再び太陽は昇る 作:ポド
「──失礼します」
舞い終わったあと仮眠を取り、目が覚めたら部屋に来るように父に言われていた。数時間ほど眠り、顔を洗ってから父の部屋へとやって来た。
「ヨリイチ。改めておめでとう。これでヨリイチは『カグラ』家の当主だ」
そう。自分は本日からカグラ家の当主、ヨリイチ・カグラとなる。15歳で名家の当主なんて……プレッシャーが凄い。名家と言っても自分たちの家系を知らない人の方が大多数だと思うが。
すると父の気配が和やかものから、真剣なものへと変わる。本題はここからなのだろう。自分も姿勢を正した。
「ヨリイチ・カグラ。あなたにこれを贈ります。これは代々カグラ家の当主が受け継ぐ刀です。お納めください」
父がいつも腰に差していた刀を頂く。
「……っ」
「気づいたかい?」
「……『妖刀』、ですか?」
「流石だねヨリイチ。刀を抜いてみなさい。刀身には絶対に触れちゃダメだよ」
父に言われ抜刀する。
ただの『妖刀』ではないと思った。違和感が……いや、しっくりと来たのだ。
見慣れた刀身に身体が覚えている刃渡、継国縁壱だった時に使っていた刀と瓜二つだった。
そして銀色だった刀身の色が深い漆黒へと変色する。まるで日輪刀みたいだ。
「その刀は持ち主によって色が変わる性質を持っていてね……ヨリイチは黒か」
「黒だとまずいのでしょうか?」
「……その『妖刀』白夜は、持ち主の魔力の性質によって色が変わる代物でね」
「魔力の性質? 魔力に性質なんてあるのですか?」
「もちろん。人によって水系統が、火系統が得意だったする。それは生まれた環境、育った環境によって変わるものだ。私の場合、風系統だ。だから私が握ると緑色に刀身は変わる」
水系統は青色。火系統は橙色。土系統は茶色。風系統は緑色。それこそこの世界にはまだまだ多くの魔術があるため、過去に例がないだけど他にも違う色があるかも知れない。
「今までの当主たちは皆、水・火・土・風、いずれかの系統を得意としそれにあった色に変わっていた。私の知る限り黒は初めてだな」
なるほど。恐らくだけどこの感じ……赫刀になると思う。それに『妖刀』だからか意思を持っているようだった。何か言っているのは分かるけど聞こえない……いや、自分に届いていない感じだ。
父にこの『
「『白夜』の特徴は魔力を込めるとその人物に合った系統を刀身に纏う。水なら雷や氷を、火なら炎を、土ならより一振りが重く、風なら刀身を隠しより鋭く。とても優れた刀だよ」
「ただ『妖刀』と呼ぶからにはそれ相応のデメリットもあるのですよね?」
「ああ。流石はヨリイチ、お前は本当に賢い」
父が頭を撫でながらそう褒めてくださる。嬉しいけど説明を早く聞きたい。そんな自分の気持ちが伝わったようで、一度咳払いをして『妖刀』についての説明を続けてくれた。
「この『白夜』は斬ることに特化していてね」
父は自分に触れるなと言っていた刀身に、横に置いてあった刀を抜刀し、『白夜』に刀身を添えた。その瞬間、父の持っていた刀が折れた……いや、斬られた。
「触れるだけでこの通りだ。素手で触れようものなら指が全て斬られる恐れがある。その専用の鞘じゃないと仕舞うことさえままならないものだ」
過去にこの刀身に腹が触れて両断された当主もいたそうだ。しかも逆刃だったのにも関わらず。恐ろしすぎる。
「その刀の扱いには気をつけるんだよ。いいね? ヨリイチ」
「はい、分かりました」
「最後に……この耳飾りを」
父が自身の耳につけていた耳飾りを頂いた。
これでますます継国縁壱へ戻ってしまったな。この耳飾りはオルステッドが昔の当主に渡したもので、所有者やその周囲にいる者はヒトガミから見えなくなるらしい。つまり干渉も出来なくなる。
因みにだがこの家には結界が貼ってあり、家の敷地内に居る者もヒトガミから認知されない。なんならこの家すらも見えておらず、ヒトガミからは森の一部に見えている筈とのことだった。
「うん。これでお終いだよ。ユイのところに行こう。美味しいご飯を食べて旅の支度をしなければね」
「……? 旅、ですか。父上は何処かへ旅立たれるのですか?」
「私だけじゃない。ユイとヨリイチも一緒にね」
家族旅行に行くってことなのかな。
「どこに向かうのですか?」
「
「ゼニス叔母様とパウロ叔父様の家にですか?」
父はそれに頷いた。昔、黒狼の牙という冒険者パーティが家に訪ねてきたことがある。
そのメンバーであるゼニスは、母の親戚の妹であり自分にとって叔母になる。
パウロに関してはまだ黒狼の牙が結成される前に、父は出会っていた。何でも勝負をふっかけられたのが出会いのキッカケだそうだ。
今回グレイラット家に行く理由は、どうやら息子が産まれたらしいのだ。そのお祝いに行こうとのこと。
「パウロたちの息子の名は──ルーデウス。ルーデウス・グレイラットだ」
──6ヶ月後。
家を出て6ヶ月が過ぎた。本当に旅だった。旅行気分のつもりだったけど、目的地まで半年もかかっている。
道中、修行がてらに寄り道をしているのも大きいだろう。父の顔の広さに驚いた。流石は元剣神。あとそう、父が実は50歳を超えている事実に驚いた。見た目はどうみても20代なのに。これも龍族の遺伝子のおかげか。
父と自分だけならもっと早く辿り着いただろうけど、母もいるからのんびり旅をしている。
馬車を1度も使わず、ひたすら今日まで走っていた。自分は全く疲れないけど、全集中の呼吸がまだ完全に身についてない父は疲れを感じていた。母は自分が抱えて走るようにしていた。
「父上、もうすでに常中を完璧にものにしたのですね」
「いや、まだまだ。ヨリイチみたいにはできないな」
「すぐにできますよ。父上に必要のない技術かも知れませんが」
「現役は引退したけれども、鍛えるのは楽しいからね。まだまだ強くなれるなら頑張るとも」
家族を守るためにもね。と父は言った。
「ヨリイチ! あなた! あれがそうなんじゃない?」
先を歩いていた母が指を差す。その方向には集落、ブエナ村が見えた。どうやらここにゼニス叔母様とパウロ叔父様は住んでいるようだ。
(この匂いに音……戦っている?)
「……父上、森で魔物と交戦している集団がいます」
「すごいな。この距離でわかるのかい?」
「はい。助太刀に行こうと思います。よろしいですか?」
「ヨリイチ、あなたはもう大人よ。これからはやりたいように生きなさい」
「ユイの言う通りだ。お前が助けに行きたいなら行けばいいんだ」
「……行ってまいります。先に叔母様たちの下へお向かい下さい」
両親にそう言い残し自分は駆け出した。
森の中へと入る。300m先に狼の魔物が8匹。対して人が3人。正直3人とも手練なので助けに入らなくても問題なかった。
ただそのうち1人はパウロ叔父様の気配だったので、見て見ぬフリはできなかった。
──ゴオオォォォ
(──、
刀を両手で持ち∞を描く様に魔物を斬る。
この時、『白夜』の刀身は真紅に染まっていた。やはり赫刀が再現できる。刀身の色が変わったからには何か効果があるはずだ。ただ相手を一太刀で屠ってしまい、効果は確認できなかった。また次の機会にだな。
突然現れた自分がほぼ同時に8匹を倒したことで3人は驚いていた。
「なっ!? 8匹を同時に!?」
「おいおい、嘘だろ? パウロお前の知り合いか?」
「いや俺の知り合いに、こん、な……お前、ヨリイチか!?」
鞘に刀を納刀してパウロ叔父様の方へ振り返り、一礼する。
「──お久しぶりです。パウロ叔父様」
──ルーデウスside
今日
この世界でレイはゼニスの親戚の姉に当たる存在で、俺は甥っ子ということになる。ゼニスと同じで大変美人だ。白い髪に白い肌に青い瞳に泣き黒子。更にゼニス同様に出るとこは出て引き締まったナイスバディ……こりゃあ眼福だ。
叔母様、甥っ子を抱っこしないかい? なぁーに、何もしないさ。ぐへへ。
「初めまして、ルーデウス・グレイラットと申します。よろしくお願いしますレイ叔母様、アポロ叔父様」
「あらま。最近の子はみんなこうなのかしら? ルーデウスも礼儀が正しいのね。よろしくお願いします」
最近の子は? 俺以外にもいるのか。完璧で無敵な子供が。なんてことだ。このままじゃレイにいい子だから抱いてあげますね、作戦が失敗してまう。もっと好感度を上げねば。
「ルーデウスも凄いね。将来は立派な魔術師になりそうだ」
「っ……あ、あはは。ありがとうございます」
アポロ・カグラ……俺でも分かる。この人は強い。それもパウロよりもずっと強い。
それよりなんで俺が魔術を使えるって分かった? なんか魔力でも漏れてるのか? それならゼニスやパウロだって気づくはず……分からないな。
「それはそうと……リーリャも居たのか。久しぶりだね」
「お久しぶりですアポロ様。あの時は大変、お世話になりました」
「そんなに畏まらなくていいさ。それにどちらかと言うと、お世話になったのは私の方だからね」
苦笑いを浮かべながらそう答えたアポロ。話の内容的に2人は昔知り合いだったのだろうか?
「アポロとパウロは昔、リーリャの実家の道場にいたのよ」
確か水神流の道場だったか。なるほど……通りで。佇まいが歴戦の猛者が出すそれだ。歴戦猛者かどうかは分からないけど。
「ところでアポロ……ヨリイチは?」
ん? ヨリイチ? 誰だそいつは。日本人みたいな名前じゃ無いか。
「息子ならさっき森の中で魔物と戦闘している騎士団の助力に向かったよ。パウロがここにいないってことはやっぱり森で戦闘してたのは……ああ、噂をすればなんとやらだ」
アポロが扉の方に視線を送ると同時に扉が開き、パウロが帰ってきた。
なにそれ。かっこいい。俺もやってみたいんだが。あれ? パウロの後ろに誰かいるな。
「アポロ!レイ! 久しぶりだな!」
「……失礼します」
そう言って入ってきたのは……1人の剣士だった。
赤みがかった
俺からみてヨリイチは不気味な雰囲気を纏っていた。物静かな青年。それが第一印象だ……だが存在感が凄い。分からない……分からないけど、この人は
「ほら、自己紹介しなさい」
レイに連れられ食卓にやって来た。この2人の親戚なのか? アポロと少し似ている気もする。
「名をヨリイチ・カグラと申します。よろしくお願いします」
「ヨリイチちゃんこんなに大きくなっちゃって! いい男に育ったわね」
「ありがとうございます。ゼニス叔母様」
ゼニスに頭を撫でられている。表情は……柔らかいけど真顔だ。コイツさては男好きか? ゼニスに触れられて動じないなんて……いや、こんなイケメンだから女の子に慣れてるかもしれない。ちくしょ、羨ましいなおい。
「ほら、ルディも挨拶して」
おっと、そうだった。
「ルーデウス・グレイラットと申します。よろしくお願いしますヨリイチ叔父様」
ゼニスの親戚の姉であるレイの息子、つまり俺から見て叔父となる。
「……」
まずい。不機嫌にさせちまったか? 少し落ち込んでいるのが分かる……落ち着け。それとなく探りを入れるんだ。
「あ、あれ? ヨリイチ叔父様?」
「……まだ15歳だから叔父はやめてくれ」
「……え、あ、はい。ではヨリイチさん?」
「もしよろしければ、兄……と呼んでほしい。ダメだろうか?」
おいおい、やめてくれよ。ギャップ萌えじゃねぇか。叔父って呼ばれるのが嫌で落ち込んでたって? 周りも俺と同じ気持ちだったようで、微笑ましい表情を浮かべていた。
「で、でしたらヨリイチ兄様とお呼びします」
「……! ありがとう」
「まぁ!」「あらぁ!」
ゼニスとレイの声が重なる……気持ちは分かる。
ヨリイチが嬉しそうに微笑みを浮かべたが、その笑みはどこか可愛らしかった。