五条悟並みのチートをゲットした 作:隣の家に晩飯凸する止まらないゴルシ
だれかbgmだけ切り抜いてくれないかな……(他力本願)
矢田葉月という男は、一言で言ってしまうならば偽善者である。
自己満足のための善を成そうとする、偽善者。だが、彼はそれでも構わないとそう思っている。その偽善で誰かが救われるならば、それで構わない。呪術師になることを決めた理由など、それだけだった。
彼は別に、他の人間と比べて特別秀でたところがあるわけではない。小学校、中学校のテスト成績は平均点数を少し上回り、運動に関しても少し苦手なものがるという程度。正に "一般人" という言葉が似合う少年であった。
実は前世の記憶があって、これが二度目の人生です、や、実は人知れず人類のために戦っているんです、なんて事のない、本当に極々一般的な人間だった。
家庭環境も似たようなもの。父親は物心つく頃にはもう周りにいなかった。遠い地に単身赴任しているからであった。だから、父親からの愛を受けたことなどないし、むしろ父のその威圧的な、あるいは口調から漂う合理的な雰囲気に気圧され、時にその怒りの対象になった事があった。故に、父親へはトラウマと、出来る限り避けたいという、忌避感だけを抱いた。
母親はその点、尊敬できる点はあったが、母もまた、足りない生活費を稼ぐために働き、特に葉月が小学生のころ、日中は家におらず帰ってくるのは夜遅くだった。故に、母からの愛を実感することもなかった。
一人きりの家で、孤独な夕食を済ませて布団に沈み込む毎日。それは、性格の形成において重要な時期―――特に小学生辺りの頃だ―――における性格の形成に大きな障害となった。ただ親を嫌い、憎むような卑屈な性格が形成されてしまった。物事の何をも辛いと思うようになったせいで、自分は悪くない、周りが悪いんだと無理に理由付けを行うようになり、寧ろその影響で物事を客観的に見ることが出来るようになった。
そうして気づいたのは、自分はやはり一人なのだという孤独。それに気づいた中学生の頃には、恐らく親は自分を愛しているのだろう、と考えるようにはなっていたが、だが、それでも心の中の孤独は消えなんだ。
そんな時である。呪術師にならないか―――そうスカウトされたのは。
葉月は悩んだ。呪術師とは殉職率の高い役職であると聞かされ、思い悩んだ。己のことを見てなどくれない、赤の他人の為に後悔する死を迎えるつもりはあるのか。己にその覚悟はあるのか。そう思い悩んだ末に、呪術師になることを決めた。
一人きりで死ぬのは嫌だ。孤独なのは嫌だ。だが、呪術師になれば、多くの人から感謝されれば、多くの人を助けたのならば。その人々にとって、己は忘れられない存在になるのではないか。それに、高専に行けば誰か気の合う奴がいるかもしれない。自分のこの偽善で誰かが助かるなら、別にそれでいい。
だから、覚悟を持って呪術高専へ入学したのだった。
おぼろげな意識を、如何にか覚醒させようと思って、彼はまず目を開けた。天井を見ながら、意識がゆっくりと覚醒してゆく。眠気も完全になくなったころ、誰か別の人間の体温を感じ、自身の左側へと視点をやる。
そこには、家入硝子がいた。
「ひ」
声にならない悲鳴が出た。どうしてここにいるのか。漫画の棚など、どう見てもここは自室であるし、ここは自分のベッドだ。それがどうして彼女がいるのか。もしや、と思い昨夜の記憶を脳の奥深くから引き出そうとする。万に一つ、いや、億に一つ、自分が「そういう」行為をしていたりしたならば重大な問題だからだ。だが、いくら云々唸っても、とんと思い出すことができぬ。
家入硝子―――寝間着姿の彼女が、どうしてここにいるのか。いくら思考を巡らせようと答えが出てこず、諦めて彼女を起こすことにした。
「硝子、起きろ。硝子」
「………ぐぅ」
いや、ぐぅって。起きてるだろう、こいつ。
確信に近い何かを胸の中に抱き、どうしたものかと考える。
起きてはいるだろう。かと言って、一々起きろと叫ぶのも面倒臭い。そう、対処をするのが面倒くさいのだ。ならば、やる事は一つ。
硝子を放置して、ちゃっちゃと布団から抜け出る、これに限る。そうと決まれば直ぐにでも行動しよう―――そう思って布団をめくろうとして、布団に叩きつけられる。
ただ叩きつけられるのではなく、首を腕で抑えこまれ、そのまま布団に叩きつけられた形だ。腕の主は言うまでもなく硝子だ。
「ぐ……っう、ギブ、ギブギブギブ!」
それに対して硝子は―――
「ぐーっ」
まだ狸寝入りを決め込むつもりであった。こうなっては力尽くで腕を離さねばならない。そう思って腕に手をかけるが、これがびくともしない。
原因はすぐに分かった。呪力による身体強化である。硝子とて呪術師の端くれ、呪力による身体強化という、基礎的な技能はできて当然だったのだ。
腕を離すためにこちらも呪力を纏うが、時すでに遅し。結局、葉月はそのまま二度寝を始めるのであった。
呪術高専生徒の、在りし日の出来事である。