バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第94話 サイコロステーキとおじさん

 あたしはエリナリア。色々あって冒険者を生業にしている18歳の女の子だ。

 

 リナリアには昔から世話になりっぱなしだ。この〝エリナリア〟という名前も、小さい頃にリナリアに名付けてもらったものだし。いや、あたしがリナリアが好き過ぎて自分で名乗り出したんだっけ?

 思い出せないし、まあいいや。

 

 

「やるわよぅエリナ」

 

「おうよ!」

 

 敵は下級飛竜(レッサーワイバーン)の群れ。

 ここの冒険者の野営地へと襲撃していた所をあたし達が助けに入ったという形だ。

 

「グオォォッ!!」

 

「はぁっ!!」

 

 ワイバーンの内の数匹が真正面から突進してくる。ずいぶんと舐められたものだ。

 

 あたしは相棒の大剣を取り出し、まずは先頭の一匹を袈裟斬りにする。飛竜(ワイバーン)とはいえ下位。ランク換算で一匹Cランクといった所か。紙のように簡単に切り裂ける。

 

 他の何匹かも斬り捨てて、最後の一匹はあえて斬らずに背中に乗り込む!

 

「リナリア! こいつが上空に飛んだらおねがい!!」

 

「わかったわぁ。久々に一曲歌っちゃう」

 

 地上のリナリアは、心を込めて歌を歌う。

 透き通った声でどこか切なくも力強い旋律の歌が、野営地を透明な魔力の障壁で包み込んだ。

 

 よーしリナリアの能力に任せれば、あとはあたしが暴れるだけでいい。

 

「ハジけろっ!!」

 

 その瞬間、あたしを背に乗せていたワイバーンの体が巨大な風船が割れるような爆音と共に弾け飛んだ。

 

 あたしはその爆発の衝撃を利用して他のワイバーンの背中にも飛び移る。

 

 

 ――【炸裂魔法】。それがあたしの持つ主力の能力(アビリティ)だ。

 

 魔力を圧縮し、任意で圧縮を解除して爆発させるという効果がある。圧縮した魔力は他の物体に貼り付ける事ができ、罠や投擲武器に付けても効果が高い。

 

 ちなみにこの時の魔力には属性を込める事ができ、あたしは今使った風の爆発の他にも炎の爆発も引き起こせる。

 後者は威力があるがそれ故危険も伴うので、滅多に使う事は無いけど。

 

 

 

「こう見えて空中戦だって対策してんだよっ!!」

 

 空を飛ぶ事はできないが、広げた両手に風の小規模な爆発を起こして擬似的に飛翔ができる。これの習得には苦労したよ。

 

 さて。

 

「これがあたしの〝爆裂剣〟よ!!!」

 

 襲ってくるワイバーンどもを、正面から剣で斬りつけると同時に、刀身に付けていたバクダンを傷の中にプレゼントしてやる。

 

 そしてあたしがズバッと斬りつけたワイバーンは、あたしが指を鳴らすと同時に体の内側からハジけ飛んだ。

 

 

 どうよ。ド派手でカッコいいあたしの必殺剣は。これこそがあたしに〝爆裂剣姫〟という異名がつけられた所以なのさ。惚れちゃった? 残念、あたしには先約がいるんだよ。

 

「さて、まとめてかかってきな!!」

 

「ギャオオオッ!!」

 

 

 

 ――

 

 

 

 

 一向に数が減る様子が無い。

 何体ハジけさせても、遠くの空から何体も何度もワイバーンの援軍がやってくる。

 

「全く、きりがないな……」

 

 さすがに一人じゃキツくなってきたな……。

 だが今回は味方がいる。

 

 カナンという小さな金髪の女の子と、彼女と主従関係にある人化した魔霊のオーエンちゃん。

 

 オーエンちゃんかわいい……じゃなくて、横目で二人の戦闘を見てたけど想像以上に強い。なんかカナンちゃん空を駆けてるし、なんか近づいたワイバーンが一瞬で粉々にされてるんですけど。

 

 さらにはオーエンちゃんの防御魔法もなかなか……。

 援軍で来たワイバーンどもがあたしよりもカナンちゃんたちの方へ流れていってしまっているが、余裕そうに捌いている。

 

 しかもオーエンちゃんを小脇に抱えながらあんなに戦えるなんて、もしかしてあたしたちより……

 

 

「……ん?」

 

 

 

 オーエンちゃんの魔法だろうか、途端に凄まじい冷気が辺りを包み込んだ。

 

 すると、ワイバーンの群れがぱきばまきと真っ白に固まってゆく……!

 まさか凍てつかせているのか?! なんて大魔法……、なるほどカナンちゃんが言ってた事は眉唾じゃ――

 

 

 

 

 

 

 ドッカアアアァァァン!!

 

 

 

 

「うわっ!?」

 

 ば、爆発?! しかもなんて大規模な……?!

 まさか今のもオーエンちゃんの魔法なのか?

 

 いやいやあそこまでの威力の爆発、さすがのあたしでもそうそう起こせないよ。

 

 あんな大魔術を使える魔力量とセンス、どうやらオーエンちゃんの人化前はかなり上位の魔霊だったみたいだ。そしてそのオーエンちゃんを使役できてしまうカナンちゃんも、かなり。

 

「ふう、やっと退散してくれるか」

 

 オーエンちゃんが引き起こした大爆発に驚いたのか、あるいは別の理由があるかもしれないが、あれだけ湧いて出ていたワイバーンどもが散り散りに去っていってくれた。

 

 いやあ、さすがに疲れた。

 ともあれこれでようやく一息つけそうだ。

 

 

 

 

「お疲れ様エリナ。今から癒しを歌ってあげるねぇ。~~~♪」

 

「ありがとリナリア」

 

 地上に降り立ったあたしに、リナリアは子守唄のように優しい歌を聴かせてくれる。

 すると、体の傷や疲れがみるみる内に溶けるように消えていった。

 

 

 これがリナリアの能力(アビリティ)【歌唱魔法】だ。

 

 歌に魔力を込めて様々な事象を引き起こせるというシンプルな能力なのだが、その強みは極めて高い汎用性にある。

 

 単に術式として色々な属性の魔法を扱える魔術師はいるが、干渉力も効果も能力(アビリティ)による魔法には遥かに劣る。

 

 だがリナリアの歌唱魔法は、詠唱の代わりに歌う事でほぼすべての属性魔法をアビリティ(・・・・・)と同等の干渉力でかつ高い効果を得る事が可能だ。

 

 更に様々な属性だけでなく、歌いさえすれば魔力障壁や精神干渉までもが可能という破格の性能なのだ。

 

 弱点としては通常の詠唱よりも発動まで長い時間歌わなければならず隙を晒しやすい事と、歌い続けなければ効果が持続しない為に1度にひとつの効果しか得られないが、それくらいのものならあたしがカバーできる。

 

「ずいぶんといっぱい戦ってたわねぇ。大変だったんじゃなぁい?」

 

「ぜんぜん平気だよ。リナリアこそどう? 広範囲の障壁を展開し続けてて疲れてない?」

 

「ぜんぜん問題ないわよぉ。魔人の魔力量を嘗めないでくれるぅ?」

 

 今回、リナリアには障壁で野営地の防御に集中してもらっていたのは正解だったかも。ワイバーンを地上には近づけないよう阻み、なおかつあたしやオーエンちゃんの魔法攻撃の余波を受け止めてくれていたのだから。

 

 少しばかり無理をさせたような気がして心配だったが、この様子なら余裕そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっべー……。

 まさかあんな爆発するなんて思わなかったぞ。

 だって、氷結魔法を突き詰めたら大爆発するなんて想像つくか?

 

 結果的にはワイバーンの群れの半分くらいを消し飛ばして、残りも退散させる事には成功したから良いんだけど……

 

「カナンちゃん! オーエンちゃん!!」

 

 地上に降りると、少し離れた所で戦っていたエリナさんとリナリアさんが駆け寄ってきた。

 

 横目で見てたけどエリナさんもなかなかな戦いぶりだったな。リナリアさんも結界を張ってくれてたおかげで爆発による被害は無さそうだし。

 

「どーようちのおーちゃんは!」

 

 カナンがなぜかどや顔で言う。

 

「凄すぎて腰が抜けたよ……。オーエンちゃんって上位魔霊の人化種なんだね」

 

「まあな……」

 

 人化……。この世界では人化現象というものがあるそうで、意識のある存在なら一定の極小確率でいきなり人間の肉体に変異してしまうらしい。

 その中には、人々に恐れられる魔霊の代表格悪魔(デーモン)のものも含まれるらしい。

 

 だがオレの種族は悪魔(デーモン)ではない。

 悪魔よりも希少で、そもそも自然には存在しないという――

 

 

「――急いで戻って来てみれば、これは一体何事か?」

 

 思慮に耽っていると、微かに聞き覚えのある男の声に意識を引き戻された。

 

「あたしらはギルドから応援に派遣されてきた冒険者だよ。野営地に到着したらワイバーンの大群の襲撃を受けていてね」

 

「なるほど、理解した。助力に感謝する」

 

 それは長い顎髭をたくわえた壮年の男の人で、その渋さはイケオジに分類されること間違いなし。

 しかしどこかで見覚えがあるんだが、思い出せないな。

 

 そんなイケオジさんの話によると、ワイバーンの発生源を探しに野営地を離れて調査していたらその間にこの拠点が襲撃されたという。

 

「情報交換の前にお互い自己紹介をしましょう? わたしはリナリアよぅ。それからこの子は相棒のエリナリア。二人揃ってBランクなのよぅ」

 

「リナリアさんにエリナリアさんか。ふむ、美しき爆裂剣姫にお目にかかれるとは私は運が良い。……おっとこれは失敬、私はクラッドという者でね、これでもエリナリアさんと同じく異名持ち(ネームド)のAランクなのだよ」

 

 あ、名前で思い出した。クラッドさんって確かコクマー迷宮攻略の時に最奥で会ったAランク冒険者のおじさんだ!

 

「それから……おお、カナンちゃんとオーエンちゃんではないか!」

 

「久しぶりねクラッドちゃん」

 

「あらぁ? 知り合いなの?」

 

「ふむ。以前同じ依頼をこなした間柄でな」

 

 

 

 

 *

 

 

 

「えっ!? コクマー迷宮の一端をほぼ単独で攻略したぁ!?」

 

 クラッドさんの話を聞いて、すっとんきょうな声を出してオーバーリアクションをとるエリナさんの姿はちょっと面白かった。

 

「私一人だけじゃないわよ」

 

「それはそうだが、我々が十数人のいくつかの班になって攻略していた所をたった3人で最深部までたどり着くなど、相当の実力がなければ成し得ない」

 

「カナンちゃんとオーエンちゃんって、もしかして凄い子なの……?」

 

 逆に今までは何だと思っていたのやら。まあカナンは一見ただの子供だからな。

 

 さっきの爆発だとかも相まってかリナエリの中でオレたちの実力が上方修正されているようだった。

 

「さて、ひとまずこの惨状をどうにかしなくちゃね」

 

「そうねぇ、死者はいないみたいよぅ。テントへの被害も大したものじゃないみたいだし」

 

「問題は落下した飛竜(ワイバーン)の死体だ。このままでは美しくない上に衛生上よろしくない」

また美しいだのなんだの言ってるよこのイケオジ。

 

 粉々に砕け散った肉片、四角いブロック状に刻まれた血肉、あるいは原形を留めたままのものまで。ワイバーンの死体がそこら中に散乱していた。

 確かにこのままじゃ野営するどころじゃないな。このままここを拠点にするかは知らないけど。

 

「爆散させすぎたなぁ。全部回収しようとしたら数日はかかりそうだ」

 

「それならおーちゃんに任せるといいわ」

 

「……えっ?」

 

「そういえばそうねぇ。【次元収納】が使えるのよねぇ」

 

 そういえばそうだ。オレの【次元収納】は、視界に入れさえすれば収納できるのでこういう掃除にもピッタリなのだ。

 

 という訳で早速やってみる。

 

「あれだけあった肉片が一瞬で?!」

 

 リナリアさんの魔法で治療を受けていた冒険者が、オレのしている事を見ながら息を飲む。

 なかなかに凄惨な光景も、一瞬で何も無かったようにする。

 

 原形残ってるやつはともかく、粉々やブロック状になった肉片はどうしようか。魔石も砕けてそうだし、食糧にできなくもなさそうだが、ふーむ。

 

 まあ、とりあえず全部回収しちゃおう。話はそれからだ。

 

「……」

 

 なぜかカナンがついてくる。オレから離れたくないらしい。

 

 肉片はかなり広範囲に散らばっているので、ちょこちょこ歩き回らなければならないのがちょっとめんどくさい。

 とはいえそのまま広い集めるよりは遥かに効率的なのだろう。

 

 そうして、目につくワイバーンの残骸をあらかた回収した時だった。

 

 ひとつ、テントの合間にかなり原形を留めた死体が残っている事に気がついた。

 

 それを回収しようと念じてみたのだが……できない。

 

「あれ、変だな――」

 

 と思った次の瞬間。

 

「グ……ギャオオオッ!」

 

「わっ!?」

 

 しまった、生き残りだ!

 油断してしまっていたため、咄嗟に反応する事ができない。オレは炎渦巻く死にかけワイバーンのキバに、噛み砕かれそうになってしまった。

 

 だがその刹那、ワイバーンとの間にカナンが割り込んだ。

 

 

 

 バツンッ!

 

 

 

 瞬間、ワイバーンの体が後ろのテントと共にバラバラのサイコロステーキみたいに崩れ落ちていった。

 

「おーちゃんに穢らわしい牙を見せてんじゃないわよ、下種が」

 

「油断してた。主様(ますたー)……ありがと」

 

 こちらへ飛び散った血飛沫は、ぜんぶカナンが受け止めていたようだ。全身血まみれで、グロくてとても見ていられん。

 

「やっぱりおーちゃんは私が側にいないとダメね」

 

 真っ赤に染まった顔で、嬉しそうに笑うカナン。ささっと【清浄】で血の汚れを取り除いてあげて、最後のワイバーンの死体も収納する。

 

 よし、これで今日のおしごとはおわりかな。

 

「おつかれオーエンちゃん」

 

「さすがに疲れたぜ……。まさか生き残りがいたなんて思わなかったし……」

 

 主様(ますたー)にまた頭が上がらなくなってしまったな。

 そんな軽口を叩いて、オレは地面にへたりこむ。

 

「クラッドちゃんって確かAランクだったわね。ここにいる冒険者たちはどれくらいの実力なのかしら?」

 

「私を除いて最も高い者でBランクだな。大半はCランクだ」

 

 ふむふむ、初めは下位のワイバーンの小規模な群れだったそうだし、これくらいでも戦力過多だったのかもしれないな。だが、急に数が増えた上に上位個体までもが出るようになったと。

 

「Cランクくらいじゃ足手まといになるかもねぇ」

 

「そういえば、カナンちゃんのランクを聞いてなかったね」

 

 こちらの戦力はどの程度なのか。果たしてCランク程度がこの先どこまで通じるのか。

 色々と思考を巡らせるカナンに、ふとエリナさんが聞いてきた。

 

「私? 言ってなかったかしら。S(ランク)よ」

 

「……は?」

 

「え……?」

 

 その場の空気がかちこちに固まった。

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