ハリーポッターとまどろみの逆行   作:ユフィ

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四年生の新学期

 生徒たちはクィディッチワールドカップの興奮冷めやらぬまま、新学期が始まった。

 しかし、生徒の興奮のボルテージをさらに高めた発表があった。

 三大魔法学校対抗試合の開催だ。

 ハリーも一緒になって喜んだ。今回は選手に選ばれる心配がないからだ。

 

 授業は忙しくなったが、ハリーは時間を見つけてホグワーツの厨房へ行った。

 ドビーに誕生日のお礼を言うためだ。

 屋敷しもべ妖精を見たことの無いロンとハーマイオニーもついてきた。

 

 ハリーたちを歓迎したのはドビーだけでなく、厨房中の屋敷しもべ妖精がクッキーやら紅茶やらを慌ただしく用意した。

 ハーマイオニーはその様子を見て、「洗脳による奴隷労働」と呟いた。

 ハリーはしもべ妖精福祉振興協会(SPEW)の活動にこれから付き合わされることに、心の中で一千ガリオン賭けた。

 そして、絶対にハーマイオニーをブラック邸には招かないと誓った。

 

 

 

 本物のアラスター・ムーディの授業は、以前ハリーが受けた偽物の授業とそっくりだった。

 初回で実際に使いはしなかったが、「許されざる呪文」についてノートを取り、その恐ろしさをとくとくと語っていた。

 あまりにもそっくりだったので、ハリーは中にクラウチ・ジュニアが入っていないか訝しく思った。

 

 ダンブルドアはその疑問を笑いながら否定した。

 

「君の話を聞く限り、前の世界のバーティ・クラウチ・ジュニアは随分と忠実に仕事をしていたのじゃな。ハリー、安心おし。彼はまごうことなく本物のムーディ先生じゃ。のう、セブルス?」

 

「いかにも」

 

 スネイプは素っ気なく言った。

 ハリーが勝手にシリウスの家に行ったことをまだ許していないようだった。

 ハリーは身を縮めながらも、クラウチ・ジュニアのことを聞いた。

 ダンブルドアはにこやかに説明してくれた。

 やっぱり、ダンブルドアの方はハリーが手紙の言いつけを守らなかったことを、何も気にしていないようだ。

 ハリーは緊張を少し緩めた。

 

「わしは本物のアラスターを連れ立ってクラウチ氏の屋敷へ行った。まあ、要件は適当にこじつけての。そして、ご存知の通り、彼の魔法の目は透明マントをも見破る。優秀な闇祓いであったアラスターは昔の勘を忘れておらず、見事クラウチ・ジュニアを見つけ出した。わしは驚いたふりをしつつも、クラウチ氏に息子をもう一度アズカバンに送る勇気を持つように説得した。アラスターはすぐさま送るように息まいておったから、それを止めるのがちと骨じゃった。ワールドカップも終わったことだし、そろそろ事件は明るみに出るであろう」

 

ハリーは不思議に思った。

 

「ワールドカップが終わるまで隠すつもりだったんですか?」

 

「そうじゃ。君のお友達のパーシー・ウィーズリーの上司でもあるバーティ・クラウチ・シニアは有能な役人じゃ。ワールドカップの前に捕まってしまうと、イベントそのものが立ち行かなくなっていたじゃろう。それに、わしはクラウチ父子には話し合いの時間があっても良いと思った。お互いを理解する時間が」

 

「でも、イベントなんかよりも死喰い人を捕まえる方が……だって、もし逃げ出したら大変なことになっていましたよ」

 

「わしには自信があった。監視にはセブルスが協力してくれたからの。それに、以前の君はせっかくのワールドカップを楽しみきれなかったじゃろう? それなら、今回は何の心配もなく楽しませたいという老婆心も少しはあった」

 

 ダンブルドアの言葉はハリーに少なからず衝撃を与えた。

 ダンブルドアとスネイプはハリーのためにワールドカップを開催させたのだ。

 スネイプなんて夏中クラウチ氏の家を監視してまで。

 

「ごめんなさい。二人とも僕のためにいろいろ手を尽くしてくれたのに、僕、二人の心配を無視して勝手にシリウスの家に行って……」

 

 ハリーは心から謝罪した。

 これじゃあ何も知らない子供と一緒じゃないか。

 しかし、ハリーの言葉を聞いたダンブルドアは首を傾げた。

 

「はて。シリウスの家に行くのを止めた覚えはないがの。わしは君の血の護りが継続されたと確認してから、シリウスに迎えの許可を出した。手紙に書かれてなかったかの?」

 

 ダンブルドアはハリーに質問していたが、確信があるようにスネイプを見つめていた。

 スネイプは気まずそうにもじもじした。ハリーは事態が把握できていなかった。

 

「誕生日の一週間前にもらった手紙には、まだマグルの家を出るなって書いてありました。だから、僕シリウスが迎えに来た時もどうしたらいいか分からなくて、結局ついていったんです」

「それでよい。ある意味、シリウスを遣わせたことがわしからの誕生日プレゼントじゃった」

 

 ダンブルドアはまっすぐにスネイプを見つめたままだった。

 ハリーはその視線が冷たいように感じ、珍しく思った。

 ダンブルドアはいつ、どんな相手にも優しいまなざしを向ける人だからだ。

 

「手紙の書き違いがあったかもしれません」

 

 スネイプは目をそらしたまま、ぽつりとつぶやいた。

 ダンブルドアはなおもスネイプを見つめていたが、ため息をついた。

 

「まあ、よいじゃろう。ハリー、手紙のことは気にするでない。わしとセブルスの間で取り違えがあったようじゃ。何しろ、スネイプ先生はこの夏さまざまな仕事をしておるからの。次の話題に移ろう」

 

 ハリーはどこか釈然としなかったが、スネイプもダンブルドアもその事はもうなかった事にしていたため、これ以上聞かないことにした。

 それに、ダンブルドアの次の言葉で一気にそんなこと気にならなくなったからだ。

 

 

「ハリー、君の中の分霊箱はどうする?」

 

 スネイプもハリーも固まった。

 去年のクリスマス、シリウスからロケットを預かったことにより分霊箱は全て集め終わった。

 ハリーたちはその後、ハリーを殺さずに分霊箱を取り除く方法を探し続けた。

 

 だが、何一つ手がかりすら見つからないでいた。

 ハリーはこの世界に来てから覚悟していたので、すんなりと言葉が出た。

 

「初めにお話しした通り、僕の目的はヴォルデモートの復活をさせないことです。だから、悪霊の火か、グリフィンドールの剣で僕は死にます」

 

 言い切ったハリーの肩を、スネイプが勢いよく掴んだ。その手は震えていた。

 すかさず、ダンブルドアは厳しい口調で言った。

 

「セブルス、手を離すのじゃ」

 

 スネイプは素直に手を引いた。しかし、握りしめたその右手はまだ震えていた。

 ハリーの方を向いたダンブルドアは優しく声を出した。

 

「ハリー、ヴォルデモートを復活させ、あの者に君を討たせれば君は生き残ることができる」

「ヴォルデモートが復活すれば必ず犠牲になる人がいます。ダメです」

 

 ハリーはまっすぐダンブルドアを見つめて言った。

 もう決めたことだった。

 ダンブルドアは何もかも見透かす瞳でハリーを見続けた。

 スネイプに比べれば、ダンブルドアは冷静だった。

 スネイプは明らかに動揺していた。

 

「君にその覚悟があるのなら、わしは同意するしかない。じゃが、そう死へ急くでない。君が死を受け入れる時間はまだある」

「どのくらい?」

 

 ハリーは聞いた。ハリーが死を受け入れることは三度目になるが、慣れる事ではない。

 

「君はどのくらい時間がほしい?」

 

 そのため、ダンブルドアに尋ね返されたハリーは面食らった。

 どのくらいと聞かれたら、十年でも二十年でもいくらでも時間は欲しかった。

 その時、スネイプがようやく口を開いた。かすれた声だ。

 

「我々が所持する分霊箱だけ先に破壊して、そのままにすればよろしいのでは。ポッターは生き続け、闇の帝王は魂のまま彷徨い続ける。それでよろしいではありませんか」

 

「ふむ。どう思う、ハリー」

 

 スネイプの発言を物珍しそうに聞いたダンブルドアはハリーに尋ねた。

 ハリーは頷いて答えた。

 誰か別人について語っているような気分だった。

 

「かつて、ダンブルドア先生は僕とヴォルデモートの関係を宿主と寄生体と言いました。僕が生き続ければ、きっとヴォルデモートの力も強くなっていくと思います」

「それなら、何度でも退けばいい! 闇の帝王の力を抑え続ければ」

 

 スネイプの言葉に、ハリーは首を振った。

 

「その過程で、ヴォルデモートがいつ復活するか分かりません。僕はあいつを復活させたくない。スネイプ先生やシリウスや他のみんなが生き続けられる世界になれば満足です」

「死にたいのか、ポッター」

 

 スネイプはハリーを見た。

 土気色の顔から血の気が失せて、死人のようだった。

 ハリーは頷くことも否定することもできなかった。

 スネイプはダンブルドアを振り返って言った。

 

「あなたはポッターの考えを分かっていたから、ワールドカップも開催させたのですね。ポッターに最後の思い出を作らせるために。ブラックの所にさっさと送り込もうとしたことも」

 

 ダンブルドアは鷹揚と頷いた。

 

「そうじゃの。だが、ハリーが本当に楽しむことが出来たかはまた別じゃ。誰かがシリウスの家に行くのを止めようとしたらしいからの」

 

 スネイプは再び気まずそうに顔をそらした。

 このやり取りを見たハリーは流石に、スネイプが手紙に嘘を書いていたのだと分かった。

 どうしてそんな嫌がらせをしたのかは分からないが、おかげで夏休みはスネイプに謝り通しだった。

 だが、今はそんなことは些細なことだ。

 ハリーはもう一度覚悟を決めてダンブルドアを見た。

 

「前の世界で、僕は七年生の時にヴォルデモートと決着をつけました。だから遅くても卒業までに終わらせたいと思います」

「妥当じゃの」

 

 ダンブルドアは頷いた。

 ハリーがホッとしたのは、ダンブルドアが哀れんだり、感傷的に泣いたりしなかったことだ。

 これから受け入れる死を哀れに思われると、ハリーは途端に惨めな気持ちになる気がした。

 

 かつてのダンブルドアは、自分の寿命が残り一年であると言われても、うろたえずに受け入れた。

 今のハリーはその時のダンブルドアと同じ気持ちになれたような気がする。

 それに、まだあと四年近くあるじゃないか。

 

 

「悲観的になる必要はない。残りの時間でハリーの分霊箱を破壊する方法を探し続けるのじゃ」

 

 ダンブルドアが淡々と告げ、ハリーも頷いて校長室を出た。スネイプは校長室に残ったままだった。

 

 ハリーとスネイプはどことなく気まずいままであったが、学生生活は滞りなく進んだ。

 ボーバトン校とダームストラング校から学生が来て、学校代表にはフラー・デラクール、ビクトール・クラムが選ばれた。

 勿論、ホグワーツ代表はセドリック・ディゴリーだ。

 

 ハリーは自分の名前が呼ばれなかったことにホッとした。

 これで学校中から責められてロンとの仲を悪くすることも、リータ・スキータにでたらめ書かれることもない。

 

 ちなみに、フレッドとジョージは年齢を偽って立候補しようとした。

 老け薬を飲むだけでなく、炎のゴブレットに錯乱の呪文をかけた。

 シリウスの悪知恵らしい。

 しかし、双子程度の術が効くわけもなく、返り討ちにされていた。

 

 

 第一の課題の前に、一つ困ったことが起きた。

 セドリックだけがドラゴンを課題にすると知っていないようだった。

 ハリーは今回セドリックに課題を知らせる人がいないことに気づき、どうやって伝えてやろうか慌てた。

 フラーもクラムも先生経由でもう知っているようだったからだ。

 

 ハリーは仕方なく、以前と同じように廊下でこっそりとセドリックに知らせた。

 セドリックはなぜハリーがそんなことを知っているのか疑ったが、それとなくハグリッド経由だと伝えれば納得したようだった。

 そのせいで、課題を終えたあともセドリックはやたらハリーにフレンドリーになってしまったのだった。

 

 観客席で迎えた第一の課題。ハリーは感動で胸がいっぱいになった。

 なんの問題も起こらず、気楽にロン達と話しながら試合を観戦できたことのなんたる幸せ。これこそ、ハリーが求め続けた平穏だった。

 観戦中、ロンは同じ学校のセドリック、憧れのクラム、そしてまた別の意味で憧れのフラーを応援するのか随分と迷っていた。

 ハリーはハーマイオニーと一緒にそんなロンをからかうのを楽しんだ。

 結局、第一の課題の結果は一位がクラム、二位はセドリック、三位はフラーだった。

 

 

 クリスマスが近づくにしたがって、学校中の生徒が浮足立った。

 なぜなら、それがダンスパーティの近づきも意味していたからだ。

 ハーマイオニーにクラムが近づいていることに気づいていたが、ハリーは何も言わないでいた。

 ロンはハーマイオニーを誘おうともしないでいたからだ。

 

 

 ハリーはもちろんジニーを誘う気でいた。

 だが、ジニーが断るわけないと分かっていたため、すっかり安心しきってしばらく動かずにいた。

 学年の違うジニーと中々会えない日々が続いていたし、ひっきりなしにハリーを誘う女の子たちが邪魔をしてきたからだ。

 

 今回のハリーは学校代表でもないのに、どうして女の子に誘われるのかハリーには理解できなかった。

 すると、ハーマイオニーが恐ろしい顔で言った。

 

「誰もが英雄のあなたを誘いたいでしょうね。あなたって大人みたいに落ち着いていて、スリザリンとも分け隔てなく仲良くしているから人気なのよ。気づかなかったの?」

 

 確かにスリザリンでもハリーを誘おうとした子がいた。勿論断った。

 なおも首をかしげるハリーにハーマイオニーは凄んだ。

 

「さっさとジニーを誘いなさい。そうじゃないと恐ろしい事が起きるわよ。どうせ何も言っていないんでしょう、あなた」

「確かにまだ誘っていないけど、僕がジニーを誘うのなんて予想できるだろう?」

「ジニーがそう思っているかは分からないわよ。どうして男の子って何も言わないで平気なのかしら」

 

 プリプリしながらどこかへ行ってしまったハーマイオニーを見ながら、ロンがささやいた。

 

「なあ。ハーマイオニーの奴、誰にも誘われないからイライラしてるんじゃないか」

「まさか。でも、ハーマイオニーのあの言い方ってなんなんだろう」

「君がジニーに告白するのを急かしてるみたいな口ぶりだ。おい、言っておくけど、ジニーに告白するなら先に僕やフレッド、ジョージにお伺いを立てろよ。僕らはジニーの兄として」

「ダンスパーティに誘うのは構わないだろう?」

 

 ハリーは呆れながら言った。

 前の世界では、ハリーとジニーが本格的に付き合い始めたのは学校を卒業してからだった。

 だから、その時のことを考えると四年生で告白するのはまだ早い気がした。

 今の、子どものようなじゃれ合いをするので十分楽しかった。

 

 それに、一足飛びにジニーに告白をして付き合うことにハリーは躊躇していた。

 卒業までの命と決まっているハリーが今、告白するのか。

 それならこのまま中途半端な関係をつづけた方が良いのかもしれない。

 その悠長さが良くなかったのだろう。

 

 

 ジニーがネビルと一緒にダンスパーティに行くというニュースがハリーの耳に届いた。

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