バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第78話 急ぐ旅でもないし

「これは?」

 

「魔鋼で作った剣さ!」

 

 カナンはメルトさんに布で包まれた棒状のものを手渡された。

 前に迷宮でゲットした魔鋼で造られたらしい。

 アダマンタイトよりは劣るものの、魔鋼もただの鉄より遥かに硬く魔力を通しやすい。

 

 というか普通の魔剣は魔鋼で造られるのだそうだ。

 

「メルトさん……ほんとに今日までっ……うぅっ」

 

「あら、おーちゃん泣いてるの?」

 

「ぐすんっ……泣いてなんかぁなぁいっ……!」

 

 泣いてなんかいないもん! 体が勝手に涙を流してるだけだもん!!

 

 そこ! 要するに泣いてるとか言わないで!!

 

「よしよし、今生の別れじゃあないんだ。また会えるさ」

 

「うぅっ……また、会おうねぇ……」

 

「あぁ、またアダマンタイトでも手に入れたら持っておいで。魔剣を造ってやるさ!」

 

 どこまでいい人なんだ、メルトさんは。

 ……しかし、前に造ってもらった魔剣はどこにいってしまったんだろう? 黒死姫になってた時に失くしてしまったんだろうか?

 

 まあいいか。

 

「じゃ、私たちもう行くわね。必ず3人(・・)でまた帰ってくるから」

 

「……ふっ。そうだ、〝ガイズ〟って野郎には気をつけな?」

 

「ガイズ?」

 

「そう。この国の貴族でな、ろくな噂が絶えない野郎さ。他国にも繋がりのあるらしいから気を付けるんだね。関わったらろくなことにならないからさ」

 

 ガイズ……。まあこの広い世界でそうそう出会う事なんてないと思うけどな。

 

「教えてくれてありがとね」

 

 メルトさんはふっと微笑んで、去り行くオレ達を庭先からずっと見守ってくれた。

 

 

「いってらっしゃい、ソフィア」

 

 どうしてそう言ったのか本人でさえわからないその言葉。

 それがオレたちの耳に届く事は、なかった。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 ギルドやお世話になった所へは昨日顔を出したし、早速ルミレインと合流しよう。

 

 えーと、街の中心広場だったっけ。噴水があるって言ってたな。

 

「あそこじゃない?」

 

「おっ、ルミレインいるな。おーい!!」

 

 それなりに大きな噴水が、そこに小さなローマの景色を作り上げている街の中心。

 噴水の縁に腰かけているルミレインを見つけ、合流した。

 

「時間通り……。やり残した事はない?」

 

「ありまくりよ? でも、次に来た時の為に残しておくわ」

 

「右に同じくだ」

 

 この世界で目覚めて一月半。ずっと世話になったこの〝ウスアムの街〟とも、これでお別れだ。

 

「ならばよし。ついてきて、駅へいく」

 

「駅?」

 

 

 

 

 

 

 ――これってまさか、バス停か?

 街を囲う壁の外、南西側に舗装された道といかにもって感じの停留所が立っていた。

 

「ここで待っていれば、定期的に来る乗り物に乗せてもらえる」

 

「噂には聞いていたけど、そんなものがあるのね」

 

 異世界にバスって……

 だがまあ、魔力とかいう超万能エネルギーがある癖に技術が発展しない方がおかしいかもな。

 

「だいぶ待ちそうたな」

 

「どうでもいい昔話をしよう。

 現在のウスアムの街は、イセナ大結界の監視を目的とする魔術師たちの集落が起源」

 

 バスが来るまで退屈だろうからと、ルミレインが何やら街の成り立ちについて話し始めた。

 

「ウスアムという名そのものは、海辺にかつてあった街からきてる。大結界の維持には大海の女神(アクアデウス)への信仰心が不可欠。故に魔術師でない一般人もそこへ永住するようになり、やがて街となった」

 

「へぇー。そんな経緯が」

 

「今も街のどこかに結界術式を維持するための魔水晶がある。街を囲む壁はそれを守る為にある」

 

 ふーん、なるほど。この街はあの大結界の為にあったのか。神への信仰心が力になるって、そんなのあるんだ。

 

「最近まで排他的で懐古主義な連中が多く、ウスアムの街は外部よりもかなり旧い形をしてる」

 

「どうりでバスとかあるのにあんな感じな訳か。ギルドでは機械とかあったのにな」

 

「難しくてわかんないわ。……あら、例の乗り物ってアレじゃない?」

 

 マジか。

 想像していたよりは少し違う感じなものの、確かに車だ。

 全体的に黒っぽく、馬車の車体部分を巨大化させて単独で動かせるようにしたイメージだ。

 

「大人1人と子供2人」

 

「あいよ」

 

 扉が開き、ルミレインを先頭に乗り込んでいく。お金を支払ったルミレインは運転手から切符のようなものを3枚受け取り、オレ達に1枚ずつ渡した。

 

「降りる時に必要だから、失くさないように」

 

「はーい!」

 

 しかしすげえな……。

 中は外観の3倍くらいは広く、席が何十人も座れるくらいたくさんあった。お手洗いまで完備していて、いっそ住めそうなくらいだ。

 広いのは空間拡張の効果だろうか。魔法技術を存分に使っているな。

 

 オレ達は三人で2人用の席に座った。一人分の席をオレとカナンの2人で詰めて座る。

 

 そしてしばらくしたら、扉が閉まってバスが動き出した。

 

「おおぉぉっ!! すごいわおーちゃん!!! 見てっ!!!!」

 

「はいはい……」

 

 それにしてもエンジン音はしないな。動力が違うのかも。

 そしてバスのスピードはぐんと上がってゆき、窓の外の景色はみるみる変わってゆく。

 

「……バイバイ」

 

 後方に遠ざかって小さくなってゆくウスアムの街。

 オレがこの世界に産まれてから、ずっとお世話になった場所。

 

 一抹の寂しさを胸に憶えながら、前を向いた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 発車から十数分後。

 バスは丈の長い草原を走っている。

 

「……主様(ますたー)?」

 

「きもちわるい……おーちゃん……」

 

 明らかにカナンの様子がおかしい。顔面蒼白で、げっそり震えている。

 

「酔ったのかよ……」

 

「ヨッタってなあに……? うぷっ……」

 

 あのカナンが、めちゃくちゃ乗り物酔いに弱いなんて誰が想像したよ?

 

「とりあえず横になって、可能なら寝て」

 

「ルミちゃんは平気なのね……うぅ……」

 

 恨めしそうにルミレインを睨むも、カナンは言われた通りに座席で横になる。

 ルミレインがひとつ後ろの席へ移動してくれたおかげで、カナンはオレの膝枕で眠りこむことができた。

 

 この状態でゲロられたら大変な事になりそうな気がするが、オレはカナンのものなら全身で受け止めてやれる覚悟がある。

 

 ……と、自分に言い聞かせる事にした。

 

「よ、よしよし主様(ますたー)

 

 少しでも酔いがマシになるよう、ゲロられないようオレの膝の中で無表情に眠るカナンを撫でるのであった。

 

 

 

 

 

 ――で、だ。2時間くらいしてバスが到着したのは、なんと雑踏入り乱れる駅だった。

 

 比喩ではない、本当に現代の駅に近い風景だった。

 違うのは、建物がレンガ造りが多いのとさすがにビルのような高いものは無かった。

 

 けれど、ガラスのショーウィンドウやら色々なお店が建ち並ぶ光景はどこか懐かしさを感じさせる。

 

 そして、駅の中央には幾束もの線路(・・)が通っていた。

 

「ま……じかよ」

 

「す、す、すっごいわ!! なにあれ!? おーちゃん見に行きましょうつ!!」

 

 すっかり酔いも覚めて大興奮のカナンに引きずっていかれそうになる。

 が、それをルミレインはオレの首根っこを掴むという形で制止した。

 

「悪いけど、時間がない。列車に乗り遅れる」

 

「レッシャ……?」

 

 また乗り物かよ……!?

 

 

 

 

 

 

 ガタン ゴトン

 

 ガタン ゴトン

 

 リズミカルで軽快な音が心地いい。

 だが……

 

「お゛ー゛ち゛ゃ゛ん゛……」

 

 案の定、カナンはまたしても胃袋の決壊寸前にまで追い詰められていた。

 

「またオレの膝で横になって寝るか?」

 

「うぅ……もう眠気がないわ……。うぷっ………」

 

 うわ、こりゃまずいぞ。車内には他にも乗客がいるし、げろげろさせたら大変な事になる。

 

「もうっ……無理……。出すわおーちゃんっ……!」

 

「ちょま、うおあぁっ!?」

 

 ついに、出る。止められん。

 カナンの|胃の中身が、もう喉まで上がってきていた。

 

 こうなりゃヤケだ!

 

主様(ますたー)っ!!」

 

 オレはカナンに抱きついた。顔を体で覆うように、隠すように。

 ……と同時に、【次元収納】を発動させる!

 

 

 

 

 

 

 ――結論から言えば、何とか惨事は回避できた。

 吐瀉物は全て次元収納の中に流し込み、臭いは清浄で掻き消す。おかげで被害はゼロだ。……収納の中がどうなってるのか不安だけどな。

 

 そして、列車も目標の港の駅へ到着した。

 外はすっかり夕方だ。

 

「うぅ……」

 

「よしよし……」

 

 まだフラフラと酔いの回復していないカナンを肩で支えながら、オレ達はルミレインの後をついていく。

 

「……今日はこの近くで泊まる。その様子じゃ無理そうだし」

 

「助かるわ……」

 

 ゆっくりと、大きな倉庫や工業地帯から町へと抜ける。

 オレンジ色の街灯が、石畳で舗装された暗い街道を幻想的に照らしていた。

 

 辺りがすっかり暗くなった頃に、ようやく目的の宿へと到着した。

 

 この世界で見たものの中ではずいぶんと大きな建物だな。

 ひいふうみ……5階建てで、幅も広い。石のレンガ造りのホテルと言っても差し支えなさそうだ。

 

「お、お邪魔しまーす……」

 

 オレ達は開かれている木製の大扉を潜り、大理石のような白い床を恐る恐る踏みしめ受付へ向かう。

 ルミレインが軽く手続きを済ませると、受付横の大きな階段を登って指定の部屋へと向かった。

 

 

「――うっわぁ、広っ!?」

 

「何々色々すごいわ!」

 

 軽くテニスのできそうな広さの部屋。

 踏みしめる度に罪悪感が湧くくらい踏み心地のよいカーペット。

 詰めれば5人は並んで寝れそうな幅のベッドが、ランプの乗ったサイドテーブルを挟んで二つある。

 

 やっぱりここ高級ホテルなのでは……。一晩泊まるには贅沢過ぎる気がするが……

 

「気にするな。よく泊まってる所だから」

 

 ルミレインは素っ気なくそう言うが、一体1泊何円……いや、何ゴルドなのかちょっぴり恐ろしい。それを三人分自腹で払うルミレインもなかなかだ。

 

「2人とも、先に入ってくるといい。お風呂」

 

「……え?」

 

 

 ……マジかよ。

 やはりというか、ここにも空間拡張の技術が使われてるのか。

 

 部屋に併設されているにも関わらず、大浴室だった。メルトさん家の10倍はありそうな、ここでもちょっと和風の岩風呂が。

 

「何だかもう言葉が出ないわね……」

 

「ヤバいしか出ないな……」

 

 いつもなら半ば無理矢理オレの体を洗いに来るのに、さすがにというか今日はちょっぴり大人しく平和に終わった。

 

「出たわよ~、良い湯だったわ~」

 

「さっぱりしたぜ~」

 

 乗り物酔いで散々死にかけていたカナンだったが、お風呂に入ったおかげでもうすっかり回復したようだ。

 

「行ってくる」

 

 そう言ってルミレインは1人で浴室へ向かっていった。

 あの広い風呂を一人占めとか、ちょっぴりうらやましいような。

 

「なんだかすっごくワクワクするわね、おーちゃん!」

 

「だな、ネマルキスってどんな所なんだろな?」

 

 まだ見ぬ新天地に向けて、オレ達はワクワク胸を高鳴らす。

 そして超巨大なベッドに両手足を伸ばして寝転び、高い天井をぼんやりと見つめる。

 

 

 

 ガチャリ

 

 

 しばらくして脱衣室の扉が開き、中からルミレインが……

 って、うおおおおおっ!?!?

 

「今出た……ん、どうした?」

 

「どうしたっておまっ、服はっ!?」

 

 胸以外に無駄な肉の無い引き締まった体に、パンツ以外の一切の衣類を身に着けていない。おかげで白い肌があまりに眩しいっ!

 

 そして胸が、胸がぁっ!?

 

「ん、あぁ。ボク、家や宿では服を着ないんだ」

 

「うぇっ!?」

 

「コレが何か問題でも?」

 

 ら、裸族!?

 ルミレインにそんな性癖が……いや性癖ではないけど、んなこれ見よがしに胸を突き出すなっ! 見えてるから、見えてる! めちゃくちゃ困る!

 

「む?」

 

「うふえぇ……あぅ?」

 

 ルミレインがおもむろに近づいてきたせいで、更に事態は悪化した。

 

 あ、ヤバイ。

 と思った時には既に遅く、オレはベッドの上で鼻血を出しながら意識を手放してしまったのである。

 

「ちょっと、どうしたのよおーちゃん? 裸なんていつも私ので見慣れてるでしょっ?」

 

 しばらくして目を覚ました時、なぜかカナンの機嫌が悪かったのだが別にオレのせいじゃないと思う。うん。

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