バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第91話 冒険者のふたり

 ふと、眩しさで瞳を開ける。そこは7色のステンドグラスを黄昏の光が透かして照らしているあの場所だった。

 

 全面がステンドグラスで造られた円柱形の塔の内側にある、円形の足場の上にオレは立っていた。

 塔の中にはカナンが飲み込んだ25万人もの魂が、足場の手前くらいまで満たされている。

 

「アスター?」

 

 変だな。いつもなら、ここでアスターが『よっすなのだ!!』って来るはずなのに。

 

 大声で何度呼んでみても、オレの声が幾重にこだまするばかり。

 

 こんなこと初めてだな。さすがに心配に――

 

 

『――――』

 

 

「……へ?」

 

 

 誰かに、後ろから呼ばれた気がした。

 

 咄嗟に勢いよく振り向いて、オレを呼んだ誰かを見ようとする。

 

 オレは見た。見てしまった。

 

 魂の海の上に立つ、白いワンピースを纏う見知った彼女の姿を。

 

 藤棚のように流れる紫の髪が、風もないのになびいていた。

 

 優しいその瞳は、どこか儚く寂しげで。

 オレは思わず懐かしいその名を叫ぶ。

 

 

「コルダータちゃんっ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「お……ちゃん……おーちゃん?」

 

「ん……あぅ? 主様(ますたー)?」

 

 カナンの声に揺さぶられて、オレは夢から現実へ引き戻された。

 外はまだ夜中らしく、部屋は月明かりが照らすだけでとても暗い。

 

 そんな中で、オレを心配そうに見つめるカナンと目が合った。

 

「大丈夫おーちゃん? すごくうなされてたみたいだけど……」

 

「ん、あぁ。大丈夫だ、悪い夢じゃあなかったから……」

 

 悪い夢ではない。けれど、意味深で不可解な夢ではあった。

 

 あれは一体どういう事だったのか? コルダータちゃんが、なぜあそこに……。

 

「……ほんとうに大丈夫?」

 

 少し考え込んでいたのが、カナンの目にはオレが落ち込んでいるように見えたようだ。

 不安げにオレを抱き締める手足をぎゅっと力ませた。

 

「……大丈夫だって」

 

「おーちゃん……」

 

 ん、いつもの発作か。

 やれやれ、カナンったら普段は強気なのに、たまにオレにだけそういう顔をする。

 

「よしよし……」

 

 手を伸ばして、カナンの頭をなでなで。いつもはされてばかりだけれど、こういう時ばかりはオレがカナンを撫でる番なのだ。

 

 そうして今日も夜が更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 あれから少しして、オレもカナンもすっかり眠りについていた。

 

「おはよう主様(ますたー)

 

「おはよおーちゃん」

 

 カナンにぬいぐるみのように抱きしめられて目覚める、いつも通りの朝。

 

 この時間はなんだかふわふわした気持ちで、思わずカナンにぎゅっと抱きしめ返してしまう。

 

「よしよし、かわいいわね~」

 

「んう~」

 

 頬ずりされながら起き上がると、カナンと一緒にぐっと伸びをする。

 カナンの浴衣の合間から、真っ白な肌が見えてなかなかに色っぽい。が、オレはロリコンではないので変に意識はしていない。と、自分に言い聞かせる。

 

 それからおトイレに行って、歯みがきに洗顔に髪の手入れをした辺りで、机に朝食が並んでいた。

 

「もぐもぐ……」

 

 昨日のご馳走と比べると素朴な朝食だが、とても美味しくて満足だった。

 ごちそうさまだぜ。

 

 食後は着替えの時間だ。

 

 浴衣を脱いで、一旦下着姿になる。

 と、ふと自分の体の違和感に気がついた。

 

「おーちゃんどうしたの?」

 

「いや、別に……」

 

 なんだか胸がきつく張っているような……。

 それと、どこのとは言わないが擦れるとむずむずする。なんだろう、以前初めて女の子の日を体験した時も似た感じになっていた気がするが、今回はそれよりもっと感覚が強い。あと別に今は生理中ではない。

 

 ……よし、必殺! 気にしない!!

 

 そんな感覚を気にせず、オレはいつもの服に身を通してゆく。

 

 白いフリルのついた黒いスカートに足を通し、黒地のブラウスに白いふりふりフリルやレース、そして靴下は白黒ストライプというその手の嗜好の人には大層突き刺さるであろう布に身を包む。

 

 それから、髪を丁寧にとかしたら左右。纏めてツインテールにする。

 ……のだが、左右の毛量を均等にするのがなかなか難しい。

 なので途中からはカナンに手伝ってもらった。

 

 そうして鏡を見れば、思わず息を呑む程に可愛らしい美少女が立っていた。

 

 ……でもこれ、オレなんだよなぁ。

 

「今日もおーちゃんかわいい……略しておーかわね」

 

「略すな略すな」

 

 一方のカナンもいつも通りの服だ。背中の開いた紺色のジャケットに、赤いミニスカート。ぱっと見れば軍服を思わせる印象のもので、なんとなくゴスロリより着やすそうだ。ちょっとうらやましいと思ったのは内緒。

 

 ちなみにその赤いミニスカートの下にはスパッツを履いている。戦っている時などにパンツが男どもに見られたら、さすがのカナンも嫌らしい。

 が、スパッツはむしろ別方向で色っぽいと思うのだが。

 

 

 着替えも終わり、見送ってくれるお婆ちゃんに行ってきますの挨拶を忘れずにオレたちは宿を出発した。

 

 

「ボクはここで分かれる。二人とも頑張って」

 

「そっちこそ」

 

「ルミちゃんも頑張ってね」

 

 早朝の温泉街を抜けてギルドのある街へやってくると、ルミレインとはここで別行動となった。

 オレたちは依頼を、ルミレインは学園で色々と用事があるのだ。

 

 オレたちはまず、早朝のギルドへと訪れた。

 だが、獣王討伐の報酬として今回の依頼に使えそうな高価な道具を取り寄せていたものの、まだ届いていないようだった。

 今日の昼くらいには届くとの事だ。今回の依頼の集合時間は昼過ぎらしいので、あとでもう一度訪れた際に受けとるとしよう。

 

「さて、時間までお買い物よ!!」

 

「わぁーい」

 

 一旦宿に戻ってもいいと思うのだが、カナンも女の子なのだ。

 商店街でショッピングをしたいと言うので付き合ってあげることにした。

 

 

「これは……ペンか?」

 

「そうねぇ、魔方陣を描くために使うインクもあるみたいね」

 

 いろいろなお店を見て回っていると、魔道具なるものを専門に取り扱っているお店に興味を惹かれて入ってしまった。

 

 占いに使われてそうな水晶玉や、魔術の触媒に使うという何かの頭蓋骨やらよくわからない道具やえとせとら……。

 おどろおどろしくもどこか惹かれるアイテムが、明るい木調の店内にサービスエリアのお土産みたいなノリで置かれていたりした。ヤバいな。

 

「わっぶ?!」

 

 有象無象に夢中になっていると、近くで魔道具を見ていた他のお客さんにぶつかってしまった。

 

「あぅ、ごめんなさい」

 

「こちらこそごめんねぇ。怪我は……なさそうね。良かった。……あらぁ? お嬢ちゃん達たら、小さいのに魔法に興味があるの。将来有望ねぇ」

 

 オレを気づかってからなのだろうか、その人はおっとりとした口調でオレ達に話しかけてきてくれた。

 

「興味っていうか、討伐依頼で使えそうなものが無いか探してたのよ」

 

「あらぁ? お嬢ちゃんたちも冒険者なのねぇ。すごいわねぇ」

 

 水色の長髪を黄色い星形の髪飾りで彩ったその人は、15歳くらいの女の子に見えた。

 水色のワンピースは膝上くらいまでのスカート丈で、デザインは一見シンプルだが魔力が籠められた生地らしい。

 

「何かを探しているのなら、わたしが一緒に見て回ってあげるわよぅ?」

 

「特に何かを探してる訳じゃあないけど、せっかくだし。主様(ますたー)もいいよな?」

 

「おーちゃんがそうしたいなら構わないわ」

 

 カナンはオレ以外の人間にあまり興味が無いからか、勝手にしろといった感じだった。とはいえ厚意を無下にするつもりもないらしく、それ故に一存をオレに託したようだ。

 

「わたしはリナリアっていうのよぅ。よろしくねぇ」

 

「オレは使い魔のオーエン。こっちが主様(ますたー)のカナンだ」

 

「あらぁ、なんてかわいい主従関係なのかしらぁ。うふふ、それじゃあ早速一緒にお買い物を楽しみましょぅ」

 

「よろしくねリナちゃん」

 

 改めてリナリアさんはなんとも微笑ましそうにオレたちを見やると、店内のいろいろな魔道具の説明をしてくれた。

 

「このインクみたいのは何かしら?」

 

「カナンちゃんったらお目が高いわぁ。それは魔法陣を描く時に使うインクねぇ。撥水性の高い塗料が混ぜてあるみたいよぉ?」

 

 この魔方陣を描く時に使うインクは、魔物の魔石を粉末にしたものが混ぜ込まれているそうだ。紙に描いて術式を発動させるのも、手のひらといった自らの体に描いてもよしというものらしい。

 

「そういえば最近、全然術式の事を考えてなかったな」

 

「確かにおーちゃんって魔力がとっても高いから、今まで魔弾術式だけで大体解決してたわね」

 

 魔力を圧縮・最適化させて、弾丸のように飛ばす。極めてシンプルな初歩の術式だが、オレが使うとほぼ一撃必殺となるのだ。これでは複雑な術式を使うまでもない。

 だからこそ良い機会だ。今回の依頼には、あえて魔方陣を利用するなどして複雑な術式に挑戦しようと思う。

 

 他にも色々と魔道具を見て回っていると、リナリアさんがオレとカナンに向ける視線に妙な温かみがある事に気づいた。

 

「さっきからじっと見つめて、どうしたんだ?」

 

「あらぁ、ごめんなさいねぇ。二人が可愛らしくて微笑ましくって、ついねぇ」

 

「……何よ、おーちゃんは渡さないわ?」

 

「そういう意味じゃないわよぅ。けれどそっかぁ、カナンちゃんはオーエンちゃんの事が……なるほどオーエンちゃんも……。ふふふ、二人とも尚更カワイイわねぇ」

 

 何をニヤニヤしながらぶつぶつ言ってるのだろうこの人。ちょっと怖い。

 

 そんなリナリアさんを放って、オレとカナンは会計に進んだ。

 ふむふむ、そこそこ値が張ったけど特に問題はない。

 

 買ったものは早速収納に放り込んで、あとでじっくりお楽しみだ。

 

 我に帰ったリナリアさんも、インクを初めとした目的の魔道具を購入して店外へ合流する。

 

 すると、人混みを押し退けながら誰かが息を切らしながら走ってきた。

 

「はぁはぁ……やっと見つけたぞ、リナリア……」

 

「あらぁエリナ。うふふ、見つかっちゃった」

 

「はぁー、勘弁してくれよ。いくら魔人の国だからってリナリアは……。ん、どうしたんだその子らは?」

 

「ここのお店で知り合ったのよぅ。冒険者らしいから、色々教えてあげてたの」

 

 その人は、一瞬男と見間違える体格をした褐色肌の少女だった。

 

 身長はカナンより40cmは高いだろう。おおよそ170cmはありそうだ。

 

 りんごくらいに大きな胸は青色のプレートアーマーで守られており、ぴっちりした黒シャツの上からでも割れた腹筋の主張が強く、まるで板チョコのようだ。

 

 下はレギンスと鎧を合わせたようなものを着けており、防御力よりも動きやすさを重視しているのが見てとれる。

 

「おう、うちのリナリアが迷惑かけたりしなかったか?」

 

「全然」

 

「むしろ助けられてたわ」

 

 ムキムキでなかなか迫力のあるお姉さんだが、気は優しそうだった。

 彼女はリナリアさんの頭を軽く小突くと、にっこり笑う。

 

「せっかくだし、あたしらと一緒に買い物しないかい? リナリアが迷惑かけたし、詫びに先輩冒険者として色々教えてやるからさ」

 

「それはとても助かるわね。私、冒険者始めて一月くらいだし」

 

 冒険者を始めて一月……されどカナンのランクは上から2番目のSランクなのだ。

 そんな事は露知らず、というかあえて教えずカナンは二人にお世話になる事にした。

 

「――カナンちゃんとオーエンちゃんか、良い名前だね。あたしはエリナリア。呼びにくいからエリナでいいよ」

 

「よろしくねエリちゃん!」

 

 そんなこんなでリナリアさんとエリナリアさんとショッピングを共にする事になった。

 が、そこでひとつ、ちょっぴりびっくりする事が判明した。

 

「そういえば、カナンちゃんとオーエンちゃんはこれから何の依頼へ向かう予定なのかしらぁ?」

 

「依頼……ちょっとした退屈しのぎになるようなものよ。大したものじゃないわ」

 

「そうなのねぇ。わたし達もこれから討伐依頼の場所へ向かう予定でねぇ。何の討伐だったかしらぁ……わに……ワシ?」

 

「ワイバーン。あたしらは今日の昼下がり、北西の山脈で下級飛竜(レッサーワイバーン)の群れの討伐へ行ってくるんだ。討伐完了まで数日はかかりそうな大仕事だね」

 

 ワイバーンの討伐ねぇ。

 そいつはなかなか手応えのありそうな討伐依頼ですこと。

 

 ……ん?

 

「ふふっ」

 

「カナンちゃんどうかしたのか?」

 

「いや奇遇ね、ちょうど私たちも同じ討伐依頼を受けてたのよ」

 

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