五条悟並みのチートをゲットした 作:隣の家に晩飯凸する止まらないゴルシ
その日、五条悟は護衛対象であった天内理子の死体を抱えて戻ってきた。
「おう、お帰り。任務失敗、か?」
「……おう。無理だったわ」
それだけだった。帰ってきた五条との会話は、そこで一度途絶えた。どう労ったものか、葉月は思案する。
「あー、その。なんだ」
「いいんだ。分かってる。結局のところ、俺たちは非日常に居るだけの、ただのガキだったんだ」
ああ、そうか。そうかよ、分かってんのかよ。なら、それなら、俺から言う事は何にもねえや。
「……そうか。夏油はどうだ?」
「あぁ、あいつは一回高専戻って硝子の治療受けてんだ。命に別条はねーよ」
何を言えばいいのか、葉月には分からなんだ。この一件に関わっていないからこそ、彼は極々客観的にこの事実を、この現実を見ていたからだ。何を言っても、今の五条悟には、侮蔑のような、馬鹿にされているような事に聞こえてしまう。だから、何も言えない。
「夏油んとこ、行ってくるわ。その死体、安置しとけよ」
「………おう、分かった」
「夏油」
「葉月か、何だか久しぶりだね」
「お前らが高専戻ってきたときは任務で出てたしな。夏油、一旦休めよ」
「分かってるさ、分かってるんだ……分かってるんだ、それくらいの事は…………」
それから間もなくして、五条は特級術師に昇進した。あいつは、ただ一人で最強になった。その相棒であった、夏油の助けを必要としない、最強になった。夏油は、それをどう思うのだろう。
お互いがお互いを補い合って、最強足りえた片割れの彼は、何を思うのだろう。
あの任務から、夏油は日に日に瘦せていった。今思えば、それに気づいたのは俺だけだったのだろう。大丈夫か、と声をかけることはあっても、それより深くへ踏み込むことはない五条。硝子は――――――あいつは、何故だか知らないが俺にしか興味がないらしい。だから、彼女も夏油へ踏み込むことはなかった。そして、上層部からの騙し討ちを食らった灰原が死んで、それをあいつは思い込むようになった。
あいつは、どうなっているんだろう。あいつは、一人で孤独を嚙み締めているんだろうか。それとも、あの任務を、天内理子を守り切れなかったのは己の責任だとでも思っているのだろうか。
俺はどうすればいいんだろう。
あいつを慰める? どうやって?
俺にそんな権利があるのか?
俺はどうすればいい―――?
自問自答に答えはない。概念とか、精神論とか、哲学的な問題に答えはない。
ベンチに座りながら、コーラを飲む。俺はそう、ただ、この青春が壊れてほしくないだけなんだろう。
「やっほー」
「……硝子か。どうした、わざわざ俺に会いに来て」
硝子がコーラを買って、それを手に隣に座る。缶を開けて、中身をちびちび飲み始めた。
「…」
「…」
どちらも、誰もしゃべらない静かな時間が流れた。そこで気が付く―――にやにやと五条が見ていることに。
「……あいつ、何で廊下の向こうからこっそり見てんだ」
小さくつぶやかれたその言葉を捉えた硝子は、頬を紅潮させて、やっぱりそれきり黙ってしまった。
「俺も最近睡眠不足かもな」
「……ちゃんと寝なよ」
「寝てるつもりさ」
「………あの、さ」
「おう」
「私さ、葉月の事、好きなんだよ」
「……おう」
「だからさ、葉月がよかったら付き合おうよ」
「……」
読めた。たぶん、硝子が五条に相談して、五条が背中を押した感じだろう。どうして、今なんだろうか。どうして、今そうしたんだろう。
あぁ、もしかしたら、五条も気づいてたのかもしれないな。あいつも、今が、今のこの関係が、ばらばらに壊れてほしくないだけなんだろう。
「俺でいーのかよ………お前、案外モテると思うぜ? マッチングアプリとか入れたら一発だろ」
「葉月じゃなきゃ嫌だから言ってんでしょ」
五条だ。いつの間に、と思ったが、そう言えば瞬間移動だってできるんだったっけな。無駄なことに術式使うなよな。
「……本当に俺でいいのか? すぐおっ死ぬぞ」
「だからさぁ~…」
「……分かってるよ……………不束者ですが、どうぞよろしく」
それを聞いた硝子が胸に飛び込んでくる。あまりの勢いに肺から息が出ていき、意識が薄れ始める。それを見た五条はゲラゲラ笑っていて、偶々こちらに歩いてきた夏油も、少し笑っていた。
何だ、笑えるじゃないか。
それはそうと、五条。お前は後で殺す。
言葉を紡ぎ出さず、視線でそれを訴えると、遂に意識が消えた。