バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第81話 ぬるぬるの後は温泉に限るよね

 さてさて、オレたちはギルドの建物が面する樹海へと足を踏み入れた。

 宿へ行くには少し早く、ならば時間潰しにと肩慣らしにと討伐依頼を受ける事になった。

 

「エビルリーチ……なんか嫌な響きの魔物だな」

 

「ボクも後方から協力する」

 

「ルミちゃんなら一人でできそうなのにね」

 

 めんどくさいのだろう、あくびをこくルミレインにやる気は無さそうだった。

 

 今回の依頼は、E級モンスターのエビルリーチとやらをたくさん討伐するのだとか。一匹なら大した事はないが、周期的に大発生するので常に駆除しなければならないという。

 

「ん、あいつね!」

 

 カナンが早速茂みの中にそいつが居るのを見つけたようだ。

 すかさず接近し、姿も見ないままに竜爪で斬りかかった。

 

『パギュアっ?!』

 

 ブチュッ、という水風船が潰れるような音がした。

 草を掻き分けて見てみると、三つに輪切りにされた巨大な粘液にまみれた何かが転がっていた。

 よく見ればそれは、大型犬くらいの大きさはある巨大なヒルだった。

 

 うえぇ、こんなのをいっぱい倒さなきゃきけないのかよ……。

 

「一匹ずつ確実に潰したいわね。なら――」

 

 

 

 《能力(アビリティ):広域探知 の獲得を観測しました。対象:カナン》

 

 広域探知……探したい物の位置が解る能力か。範囲は最大半径5キロに及ぶと。

 うん、【魂喰】ってヤバいよね。こんな簡単にホイホイ能力ゲットしちゃっていいものなのやら。

 

「隠れていても無駄よぉ!」

 

 あぁ、またカナンの虐殺スイッチが入っちゃったな。

 木の穴や草むらや岩の下に隠れているのも見つけ出し、確実に潰していく。うーん、オレもルミレインも出る幕無さそうだな。

 

 ブチュッ

 

 プチッ

 

 グチュッ

 

 なんか気分悪くなってきた。

 一応死骸はオレの【次元収納】に回収してるんだけど、発動する際にはオレが視認する必要があるんだよね。だからちょっと食事中には見たくないものを直視しまくって……

 

「おーちゃん気分悪いの?」

 

「うぅ……。ちょっと休ませて……」

 

「しょうがない、今日はもうおしまいにするわ。はやくおんせんにも入りたいしねー?」

 

 温泉。そういえばこの国って火山地帯なんだっけ。

 まさしく今は温泉に入ってさっぱりしたい気分だぜ。

 

 

 

 

『バギュアアァァッッ!!!』

 

 

 

 !?

 

 街へと戻る方向で森を進んでいたら、前方から頭を持ち上げた巨大なナメクジのような魔物に塞がれてしまった。

 

 《エビルリーチ・ロード。エビルリーチの上位種であり、下位個体を使役する能力を有する。吸血を行う為に血液の凝固を阻害する消化液を分泌する。ランク換算にしてC級》

 

 うっそ、こんなタイミングであのヒルどもの親玉かよぉ!?

 

「ごめんねおーちゃん、一撃で終わらせるわ」

 

「そーゆー問題じゃなくって!」

 

「てりゃあっ!!」

 

 オレのツッコミも空しく、カナンはヒグマ並に巨大なヒルを一()両断してしまっていた。

 

 お茶の間に放送できないような光景が目の前で巻き起こり……ってちょちょちょ!?

 

「ぎゃあああっ!?」

 

「うぇ、汚れちゃったわ」

 

 ひええぇ……?! うぅ、一層きもちわるくなってきた……。

 親玉ヒルの体液が飛沫となって撒き散らされ、目の前にいたカナンだけでなくオレまで被ってしまった。きもちわるいったらありゃしない。

 

 しかもこれなんかぬるぬる白濁色だし、その上栗の花みたいな匂いがするんだけど。これって完全に精s……ゲホンゲホンなんでもない。とにかく不健全さが凄まじい。はやく帰りたい……

 

「ごめんねおーちゃん、血がかかっちゃったわ」

 

「あうぅ……」

 

 べとべとしててきもちわるい……。真正面にいたカナンなんてドッキリで頭からローションかけられた芸人みたいになってるし、最悪なんだけど。

 

「……リーチの中には媚薬に似た作用をする体液を持つ種類もいる」

 

「び、媚薬ぅえ!?」

 

「運良かったね、そいつは違う」

 

 急に何言い出すんだよルミレイン!? 今の発言めちゃくちゃビビったんだけど。媚薬……オレもそうだが、そんなものを至近距離で被ってしまったカナンが一体何をしでかすのか。想像に難くはない。

 

 ……てかすまし顔でさらっと炎の結界で防御してたけど、オレもそこに入れてくれてもよかったんじゃないのルミレインさん?

 

 はぁ。

 

【清浄】ですぐ綺麗になるとはいえ、気持ち悪さだけはどうにもならない。

 

 あー、はやく帰って温泉に入りたいなぁーっ!

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ギルドへと戻ってきたのは、空がオレンジ色に染まってからだった。

 

 夕方だからか人も多く、たくさんある受付全てに行列ができていた。どの冒険者も横入りなんて真似はせず、礼儀正しく並んでいる。

 それからしばらく待って、ようやくオレ達の番になった。

 

「依頼を達成してきたのですね。カードの提示をよろしくお願いします」

 

「はい、いっぱい倒してきたわ」

 

 カナンはライセンスカードを受付横の機械にスキャンする。

 ルミレインもその後にしていたが、今回何もやってないので後方で腕を組んで待っていた。

 

「エビルリーチが30匹にロードまで? さすがはBラン……え、嘘……?」

 

「どうしたのよ?」

 

「じ、獣王を……いえ、取り乱してしまいました。エビルリーチ30匹とロードの討伐報酬をお渡ししますので、明日また来ていただけませんか?」

 

 あぁ、そういや獣王とかいうのを倒したまんまにしてたんだっけな。

 準特Sランクの化け物を倒したって情報までもカードには記録されていたらしい。カナンは受付嬢さんの言葉に頷いて、ひとまず今日はこのまま宿へ向かう事にした。

 

 

 

 

「――え、えー……」

 

 何ここ、温泉旅館町?

 街のはずれ、森の側にそれらは冒険者の行き交う袋小路を形成して建ち並んでいた。

 

 夜だからというのもあるのだろうが、宙に浮かぶ紙灯籠が街路を照らす夜道は、何ともノスタルジックな雰囲気を醸し出す。

 

 疲れた顔をした道行く人たちはみんな、仕事を終えて帰ってきた冒険者のようだ。温泉に癒されに来ているのだろう。

 

 道を挟む和と中華の混ざった風な建物たちの窓から漏れだす光と、どこからか漂う美味しそうな香りが、その雰囲気を更に引き立てている。

 

 そして袋小路の最奥につくと、ルミレインはそこに開いた細い路地に入ってしまった。

 勝手に入ってもいいところなのだろうかという疑問をよそについていくと、急に開けて一際巨大な建物が姿を現した。

 

 ここがオレ達がしばらく泊まる旅館だそうだ。

 けれどその様相は、宿というよりとても大きな寺にも見えた。

 

 

「すごい所ね。綺麗……」

 

「まるで映画の世界みたいだな……」

 

 妖しく幻想的な世界に溶けてしまう前に、オレ達は巨大な寺のような旅館へと足を踏み入れる。

 

「いらっしゃいいらっしゃい。温泉宿『星屑の海』へようこそぉ!

 ……おやおや、ルミレイン様じゃあないですかい。相も変わらずお忍びのようですな。ヒッヒッヒ」

 

「久しぶり、ラント婆さん」

 

 中に入ると、これもまたモダンな雰囲気に包まれていた。

 左右を五芒星と龍柄の欄間に仕切られた天井には見事な蒼い龍の絵が描かれており、そこから四角い提灯が垂れ下がっている。木製の床は一段高くなっており、ここで靴を脱ぐ必用がありそうだ。

 

 そんな入り口の真ん中に、番台に腰かけるしわがれた妙な老婆がいた。

 

「ルミレイン様が子連れですかい? こりゃまた珍しい」

 

「……ルミレイン()?」

 

 ルミレインを様付けで呼ぶとは、何か知っているのかこの婆さん。

 しかしルミレインは見上げる首を横に振って、お婆さんに抗議した。

 

「ラント婆さん。この子達の前では呼び捨てにして」

 

「ヒッヒッヒ、すまないねえ。今さら遅いと思うけど、呼び捨てにしておいてやるよぉルミレイン?」

 

 ……何か聞いてもはぐらかされそうだな。

 ルミレインが何者なのかは気になるが、今は置いておこう。

 

「部屋は空いてる?」

 

「ヒッヒッヒ、ぜぇんぶ空いてるよぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『星の間』と書かれた部屋にやってきた。

 他にもいくつか客室はあったのだが、どうやらここはルミレインが毎回使っている部屋らしい。

 

 中は和室に近い造りとなっていて、天井から釣り下がった四角提灯に照らされる畳がなんとも落ち着く。

 広すぎず、狭すぎず。実家のような安心感があるお部屋だ。

 

 しかも、なんと!

 

 窓の向こうを見たら岩の露天風呂が併設されているではないか!!

 こりゃすごい。暗いからよく見えないが、多分景色も良さそうだ。控えめに言って最高か?

 

 オレ達が〝学園都市〟へ入る為の許可が出るまでの1~2週間。ここで過ごすなんて贅沢過ぎる。

 

 

 

「これがおんせん……はわわぁさいこーねぇ……」

 

「あー、癒されるぅ……。い~い湯だなぁ……」

 

 早速温泉に入るオレ達一行。

 そこそこに熱いお湯に浸かり、身も心もほぐれていくよよょ……。

 

「おーちゃんぎゅ~っ」

 

「んにゃんっ?」

 

 カナンがオレの背後からぎゅっと抱きついてきた。普段なら焦るところだけれど、今はそんな気分にはならなかったょ……。

 

「気持ちいぃねえ主様(ますた~)

 

「えへへへ~。かわいいおーちゃんを見ながらのおんせんはさいこーね!」

 

「何だよ~。カワイイなんて言っても何も出ないぞ~」

 

 カナンとべったり温泉を楽しんでいると、部屋の方からがらりと窓を開く音が聞こえ……

 

「失礼」

 

「んがっ!? るる、ルミレインっ!!?!」

 

 アイエエエエ!? ルミレイン!? ルミレインなんで!?

 

 ルミレインが、サイドテールをほどき全てをさらけ出したルミレインが、目の前を歩いて同じ湯船に。

 山のような胸もツルツルな()も、全てが見えている。

 

「は……あうあうぇぇ……!?」

 

「こらおーちゃんっ! ルミちゃんじゃなくって私を見なさいよ!!」

 

「んぇっ??!」

 

 なぜか怒ったカナンが、オレの顔へ胸を押し付けるように抱き着いてきた。

 ちょ、これは色々とまずいぞっ!? 断崖絶壁だけど、何も着てないこれでそれはっ……

 

「何をしてるの……。本当に二人は仲が良い」

 

「キーッ! ルミちゃんにおーちゃんは渡さないわ!!」

 

「何を競ってるのかわかんないけど、心配せずともボクはオーエンをそういう目(・・・・・)では見てはいない」

 

 そ、そういう目ってどういう目?

 そんな事を聞く隙も与えられず、オレの顔はカナンのぷにぷにしたお腹へ更に強く押し付けられてしまう。

 

「にゃ~~っ!!」

 

 温泉から出てからのオレがのぼせてしばらく動けなくなっていたのは、言うまでもない話であろう。

 

 

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