バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第88話 魔王とルミレイン

 目を開けられないほど眩い光に包まれて、意識が遠のいていくような錯覚を覚える。

 

 それから光が収まって、気がつくとそこは小さな光の粒に満たされた五角形の部屋の中だった。大理石を青くしたような壁に包まれており、天井は家一件ぶんが入るくらいに高い。

 

 これが転移か……。結界をイルマセクさんが解除してくれて、陣に足を踏み入れてからほんとに一瞬だったな。もっと感動するかと思ったけれど、それはそういうものだとあっさり受け入れている自分がいた。

 

「お嬢ちゃん、名前は?」

 

「私はカナンよ。それとこの可愛いのはオーエン。私の使い魔みたいなものね」

 

「そうか。ついてこいカナンちゃんとオーエンちゃん。俺が城内を案内してやる」

 

 大海の魔王ことイルマセクはそう言うと、おもむろに壁に手を翳す。すると、ピシリという音と共に壁に縦の線が走り、左右に開いて大きな登り階段が現れた。

 大理石の階段の上には赤い上質な絨毯が敷かれており、踏む度に背筋が引き締められるようだ。

 

「100何年ぶりだルミレイン? 今まで一体何してた?」

 

「……別に」

 

「な、なぁ。ルミレインとイルマセクさんって、どういう関係なんだ?」

 

 疑問というか、ルミレインに対してやけに馴れ馴れしい大海の魔王さん。一体二人にはどんな関わりがあるのか、気になったので聞いてみた。

 

「うーむ、何と答えるべきか。くははそうだ、さしずめ恋仲と言った所か!?」

 

「ほぇっ!? そうなの?!」

 

「……んな訳ない。そもそもキミには妻がいるでしょ」

 

 恋仲と言われて一瞬ビビったけど、さすがに嘘だったか。

 そもそもルミレインって男に興味無さそうだもんな。

 

「ま、俺の初恋の相手であるのは違いないがな! 実際の関係は師弟と言ったところか? それが一番近い」

 

「ボクが師でコイツが弟子。勝手に惚れられては困る」

 

 

 師弟って事は、イルマセクさんはオレ達の兄弟子になるのか。てかルミレイン何歳なんだ?

 

 

 長い階段を登りきると、いよいよ城というかお屋敷っぽくなってきた。

 

 ただ、いわゆる洋風なお城ではない。

 和洋折衷というか、洋風と中華風が合わさったようなお屋敷だ。

 別段絢爛な装飾はなく、落ち着いた印象を抱くが地味でもない。

 

 ただひとつ、廊下の奥で鮮やかな光を射し入れる大きなステンドグラスは、ここでも蒼い龍を模したものだった。

 それが素朴さと荘厳さを併せ持つ独特な雰囲気を醸し出す。

 

「お帰りなさいませ魔王様」

 

「おう、ただいま。急で悪いが客人連れてきたから、茶室に茶と菓子を用意しといてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 ……すっげえ! マジモンのメイドさんだ!!!

 

 男心になんかこう、グッとくる格好をした茶髪のお姉さんが静かに現れてスカートの裾をつまんでいた。エモ!

 

 ただすぐに奥へ引っ込んじゃったのが残念だけど。

 

「おーちゃんも、ゴスロリメイド服着てくればよかったわね」

 

「うぇっ?! そ、それは……」

 

 確かにあれは可愛いけどさ、自分で着るのと眺めるのとでは話が違うのだ。

 

 しかし、お城というよりは大きな屋敷だなここ。もっと宮殿っぽいのを想像してたんだけど。そもそもここって……

 

「おーちゃん窓の外を見てみてよ! お空がすごいわ!」

 

「おおお!?」

 

 昼なのに、空が黒い。

 そうだった。

 ここは霊峰の頂上なのだ。地上10000メートルの世界。孤高の頂に建つ魔王の城。

 

 窓の外は、まるで宇宙にいるかのような世界だった。このガラスを1枚隔てた向こうはきっと、水も瞬く間に凍てつく寒さなのだろう。

 

 改めて、すごい所に住んでるなこのおっさん。

 

 それから屋敷の少し奥へ進むと、オレ達は応接室ではなく茶室へと通される。

 

 大きな格子窓の特徴的な、和室に近い造りとなった部屋だった。畳が使われており、くつを脱いで上がるタイプらしい。

 恐る恐る畳に上がり、巨木の切り株を削って作ったと思われるテーブル側の座布団の上に座る。

 

 なんかあれ、正座より女の子座りが一番楽な体勢だって最近気づいた。

 

「……防音結界はボクが張っておく」

 

「おお、助かるぜルミレイン」

 

 防音?

 ルミレインがぱちんと指を鳴らすと、部屋を透明な魔力の結界が包み込んだ。音を外部に出さないようにするものらしい。

 

「ふう、やっとついたぜ。わざわざここまで来なくても、下で済ませてしまいたかったがな。謁見とか固い雰囲気苦手なんだよ俺」

 

「一応は機密情報も含まれる会話なんだから、そうはいかない」

 

「めんどくせえが、まあ仕方ねえな。じゃあ早速本題に入る……前に、ちょっと確認しておきてえことがある」

 

 一息ついて、イルマセクは畳の上であぐらをかいて寛ぎながら喋る。

 

「黒死姫。カナンちゃんがその正体だな?」

 

「っ!? なんでそれを……」

 

 こいつなんでその事を……!?

 瞬時に戦闘態勢に入るカナンとオレだったが、ルミレインが間に割って入って止めた。

 

「……ボクが手紙で事前に知らせてた。黒死姫を連れてくるって」

 

「あれを手紙扱いか! くはっ、そういう事にしておこう。して、黒死姫は理性を喪失した暴走状態だったという認識でいいんだな?」

 

「う、うん? そうらしいわ、正確には私とおーちゃんが合体した姿ね」

 

 らしい、か。

 オレにあの時の記憶は無いんだよな。カナンには微かにあるらしいけど、なんとなく美味しかったとか楽しかったとか、そういう気持ちだけだとか。

 

「遠路はるばるありがとな、カナンちゃんオーエンちゃん。さて、本題に入ろうかルミレイン」

 

「うん。はやく済ませたい」

 

 それから、イルマセクは表情を引き締めてルミレインへ問う。

 

「その子たちを使って、何が目的だ?」

 

 目的? そういえばそうだよな。1国の王との面会になんでオレ達を連れてきたんだ?

 

深い訳(・・・)はない。ただ、見せておきたかった」

 

「……ふっ、そうかよ。目的については今は聞かないでおいてやる。じゃあ、うちの国で何をする気だ?」

 

「カナンとオーエン……厳密にはカナンだけの扱いになるが、2人をイセナランダ学園に編入させたい」

 

 へ? イセナランダ学園都市にこれから入る……みたいな話じゃなかったっけ?

 

 え、編入ってどういう事!?

 

「……マジ? 魔王に対しての要求がそれだけか?」

 

「マジ。特にカナンには学びを得て大きく成長してほしい。確実に編入させるなら、王であるキミの推薦が必用だと思って」

 

 ち、ちょっとどういう事なんだ!?

 なんかめちゃくちゃ話が進んでるんだけど。カナンもこんなに勝手に話を進められたら……

 

「よくわかんないけど、楽しみねおーちゃん?」

 

「お、おう……。主様(ますたー)が楽しみならなんかもう別にいいや……」

 

 学園生活送るとか不安しかないけど、もうどうにでもなればいいや。

 カナンが反対しないのでオレは考えるのをやめた。

 

「おおそうだ、俺もルミレインに相談したい事があったんだった。最近何かと話題の、狂信国について――」

 

 狂信国だと?!

 イルマセクの口から思わずハッとする言葉が出された、その時。

 

 

 

 コンコンコン

 

 おや、扉を誰かがノックしてる。

 防音結界は外からの音は拾えるんだな。

 

「失礼します。菓子をお持ちしました」

 

「いいぜ。入れ……ああ防音してたんだったな。しゃあねえ開けてやるか」

 

 え、えー。

 王様がメイドさんの為に自ら扉を開けに行くってどうなの?

 なんだかこの人、ほんとに王様なのかわからなくなってきたぞ。

 

「はわわ……おまんじゅうだぁ……!」

 

 うん。そしてルミレインはここでも甘党だな。クールぶってた様子はどこへやら。

 

 メイドさんが部屋を後にすると、水まんじゅうのような半透明のお菓子を頬張りご満悦なルミレインを横目にイルマセクさんは話を再開した。

 

「さて。話の続きだが、ルミレインに頼みたい事がある」

 

「もむもむ……なに?」

 

「俺の国の中枢にデミウルゴス教の狂信者がいる。そいつを探し出してほしい」

 

「その程度の事なら、報酬次第でやってやらないこともない」

 

 なにやら話が色々進んでるようだ。それも国家の機密情報をめちゃくちゃ交えているやつを。

 

「……ちょっといいかしら? デミウルゴス教は今どうなってるの?」

 

 そんな中、カナンが横から槍を入れる。

 

「あぁ。俺も全部知ってる訳じゃねえが、裏で一層活発に活動していると聞いたぜ。

 カナンちゃんらが物理的に消し飛ばしたザイオンは信者が集まっていただけで、デミウルゴス教の本体じゃねえんだ。あの事件は良くも悪くも奴らを刺激しちまってるのかもな」

 

「ふーん。ありがと」

 

 カナンが何を思っているのか、オレにもよくわからない。デミウルゴス教が憎いのは間違いないだろうが、以前のように燃えるような怒りは感じられない。

 

「カナン。キミはティマイオスをどうしたい?」

 

「コルちゃんの肉体から引きずり出して喰らってやるわ。いつかは必ず殺すけど、別に復讐一筋になるほど私は暇じゃないんでね」

 

 コルダータちゃんの死を割りきった、とは言い難いだろうが踏ん切りはついているようだ。あの時誓った夢を捨ててまでティマイオスを追いかける訳にはいかないのだ。

 

「くぁっはっは、物騒な娘だが気に入ったぞ! カナンも、そしてオーエンもな! つーかよく見れば俺より魔力量多いじゃねえか。将来が楽しみだ!」

 

「将来、ねえ。私はあと何年生きられるのかしらね」

 

「さて、じゃあ今日はお開き……っと、その前に。【防音結界】っ!」

 

 ん、何だ? ルミレインが作った防音結界の中に更に小さな防音結界をイルマセクさんが張った。

 

 オレとカナンは結界範囲外。ルミレインとイルマセクさんだけが、口をパクパクさせて何か会話をしているようだ。

 

 二人はしばらく謎の会話をした後、フッと意味深に微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「これで二人に会話は聞かれんだろう。あえて聞く、何が目的だ(・・・・・)? ルミレイン」

 

「……ふん。あの二人は危うい。……特に親友を失ったばかりのカナンは、オーエンの存在に依存して精神の安定を図っている。ボクの弟子なんだ、学びと新たな友人を作らせて少しでも気を楽にしてやりたい。

 ……それに、守りたい存在(・・・・・・)が多いほど御し易いだろう?」

 

「ハッ! ずいぶんとお優しいこった。他の御方々にも見習ってほしい所だな。

 ……で、その先は? 学びと友達いっぱいのカナンとオーエンをルミレイン様はどうするおつもりで?」

 

「ふっ、キミになら教えてあげてもいい。ボクはカナンを――

魔王へと擁立するつもりだ」

 

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