪よりも白く包んだ白髪の少年と、闇よりも黒く身を包むバケモノの少女が相対する。

 

「……俺は強いもの(正義)の味方なんでね。悪い魔物には滅びてもらうよっ!!」

 

 純白の少年もといラクリスが、闇のように黒い少女の怪物へ先制攻撃を仕掛ける。

 ラクリスが空中に召喚した数百本の金色の剣が、巨大な竜巻のような渦を巻き、怪物へと襲いかかった。

 

『……』

 

「はっ! 避けようとする思考能力すら無くなったみたいだね!!」

 

 かつてカナンと呼ばれていた怪物は、無数の剣が織り成す竜巻を前に避けるそぶりもなかった。

 

 理性は無い。しかし、何も考えていなかった訳でもない。

 考えた上で、避ける必要が無い(・・・・・・・・)と判断したのだ。

 

 

 

 

 ガッ、ギャリギャリギャリ……!!

 

 

 

 剣の竜巻が怪物を巻き込んだ。

 金属が硬いものにぶつかり、鈍く耳障りな音をたてる。

 

 すると辺りに積る黒い灰が再び巻き上げられ、夜闇を更に暗く覆い隠した。

 

「ふっ、こんなものかな?」

 

 土煙で怪物の姿が見えなくなり、ラクリスは勝利を確信する。

 

「まさか17番(できそこない)が突然〝進化〟するなんてね。魔法まで使えるようになるとは驚いたけど」

 

 

 それでも俺の敵じゃないよ。そう呟いて、ラクリスは背を向けて立ち去ろうとした。

 

 

 

 しかし

 

 

 

「ん?」

 

 

 ラクリスは、竜巻の中で何かが動く気配を感じた。ソレはまるで剣の中を水でもかき分けるように進み、竜巻の外へと腕を伸ばす。

 

 

『蝪ゥ驟ク繧キ繝。繧ク繝偵Λ繝。繝�Γ繧ュ繝ウ』

 

「……これは驚いた」

 

 漆黒の怪物は死んでいないどころか、無傷であった。

 

 全て避けたのか? それとも防いだのか?

 

 否。

 

 防御も回避行動すらも、特に何もしなかったのだ。

 全てを受け止めた上で、たとえ急所に当たろうとも一切のダメージが通らなかったのである。

 

「は、はは……そう来なきゃ楽しくないよね……!」

 

 口ではそう言うラクリスだったが、内心には焦りが芽生え始めていた。

 今まで自分の攻撃を避けた者はいても、傷をつけられなかった存在などいなかった。

 

 どんなに強いと言われる剣士も魔物も、ラクリスの前ではほとんど瞬殺されてきた。

 自分は最強だ。あるいはそれに近い力をもっている。

 

 異質能力(ユニークアビリティ)を与えられてここへ転生して以来、その認識を疑う事はなかった。

 自らが信仰する(ティマイオス)七女神(セブンデウス)さえも、単純な強さでは自分より劣るとさえ考えていたのである。

 

 しかし今、その価値観が崩れようとしていた。

 

 

『螟ァ螂ス縺阪h縺翫�縺。繧�s』

 

「……っ!!」

 

 その鎌のような爪を備える腕が、紅く黒いオーラを纏う。

 

 生前のカナンがかつて相対した強敵も使っていた【竜爪】。

 それを怪物は同系統の【竜鎧】を用いて記憶から再現し、竜巻の中から闇魔法を纏わせた爪でラクリスの首を狙って一閃した。

 

 

「っ!?」

 

 怪物は片手を振るった。ただそれだけで剣の竜巻は内側から消し飛ばされ、爪の延長線上の範囲は地盤ごと深く深くえぐられ黒い塵となって消滅した。

 

 そもそも虹翼(ダート)の魔人であるラクリスには、ありとあらゆる攻撃が通用しない。

 威力云々の話ではなく、この世の理を超越しない限り虹翼の使者(ダート)にはダメージを与えられないのである。

 

 

 

 だが

 

 

(……馬鹿な、俺は虹翼(ダート)の魔人だぞ!? なぜ今の攻撃を避けた? ドラヴァンの【竜爪】を強化したような一撃だろうと、異質物(アルカナム)によるものでなければ俺には通用しないハズなのに……!)

 

 ――どれほど強くなろうとも、生存本能には抗えない。今の一撃を棒立ちで受けていれば、死んでいたかもしれない。

 

 死から遠く離れた位置に居たはずのラクリスにそう思わせる程、濃く突き刺すような殺意がそれにはあった。

 

「て、手数じゃダメそうだね。なら一撃で頭蓋を破壊してやろう……! 〝大聖鉾(トリシューラ)〟!!」

 

 ラクリスが次に召喚したのは、金色の三叉槍だった。

 これは量産型の剣とは違い、魔力を限界まで圧縮して産み出した恐るべき硬度の槍である。

 

「こいつを受けてみなっ!!」

 

 槍は音をも置き去りにし、辺りの瓦礫を吹き飛ばしながら光の如く突き進む。そして槍は、怪物の頭部を穿いた

 

 ――ように見えた。

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 

『螟ァ螂ス縺阪∪縺吶◆繝シ』

 

 

 それは一瞬の事だった。

 

 音速を遥かに超える(・・・・・・・・・)速度の槍を、怪物は直撃する寸前に片手で掴まえた。

 そして思い切り投げ返した。

 

 

 

 ドオォォォン――!!

 

 

 

 槍は更に速く投擲され、ラクリスの頬を掠め遥か後方で地に爆ぜた。

 それはまるで隕石が落ちたかのようであった。

 

「は……はは……、ははは……」

 

 

 ――虹翼の使者(ダート)を屠る手段は、何も異質物(アルカナム)だけではない。

 

 七女神(セブンデウス)を筆頭とする神々の力や、異世界人(メアリースー)の持つ異質能力(ユニークアビリティ)の更に極一部のものだったり。

 

 だが、どちらも積極的に期待できるものではないのだ。

 神が人類に直接手を貸す事などほぼないし、後者に至っては滅多に現れる存在ではない。

 

 故に異質物(アルカナム)はほぼ唯一の対抗手段と言われるのである。

 

 

 しかし、虹翼(ダート)の魔人たるラクリスの能力ならばどうだろう?

 

 

 

「なんてやつ……このバケモノめ……!」

 

 ラクリスの頬に一条の赤い横線が走る。

 

 もしも今の槍が直撃していれば、ラクリスは死んでいた。

 その事実にラクリスは根元的な恐怖を思い出し、表情を歪めた。

 

 

(ちゃちな攻撃は効かないし、そもそも見切られる。

 くそくそくそ、全く17番(できそこない)の分際で! 腹が立つ、俺が最強なのにっ!!

 というかそもそもあの姿は本当に17番なのか? あの魔霊ちゃんと似た姿にも見えるし、それにあのガラスみたいな7色の翼は……。ええい、こうなればもう一度〝心象〟を使うか?)

 

 ラクリスは考えた。しかし考えても結論は出ない。

 

 

 一方で怪物は遊んでいた。

 

 ちょっと強くしても壊れない獲物に、ただの食べ物以外の価値を見出だしていた。

 

 

 やがて楽しくなってきた彼女は己の力を試すべく、玩具へ更なる暴虐の力を振るう

 

 

『〝黒死雷〟』

 

 

 

 ほぼ直角に開かれた彼女の口の中に、闇を孕む紅く黒い雷のエネルギーが球状に集束してゆく。

 ひとたび放たれれば、一帯を何も残さぬほど焼き尽くすだろう文字通り破滅の雷。

 

「なんだよその魔力は……17番のくせに……17番(できそこない)のくせにっ!」

 

 ラクリスは怒った。

 魔力も無い何にも恵まれなかったハズのできそこないが、これほどまでの力を得たという事実に。

 

 虹翼(ダート)ならば、いかに強力な魔法でもダメージを受ける事はありえない。

 己の能力で作り出した武器を利用される以外に、勝てはせずともラクリスが負ける要素は無い。

 

 

 そのハズだった。

 

 

 

 彼女の口からラクリスへ向けて破滅の稲妻が解き放たれる。

 

 それは純粋に全てを破滅させる為だけの力。

 

 広域雷魔撃(メガフラッシュ)をも超える範囲を襲うその破滅の雷は、大地を消し去りその下の岩盤をも蒸発させる程の破壊力を持っていた。

 

 

 

「な……え……?」

 

 それはラクリスの生存本能だった。雷が放たれる直前、ラクリスの肉体は思考よりも先に回避行動に出た。

 それにより扇状に放たれる〝黒死雷〟の直撃を辛うじて免れたのだ。

 

 だからこそ、片腕で済んだ(・・・・・・)のは僥倖であろう。

 

「は……? え……俺の右腕がぁっ!? いだいいだいいだいいぃぃぃっ!? なんで……なんでっ!!!?!?」

 

 二の腕から先が跡形もなく消滅した右腕を見て、ラクリスはようやく悟った。

 

 この化け物は、自分で遊んでいたのだと。

 

 やろうと思えばいつでも殺せた(・・・・・・・)のだと。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 ――『特級生体異質物(アルカナム)〝黒死姫〟』

 

 

 

 特S級討伐指定モンスターであると同時に、3等級中最も危険とされる特級(マルクト)を冠する収容困難な異質物(アルカナム)

 

 

 彼女が虹翼(ダート)へ通用するその力を持つ事は、異質物(アルカナム)財団より狂信国へ潜入中だったエージェント:ソメイの能力により初めて観測された。

 

 この時の黒死姫による死者は25万6815人にのぼる。

 

 以下文書は、特級生体異質物〝黒死姫〟の狂信国ザイオンにおける挙動記録である――

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 絶望的な現実を知ったラクリスは、虹色の翼を逃げる為に全力でためかせて飛行していた。

 

 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だああぁぁぁぁっ!!!!」

 

 それはラクリスにとってあまりにも受け入れがたい現実。

 

 前世と違い、ラクリスには初めから全てが与えられていた。

 魔法も能力も成績も、努力無しで全てが一番。

 

 自分に敵う者には出会った事がなく、己がこの世界で最強だと信じて疑っていなかった。

 

 そんな彼とは対象的に、17番という存在には何も与えられていないように見えていた。

 

 彼にとって17番は、前世の自分そのものに見えていた。

 

 だから虐めた。自分は優れた存在になったのだと証明する為に。優越感に浸るために。

 

 

『縺薙s縺ゥ荳我ココ縺ァ繝斐け繝九ャ繧ッ縺ォ縺�″縺セ縺励g��』

 

「くっ、来るなあぁぁぁ!!!!」

 

 空を飛んで逃げるラクリスを、怪物はステンドグラスのような3対の翼で飛翔して追いかける。

 

 彼女にはもはや生前の意思は無い。

 ラクリスへの恨みも、親友の死さえも、その心から消えかかっていた。

 

 そこにあるのは、ただ純粋な殺意のみ。

 

 

 

 べキっバキっ……ブチッ

 

 

「いぎゃっ!?」

 

 ラクリスに追い付いた怪物は、彼の背中に伸びる虹色の翼を掴み、無造作に(むし)り取った。

 

 赤い血を撒き散らしながらラクリスは地面へと墜落してしまう。

 

 怪物は、引きちぎった虹の翼をむしゃむしゃと食べながら笑っていた。

 

「あ゛あ゛痛い痛い痛いっっ!! やめろよおぉぉぉ!!!!」

 

 情けない絶叫をあげて地面を這いずるラクリスは、無数の剣の群れを召喚して怪物へとけしかける。

 しかし怪物はそんなものを避けようともせず掻き分けながら近づいてゆく。

 まるでラクリスの反応を楽しむかのように。

 

 そしてラクリスの眼前へやって来ると、その鋭い鎌のような爪を振り下ろす。

 

「ぐうううっ、くそ! お前はなんなんだよっ!!?」

 

 ラクリスは咄嗟に複数本の剣や槍や斧を召喚し、怪物との間に挟んで攻撃を防ごうとした。

 直撃は免れたものの、その一撃の衝撃までは防ぎきれずラクリスは大きく吹っ飛ばされる。

 

「ぐっ……そうだっ。俺にはまだ最強の必殺技があったんだった!!」

 

 ここでラクリス、逃げる事ばかりで頭から抜けていた反撃の手段を思い出す。

 心の芯まで恐怖に侵されかけた彼にとって、それはまさに希望であり最期の切り札なのであった。

 

 

「心象顕現っ!! 〝刀槍矛戟〟!!」

 

 

 

 世界がラクリスの色に塗り潰される。

 

 曇天ながらも昼間のように明るく、草木も生えない荒野のような空間がラクリスを中心に広がった。

 

「いくら強くなったって、17番ごときが俺に勝てるハズがないんだよぉっ!!!」

 

 

 

 ザクッ

 

 

 

 突然、怪物の左腕が飛んだ。

 

 斬り飛ばしたのは、金色をした大きな日本刀だった。

 

 それだけではない。三叉の槍や巨大な戦鎚などそれまでとは比べ物にならない質の武器たちが数百本、怪物の元へと殺到する。

 

 心象顕現をした事により、ラクリスの召喚する武器の質量や破壊力の制限が大幅に上昇したのだ。

 

 さすがの怪物も対応に間に合わず、たくさんの血と臓物を撒き散らす事となった。

 

 

「これで俺の勝ちだあぁ!!!!」

 

 

 

 そしてラクリスは、自らの記憶にある武器兵器の中で最も強力なものを呼び寄せる。

 

 上空に浮かぶずんぐりした魚のような形をしたそれは、とある世界では水素爆弾と呼ばれていたものであった。

 

 心象顕現をしても尚本物の破壊力には遠く及ばずとも、目の前の敵を滅するには十分過ぎる。

 

 怪物へ向けて投下される爆弾を目にし、ラクリスは今度こそ勝利を確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし。

 

 

 

 

 

 《能力(アビリティ)の代行編集を申請されました……許可します。能力(アビリティ)の編集を施行中……。

 

【魂喰】へ【膂力強化】【思考加速】【竜鎧】【影葬】【魔性付与】【闇・氷結魔法】【潜影】【吸血姫】【耐性各種】【念話】を生贄として捧げます。

 

 成功。

 

 ――個体名:U.N.オーエン は、高位(エクストラ)能力(アビリティ):【刈り取るもの(タナトス)】を獲得しました》

 

 

 

 

 もはや思考に言語を使わなくなったその脳内に、明哲者の無機質な声が響き渡る。

 

 この状況にして理性が無いからこそ、無駄な雑念や感情に囚われない。故に理性なき怪物(マオウ)は、最適解であり最凶の一手たる〝それ〟を可能にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『心象顕現――

 ――〝晨星落落(しんせいらくらく)〟』




つまらないという評価が多いのでハーメルンでの投稿やめようか考えてます
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