ハリーポッターとまどろみの逆行   作:ユフィ

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解放

 次の日、授業を終え、寮へ戻ってきたハリーたちは談話室にいた。

 学校中がクリスマスの飾りで包まれ、そのためか、談話室は以前のような活気にあふれていた。

 生徒たちは家に帰れる日を心待ちにしているようだ。

 

 みんなのウキウキに彩りを添えるように、フレッドとジョージは花火を上げていた。 

 パーシーは「部屋の中で花火を上げるな!」と監督生のバッジを光らせながら怒鳴ったが、誰も気にしていなかった。

 ハリーも周りと一緒にその様子を笑って見ていた。

 

「ハリー! 来て!」

 

 だが突如、部屋に荷物を置きに行ったロンの叫び声が聞こえた。

 ハリーはすぐさま寝室へ向かった。嫌な予感がする。

 

「スキャバーズがいなくなった! 血だ!」

 

 ロンのベッドには血の染みがついていた。

 以前の世界のペティグリューと同じ手法だ。

 これで死んだことを偽装しているのだろう。

 今回はクルックシャンクスと会わせないようにハリーが気遣ったため、ロンは猫の仕業とは思わなかったようだ。

 

「スキャバーズってばこんな血を吐いて……きっと病気だったんだ」

「今すぐあのネズミを探さないと! なんとしてでも」

「ハリー、君もそんなにスキャバーズのことを思ってくれていたんだね」

 

 真剣な表情のハリーを見て、ロンは涙ぐんで感動した。

 だが、ハリーは別の考えで頭がいっぱいだった。

 ペティグリューへの嫌悪感がむくむくと沸いてきた。

 まさかこのタイミングで逃げ出すなんて。このまま逃げられてしまうのは良くない。

 何が何でも見つけ出さないと、シリウスを解放できない。

 ハリーはすぐさまフレッドとジョージの所へ行った。双子は快くハリーを迎えた。

 

「よお、ハリー」

「ロンのネズミが逃げ出した。ホグワーツ中を探し出したいんだけど、君らだけが知っているような抜け道も教えてもらえないかな?」

 

 ハリーの唐突な説明を聞いた二人は顔を見合わせた。

 

「そういうことなら、うってつけの品があるぜ、ハリー」

「友達思いの君に進呈しよう。俺らにはもう必要ないものだからな」

 

 そう言って双子はハリーを自分たちの部屋に連れて行った。

 そして、カバンの隠しポケットから「忍びの地図」を出した。

 

「俺らからのクリスマスプレゼントだ」

「かわいそうなロニー坊やと探検しな」

「あと、兄としてあいつに言えることは一つ」

「あのネズミは寿命だから諦めろ」

 

 地図を託した双子はニヤッとし、部屋のベッドの下に隠した花火のストックを掴んで寮の広間へ戻っていった。

 ハリーが地図を開くと、「ピーター・ペティグリュー」の名前が「暴れ柳」へ向かっているのが見つかった。きっとそこから秘密の通路を通って、「叫びの屋敷」に行くのだろう。

 ハリーは「暴れ柳」へ急いだ。

 慌てていたため、透明マントを被るのを忘れていた。

 そして、そんなハリーを追いかける人影がいることにハリー自身は気づいていなかった。

 

 「暴れ柳」に近づくと、犬の吠え声がした。

 見ると、犬になったシリウスが何かを追いかけていた。

 そしてそのまま「叫びの屋敷」へ入って行った。

 なんとしてでもペティグリューを逃すわけにはいかないため、ハリーも後に続いた。

 

 

 ハリーが慌てて部屋に入れば、黒い犬がネズミに襲い掛かっているところだった。

 ハリーは慌てて二匹を引きはがした。ネズミに対しては積年の恨みもかねてわしづかみにすると、弱弱しくキーキー鳴いていた。

 

「ハリー、そのネズミを放しなさい」

 

 部屋の入り口にスッと現れたルーピンが静かに言った。

 ハリーはうっかり驚きで手を放しそうになった。

 

「どうしてルーピン先生がここに?」

「君がまたすごい勢いで外へ出て行ったから、慌てて追いかけたんだよ。そしたら、こんなところに来るなんて。それに、その犬とネズミ……」

「このネズミはロンのネズミで、僕は追いかけてたらここまで来たんです」

 

 ハリーは口がカラカラになりながらどうにか言った。

 ルーピンは覚悟を決めたような顔をして、ハリーに語りかけた。

 ハリーを刺激しないように注意したような声音だった。

 

「ハリー、君はきっととても驚くことになるだろうけど、私を信じて今から起きることを見ていてくれるかい。その、何があっても突然杖を振り回さないで」

「分かりました。僕は先生を信じています」

 

 ハリーはネズミをルーピンに渡した。ルーピンは絶対に逃がさないようにガッチリつかんだ。そして、黒い犬を振り返った。

 

「シリウス、君だろう?」

 

 黒い犬は低い唸り声と共に姿を現した。

 やつれたシリウスがルーピンをまっすぐに見ていた。そして二人は兄弟のように抱きしめ合った。

 お互いがお互いに謝り合っていた。

 二人は、ヴォルデモートがジェームズたちを殺した日の真相をお互いに確認し、何が起きたのかハリーに説明した。

 ハリーは全て知っている事だったけれど、驚いたふりをしながら聞いた。

 

「つまり、このネズミは」

 

 ルーピンが杖を振るえば、禿げかけた中年の男が現れた。

 ピーター・ペティグリューは周囲をぎょろりと見渡した。

 ドアを見る時間が一番長かったが、杖を構えたルーピンにビビって逃げ出せない様子だ。

 ルーピンはたいそう穏やかに語りかけた。

 

「やあ、ピーター。久しぶりだね」

 

 口調こそ穏やかではあるものの、ルーピンの視線はとても冷たかった。

 ルーピンとシリウスが代わる代わるにあの日の真相を尋ねた。

 ペティグリューはどうにかして言い逃れをしようとし、そのたびにシリウスたちに訂正され、それを繰り返すうちにシリウスはペティグリューを早く殺してしまいたくてたまらないように、何度も何度も飛び出そうとした。

 そのたびにルーピンが抑えていた。

 

「ハリー……ハリー……助けてくれ……」

 

 誰かれ構わず助けを求めることにしたペティグリューは、狂気的な表情でハリーにすがりついてきた。

 ハリーは急なことに凍り付いて動けなくなった。

 視線の先には哀れな男の必死な形相があった。

 

「わたしに慈悲をおくれ……この十二年間、心休まる時なんて一度もなかった。いや、その前から、あの方がいる時代からずっと、怖かった。ジェームズならわたしに慈悲をかけてくれるだろう……」

「ポッターから離れろ!」

 

 バーンと音が鳴ってペティグリューが吹っ飛んだ。

 息を切らしたスネイプがツカツカとペティグリューに近づき、その面前に杖を突き付けた。

 突然現れたスネイプに、ハリーもシリウスもルーピンも驚いた。

 だが、スネイプよりも優先することがあると思ったシリウスは、すぐさま怒りの唸り声をあげてペティグリューに駆け寄った。

 

「どの面下げてジェームズの話なんてできる? ハリーにすがりつくなんてどういう神経だ?」

「わたしは君やリーマスやジェームズのように勇敢ではない。わたしは怖かった! 誰も闇の帝王には逆らえない……」

「臆病な愚か者め」

 

 スネイプはきっぱりと言った。それを聞いたシリウスは嘲笑うように息をもらした。

 ペティグリューはハリーを必死に見た。

 

「ハリー! スネイプは危険な人間なんだ! こいつの言うことを聞いちゃいけない!」

「僕はスネイプ先生のことを信用している」

 

 ハリーのこの言葉に、ペティグリューだけでなくシリウスも驚いたような顔をした。

 ペティグリューは誰か助けてくれる人がいないかキョロキョロした。

 腕を組み、黙ってやりとりを見つめていたルーピンに目を向けた。

 

「リーマス!」

「君は最低だ」

 

 ルーピンが息を継ぐ間もなく答えた。

 そして、誰も助けてくれる人がいないと悟ったペティグリューは力なくうなだれた。

 

「どうして……どうして、わたしだけがこうなんだ! 生きるためには仕方なかったのに」

「なら死ねばよかったんだ。かつての俺たちはお前のためにもそうしただろう」

 

 シリウスが吐き捨てるように言った。ルーピンも頷いていた。

 しかし、ハリーはその言葉を聞くと胸がうずいた。

 自分のために死んでいった人たちの顔が脳裏に浮かんだ。

 そして、以前に見たことのある両親の死に際を思い出した。

 

「父さんはヴォルデモートが来た時、お前が裏切ったって分かっていたはずだ。けど、死ぬときにお前を責めるようなことは一言も言ってなかった。母さんもそうだ」

 

 全員がハリーを見た。

 

「僕はディメンターが来ると、二人が死ぬ時の声が聞こえる。父さんは僕らに逃げるように言って、母さんはヴォルデモートに僕だけでも助けるように懇願した。二人ともお前の裏切りを受け入れていたと思う」

 

 沈黙の後、ペティグリューが体を大きく震わせて泣き出した。

 

「ジェームズ……ああ、ジェームズ! それにリリーも! あの二人は愚図なわたしにいつだって優しかった! 私だってできる事なら裏切りたくなかった! けど、できなかった……駄目だったんだ……」

 

 その言葉を聞いて、シリウスはペティグリューに殴り掛かろうとした。それをルーピンが抑えて、教え諭すように語りかけた。

 

「ピーター、君はジェームズとリリーだけでなく、罪のないマグルの命を十三人も奪った。それに、シリウスの十二年も。受けるべき裁きがあることは分かっているだろう?」

「リーマス……」

 

 ペティグリューはぼんやりとルーピンを見た。そして、ハリーを見た。

 

「もし僕の両親を弔う気持ちが少しでもあるなら、もう逃げないで」

 

 ペティグリューはハリーの姿をまじまじと見渡し、そして目をじっと見つめた。

 やがて、小さく頷いてそのままうなだれた。

 シリウスはルーピンを押しのけて、ペティグリューへ駆け寄った。

 その場に一瞬の緊張が走った。だが、シリウスは殴ろうとはしないで、ペティグリューを抱き寄せおんおん泣いた。

 

 そして、一行は校長室へ向かった。

 途中で、シリウスの姿を見つけたディメンターが嬉々として近寄ってきたが、スネイプとルーピンが追い払った。

 シリウスはハリーと、そしてディメンターに怯えてガタガタと震えるペティグリューを背中に隠してかばっていた。

 シリウスもルーピンも、もうペティグリューを昔の親友として扱っているようだった。

 

 校長室で一行を迎えたダンブルドアは温和な笑顔を浮かべた。

 シリウスはそんなダンブルドアに礼をした。

 

「ダンブルドア、私を信じてくれてありがとう」

「うむ。君も癇癪を起さずによく耐えた」

 

 ハリーが説明を求めるようにシリウスを見ると、名付け親は気まずそうに微笑んだ。

 

「実は私はスネイプの寝首をかきに来たんだ。けれど昨日ダンブルドアに止められてね」

「スネイプの?」

「やっぱり君の脱獄はあの記事が原因だったのか」

 

 ルーピンが笑いながら言った。

 事態をよく分かっていないのはハリーとスネイプとペティグリューだった。

 そんな三人に向けてルーピンが言った。

 

「セブルスがジェームズそっくりのハリーを可愛がるなんて少し信じられなくてね。私は失礼ながら、何か裏があるのじゃないかと疑った事もあったよ。そうだろ?」

「ああ。スネイプは闇の魔術に魅せられていた人間だ。そんな奴に記事になるほど気に入られるなんて、ハリーが危険だと思ったんだが、危険はもっと別のところにあったようだな」

 

 シリウスはため息をつき、ペティグリューは何も言わなかった。

 

「さて、わしはピーターを魔法省に連れていく事にしよう。もう逃げないじゃろう?」

 

 ダンブルドアが尋ねれば、ペティグリューは今度は震えることなく頷いた。

 ダンブルドアは満足そうに頷いて、ペティグリューと共に暖炉へ消えた。

 

 残された四人は沈黙していた。けれど、ハリーは喜びを抑えきれなかった。

 

「シリウス」

 

 ハリーは思いっきりシリウスに抱き着いた。

 熱烈な歓迎を受けて、一瞬シリウスは戸惑った。

 だが、ハリーが肩を震わせていることに気づき、しかと抱きしめ返した。

 

「ハリー、心細い思いをさせて本当にすまなかった」

「いいんだ、シリウス。ずっと会いたかった」

 

 今のシリウスはまだ目の前にいるけれど、手を離せばまたいなくなってしまいそうで怖かった。

 ハリーは抱きしめる手の力をさらにこめ、シリウスもそれに応えた。

 

 そんな二人の様子を見て、スネイプはイライラした。

 

 こんなに感傷的なハリーは初めて見た。

 ハリーがスネイプに会ったときには泣いてなんていなかったし、それどころか、いかにも大人っぽい微笑みをしていたような気がする。

 

 そんなことに気づいた瞬間、スネイプの眉間のしわはさらに深くなった。ルーピンは何も言わずにその様子を眺めていた。

 

「ポッター。吾輩はいつまで貴様らの感動の再会を見せつけられなければならない」

「スニベルス! お前はハリーに近づくな」

「近づくなとは? アズカバンでぬくぬくと過ごしていたお前は知らないであろうが、そこにいるポッターをこの二年間、手助けしたのは吾輩である。ポッターの名付け親の自覚がまだおありなら、君に代わって保護者の代理をしていた吾輩に礼の一つでも言えんのか」

「訳が分からないことを言うな。保護者だと? お前がハリーを誑かしているんだろう? お前の悪い噂はアズカバンにも届いていた」

「それは、それは。ディメンターの口が噂も出来たとは驚きだ。その口が噂をするだけなら、君も怖がらなくて済んだのにな」

「ディメンターを恐れた事なんてあるものか。俺はあの日から感情を失ったんだ。ジェームズたちを失ったあの日から。今の俺にハリーを失う以上の恐怖はない」

「口だけならいくらでも言えよう」

「今すぐ行動に移してやろうか、スニベルス」

 

 スネイプとシリウスが言い合っている間、ハリーはシリウスの胸元に顔を押し付けられていたため発言が出来なかった。ハリーはもがきながらどうにか顔を出した。

 

「今すぐ言い合いをやめないと水をかけるぞ!」

 

 二人がピタリと言い合いをやめた。

 ちなみに、お仕置きに水をかけるのはペチュニアおばさん流だ。

 その間も、ルーピンは何も言わないで眺めているだけだった。なんなら、どこか面白がっているような表情を浮かべている。

 

「リーマス! お前がそばにいながら、どうしてスニベルスをハリーに近づけた」

 

 シリウスがそんな親友に吠えるように言った。ルーピンは肩をすくめながら言った。

 

「ハリーはびっくりするくらいスネイプ先生を信頼しているようでね。私としてもハリーが彼のどこを信頼しているのか是非、知りたいね。杖のない話し合いで」

 

 三人ともハリーを見つめた。ハリーはシリウスから離れながらしどろもどろ話し始めた。

 一年生の時からハリーに危険が迫ると必ずスネイプが助けてくれたため、ハリーは彼に恩を感じるようになった。そんな趣旨を話したものの、シリウスは信じていないようだった。

 

「何が狙いだ、スニベルス」

「シリウス、その呼び方やめて」

 

 シリウスはもごもごと何か言おうとしたが、ハリーがまっすぐに見つめてくるため渋々従った。

 

「スネイプ、お前はなぜハリーを守るんだ」

「ダンブルドアの命令だからだ……それ以外に意味はない」

 

 スネイプは冷たく言った。こんな話し合いをしていることすら屈辱的であるという顔だった。

 

「たしかにセブルスはさっきもハリーを守っていた。聞けばヴォルデモートから守ったこともあるのだろう? 私は彼に悪意はないように見える」

 

 ルーピンは納得したように頷いた。脱狼薬のこともあり、スネイプへの信頼は元々あったようだ。

 

「にわかに信じられないことだが……しかし、ハリーが信じているのなら……私も信じよう」

 

 シリウスもうなだれながら同意した。

 だが、スネイプを信じたくない気持ちが体中から出ている。

 スネイプの方もシリウスへ歩み寄る気持ちは少しもないようだった。

 

「わしが友好を結ぶ手段として提案するならば、握手じゃな」

 

 ダンブルドアが煤を払いながら暖炉から現れた。

 シリウスもスネイプも、ダンブルドアの言葉が聞こえないふりをしたが、ダンブルドアはほほ笑みながら待っていた。

 二人が握手するまでいつまでも待っていることだろう。

 シリウスもスネイプも、これ以上の屈辱を与えるのか、と絶望していたが、ゆっくりと歩み寄り、一瞬の握手をしてすぐ離れた。

 ハリーはホッと息をついた。

 ルーピンは穏やかにダンブルドアに聞いた。

 

「ピーターは引き渡せましたか」

「うむ。罪を受け入れ大人しくしておった。誠に立派であった」

「裁判には私も出席します。友人として彼を見送りたい」

「もちろん私も行く」

 

 ルーピンとシリウスの言葉にダンブルドアは頷いた。

 シリウスは痛みを抑えるように目をつむった。しかし、すぐにハリーに向き直った。

 

「さて、ハリー。君はもう知っているだろうが、私は君の名付け親だ。だから」

「クリスマスにあなたの家に行ってもいい?」

 

 ハリーの突如の言葉に、シリウスはニコッと輝かんばかりの笑顔を見せた。

 ハリーはそれで嬉しくなってさらにつづけた。

 

「クリスマスにファイアボルトを贈って! それにホグズミードの許可証も出して! どっちもシリウスから貰いたいんだ」

「まるで子供だ」

 

 スネイプのつぶやきにダンブルドアが優しく返した。

 ハリーとシリウスには聞こえていなかった。

 

「今のハリーは子供なのじゃ。ハリーにとってはシリウスが親代わりなのじゃよ。いくつになろうと」

 

 シリウスはその間、ハリーに「ファイアボルトだろうが許可証だろうがなんだってあげよう! 私はもう自由なんだ!」と嬉しそうに言っていた。

 ルーピンは不思議そうに校長たちの会話を聞いていたが、ハリーたちの会話に加わることにした。

 

「さて、ハリー。ディメンターはもういなくなったが守護霊の呪文の特訓はどうする? やめようか?」

「いや、教えて。あなたから教わりたいんだ」

 

 ハリーは即答した。迷いは無かった。ダンブルドアは引き続きスネイプに語っていた。

 

「あの子はよっぽどシリウスからの贈り物が嬉しくて、リーマスとの授業が楽しかったようじゃのう。楽しい記憶の追体験をしたいのだな」

「同じことの繰り返しなどしても仕方ないでしょう。そもそも、ポッターはもう守護霊の出し方を知っている」

「この世界のリーマスにも教える喜びを味合わせたってよかろう。新たな記憶はこれからいくらでも作れる。勿論、君との記憶も」

 

 ダンブルドアは悪戯っぽくスネイプを見た。

 

「ハリーを守ってくれてありがとう、セブルス。あの子はいつだって君を一番に信頼しておる」

「気にしていません」

 

 スネイプは冷たく言ったが、言葉通りでない感情を隠しきれていなかった。

 ダンブルドアはハリー、スネイプ、ルーピンに部屋へ戻るように言い、シリウスを連れ立って、魔法省へ行った。

 ハリーは寮へ戻る間、ロンになんて言葉をかけてやろうか考えていた。

 きっと大事なペットのネズミがいなくなって落ち込んでいるだろうから。

 

 

 

 

「おっどろきー! シリウス・ブラックが無罪だったってだけでもびっくりなのに、ブラックって君の名付け親だったの? それで、クリスマスはその人の家に行くの?」

「ハリー、いろいろと良かったわね。それに、あなたって歴史的瞬間に立ち会ったのよ」

 

 ハリーたちはディメンターのいない中庭で話していた。

 ハーマイオニーの膝の上にはクルックシャンクスが丸まっている。

 ハーマイオニーが撫でるたびにグルグルと鳴いていた。

 ロンはそんなクルックシャンクスの様子を見ながら悲しそうな顔をした。

 

「スキャバーズは結局見つからなかったなあ……」

 

 ハリーはロンにはネズミがペティグリューだったことは言っていない。

 ネズミを探している最中にたまたま、隠れていたペティグリューとシリウスを見つけたという体で話をした。

 長年可愛がっていたペットが、実は中年の禿げた男だったという事実はできればロンに教えたくなかった。

 気の毒なくらい残念がるロンを見ながら、ハリーはシリウスからロンへ新しいペットを送ってもらおうと思った。

 後日、シリウスからロン宛の手紙を運んだチビフクロウのピッグウィジョンはロンのペットになった。

 よろよろと頼りない飛び方をしていたが、「そこも含めて可愛いやつだよ」とロンは嬉しそうに言っていた。

 

 

 事情聴取のため、魔法省に缶詰めにされていたシリウスはすぐに解放された。

 ルシウスの口添えの効果があったらしい。

 そのため、ハリーはクリスマスをシリウスと過ごした。

 と言っても、冬休みはすっかり汚れたブラック邸の掃除で終わった。屋敷しもべ妖精のクリーチャーは文句を言いながらも、主人であるシリウスに逆らえなかった。

 ハリーもシリウスも埃まみれになりながらもたくさん笑った。

 こんなに楽しい掃除は初めてだった。

 ハリーはクリーチャーから隠れたところで、スリザリンのロケットをシリウスから譲り受けた。

 これで分霊箱は全て集まった。

 これからやるべきことはまだあるが、ハリーはしばらくこの幸せに浸かりたかった。

 

 

 

 シリウスからプレゼントされたファイアボルトを抱えてホグワーツに戻ったハリーを、ウッドは熱烈に歓迎した。マクゴナガルも興奮しっぱなしだった。

 ファイアボルトが寮の士気を高めたのか、その年のクィディッチ優勝杯も取る事ができた。

 しかし、寮杯は地道に点を稼いでいたスリザリンがとった。

 

「今年は引き分けってところだな」

 

 

 互いに握手するスネイプとマクゴナガルを見ながらロンが悔しそうに言っていた。

 スネイプにネチネチ言われることもなく、ウッドに泣かれることもないため、ハリーとしては最高の結果だった。

 

 

 早いもので夏休みはもう目前だ。試験を終えた三人は廊下を歩きながら話していた。

 

「さあ、二人とも。今年こそは私とマルフォイに勝てるといいわね。科目を限定しているのに勝てないなんて信じられないわ!」

「君たちが信じられない点数ばっかり取るからだろう!」

 

 ロンはブーブー言った。ハリーも同じ気持ちだ。

 去年の試験は二人ともハーマイオニーとマルフォイにぼろ負けだった。

 当然のことながら、ハーマイオニーに勝てる人は誰もいなかった。

 

「ハリー、君ならルーピンの試験で勝てたはずだ。あの人は筆記なんてやらなかったからな」

「少しは自分の力で戦わないか、ウィーズリー」

 

 マルフォイがあきれた顔をして立っていた。

 

「今年は勝つぞ、グレンジャー」

「こちらこそ。こうやって競い合う相手がいるって楽しいわね」

「戦いが大好きなお二人に比べて、僕もハリーも平和主義なものでね」

 

 口をとがらせたロンの言葉にハリーは吹き出した。

 ハーマイオニーもマルフォイも試験の話で盛り上がっていた。

 ロンはそんな二人を尻目に、ハリーにこそっと話した。

 

「なあ、ハリー。今年のハーマイオニーはおかしくなかったか?」

「うーん、そうかなー」

 

 ハリーは言葉を濁した。ハーマイオニーが逆転時計を使っているのにロンは気づいていなかった。

 

「僕ら親友だろ? なのに隠し事なんて汚くないか、ハーマイオニーってば」

「隠しているとは決まったわけじゃないから」

 

 ハーマイオニーは来年から授業数を減らすようなので、もう逆転時計を使う事もないだろう。ハリーはハーマイオニーが打ち明けない限り、何も言わないことにした。

 

 

 

 キングズ・クロス駅でハリーを待っていたのはバーノンおじさんだけではなかった。シリウスもいた。

 とても礼儀正しくバーノンおじさんに挨拶をしたが、脱獄囚から挨拶される状況は、バーノンおじさんの理解の許容範囲を超えたものだったようだ。

 顔を真っ赤にさせながらさっさとその場を後にした。

 シリウスは悪戯っぽく「ハリー、マグルの家に飽きたらすぐに私の家に来るんだよ」とウィンクした。

 ハリーはニヤッとしながらバーノンおじさんを追いかけた。

 良い夏休みが始まりそうだった。

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