バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第80話 新たな地で

 世界でも類を見ないほどの強魔(ごうま)地帯に建つ大国、ネマルキス。

 

 海の彼方からでも見える異様なネマルキスの象徴〝霊峰イセナ〟は、女神の力の凄まじさを今に伝えるものである。

 

 標高10000m。半月状な形をしたその山は、標高と同じ直径10000mの火口から噴き出した溶岩が、大地をビンゴカードの穴ように直角に押し出して出来たのだとか。

 カルデラ噴火とかいうらしいそれは、なんと二柱の女神の力で発生したものという。

 

 霊峰以外にも爪痕はたくさんあるが、説明するには時間が足りないとルミレインは言う。

 

 大海の女神(アクアデウス)明星の女神(ステラデウス)

 何が女神同士を争わせたのか、それは神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 水平線からオレンジ色の光珠が登り、夜が終わった。

 それと同時に、反対側に灰色の陸地が見えてきた。

 

 あれがネマルキスか。あと一時間もすれば到着だそうだ。

 

 オレ達の目的地である魔国ネマルキス。正確にはそこの〝イセナランダ学園都市〟という所に行きたいのだが、そこに入るには特別な通行証が必要なのだそうだ。発行には最低でも1週間はかかるそうで、それまではルミレインの行きつけらしい宿に泊まって過ごす予定だ。

 

「……ヤバいな。女神同士で争ってできた爪痕の上に創られた国って大丈夫なのか?」

 

「問題ない。恩恵も多いから成り立ってる」

 

「例えばどんなのよ?」

 

 恩恵か。火山地帯でもあるらしいし、前々から言われているので予想はつく。

 

「温泉か?」

 

「……オーエンに50ルミポイント」

 

 ……。

 

 ポイントゲットだぜ。やったぜ。

 

 ……。

 

「温泉って気持ちいいのよね? 楽しみだわ~」

 

 しかし温泉なんて何年ぶりだろうか。異世界温泉、楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 中華風に青いタイル張りで舗装された港への入り口で、なにやら行列ができている。

 

 巨大なガレオン船が着いたはいいものの、どうやら検問で身分を証明する必要があるらしい。

 

 ルミレインはともかく、カナンは大丈夫なのか? 元奴隷だったし身分なんてものは……てかオレの方がヤバくね? 湧いて出たようなもんだぞ?

 

「……心配しなくていい。とっくにボクが手を打っている」

 

「ほえ?」

 

 

 

 ――【カナン】。人間。トゥーラムル王国出身、11歳女児。元は孤児であったものの、5歳から友人の家庭に引き取られて育てられる。国際冒険者に登録済み。

 

【オーエン】。

 コクマー大迷宮の魔霊が人化現象を起こして誕生した魔人。

 カナンと合法の主従契約を結んでいる。

 

 

 

 ……。

 

 身分がいつの間にか作られてたんだけど。

 

 嘘と真の混ざった経歴やらの情報まであるんだけど、まさかルミレインがやったの? 平然と偽装してるって事? ルミレインってマジで何者なんだよ。聞いても当然というかはぐらかされるけど。

 

 しかし、国を跨いだネットワークみたいなものがあって、そこに情報を記録してるのにも驚きだな。

 

 まあおかげですんなり検問を通過できたけどさ。

 

 

 でだ。検問を抜けて港街へ来たんだが、ここでもまた驚きの連続だ。

 

 独特な瓦屋根に格子窓、蒼い龍を象った装飾。

 中華街を真っ青にしたような街並が続いている。

 

「ここは昔ながらの街並みを再現した観光街。港から入ってきた外国人をターゲットにしてる」

 

 ずいぶん派手な街並みと思ったら、観光客の為の場所なのか。

 あいにくオレ達の目的地であるギルドはもっと先なので、残念ながらここに寄る訳にはいかない。

 

 龍人鳥人魚人えとせとら……。色んな服装の色んな人種が行き交う街路を進んでいくと、蒼っぽさが抜けてゆき素朴な建物が増えてきた。相変わらず屋根も平坦な瓦屋根の建物が多く、中華風かあるいは琉球っぽい印象を受ける。

 

 やはりファンタジーな異世界、文化水準は現代よりも劣るのか……とかいう舐め腐った考えは次の瞬間に叩き潰される事となる。

 

「ま……マンション!?」

 

 それこそ現代のものに匹敵するような、高層マンションとしか言えない建物が何棟も建ち並んでいた。

 屋上が無く瓦屋根で所々木造な事を除けば、完全にそういう装飾のマンションにしか見えないぞ。ベランダまであるし。

 

 あとは回りに公園や色々なお店らしきものも見える。

 

 さながら団地だな。ぶっちゃけ嘗めてたぜ……。

 

「凄い……凄いわ! 知らないものがいっぱいよ!!」

 

「落ち着けって主様(ますたー)。オレも何がどうなってるのかわからないけど!?」

 

 興奮するカナンを落ち着かせながら進む。

 道中ルミレインがまたバスに乗って行く事を提案してきたけどカナンが速攻却下してた。三半規管強化があるし、もう酔う事は無いと思うけどなぁ。

 

 しっかしさすが標高10km。

 これだけ歩いてもあの山……ばか○けみたいな形の霊峰とやら、大きさがあまり変わらない。全く見上げれば首が痛くなりそうだ。何てものを作り出してしまったんだ、女神様は。

 

 何はともあれ、何とか冒険者ギルドに到着できた。マンション街でも都会でもなく、森や山が近いちょっとした郊外に建っている。

 

 どうも〝学園都市〟とやらに一番近いギルドらしく、ルミレインはオレ達をいずれそこへ連れていくつもりらしい。

 

 話を戻そう。ギルドの建物の見た目なんだが、港街のもののように蒼く、なんと10階建てというちょっとしたビルだった。しかも入り口の大きな引き戸に近づいたら勝手に開きやがった……。

 まさかの自動ドアかよ!?

 

「おーちゃんおーちゃんっ! この引き戸生きてるわ!?」

 

 そりゃあもうカナン大興奮。この国に来てから異世界ハイテクをこれでもかという程見せつけられてくる。

 

 オレのようなに異世界からやって来た来訪者……異世界人(メアリースー)と呼ばれる者たちが、こういう技術を伝えたりしてるのだろうか。

 

 それは置いといて。

 

 自動で開いた扉を恐る恐るくぐっておじゃましまーす。

 

「広っ!?」

 

 しかも想像してたのとぜんぜん違う!?

 思わず声が出てしまうくらい、そこには変わった景色があった。

 

 まず、蒼いカーペットの敷かれた床と壁はつやつやした灰色の石で造られていた。

 また、二本の柱が伸びるエントランスの天井は三階まで吹き抜けになっており、蒼い水晶で作られたシャンデリアがぶら下がっている。

 それから受付の大理石らしきカウンターは横に20人くらい並べそうなくらい広かった。

 

 なんだかウスアムのギルドが馬小屋に見えてきたぞ……。

 

「ほおぉぉっ! なにあれ見てみておーちゃん!!」

 

「おぉぉぉ!?」

 

 それからはもうオレたち2人揃って大興奮。どのくらいの時間キャッキャしてたのかは覚えていない。

 ルミレインが背中をチョップしてくれたお陰で元の世界に帰って来れたけど。

 

 それからルミレインとカナンの2人は受付へ手続きをしに寄った。オレは横からちょこんと顔を出して受付の上の書類を眺めていた。

 オレは一応9歳って設定なので、まだ冒険者にはなれないのだ。

 

「ライセンスカードをこちらに提示してください。

 ……はい、カナンさんですね。11歳でBランクの〝国際冒険者〟ですか。凄いですね」

 

「凄いでしょ、ふっふーん!」

 

 凄いと言われてちょっと嬉しそうなカナン。

 

 

 ――実は冒険者には二種類ある。

 それが『国内冒険者』と『国際冒険者』だ。

 

 前者は名前の通り、基本的に特定の国の中でのみ活動する冒険者だ。他国では冒険者として認められないものの、その国の法や保障に手厚く守ってもらえるという。

 

 一方後者の国際冒険者は、一部の法や保障が適用されない代わりに国を跨いでの活動が許されている。カナンもルミレインもこの国際冒険者というのに登録しているそうだ。

 

 ただ生活費を稼ぐ目的ならば前者、夢とロマンを求めるなら後者と言った所か。

 ちなみにどちらも同じ基準でランクが決められているので、純粋な強さには変わりはない。

 

「それから――」

 

「オイオイオイ11歳でBランクぅ? あり得ねえだろ!!」

 

 なんだなんだ、またテンプレか?

 つり上がった目をした青年の冒険者が背後からカナンに絡んできた。この広い受付でわざわざ聞き耳を立ててる辺り、暇なんだろうな。

 

「いい加減にしてください、ベルナさん!!」

 

「お? 文句があるなら俺の親父に……なんだガキ、前にどこかで……」

 

「あ?」

 

 なんだっけコイツ。見覚えがあるような、無いような……

 

「そ、そうかてめえ! 忘れたとは言わせねえぞカナン! 俺様はなぁ!! ベルナ様だ!! 迷宮攻略の時にもいただろうがよ!!」

 

「いや誰よ。本当に知らないわ」

 

「こんのメスガキぃ!! 奴隷にして毎晩泣き叫ぶくらいぐちゃぐちゃに犯しでやる!!

 つーかコルダータはどうしたよ。ははっ! そうか足手まといだから置いてきたって訳か! 良い胸してたからアイツも一緒に犯してやろうと――」

 

 あっ。死んだなコイツ。

 とオレが思うよりも先に、カナンはベルナの腹に神速の蹴りをお見舞いしていた。

 

「ごふぁっ!?」

 

 数メートル吹っ飛ばされて、床の上でピクピク痙攣するベルナ。

 何とか生きてるな。一応は加減してたらしい。

 

「……」

 

「……今のは、正当防衛という事にしておきます」

 

「ありがと」

 

 受付嬢も他の職員さんも、カナンの味方をしてくれるようだ。

 しかしここに来て早々これじゃ先が思いやられる。隣の受付にいるルミレインはどこ吹く風だし。

 

「あんまり人を蹴ったりしちゃダメだぞ主様(ますたー)……」

 

 オレはカナンに暴力はダメであると強く念を推すのであった。多分意味無いけど。

 

「……ところでその子は妹さんですか? カワイイですね」

 

「まあそんな所よ。良かったわねおーちゃん、カワイイって」

 

「あぅ!? あ、あぅ……」

 

 カワイイっ!? やっぱりオレって可愛いのか……?

 何か言おうとしたけれど、なぜか思うように声が出なくてあうあう呻く事しかできなかった。ちくせう、なんでなんだよぉ……。

 

 オレはなぜか、自らのツインテールをふにふに触らざるを得ないのであった。

 

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