ハリーポッターとまどろみの逆行 作:ユフィ
久しぶりに歩くホグワーツは記憶通りの場所だった。
大人になってからも何度か来たことはあったものの、そういう時はいつだって何か気にかかることがあって、ゆっくり歩いて回るなんてことはできなかった。
といっても、今のホグワーツにはハリーの知っている痕跡はまだ残っていない。
五年生の時、ジョージとフレッドがアンブリッジの目の前から逃げ出した時に使った携帯沼地で作った沼もまだなく、平凡な廊下のままだ。
ハリーはその時のことを思い出してニヤリと笑った。
アンブリッジとフィルチをまとめて懲らしめたあの双子はハリーに希望をくれた。
暗いことの多かったあの世界を明るく照らしてくれたあの二人は偉大だった。あの双子こそ間違いなく英雄だろう。
だからこそ、今回は二人とも五体満足でいてほしいと思った。
廊下から地下牢へ足を進めると、ひんやりとした冷気が漂う。
薄暗い。
ハリーはかつてスネイプから受けた閉心術の授業の時に通った部屋の戸をたたいた。
カツカツと足音が戸へ近づくのが聞こえ、扉が開いた。
「何か御用かな」
セブルス・スネイプだ。
かつては憎く思っていたその記憶のままの姿が今、目の前にある。
ハリーは何か熱いものがこみ上げてくるのを我慢しながら言った。
「初めまして。もうご存知でしょうけど、僕はハリー・ポッターです。スネイプ先生にお話があります」
スネイプはてっきり誰か先生が訪ねて来たと思っていたため、ハリー・ポッターと名乗る少年がいる事に戸惑った。
しかも、憎らしいジェームズ・ポッターにそっくりなこの少年は「もうご存知でしょうけど」と言った。
ああ、そうであろう。
これだけ父親にそっくりなのは彼の息子ぐらいだから、一目見れば確かにハリー・ポッターと分かる。
さらに腹立たしいことに、少年はリリーの瞳を持っていた。
「君がホグワーツに入学することは決まっているとは言え、君はまだここの学生でなく、新学期も始まっていない。随分気が早いようだが、どうやってここまで来た?」
「ホグワーツにはダンブルドアに連れて来てもらいました」
傷跡のことを調べるためだろう。
ハリーの姿を見た時点で予想はついていたが、だからといって進学前の学生にホグワーツをうろつかせるのは厚遇すぎるのではないか。
こういう特別扱いは子ども特有の思い上がりの元になる。
「それで、話とは何かな。先に言っておくと、吾輩は教師として一生徒を、しかも入学前で初対面の生徒を特別扱いしたいとは思っていない」
「ええ、分かっています。でもとても大切なことです。僕は普通の生徒じゃありません」
スネイプが苦々しく思いながら顔をしかめた。
この子供は既に思い上がっているようだ。
「英雄である事をひけらかしにわざわざここまで来たのかね」
スネイプの瞳には軽蔑の色がはっきりと浮かんでいた。
だがスネイプの睨みにひるむこともなく、ハリーは間髪入れず答えた。
「違います。僕は未来から来ました」
「失礼、どこから来たと?」
「未来です。もしよろしければ中に入れてもらえませんか」
「よろしければ?……よかろう。だが、突如現れた君は不審人物だから茶が出るなんて甘いことを思わないでいただきたい」
スネイプはハリーを入れるか逡巡したものの、少年の荒唐無稽な話を聞く気になったようだ。
杖を一振りして、椅子を二つ出して片方を軽く顎でしゃくった。
「ダンブルドアのところでいただきましたからお構いなく。それに、お話が済んだら二人で校長室へ行くように言付かっています」
ハリーはスネイプの指した方の椅子に腰かけた。
粗末な地下牢には似合わない座り心地の良いソファだった。
スネイプは向かいのソファの肘おきに肘を置いてしっかり座ったが、その手には杖が握られたままだった。
「随分と丁寧な言葉遣いが身についているようだな、ミスターポッター」
「なんなら、僕はあなたよりも年上です」
「もしそれが面白い冗談のつもりなら考えを改めた方が良い。吾輩より年上だと?」
「そうです。それに僕には三人の子供もいます」
「君の話によっては校長室より先に聖マンゴへ連れて行って差し上げよう」
「ええ、聖マンゴでもアズカバンでもどこでもいいですよ。まずは僕の話を聞いてください」
ハリーはさっきダンブルドアに話したことをもう一度繰り返した。
話の途中、ハリーが一度死んだことを話した時、スネイプは目を見開き何かを言おうとしたが、ハリーはそれを押しとどめて最後まで話した。
スネイプは初めこそハリーの語る未来が嘘であることを暴いてやろうと思いながら聞いていたが、聞いているうちにそれが真実であると信じえざるをえなかった。
今のダンブルドアも既にヴォルデモートの再来を予期していて、ハリーの語る事は確かに起こりうることであったから。
長い沈黙が訪れた。
ハリーはスネイプがこの膨大な情報を処理するまでいくらでも待つつもりだった。
今ならその時間がある。
そして、沈思黙考していたスネイプは伏していた目をハリーに向けた。
「一度死んだと言ったが、君は屠殺される豚のように生かされた運命を受け入れたのか?」
「スネイプ先生もヴォルデモートに殺される運命を受け入れていました」
「そうだろう、吾輩の場合は。ときには代償は支払わねばならぬものだ」
「ええ。僕も僕がその代償の一つだと思っていました」
スネイプはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「成人したばかりの君がかね?ふん。ダンブルドアは君が生き返ることを予想していながら何も伝えなかったのだな。君にも、吾輩にも」
「そうです。もし知っていたら上手くいかなかったかもしれませんから」
「しかし、今それを全て知ったとなっては、もはや同じようにはできまい」
「もちろんです。僕はあなたにもダンブルドアにも、それに他の人にも死んでほしくないです。もう僕のために死ぬ人を見たくありません」
スネイプはせせら笑いを隠そうともせずに言った。
「勘違いしているようだが、ポッター。誰も君のために死ぬのでなく、世界を救う代償として死んでいるだけだ。過ぎた自意識は傲慢の元であろう」
「けど、結果的にはそうなっています。僕に巻き込まれて死んだセドリック・ディゴリーは何が起きたのかすら分からないまま死にました。僕のせいで死にました」
「手を下したのは闇の帝王ご自身だ」
「僕は止められませんでした。セドリックも、他の人の死も。けどこの世界なら違います」
スネイプは考えるように顎に手をやり、口をゆがめながら言った。
「それで?全ての人を救おうというわけか。そして今の自分ならそれができるとお思いで。やはり随分と傲慢だな、ポッター」
「僕の世界のスネイプ先生にもよく言われました。父親譲りの傲慢だと」
「さぞかし、向こう見ずで愚かな子どもだったのであろう」
「先生。僕には記憶があり、ダンブルドアもあなたも生きています。僕はこう見えて魔法法執行部の部長も務めたことがある闇祓いです」
「君が部長とは随分平和な世界だな」
「その平和な世界に導いたのはあなたです」
沈黙が流れた。スネイプは何を言えばよいか思いあぐねているようだった。
「僕が知る中で最も勇敢な人はあなたです。僕はあなたとダンブルドアの名前をもらって、次男にアルバス・セブルス・ポッターと名付けました。そしてその子はスリザリンで、善良なとても素晴らしい子です」
「息子がアルバス・セブルス・ポッターで、スリザリンだと?」
「そうです。その子もあなたに助けられました」
「すでに死んでいる吾輩がどのように助けると言うのだ?」
「それは、あの…息子はタイムターナーを使って世界を変えてしまったことがあって、その時に別の世界では生きていたあなたに助けられて、世界を元に戻したことがあります」
「トラブルを巻き起こす才能を受け継いだ子供のようだな」
「ええ、でもそのおかげで救えたものあります」
スネイプはおもむろに立ち上がり、ハリーに背を向けて、小さく「アルバス・セブルス・ポッター」と呟いた。それがこれ以上にない難問かのような響きだった。
ハリーはスネイプが何を言うのか、蝙蝠のように真っ黒な背を見つめながら待った。
スネイプは背を向けながら言った。
「一体どんな錯乱の呪文を受けて、その世界の吾輩が手を貸したかは分からない。だが、どうやら吾輩はどの世界であろうとポッターを助けねばならない最悪な運命にあるようだ。どのみち君が入学したら陰から守ることは決定していた」
沈黙ののち、スネイプが振り向いた。
会話はそこで終わり、二人は校長室へ向かうため廊下に出た。
「君は次男と上手くいっていたのかね」
「正直言って、長い間お互い勘違いをしたままでした。僕の息子であることで彼はずっと苦しんでいました。間抜けにも僕は気づいていませんでした」
「ポッターでありながらスリザリンでいることはさぞかし重荷だったろう」
「ええ。けど、アルバスがスリザリンであろうとグリフィンドールであろうと僕の過ちは変わらなかったと思います。僕は良い父親とは言えませんでした」
「感動的な親の心遣いだ。子どもがスリザリンだったのは吾輩の名の影響かもしれん。名付けは慎重に行った方が良いぞ、ポッター」
「ちなみに長男の名はジェームズ・シリウス・ポッターです」
スネイプはあからさまに顔をしかめた。
「この世の悪夢を全て詰め込んだような名だな」
「あなたにとっては良い思い出は無いでしょうけど、僕の父と名付け親です。けれど、悪戯好きに育ったので名前の影響はあるのかもしれません」
「三代続けてポッターに悩まされなかったのが、そちらの世界の吾輩の幸いかもしれん」
「あと、娘にはリリーと名付けました」
スネイプが足を止めた。
「ほう?」
スネイプは再び歩き出したものの、彼が興味を持ったことは明らかだった。
校長室のガーゴイルはもう目と鼻の先であった。
「妻に似た赤毛の女の子です。僕の妻はホグワーツ一の美人ですからそこも受け継いだ可愛い子です」
「赤毛の」
「瞳は僕に似ています」
「つまりリリーの瞳を持つ赤毛の少女ということか」
「そうですね。そして美人の妻に似た顔立ちの子です」
「君が娘も妻も溺愛していることはよく分かった。ポッター」
「娘だけでなく息子たちも変わらず愛しています」
「よくそう寒々しい言葉がスラスラ出てくるものだ」
「半ばダンブルドアに育てられたようなものですから」
「なるほど。それは納得だ」
ガーゴイルはスネイプが合言葉を言う前に開いた。
スネイプは何も言わずにズンズン進んでいった。ハリーもそれに続いた。
「ハリー、君が愛の力を知っておることは、君の世界のわしも誇りに思うだろう。もちろん、今のわしも」
階段を上った二人を迎えたダンブルドアがニコニコしながらそう言った。
ガーゴイルの近くでしていたスネイプとの会話が聞こえていたみたいだ。
スネイプは気まずそうに顔をそむけた。
ハリーはニヤッとするのを抑えられなかった。
ハリーと目が合ったダンブルドアは楽しげにウィンクした。
「さて、ハリーがわしに話してくれたように、未来のことをすっかりスネイプ先生に話してくれたであろう。そして、素晴らしいことにスネイプ先生もそれに協力してくれるようじゃ」
「吾輩の意思に関係なく、あなたとポッターがそうさせたのでしょう」
「いやセブルス。君は自分の意思でそうするのじゃ。もう気づいておろう」
スネイプは何か言いたげにジトっとした目つきをダンブルドアに向けたものの、ここで話を止めることは賢明でないと判断したようで、黙ってソファに座った。
ハリーにも座るように目を向けた。
ダンブルドアとスネイプのやりとりは記憶で見たものの、こうして目の前にすると以前とはまた違った印象を抱かせた。
ハリーは自身がスネイプより年上のせいもあるのか、以前は恐ろしく大きな存在に感じていたスネイプが、今は若さの残ったただの教師に見えた。
魔法薬学の授業でさんざん恐れられてきたあのスネイプも、ダンブルドアの老獪さにかなわず、たじたじになっているのはなんだか新鮮だった。
ハリーの視線に気づいたのだろう。
スネイプは思いっきり凶悪な一瞥をくれたが、ダンブルドアの手前、いつものような嫌みを言う気にはならなかったようだ。
ダンブルドアに話を続けるよう促した。
「それで?ポッターはこれから何が起こるのかも、闇の帝王と戦う術も知っている。恐れ多くも彼は全ての犠牲を回避しようと考えている」
「それは勇敢じゃの」
「それか途方もなく向こう見ず」
「それがどれだけ難しいことか分かっておろう、ハリー」
ダンブルドアはスネイプの言葉を流してハリーに話しかけた。
ハリーも頷いた。
「まず、ヴォルデモートの分霊箱をすべて破壊しようと考えています。そして、ペティグリューを捕まえてシリウスを開放します」
「そうするとヴォルデモートを復活させるものはいなくなるのう」
「できれば、ヴォルデモートは復活させないで事を終わらせたいと思います」
「ならぬ」
「どうしたのじゃ?セブルス」
「校長も気づいておられるのでしょう。ポッターの言う通りであるなら、リリーの血の守りを入れた闇の帝王自身の手にかかってポッターが死ななければ、その後こやつが生き返る事もできない。闇の帝王なしにこやつを殺せば命をつなぐものが 無くなってしまう」
スネイプはギロリとハリーを睨みつけた。
「まさかポッター。自分からバジリスクの牙に貫かれるか、悪霊の火の中に飛び込むつもりか、それか校長のニワトコの杖で殺されるつもりではあるまい?」
「けど、そうすればヴォルデモートが復活しなくても分霊箱を壊し、倒すことが出来ます。先に分霊箱を壊して、僕も死んでしまえばヴォルデモートの魂は死ぬでしょう」
「この世界でも自分の命を差し出す気か?大した自己犠牲の精神だ」
「僕は一度死にました。前の人生では十分長生きしました」
「娘のホグワーツ卒業も見ずに死んで長生きだと?リリー・ポッターの遺した子どもが世界のために死ぬのを一度ならず二度も見逃せと言うのか」
「先生、さっきもおっしゃいましたが僕はあなたより年上です。ぜひとも次はあなたやシリウスたちに長生きしてほしいです」
「四十二じゃ、大して年は変わらないし、今も昔も君がリリーの子であることに変わりない」
「けど、それじゃあまたヴォルデモートの復活を眺めていろと?同じことを繰り返せと?」
ダンブルドアが二度、手を鳴らして白熱する二人の口論を制した。
気づかぬうちに二人は向き合って言い合いをしていて、ダンブルドアの存在を忘れていた。
「君の中の分霊箱を壊す方法は、これから探そう。ハリー。それ以外の分霊箱を壊すことにはわしも賛成じゃ。今ならばあの者も体をもっておらぬ。破壊されたことにも気づけないであろう。それは良いかの?セブルス」
「もちろん。しかし破壊は吾輩が行う方がよろしいでしょう。中身は四十二でもこの小さな身体じゃ十分な力があるか分からぬ」
それこそがハリーにとって重大な問題だった。
「今の僕は杖が無いと何もできませんし、おそらく魔法の力も子供のころに戻っています。姿あらわしは出来ませんでした」
「じゃあ、どこに分霊箱があるかだけお教え願おう。あとはこの時代の者に任せるのだ」
「いえ、先生一人では危険です。破壊するときは僕も行きます」
「姿あらわしもできない子供を連れて闇の帝王の遺した分霊箱を破壊しろと?」
「先生は分霊箱についてご存じないでしょう。あれは壊されないように狡猾な罠を張っています」
「なら、どんな罠があるのかも教えればよかろう。君が近づく必要はない」
「いいえ、言っておきますけど、分霊箱に関してこの世界で一番のエキスパートは僕です。ヴォルデモートを除いて」
また言い争いが勃発しそうな気配を感じて、ダンブルドアはもう一度二人を制した。
「わしはハリーに聞きたいことがあってここに連れて来た。そして、わしの聞きたいこは全て聞けた。これらの用を果たした彼が次に果たすべきは学用品の買い出しじゃ。ハリー、ホグワーツに通わずに分霊箱を探すなんてことは校長として許せることではないからの。よいな」
不平を言いたそうなハリーに対しダンブルドアは厳しく念を押した。
なおも何か言おうとしたハリーに対してスネイプはねちっこく言った。
「賢明な英雄殿であれば気づくであろうが、もしもハリー・ポッターがホグワーツに通わずどこかをほっつき歩いていたら世間はどう思うことであろう。まさか元・魔法法執行部の部長殿がそんなことも気づかないわけがなかろう」
ハリーははっと気づき押し黙った。
スネイプのいう事をすぐに悟れなかったことが恥ずかしかった。
ダンブルドアは再びニコニコしながら、
「それじゃあ、セブルス。ハリーの学用品を一緒に買ってきてやっておくれ」
と言った。
おまけ★ハリーを迎えに行く前のスネイプとダンブルドアの会話★
「ハリー・ポッターの傷跡が痛んだらしい」
校長室に呼ばれたスネイプは促されたソファに腰かけることなくその言葉を聞いた。
ダンブルドアの真剣な表情から事態の深刻度が図れる。
「まさか闇の帝王が復活したと?」
「そこまでは分からぬ。ハリーを見守っている者が聞いたところによると、ハリーは何か嫌な夢を見ると痛むようじゃ。それが何の夢かまでは覚えていないようじゃが」
「子供の気の迷いという可能性は」
「更に言うと。あの子は最近自分が死んだ夢を見たようじゃ。それだけなら単なる悪夢かと思ったが、その夢以降、あの子は妙な落ち着きを持っているみたいだ。子ども特有の癇癪を起さず、きわめて冷静に、それこそ大人のように……腕は?」
「兆しは何も」
スネイプはローブをめくり、不健康に白い腕を見せた。
ダンブルドアは刻まれている闇の印を注視した。
「君の腕に変調が訪れていないことを考えると、早すぎる前兆なのかもしれない。それか……」
「すでに闇の帝王がポッターを乗っ取ったか」
「もしそうであるなら、賢者の石をホグワーツに移すのはかえって危険じゃ。二フラーと宝石を同じカバンに仕舞うようなもの」
「しかしあの子にはリリーの守りがかかっているはずです、闇の帝王が乗っ取るなど」
「確かにリリーの守りは外からの敵を防ぐであろう。しかし、もしハリーの内からヴォルデモートが芽生えているとしたら?」
「あの子が闇の帝王になるということですか」
「分からぬ。だが、わしの予想だとそんなことが起きるはずはないのだが」
「しかし、我々が相手にしているのはあまりに未知なる魔法であり、闇の帝王の力は絶大です。何が起きるか分かりません。あなた以外にあの方に敵う人はおりません」
「年寄りを持ち上げてくれるの。さてセブルス、あの子を迎えに行ってはくれないか」
スネイプはダンブルドアをじっと見つめた。
「それは命令ですか」
「お願いじゃ」
「ならばお断りします」
「頼む」
「仮に、あの子が本当に闇の帝王の一部になりつつあるとしたら、あの子は死ぬ運命にあるでしょう。ペチュニア・ダーズリーから甥を引きはがす役目をさせるのですか」
「おお。そういえば幼馴染であったか」
「もうあの者に会いたくはないし、あの者も吾輩の姿を見ればひどく興奮して冷静に話すことなどできないでしょう」
「そうは言っておるが、ペチュニアがハリーを手酷く扱っているのを見たくないのではないか。あの家は君が招いたあらゆる罪をありありと示している」
スネイプが激昂した。
「吾輩が、リリーを殺した罪から逃れようとする臆病者だとおっしゃるのですか?彼女への贖罪のためにこうして今もあなたに全てをささげている。それなのに……」
「罪とは必ずしもリリー・ポッターの死を指しているのではない。君がペチュニアの魔法嫌いや、リリーを憎む姿を見たがらないのかと思っての」
「あの女は元々魔法を嫌っていた。吾輩がリリーと話していれば必ず邪魔をしてきたし、元々リリーを憎んでいた」
「そうか、分かった。君がそこまでダーズリー家に行くことを拒むのであれば無理強いはせぬ」
「……」
スネイプは何も言わなかった。むしろ、言いたいことがあまりにも多くて何も言えないようだった。
ダンブルドアはやおら立ち上がり支度を始めた。
スネイプももう背を向けていた。
「それに、ハリーにわしの予想とは異なる変調が起きたということは、わし自身が事に当たった方が早いということもあるからの」
校長室の階段を降りて行ったスネイプにその言葉が届いているかどうかは分からなかった。