再び太陽は昇る 作:ポド
注意点
・主人公は原作知識がありません。鬼滅の刃の知識もありません。
自分は転生者だ。
産まれた時に、自分はそれに気づいた。その理由は前世の記憶があるから。
ただ1つ困ったこともある……いや別に困ったことではないけれど、明らかに自分が体験してない記憶があった。
なんて例えようか……例えるなら文字通り他人の記憶、その人が見たもの、その人が感じたもの、その人が知ったもの、あらゆる記憶、経験が自分の中にあった。
ここまで鮮明で記憶として刻み込まれていると、こっちが本当の自分なのでは? と勘違いしそうになる……何故ならそっちの記憶の方がより鮮明に、心に刻み込まれている。だけど違うということが分かる……不思議な感覚だった。
はっきりと言えるのは本来の自分の記憶ではないこと。だってこの記憶は俺『────』では無く、私『継国縁壱』ものなのだから。
「あなた見て。私たちの子」
「ああ。ありがとう……。すまないなんて言えばいいのかこんな時、私には分からなくて……本当にありがとう」
「ふふ。こちらこそ。私をこの子の母にしてくれてありがとう」
思考を止めた。目の前に男性と女性の顔があった。恐らく父と母なのだろう。それと──
「……よく頑張った」
気配で気づいていた。もう1人……いやこれ人なのか? この家に2人とは別の気配があった。
声音と見た目からして男性と思わしき人物が、こちらに近づいてくる。
「オルステッドさん。私たちを守って下さりありがとうございます」
オルステッド。それがこの人物の名前のようだ。
「礼には及ばん。ヒトガミを殺すためにはお前たちが必要だ。当然、お前たちの子孫も含まれている」
「だとしても私たちのことを守ってくれたのは事実だ。オルステッド、友人として……そして1人の父として感謝を。ありがとう」
「私からも改めて感謝を。ありがとうございます」
「……ああ」
……なるほど。どうやら自分にはとても大事な使命があるようだ。ただ幼子のせいか、上手く思考が纏まらない。それに眠気も襲ってきている。その眠気に抗うことなく、意識を手放すことにした。
また起きた時に考えることにしよう。
この世界に新たな生命として誕生して、5年。
ひとまずこの世界での自分の名前はなんの因果か『ヨリイチ』となった。名は父ではなくオルステッドから頂いた。父『アポロ』と母『レイ』がオルステッドに名付け親になってくれと頼んでいた。素敵な名前をありがとうオルステッド。
「ヨリイチ。お前は名付け親が俺なんかでよかったのか」
「私は素敵な名前を頂けて嬉しいですよ。ありがとうございますオルステッド様」
「そうか……それならいい。それと様はつけるな。オルステッドでいいと言っているだろ」
「あら、甘やかすのはダメですよ。オルステッドさん。ヨリイチに礼儀が身に付かなかった時、責任が取れるんですか?」
「俺はお前たち家族とは親しいつもりだ。なら名前ぐらい──「親しき仲にも礼儀あり。あなた様は私たちの命の恩人です。恩を仇で返すことは絶対にダメなのです。それにですね本当は私もさんではなく様で──」
オルステッドが助けを求めて自分に視線を向けて来た。当然目を合わせることはしない。母を敵に回すと申し訳ない。何が申し訳ないって、優しく諭してくれるからなんか居た堪れなくなる。5歳とは言え、前世での歳を合わせたら20歳だ。前の世界で20歳はもう立派な大人だ……ああ、そうだった。縁壱の経験も合わせたら100歳を超えるのか。
さて。そのこと、転生したことについて少し考えよう。
まず両親には勿論、オルステッドにも転生のことは伏せておこう。産まれた時、自分には大いなる責任があると思ったけど、話を聞く限りそうでも無い。どうやら自分たちの家系が存在するだけで、ヒトガミにストレスを与えられるらしい。その辺りもいつか詳しく聞かせて貰いたい。
多分だけどいつかヒトガミと戦うことになると思う。その理由は自分には縁壱の経験があるからだ。何の理由もなく力を与えられたとは思えなかった。
『透き通る世界』・『全集中・日の呼吸』・『超越した五感』
この3つを自分は与えられた。『透き通る世界』に関しては油断すると、すぐに視えてしまう。癖と言うべきか無意識になるのだ。この辺りもなんとかしたい。
また5歳とは思えない身体能力。この世界に産まれて未だ疲れを感じた事がない。精神的な疲れは感じたことがあるけれど。
自分のことに関してはこんなところか。
「ヨリイチ。おいで」
「はい! 父上」
父はこの世界で元剣神と呼ばれる最強の剣士だった。あくまでも元剣神だが。母と出会って剣神の称号を捨てたようだった。
因みに父……と言うより自分の家系は純粋な人族ではない。
どうやら約200年前にとある1人の人族を助ける際に、オルステッドは龍族の血を使ったらしい。ダメ元でやってみたのだが、結果その人は助かり人の身でありながら龍族の遺伝子を得てしまった。その人族こそ、自分たちの祖先である。
つまりオルステッドと自分たちの家系は長い付き合いということだ。
「どうだ? ヨリイチの言っていた全集中の呼吸を私は出来ているかい」
「出来ています。さすがは父上です」
「ヨリイチの教えがいいからだね。それに元々代々伝わる剣術に含まれている、呼吸法に近いから身につくのも早かったのだろう」
そう。代々継承されている剣術、『ヒノカミ神楽』は驚くほどに自分が扱う『日の呼吸』と剣技が同じだった。ただ違うのはやはり呼吸法。『ヒノカミ神楽』は『日ノ神様』に奉納する為の神楽舞いのことであり、これを15歳を迎えた日の夜……太陽が沈んだ刻から、翌日の太陽が昇るまで舞い続ける。日の出まで舞った時、初めて一人前として認められ『カグラ』という名が与えられる。
父の正式名称は、アポロ・カグラ。立派な一人前のカグラ家の者ということだ。
「ヨリイチならもう舞えそうだね」
「やってみなければ分かりません」
「ヨリイチは謙虚でいい子だ。賢明な息子を持てて私は幸せだよ」
「ありがとうございます。私も尊敬できる父上、優しい母上を持てて幸せです。もちろん大事な名前を授けてくださったオルステッド様とも出会えて嬉しいです」
振り返ると丁度、母から解放されたとこだった。
「龍神とは言え、レイに敵わないかい?」
「手強いな。まず敵に回したくない相手だ」
「当然です。母は強いんですからね!」
むん。と腕をまくりポーズを取る母。まだ20歳だもんな……若い。身内贔屓無しで見てもとても美人だ。
「さて。俺はそろそろ行くことにする」
「オルステッド、君が忙しいのは分かっている。今日はヨリイチが産まれて5年、記念すべき5歳になる日だ。一緒にヨリイチのことを祝ってあげれないか?」
この世界は毎年誕生日を祝うのではなく、5歳、10歳、15歳と5刻みで祝う。15歳で成人なのだからさすがは剣と魔法の世界だ。
「流石に長居しすぎた。これ以上は時間を無駄にできない」
「そうか……オルステッド、5年もここに縛ってしまい申し訳ない。ありがとう」
「よせ。もう十分感謝された。それに俺の方こそ礼を。ここは……居心地がいい」
オルステッドには呪いがかかっている。この世のあらゆる存在から嫌悪されてしまう呪い。何故か自分たちの家系の者にはその呪いが効いてないのか、オルステッドに負の感情を向けたことがない。オルステッドも過ごしやすかったはずだ。
「それでは今度こそ行かせてもらう。ヨリイチ、強くなれ。そしてまた会おう」
「はい。オルステッド様、いつかまた。再会は外の世界で」
オルステッドは振り返り家から出て行った。振り返る瞬間、笑みを浮かべているのを自分は見逃さなかった。次にオルステッドと会う時は『カグラ』の名前を頂いた後だろう。
月日が流れるのは早いもので今日は自分がこの世界に来て15歳を迎える日。
そう……日ノ神様へ神楽舞いを披露する日だ。
「ヨリイチ……始めようか」
父の言葉に頷き、舞い始める。はっきり言って余裕だ。今まで何度も練習して来て、一度も失敗したことなんてない。何せ何十年と舞って来た剣技なのだから。
今日まで沢山のことを知り、己を鍛えた。
5歳になる前から何度も魔力を使い、魔力切れを起こし自身の魔力の器を広げ、魔力量を増やした。オルステッドの教えだ。
龍族の血が流れているため、魔力量は元々多かったが、慢心せず増やし続けた。
次に五感を鍛えた。
『透き通る世界』のオン・オフも自由にでき、音や匂いで万物の心を読み取り、口にした物の情報も読み取ることができるようになり、相手が敵意を向けた時、身体のどこを狙っているのかも分かるようになった。
そして今の自分の外見は継国縁壱と瓜二つ……いや、継国縁壱そのものだった。
俺、私……自分の一人称に違和感を感じる。目上の者と話す時は私。これに抵抗はない。だけど心の中で物事を考える時、自分がどっちなのか? そんなのどうでもいい……どうでもいい、どっちでもいい筈なのに、何故かいまだに迷っていた。
答えが出るまでは自分のことは自分と呼ぶか。
「『円舞』ー『炎舞』ー『幻日紅』ー『火車』──」
考えごとをしながらも舞う。舞い続ける。
そんな自分を穏やかな表情で見守る父と母。自分にとっての1番の幸せはこの2人の下で産まれたことだろう。
子供とはかけ離れた精神。自分は異端児そのもの。にも関わらず今日まで愛を頂いた。感謝してもしきれない。
ただただ感謝を。
自分にとってこの舞いは日ノ神様では無く、2人に今日まで立派に育てていただきありがとう、その感謝の気持ちを伝えるための舞いだ。
「……あの子ったら罰当たりね」
「ああ。例え日ノ神様からあの子に天罰が下されるとしても、私はあの子を守る。もちろん君もだ」
「ええ。ありがとうアポロ……ありがとう、私たちの可愛いヨリイチ」
どうやら自分の想いは2人に届いているらしい。嬉しいことだけど、申し訳ない気持ちもある。けれど今は嬉しい気持ちの方が勝っていた。
そして──再び太陽は昇る。