ぼくとレジドラゴ   作:鯰の蒲焼き

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思っていたよりも色んな方に見て貰えているようでとっても嬉しいです。中々色物な作品かと思いますが、これからも楽しんで読んでいただければ幸いです。



であい

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊された壁から、外に出た。

 ぼくの意思で、というわけでは全く無い。へんてこのせいで壁に叩きつけられ、ほこりまみれになっているぼくを見たへんてこが、焦ったそぶりで急にぼくを頭に乗っけて飛び出したのだ。

 

 ぼくの身体は思っていたよりも小さかったようで、へんてこの頭に乗っけられてしまうと地面に足すら着かなくなる。

 項垂れるように乗っけられているのでぼくには地面しか見えていないが。

 

 というかへんてこがでかい。ぼくが小さい訳ではない、いや本当に。

 

 

「おろせ、へんてこ」

 

「ざっくっど!ざっくっど!」

 

 

 なんとへんてこ、断固拒否の意である。このやろう。ならば此方も抵抗しなければなるまい。

 

 全身が訴えかけて来る痛みに逆らって、どうにか頭だけでも動く。

 そう、頭突きだ。頭突きをしてやるのだ。なんとか頭を大きく上に上げられた、あとは思い切り落とすだけ…

 

 

 

「…きれい」

 

 

 

 意を決して頭を振り下ろそうとしていたのに、思わずピタリと止めてしまう。

 視界いっぱいに広がっていた、青空のせいだ。ぼくは詩人ではないので、この感動をどう表現すればいいのか、全くもって分からないが…本当に、綺麗だった。

 全身の痛みも忘れて、ずっとかかっていた思考の霧が晴れていくのを感じる。

 

 溢れんばかりの感情をごまかすためにも周りを見渡す、後ろには今はぼくたちが出てきた建物。

 黄と赤の二色の石材で建てられたそれは、やはり目に悪い。

 

 ただ、へんてこが放った光のせいで建物は大きな穴が空いている。見るも無惨だ。

 

 そして建物の周りには広大な自然と、岩、岩、岩。

 一方を除いた全てが岩山に覆われ、隠れるように存在していたらしいこの建物。

 あの内装や中に居たのがへんてこ一匹だけだったのもあって、誰かに見つからないよう、隠されていた場所だったのかな、と思う。素人考えでしかないけど。

 

 …それにしても、へんてこは何処に向かっているのだろうか。

 既に件の建物からは大きく遠退いていて、気付けばもうその姿は見えなくなっている。

 せめて何処に向かうのか教えてほしい、其方の言いたいことは、なんとなく分かるのだから。

 

 

「ざっくっど」 

 

 

 肌に触れる、しんしんと降続けている雪の冷たさに身体を震わせ、景色をどうにか眺めていれば。

 急にへんてこの足が止まった。

 

 なんだなんだと見てみれば、目の前には巨大な湖。

 へんてこの視線は湖の先にある。ただ、湖は氷塊らしきものも浮かんでいて、入ったらぼくは服も着てないし死ぬだろうな、と思う。

 へんてこ、まさかそれが分かっていて…?へんてこ、いいとこあるじゃん…。

 

 

「ざっくっど…ざっくっど…」

 

「およげないの?」

 

「ざっくっど」

 

「…ぼくをきづかったとかではなく?」

 

「ざっくっど?」

 

「そっか、かんちがいか…」

 

 

 頭突き。

 

 

「ざっくっど!!?」

 

「ぼくのきもちをかえせ、へんてこ」

 

 

 かーっぺっ!頭突きした頭が痛い!

 

 

「いきたいばしょ、このさき?」

 

「ざっくっど…」

 

「ちけいが、ちがう?まえはこんなのじゃなかった?」

 

「ざっくっど!」

 

 

 へんてこが言うには、ここから少し歩くと人里があるらしい。

 ただこの地形の変化からして、もしかしたらもう無くなっているかもしれない、とか。

 

 それからあーだこーだ話して。ようやくぼくはへんてこの頭から下ろされた。

 

 背中に雪が積もっていたせいか、その跡が赤くなってしまっていた。

 今はへんてこの提案で近くの岩山の下で雪を避けるように座っている。寒いが、まだなんとか耐えられそうだ。

 陽も暮れ始めており、既に空は橙色に染まってしまった。恐らくそう長くない時間で、夜が来るのだろう。

 そうなったら絶対に凍えてしまう、どうしようかな…。

 相変わらず人影というか、ぼくら以外の気配はない。

 

 …目が覚めたばかりで、死にたくはない。どうするべき、だろうか。

 

 火種になりそうなものは当然無い、へんてこにもそこら辺はどうにも出来なそうだ。隣で信じられないくらい凹んでいるし。

 

 

「へんてこー…ほんとになにもないのか?おまえがかってに、ぼくをつれだしたんだぞ」

 

「ざっくっど…」

 

 

 弱ったなぁ。

 この小さな身体じゃ、なにをするにも力不足だ。

 へんてこも暫く戻ってきそうにないし。

 

 

 

 

「…なあ、へんてこ。なにあれ?」

 

 

 

 

 へんてこは落ち込んでいるからか答えない。

 そんなへんてこに不満を隠しきれないぼくの視線の先で、不可思議な色合いの生物が踊っていた。

 全体の色は白に水色、桃と黄色。ほっそりとした人型に、球体状の頭部。

 頭部は不思議な模様が描かれており、目のようなものは見受けられない。

 両腕は指に当たる部位が鎌のような形状になっていて、見ているとなんだか不安に駆られる()()()

 生物だと思われるが、これを生物と認めることを脳が咄嗟に拒んだ。

 

 いつの間に、現れたのだろうか…?本当に気がつけばそこに居た。

 虚空から現れた、と言われても信じてしまうだろう。

 

 何はともあれ、へんてこ以外に初めて見た他の生物だ。

 警戒をしておくに越したことはないだろうが、へんてこのように意志疎通が取れるかは試してみたい。

 

 

「おい、へんてこにごー」

 

「~~~♪」

 

 

 …歌?いや、鳴き声か?

 何故だかうまく聞き取れない。ただ、未知の言語で話しかけられているような感じがする。

 それはおどけるように、ゆらゆら、ゆらゆらとその身体を揺らしながら此方に近付いてくる。さっきまでは微かにその姿が見える程度だったが、今はもう数歩歩けば触れられてしまう。

 不気味なのは身体の揺れと頭部の揺れが大幅にずれていること。

 

 …いや、そもそも、首が、ない…?

 

 まさか、そんなことはないだろう。疲れからくる、見間違え…の筈。

 

 

 

 そして、その勘違いへの答えは直ぐに出た。

 

 

 

 

 

 

「あたま、とれ───」

 

 

 

 

 

 ころん、と。

 

 

 それの頭部がその細身の身体から転げ落ちた。

 鞠のように地面を跳ねる、あまりの情報量の多さに脳が追い付かない、もう落ちた頭部はぼくの足下まで転がってきている。

 

 おかしい。

 普通の生き物なら死んでいる筈なのに、頭部を失ったそれの身体は頭部を失う前と全く同じ行動を繰り返している。

 …違う、全く同じではない。より激しく、何故だか楽しそうに踊っている。

 

 笑い声が聞こえる、何処から?

 

 

 

「ざっくっど!!」

 

 

 

 先ほどまでの落ち込みぶりは何処へやら、へんてこがあり得ないような速さでぼくの前に立っていた。

 丁度ぼくと、近付いてた頭部の間に割り込むように。

 

 その直後だった、爆音がこの場に響く。

 

一瞬の間をおいて、その爆音の正体があの頭部だったことを理解した。

 そう、()()()()()()、あの頭部が。

 

 へんてこはぼくを庇ったのだということも分かった。

 爆発した周囲の雪は溶けて地面が燃えていること、へんてこがよろめいていることから、もしぼくがあの爆発を直接貰えば大怪我、最悪即死は免れないかもしれない。

 

 

「あ、ありがとう、へんてこ…けが、ない?だいじょうぶ?」

 

「ざっくっど…!」

 

 

 離れていてほしい、とへんてこはぼくに告げた。此方の言葉は届いていない。

 その焦げ跡の残っている身体から察するに、今の爆発で相当の消耗をしたことが分かる。焦っているのだ、へんてこは。

 どうして、そこまでしてぼくを守ろうとするんだ…!?

 

 

「~♪…♪♪」

 

 

 声に反応して視線をやれば、信じられないことにあいつの頭部が再生されていた。冗談がきつい。

 …それと、聞き慣れたのか何を言っているのか分かってきた。楽しい、面白い…だ。

 ふざけやがって。

 それと狙いはぼく、大分興奮しているのも分かった。最悪だぞ、こいつ。

 

 頭部の再生を確認したへんてこが先手必勝と言わんばかりに飛び出す、その周囲にはどういう原理か浮遊する複数の岩石。

 それは意思を持っているかのように相手へと次々と突撃していく。

 

 相手は避けきれず思い切り後方へと吹き飛ばされたが、倒れてはいない。

 やっとへんてこの敵意に気付いたようで、呑気で楽しそうな雰囲気は消え去り、二匹の間に剣呑な空気が流れ始める。

 

 

 そこから始まったのは、激闘だった。

 

 へんてこがまた右腕を掲げながら突進。対して相手が炎を吐き出す。

 それは苛烈な渦となってへんてこを囲み、閉じ込める。

 それだけで相手の攻勢は終わらない、身動きがとれなくなったへんてこを襲うのは暗く怪しい炎。

 その余波で雪が溶ける所か、大炎上を始めたへんてこの周囲、それがどれほど恐ろしい炎なのかを物語っていた。

 

 …爆破に炎の渦に暗い炎、どうやら相手は燃える技ばかりを好んで使うらしい。もしくはそれしか使えないか。

 

 なにか、ぼくに出来ることはないのか。棒立ちのままで、いいのか?

 

 

 

「へんてこっ!」

 

 

 

 何も出来ない、思い付かないことへの苛立ちと、今も燃え続け身動きをしないへんてこへの心配から、思わず声を挙げた。

 それに応えてくれるかのように、へんてこを中心に炎ではない渦、青い竜巻が発生する。

 竜巻は内から炎の渦を消し去り、傷を負ったへんてこが姿を現す。そんな身体で、へんてこはもう一度突撃していく。その動きは最初よりも幾分か速い。

 しかし、今度はその周囲に岩石は浮かんでいない。あの重たい連撃を繰り出すつもりはない、ということなのか。

 

 見ていると分かる、へんてこの身体はもう限界に近い。

 あと一撃でも貰えばへんてこは立ち上がれなくなってしまう。

 ──嫌だ。理由も分からないままそこまでして守ってもらうのは嫌だ、それになにもしないままただ突っ立っているのもへんてこに申し訳が立たない。

 なら、やれることは一つだ。

 

 ぼくは、駆け出した。

 

 

 

 

「だああああっ!」

 

 

 

 運良く、相手との距離はそう離れていない。五十歩も歩けば零距離だ。

 

 

 駆ける。

 あと四十歩。へんてこと相手の距離が零になる。

 へんてこが繰り出したのはその大きな右腕による爪打。先ほど壁を破壊したときに見たような目映い光をその腕に纏って、お返しと言わんばかりの一撃をぶちかました。

 爪打を皮切りに始まる技と技の応酬。

 

弾ける炎、抉れる大地、炎上していく自然。ぼくが一歩進む度に、状況が変わっていく。

 

 

 

 駆ける。

 

 あと二十歩。またへんてこが大きな一撃を当てる。

 竜巻と爪打の組み合わせで動かなくなった相手。

 

 一秒もない静寂の後、へんてこがよろけた。

 勝った?そう思ったのも束の間、あれほどの一撃を貰ったと言うのに相手は倒れていなかった。

 睨みあう瀕死の二匹、散る火花と青い光。

 

 最悪なことに、そこから二匹の激闘は技の応酬から純粋な暴力のぶつけ合いへと変わっていく。

 お互いのどちらかが死ぬまで止まることはないのだろう、という確信だけがあった。

 此方の声ももうへんてこには届いていない。数刻の短い付き合いでしかないが、それはないだろ。

 

 

 

 

 駆ける。

 

 

 あと十二歩。

 駄目だ、間に合わない!

 

 このままだと、ぼくが距離を詰めきるよりも早くへんてこが倒れてしまう!

 どうすれば、そんな事を思考するよりも早く、身体は動き出していた。

 

 気がつき握りしめていたのは袋に入っていた紅白の球体。

 

 

 

 投げ付けるには、丁度良い────!

 

 

 

 当てるのは胴体、頭部は絶対に駄目だ。

観察していて気づけた、あの頭部は火花の集合体であると。

 なけなしの知識の中にある通常の火花とはなにもかもが違うものの、あそこにこの球体をぶち当てた所で注意は引けそうにない。

 だから、胴体に確実に当てて、一瞬でいいからぼくに意識を向けさせる。

 

 なんせ相手も瀕死。それできっと、その隙にへんてこがとどめを刺しきってくれる筈だ。  

 

 

 

「─────っ!」

 

 

 

 投擲。

 

 良かったのは、妙な力みが入らず自然な力の流れで投げれたこと。

 悪かったのは舞っている土埃で目の前が一切見えなかったこと。

 

 球体が風を切る音が聞こえる、当たれ、当たってくれ…!

 

 

 ごん、と重い音が聞こえた。当たった…!!

 ひとまずは命中している!だが何処に!?

 へんてこに当ててしまった可能性だってある、頼む、此方を見ろ、へんてこから離れろ────!!

 

 

 

 

 

 

 

 轟、と。

 

 

 

 

 

 

 

 今まさに。一瞬で目と鼻の先に迫っていた、ぼくを包み込み焼き殺さんとしている暗い炎が、気になっていた答えを教えてくれた。

 死の寸前に居るという実感が、ぼくの体感時間を引き延ばす。

 炎を通して歪んで見える、炎によって晴らされた土埃の先。

 そこでへんてこがぼくが作った隙を使って、巨大な体躯を余すとこなく相手にぶつけようとしているのが見えた。

 小さくて分かりにくいが、綺麗に割れた紅白の球体もある。

 

 

 へんてこの方は、なんとかなった。

 あとはぼくの方だ。

 

 ゆっくりと動いているように見える今の世界、ただそれは死の間際だからこそ。身体は全く動かせない。

 鼻先が焼けるように熱い、というか焼けているのだろう。

 …いやでも、これは無理じゃない?死んだかも。

 

 まさか、あの一瞬で攻撃してくるなんて思ってなかったしなぁ。

 ああ、炎に顔が包まれたのか?視界がゆっくりと捻れるように歪んでいく。いや、

 

 

「しにたくな…?」

 

 

 

 

 

 

 

 …あれ?ん?

 

 

 

「ざっくっど!!」

 

 

 

 ……なんで、へんてこの隣に居るんだ?ぼくは。

 自分の身体に触れる。感触は、ある。

 耳、隣のへんてこの声が煩い。

 鼻、軽いやけどで済んでいるようで少しヒリヒリする。

 へんてこ、喧しい。加えてとても驚いている。心配をしてくれてるようだ。

 …へんてこが摩訶不思議な力で助けてくれた訳ではないらしい。

 

 

 

 

 …????

 

 

 

 

 

「きゅうぅーん!」

 

 

 

 

 

 少し遠くで燃えている地面を、思考が追い付かない頭で眺めていると、聞いたことのない鳴き声が頭上から聞こえる。

 咄嗟に手を伸ばした。何か、居る。

 大きさは紅白の球体と同じくらいで相当小さい、触れればくすぐったいと伝えてくる。

 

 …あの頭部爆弾愉快犯に比べると聞き取りやすい声だ。

 へんてこが一番聞き取りやすいし分かりやすいが。

 

 敵意は、無さそうだ。

 両の手で優しく掴んで目の前に持ってくる。

 

 へんてこは、何も言ってこない。

 

 

 

 

 

「きゅ?」

 

 

「な、なんだおまえ…」

 

 

 

 

 

 星のように輝いていて、雲のようにふわふわしているそいつは、ぼくを見て楽しそうに微笑んだ。








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