バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第96話 昨日のオレはどうかしてた

「いやあ、こんなに美味いもの久々に食べたよ。ごちそうさま」

 

「だな。これを食えただけで今回の依頼を受けて良かったって思えるくらいだ」

 

 やめてくれよ、照れるじゃないか。

 

 頑張って作ったカレーライスだったが、冒険者の皆様方になかなか好評で嬉しい。作って良かったぜ。

 

 むふふ。むふふふふ……! 嬉しくて思わず笑っちゃうな。

 

「ニヤニヤしちゃって可愛い♡」

 

「はにゃっ!? べ、べつに……喜んでもらえてちょっと嬉しかっただけだし……」

 

「あらあら照れてるの? そういうところもかわいいわね」

 

 ああ、うぅ……カナンにとってはオレが何をしていてもかわいいんだろうな。

 かわいいと言われても別に嫌じゃないんだけど、やっぱりなんだかむずむずする……。

 

「よしよし、おーちゃんかわいい……」

 

「あぅ……」

 

 むずむずひくひくしていたオレをカナンは躊躇なくぎゅっと抱き締める。

 人前でそれは……と言おうにも、なぜだかどうにも声が出せなかった。ちょっと大胆過ぎるよぅ……

 

 

「なあなああの二人……」

 

「わかる、見てるだけで癒されるよな」

 

「尊い……」

 

 冒険者の皆様方がひそひそそんな会話をしているのが聞こえてくる。

 オレが何をしててもかわいいと思っているのは、カナンだけじゃなかったようだ。

 

 かわいい……かわいい……。

 

 うぅ、やっぱりむずむずしてきた。

 辺りも暗くなってきたし、今日はそろそろ寝よう。というか寝たい。

 

「さて、ギルドで受け取ったテントの出番よおーちゃん」

 

「あぁ、確かバランタイン製のやつだっけ?」

 

 この野営地には余りのテントなんていくらでもあるだろうが、せっかくもらったものがあるのだから今こそ使うべきだろう。

 獣王討伐の報酬の代わりとして受け取った、野営に使う冒険者向けのテント。

 

 カナンに付属の説明書を読んでもらったところ、結界やらなんやらの術式効果を込めた刻印をごてごてに詰め込んだ代物らしい。

 機能すればこの上ないほど便利ではあるが、そのぶん多くの魔力を必用とするので、下級の冒険者たちには金銭と能力の二つの意味で扱えないという。

 

「ま、おーちゃんの魔力量なら心配いらないわよね」

 

「まあな。どこぞの魔王より多いらしいしな、魔力量」

 

 会話をしながらも、収納から取り出した丸まったテントを広げ、寝袋と付属品やらもろもろを眺める。

 

「……へ、こんだけ?」

 

「外見はね。刻印の効果で内側はもっとあるはずよ」

 

 広げて立てたテントは思ったより小さかった。

 

 が、【空間拡張】の刻印が刻まれているので、魔力を通せば中はかなり広くなると思われる。

 

「ふぅん。で、こいつを使えば4日は効果が継続する……と」

 

 握り拳程度の大きさの赤色の水晶のようなものを握りしめ、少しだけ【魔性の瞳】で見てみる。

 どうやらこの魔石が、刻印効果を発動させる為の魔力を貯めて電池のような役割を果たすらしい。今は満タンだが、減ったら補充の必要がありそうだ。

 

「ふむふむ、これをランプに入れてテントの天井に吊り下げるのね。……わあっ?」

 

「どうした主様(ますたー)?」

 

 小さなテントに上半身だけ突っ込んで、お尻だけ外に出ているカナンに聞く。

 スパッツ履いてなかったら目のやり場に困る事になってそうだな。

 

「ふふ、見ればびっくりするわよ。おいでおーちゃん」

 

「そうか? それじゃお言葉に甘えて……ふわぁ?」

 

 わお、こりゃ確かにびっくりするな。

 

【空間拡張】による効果だろう、小さな小さなテントの中は、大人が三人は寝転べる広さとなっていた。

 

 子供の体のオレからすれば、足を投げ出して快適に寝れるくらいだ。

 

「思ってたよりずっと広くてびっくりだな。このテント、他にはどういう効果が刻まれているんだっけ?」

 

「ふふふ……。テントの中を常に快適な温度にしてくれる【気温調節】に、窓なしで外部の様子を見せてくれる【映像投影】。

 更にテントへ攻撃を受けると自動で【多重結界】が発動するわ」

 

「なんかいろいろ盛りだくさんだな……」

 

「あと最後に一番大事な効果があるわ。内部の音を一切外に漏らさない【防音】よ」

 

「防音……?」

 

「そ、おーちゃんの可愛い声を外に漏らさない【防音】よ♡」

 

 はっ?!

 しまった、貞操の危機だ!!

 

 まずいまずい、するにしてもまだ心の準備が整ってないし……あうぅ、主様(ますたー)になら襲われてもいいけど、まだ気持ちの整理が……あうぅ、あうぅ……

 

「……顔を真っ赤にしてどうしたのよおーちゃん? 別におーちゃんが考えているような事、今は(・・)しないわよ?」

 

「はっ?! そ、そうなのか……?」

 

「おーちゃんったらとんだむっつりさんね……。そんなおーちゃんも可愛いわね」

 

 いつもの通りににオレの頭をなでなで。

 ……と見せかけて、おもむろにオレの首筋へと顔を近づけ――

 

「はにゃんっ?!」

 

 なっ、舐められたっ……! あぅ、ぺろっと不意打ちにも程があるよぅ……

 

「ぺろぺろ……んー……いっぱい働いたえらい味ね♡ その可愛い声が聞きたかったのよ」

 

「やめ……あぅ……」

 

「ぺろ……しかしお風呂に入れないのは私も少しだけ辛いわね。早速アレ、使ってみたいわ」

 

「アレ……って?」

 

 オレの首筋を思う存分堪能したカナンは、寝袋やその他の物品の中からごそごそ何かを漁り出した。

 

 それって……

 

「せっかく〝どこでも清潔タオル〟を買ったんだし、使わなきゃもったいないわ。さあ、服を脱ぎなさいおーちゃん!」

 

「ひぅっ!? ま、待って主様(ますたー)!?」

 

 にゃーーーんっっ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 すーすーする。

 

 ……。【清浄】があるから、ぶっちゃけお風呂に入らなくても衛生面を気にする必要は無いのだ。

 それでもお風呂に入るのは、気持ちよくなりたいからに他ならない。

 

 そしてオレの服を下着までひっぺがして全身ごしごしするのも、カナンがオレを可愛がりたいからなのだろうけど……

 

「ふふふ……♡ たまにはおーちゃんにいじわるするのも楽しいわね……♡」

 

「あうぅ……ひどいよ主様(ますたー)……」

 

「あぁ……ごめんねおーちゃん、お詫びにぎゅーってしてあげる!」

 

 どこがお詫びだよ……。

 寝間着に着替えた途端に柔らかくて甘いカナンに抱きしめられて、 今度は耳元に吐息がかかる。

 

 けれど、一連のカナンのいじわるも含めて、なぜか嫌な気はしない。

 というかむしろ……うぅ、もっと、こう、……一線を越える事をどこかで期待していた自分がいる事に、気がついた。

 

 そうなればオレは確実に受けだろうな。力では勝てないし、カナンの方が積極的だし……

 そうなると半ば犯されるような形に……? あぁ、考えてたらぞくぞくしてきた。うぅ、オレはロリコンじゃないのに……

 

「よしよし。それじゃ、今日も一緒に寝ましょ」

 

「あうぅ……」

 

 悶々としたオレをさておいて、カナンは布団に近い形状の寝袋を取り出して広げた。

 

 あれ? 二人用じゃなくないこれ?

 

「うふふ……おーちゃんと一緒に寝たいから一人用にしたのよ」

 

 マジかよ。でもまあ、いつも抱きしめられながら寝てるし慣れてるもんな。

 

 ……と思っていた時期がオレにもありました。

 

 いざ寝袋に入ってみると、これヤバい。

 布団とは違う密閉感があって、なんだかいつもより密着してる気分だ。

 

「おーちゃん柔らかい……可愛い……」

 

「あうぅ……」

 

 頭だけ外に出して、体や手足は袋のなかでカナンの手足に絡まれて身動きがとれなくて。

 

 どうしよう、カナンをすごく意識しちゃって心臓がはち切れそう。

 気温は快適なくらいになってるはずなのに、なんでか暑くて暑くってぜんぜん眠れなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 いや……

 

 あの……

 

 その……

 

 ……昨日のオレはどうかしてた。

 

 なんであんなふにゃふにゃの声を出してカナンに甘えてしまったんだ?

 

 脳裏であの映像が再生される度に、めちゃくちゃ穴があったら入りたい……!

 

「おはよおーちゃん」

 

「うぅ……おはよう」

 

 寝袋の構造上、カナンの顔がいつもより近くて、

 そんなカナンの手が寝袋からもそもそと這い出し、ジッパーを引っ張って開いた。

 

「んーっ……こういうのもいいわね。お外でテントを張って眠るのは」

 

「あぁ、うん、そうだな……」

 

 暑くて暑くてぜんぜん眠れなかった……。カナンが寝袋を開けて気づいたけれど、けっこう汗をかいてたみたいだ。袋の外の空気が涼しくってとっても気持ちいい。

 

「眠いの? まだ私の影の中で寝ててもいいわよ?」

 

「いや、だいじょうぶ」

 

「そう? 無理はしないでね?」

 

 このくらいなら大丈夫だ。ちょっと眠いくらいでカナンのイジワルが少し優しくなるし。今夜はちゃんと眠れそうだ。

 

 

 朝食は昨日のカレーの残りを収納から取り出して、固めのパンに浸してもぐもぐ。

 確かカレーは栄養的に朝食にぴったりなんだっけ。

 

「ちょっとだけおーちゃんの血を入れても美味しいかもね」

 

「……仕方ないな、ちょっとだけだぞ?」

 

「え、くれるの? やったぁ!」

 

 そういえば今日は吸血日(いつものやつ)か。まだ衝動は来てないみたいだけど。

 

 オレは人差し指の先をナイフでちょっぴりだけ切りつけて、カナンのお皿の中に血を数滴落とした。

 

「これでいいか? ほら、食べ――」

 

 と催促していたら、なんか急にカナンがオレの手を掴んで人差し指をぱくりと口にいれてきた。

 

「ど、どうしたの……?」

 

「なんだかもったいないわ……血が止まるまでこうひてたい」

 

 止血してくれてるのかと思ったら、そういうのか。カレーが冷めちゃうぞ。

 

 てかくすぐったいな。口の中ですごいぺろぺろされて……

 

「――ぷはっ。ごめんねおーちゃん、吸血日だからか血を見るとつい……。今晩あたりにまた襲っちゃうかもしれないから、よろしくね」

 

「あぅ……べ、別に好きなだけ吸ってくれても構わないから、カレー早く食べてくれ。冷めちゃうからさ……」

 

「それもそうね、せっかく美味しいんだから早く食べないと損ね」

 

 そうしてカレーを食べ始めるカナン。目線はオレから逸れていた。

 

 この指、カナンの……。

 

 じっとりと濡れた指先を見つめ、オレはぼんやりとあらぬ事を――。

 

 

 

 ぺろっ

 

 

 

 えへへ……やっちゃった。これで主様(ますたー)と……

 

 

 

 ――!?

 な、何をしてた今のオレ!? まさかこれって間接……

 

 

「どうしたのおーちゃん?」

 

「へあっ!? い、いや何でもないもん?!」

 

「なんで疑問形なのよ?」

 

 あうぅ、なでなでしないでぇ……。

 気がおかしくなりそうなくらい、幸せな気分になっちゃうからぁ……

 

 ……さっきから何を言ってるんだオレは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――嗚呼、いっそ狂ってしまおうか。

 

 愛されたい。

 

 愛したい。

 

 愛し合いたい。

 

 もっと、もっと主様(マスター)と――

 

 

 オレがオレの〝本心〟に気づくのは、もう少し先の事である。

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