バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第76話 一件落着……?

 正午の陽が浮かぶ青空は澄みわたり、なんとも清々しい昼時だ。

 

 足元には顎から腹にかけて大きく引き裂かれたライオンのような生き物の死体が転がっている。

 

 

「ふう、案外なんとかなるものね」

 

『生きてて何よりだぜ』

 

 別段心配はしていなかったが、獣王の破けた腹からのっそりと出てきたカナンを見て安心する。

 背中にはサソリの尻尾で刺された傷が見えるが、【超再生】のおかげで既に塞がってきていた。

 

「いやぁ、咄嗟に願ったら耐性を2つもゲットしちゃうなんて。確か耐性っておーちゃんとも共有されるのよね?」

 

 ――【窒息耐性】と【消化耐性】。

 カナンが獣王の真空結界に苦しんでいた時と飲み込まれた後に獲得した、あまりにも都合の良い耐性。窒息はまだしも消化の耐性ってなんだよ。

 

『……そういや主様(マスター)に毒って効かないんだったな。尻尾で毒を打ち込まれてたみたいだが、体の調子はどうだ?』

 

「んー、ちょっと指先が痺れてるくらいかしら? 問題なく動かせるわ」

 

『なら良かった』

 

 複数の不死者(アンデッド)の因子を持つ影響か、カナンにはありとあらゆる呪詛と猛毒への耐性が備わっている。耐久力に関してはかなり強い方だろう。

 

 そんなカナンはぐーっと伸びをすると、オレの指先に触れた。

 

「ねえおーちゃん。魔力がもったいないしそろそろ人化してくれる?」

 

『んー、了解だ』

 

 オレとしてもこのまま魔霊形態でいる意味はないので、肉体を幼女フォームへと切り替える。

 

 一瞬だけ視界がスイッチを切ったみたいに暗転すると、視点が一気に低いものになった。

 

「あぁっ、おーちゃんカワイイっ!」

 

「にゃっぷ、血塗れで抱きついてこないでーっ!!?」

 

 血まみれだし獣王の胃液でびっちょちびちょだし、抱きつかれたら悲惨な事になりかねない。咄嗟に【清浄】をかける事でなんとかオレまで汚される事だけは避けたのであった。

 

「……で、何だっけ。獣王? 結構ヤバい魔物だったみたいだな」

 

「そうね。さすがは大結界の中から出てきただけあるわ」

 

 ……大結界。

 隣国ネマルキスとの国境であり、かつ準特級もの強大な魔物を何体も封じているのだとか。

 今回のこいつもその内の1体なんだろうか。

 

 そんな事を考えていると、おもむろにカナンは自分の背中から伸びる黒い鎖が囚える光の珠へ手を触れた。

 

『ねえ、聞こえているかしら?』

 

 これは……念話か。

 オレにも声が聞こえてくるが、話している対象はやはり……

 

『ワガハイは一体……そうだ貴様、どこにいるっ!? 見つけ次第喰ろうてやる!!』

 

『……ぷっ! あははははっ!! まだ自分の立場が分かっていないようね。まあいいわ、私は優しいから教えてあげる。

 私はね、死者の魂を捕獲して干渉できる能力(アビリティ)を持っているのよ』

 

 まさか【魂喰】で捕縛した魂と念話で会話ができるとは……。てか結構ハッキリ意識があるんだな。

 

 

『なん……だと?』

 

『あ、そうそう。私は踊り食いが大好きなのよ。そして今とってもお腹が空いているの。

 この意味がわかるかしら?』

 

 カナンったらこれまた無邪気に残酷な事を……

 カナンに囚われた魂の行く末はひとつしかない。

 

『まさか……やめろっ! やめてくれ小娘!! わかった、何でも答える! 貴様を幹部にしてやるっ! だから――』

 

 

「弱肉強食ってやつよ。あーーーむっ」

 

 

 カナンは命乞いをする獣王の魂を一気に頬張ると、噛まずにごくりと飲み下した。

 

 相変わらず体調が心配になるような食べ方だが、長くても十数秒で消化されるので問題はなさそうだ。

 

「……味はどうだ?」

 

「うーん、食べがいはあったけど大味ね」

 

 まあまあなのか。てか魂の味は分かるみたいだな。

 

 それからカナンは獣王の眷族どもの魂も平らげ、それを見計らいオレは死体を全て【次元収納】へと取り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 カランカランと耳触りの心地よい音と共に扉を開き、オレ達はギルドへと戻ってきた。

 

「今戻ったわー!」

 

「ご無事でしたか! カナンさん……と、その方は?」

 

 カナンは肩に担いだプレートメイルを纏う女の人を受付側のソファーに下ろした。

 まだ意識は戻らないみたいだが呼吸も脈もあるし、じきに起きるだろう。

 

「例の魔物のお腹の中から助けてやったのよ」

 

「魔物のお腹……って、まさか倒したんですか、準特級をっ!!?」

 

「そうよ? 死体も回収してきたわ」

 

 実は獣王の死体を収納した時、胃袋に入っていたこの女の人だけが弾かれて地面に取り残されたのだ。

【次元収納】は魂を宿すものは取り込めないからな。

 とりあえず胃酸で爛れた皮膚とかは回復薬(ポーション)で治してやったけど。

 

「……ひとまず奥の闘技場で死体を確認しましょう。ここにいても騒ぎになるだけですし」

 

「そうね、とっても大きいものね」

 

 カナンは受付嬢のニーレちゃんの後についていく。オレは相変わらず影の中だ。

 

 その先は、ギルドの裏にあるいつかのAランク冒険者と戦った場所だった。そこでマンティコアどもの死体を取り出すようだ。

 

「おーちゃん」

 

「はいよ」

 

 まずは1体、獣王の死体を次元収納から出してみる。

 

 うーん、これなら闘技場ギリギリ眷族のマンティコアの死体も全部出せそうだな。

 

「で、でっか!? ってまだあるんですかっ!?!?」

 

 獣王と(アーマード)五体を含めて6つのマンティコアの死体。あまりにも巨大過ぎて、闘技場の容量ギリギリまで詰まってしまったな。一旦3体くらいもう一度回収した方がいいか?

 

「なんだなんだい急に私を呼び出して……おっ、カナンちゃんじゃ~ん! 久しぶりだねぇ、ポテチ食べるー?」

 

「久しぶりね、エルムちゃん」

 

 眠そうな顔をした金髪の女の人――ここのギルドマスターであるエルムさんが、のそのそとポテチ袋を抱えて現れた。相変わらず色々適当そうな人だな。

 

「んーで、ニーレ。何があってこの私を呼び出し……おおぉおぉ!? なんじゃこりゃああぁぁぁーっ!?」

 

 色々と騒がしい人だな……。

 マンティコアの死体を見たエルムさんの驚嘆の声は、しばらく闘技場に響き渡り続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、〝獣王〟を自称する魔物を倒したと?」

 

 腕を組み、納得とも諦めともとれる表情で何度も頷くエルムさん。

 改めて、準特S級というもののすさまじさを実感するな。

 

「まだ死体の詳しい調査はしていないけどね、私の鑑定能力は間違いなくアレを〝獣王〟だと示しているよ」

 

「そんなに有名な魔物だったの? アイツ?」

 

「有名もなにも、大結界で封印されていたはずの8体の準特級……いや、1年前に1体死んでいたそうだから7体かな? ……とにかく、まともな冒険者じゃ到底太刀打ちできない類のヤッバい魔物なの! それをカナンちゃんったら……」

 

 熱烈に解説してくれているのはありがたいが、多分カナンは内容の半分も聞いちゃいない。

 

「……うん、改めてカナンちゃんってヤバいね。SSランク冒険者なんて軽く一蹴できるんじゃないの?」

 

「あんまり実感ないわー」

 

 自分の強さの立ち位置にもあんまり興味無さそうだな。だがまあ、どの程度なのかは把握しているだろう。

 

 ……小国を一方的に滅ぼせる程度の能力。カナンが1人で。オレも加わったら大国に喧嘩売れるんじゃないかな。絶対やらないけど。

 

「まーとにかく……。〝獣王〟なんて伝説の魔物(モンスター)がこんな所に出現したのにも驚きだけど、問題は君らだね。これからルミレインさんとネマルキスへ行くんでしょ? ちょっと頼みがあるだけどさ、いいかな?」

 

「何よ? おつかいくらいならしてやってもいいわ?」

 

「あまり大きな声では言えないんだけどさ……今回の討伐報告、ウチじゃなくてネマルキスの方のギルドでやってくんない?」

 

 はぁっ? なんでそんなめんどくさい事を?

 とは思ったけれど、理由を聞けばまあ納得できた。

 

 

 〝獣王マルドティアス〟は、元々ネマルキスの結界内に古くから生息していた有名な魔物であること。

 

 また、ウスアムの街のギルドはただでさえ規模が小さいため、獣王討伐なんて事件があればとてつもなくめんどくさい話がたくさん舞い込んできて大変だから……らしい。

 

 前者はともかく、ぶっちゃけ後者はエルムさんが働きたくないだけな気もするが……。

 

「それにさ、ここを発とうという矢先に足止めはされたくないだろう?」

 

「うーん、それは確かに嫌ね。今回は従う事にするわ」

 

 それでいいのかうちの主様(マスター)よ。

 だが、これ以上ここで面倒事に巻き込まれるのも嫌だしな。

 

 それからオレは獣王と(アーマード)の死体をひとつだけ残し、再び収納した。

 

 一応は巨大なマンティコアが現れたっていう話にするつもりらしい。そればかりはカナンが倒した事になるが、前にもSランクの魔物は何度か倒しているし今さら騒ぎになったりはしないだろう。

 

 

 そうして、オレ達はある程度の報酬を貰ってからギルドを後にした。

 獣王に飲み込まれていた女の人も目を覚ましたようだし、一件落着だな。

 

「ねえおーちゃん」

 

「ん?」

 

「帰ったらいっぱいぎゅーってしてもいい? 獣王のお腹の中がすごく臭かったから、おーちゃんの香りを胸いっぱいに吸い込みたい気分なの」

 

「んなっ、なんだよそのピンポイントな気分っ!? べ、別に主様(ますたー)ならいいけどさ……これでオレが飲み込まれた気持ちが――」

 

「ありがとおーちゃん♪ たっぷり可愛がってあげる!」

 

うぅ、今日は多分これから夜まで吸われそうだ。

一件落着とはいかなそうだなぁ……

 

 

 

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