バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第83話 デートするならどこがいい?

 ギルドの地下に、魔物や動物を解体する施設が設けられていた。どれもいつもの空間拡張の魔法で体育館並みの広さの部屋となっている。

 小型の魔物はともかく、大型の魔物ともなると受付で処理できなくなるのだ。そのための設備らしい。

 

 オレはカナンの影の中から手だけを外に出して、コンクリートで作られた空間に収納していた獣王やその他眷属の死体をぽいぽい放り出す。ついでにヒルの死体も。

 

「こんなに巨大な魔物を何体も……」

 

「使役してる魔霊が【次元収納】を持ってるらしいぞ」

 

 一部始終を見ていたギルドの職員が、言葉を失ったような反応をしていた。

 確かに改めて見ると獣王はめちゃくちゃ大きいよな。それにSSランク冒険者がパーティとなって辛うじて勝てる魔物というし。

 

「後は全部任せても良いのよね?」

 

「もちろんじゃ。明日の夕方には解体は終わっているじゃろうから、顔を出してもらえると助かる。

 それから、まだお主が〝獣王マルドティアス〟を倒した事は内密に頼む」

 

「わかったわ。言いふらすつもりも無いもの」

 

 そうしてカナンは受付前で待っていたルミレインと合流すると、ギルドを後にする。

 

 さて今日はこれから何をしようか。そんな話をしていると、ルミレインが口を開いた。

 

「……すまない。今日は二人とは別行動になる。少し大切な用事があるから」

 

「用事って、私達には言えない事かしら?」

 

「……そうだ。夜には帰ってくる」

 

 元々謎の多いルミレインだが、また何か怪しげな様子だな。

 まあ夜には帰ってくるみたいだし、今日はカナンと2人きりでぼんやり過ごしていようかな。

 

 ルミレインと再び分かれ、オレはカナンの影から外に出て一緒に街路を目的も無く歩いていた。

 

 でもちょっと外に出るのめんどくさくなってきたかも。

 

 だって、いくら気を付けてもうっかり何人かと視線が合っちゃって、めちゃくちゃ見られるんだもの。

 

 今の子可愛いくなかった?! とか。すれ違いざまに無言で振り替えってじいっと見つめてくる人も。

 

「ちょっとキミたちいいかな? 良ければ一緒にお茶でm――」

 

「黙れ下種が」

 

 あるいは、こうしてナンパしに来る人もいたりする。

 オレのこのめんどくさい能力もあるのだろうが、カナンもかなりの美少女なのだ。つまりは相乗効果ってやつだ。この世界では小学生でもナンパの対象になりうるのかもしれない。

 

 そんな連中から逃れる為に、カナンはオレの手を優しく取って走る。

 

「影の中に入りたかったら入っててもいいのよおーちゃん?」

 

「ううん、今は外にいたい。だって……」

 

 オレの手を包むカナンの手をちらりと見る。

 カナンがオレの為に走ってくれていると思うと、なんだか嬉しいのだ。

 

「だって?」

 

「なんでもないっ!」

 

 この気持ちが何なのか、オレは知っている。ずっと前から知っていた事だけれど、それを言葉にするには勇気が足りなかった。

 

 それからしばらく走って人混みを抜けると、カナンは一旦立ち止まって道沿いのベンチに腰かける。体力の無いオレに気を使ってくれたのだ。

 

「今日は何して過ごすの主様(ますたー)?」

 

「うーんそうね……っと、目が合っちゃったわね」

 

「あっ……」

 

 うっかりしてた。一瞬だけど、カナンの金色の瞳と視線が混じってしまう。

 でもカナンの態度は変わらない。

 

「大丈夫主様(ますたー)? 気持ちが変になったりしない?」

 

「うーん、まあそうね。おーちゃんがいつも以上に可愛く見えるわ。でも平気よ、おーちゃんが可愛いのはいつも通りだから」

 

「あうぅ……」

 

 ちくしょう、オレが逆に変な気持ちにさせられてるじゃないか。

 

「んー、そうよっ! 今日はせっかく2人きりなんだし、デートをしたいわ!」

 

「……っで、デート?!」

 

 カナンはデートって言葉の意味を知ってるのか? そういうのは好きな人とするもので……。

 

 

 ……あっ。

 

 

 あうぅ……。

 

 

「い、いいよ……。オレもデートしたい」

 

「うふふふふ……。それじゃ、どこに行こっかおーちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「おーちゃんこれなんてどうっ?」

 

 オレの目の前で謎の決めポーズを取るカナン。

 その服装はいつもの紺色のジャケットと赤いスカートではなく、言うなれば赤いチャイナドレスだった。

 ちらりと見える脚部の肌色が眩しい。

 

「あぅ……凄く似合ってる。可愛いしカッコいいし、主様(ますたー)にぴったりだ」

 

 ちょっと百裂脚が強そうだなって思ったのは内緒。

 

 

 今日のデートで最初に来たここは、ギルドに繋がる通りに構えられた、冒険者をターゲットに据えた衣料店だ。

 木造の質素な装飾は、店内に並ぶたくさんの衣類を引き立てている。

 

 機能性はもちろんのこと、ファッション性もかなり高い高品質な服がたくさん揃ったここらでは有名なお店らしい。

 

 

「おーちゃんも似合ってるわよ~。あぁ、これも良いけどあっちも捨て難いわね……」

 

 ちなみに、オレの今の格好もカナンとは色違いのチャイナドレスである。

 さっきからずっと色々な服を試着してしまくって、かれこれ40分はこの調子だ。

 

 チャイナドレスだけじゃない。それはそれは可愛いロリィタとか可愛い髪飾りとか靴とか靴下とか、それはもう色々と。

 

「とってもお似合いですよ~!! こっちのこの服もきっと似合います、ぜひぜひ!!」

 

 店員さんにも似合うと言われちゃったらもう逃げ場がないじゃないか。どきまぎしちゃう。しかもなんかいろんな可愛らしいお洋服をいっぱい持ってきちゃってるし、ノリノリじゃん。

 

「えへへへ、おーちゃん可愛いわね~」

 

「あうぅ……」

 

 結局カナンは気に入った服を全部買うという手段に出て満足した。持ちきれるのかと店員さんに心配されたが、そこはオレの出番だ。【次元収納】でその場で着るもの以外はしまっておく。

 

 今までオレ達が着ていた服も収納し、新たに買った服に着替えた。

 

 膝丈スカート部分に花柄フリルのついた、白い短袖のワンピース。清潔感と透明感がある。そこにつばの広い白色のハットが加わって、夏の田舎に行ってみたい気分にさせる。

 

 実際今は夏なんだけどね。

 

 足は白い短めの靴下に赤い靴を合わせる。そして肩からは小さなバッグを斜めに掛けた。

 物は基本的に次元収納に突っ込んでおくので、このバッグは飾りだ。でも似合ってるからアリだと思う。

 

 そして、カナンもこれとほとんど同じ装いだ。

 違いがあるとすれば、帽子の構造とワンピースの白色が少しクリームかかってる事くらいか。

 

 帽子のデザインは同じなのだが、オレのは「竜人用」である。側頭から後ろに伸びる二本の角が通るように穴が開いているのだ。これはこれでかわいい。

 

 ちなみに広いつばでオレが他人と不用意に目を合わせない狙いもある。

 

 ……しかしカナンがとっても楽しそうに着せてくるので、オレも抵抗無く着ちゃったけどいよいよヤバいかもしれない。

 

「オレ、かわいい……」

 

 ふとショーウィンドウに写った自分の姿を見て、無意識に声が漏れてしまう。ぴょこんと垂れるツインテールがもうヤバい。自分でもヤバいくらいかわいい。オフの日はこれを着るのも悪くないかも……

 

「うふふふふ……」

 

 カナンはそんなオレを見て、自分の髪を弄りながら不敵に笑っているのであった。

 

 

 

 

 頭上で荘厳な鐘の音が響き渡る。

 

 ここが『塔の街』と呼ばれる所以は、まさしく高く聳える時計塔からだろう。東西南北それぞれに合計4面の大時計が街に時を知らせるのだ。

 

 ちょうど正午にはこうして鐘が鳴る仕組みで、この時計塔は街のシンボルとなっているのだそうだ。

 

「すっごい高い建物ね~」

 

 時を見上げてそう呟くカナン。オレ達はこの塔の下層にある役所に用があるのだ。

 ……と言っても別に受付で何か手続きをする訳ではなく、ここは観光案内所も兼ねているので面白そうな場所を探すだけなのだが。

 

「地図があるわよ」

 

「おー。ふむふむわからん」

 

 文字がまだまともに読めないのを忘れてた。

 ここはカナンに任せて聞かせてもらおう。

 

「へぇー……。ここ面白そうね。森の中にぽっかりと木々が開けて花畑が……。おーちゃんここにしましょう?」

 

「花畑かぁ。そういえば主様(ますたー)って花が好きだよな」

 

「うん、すっごく好きよ。かわいいもの!」

 

 実はカナン、大量虐殺を平気で行えるのに花は踏めない性格をしているのである。

 

「ふむふむ……。魔物が出る事もあって一般人は近寄らないのね。尚更ちょうど良いわね。他にはラーメン店とか秘湯とかあるけどおーちゃんはどうする?」

 

「秘密の花園……行ってみたい」

 

「じゃ、決まりね。今からここに行きましょう!」

 

 こうしてオレ達は秘密の花園へ向けて出発する事になった。

 

 わくわく……!

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