ハリーポッターとまどろみの逆行   作:ユフィ

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入学前の準備

 主にスネイプが反対したが、結局ダンブルドアの言葉に逆らえなかった二人はダイアゴン横丁にいた。

 グリンゴッツでハリーの金庫を見たスネイプは、

 

「これは君の父親の遺産でなく、君の父親の家の遺産である」

 

 

 と念を押していた。

 そして金庫には一歩も踏み込まないようにしていた。

 ちなみにハリーは賢者の石の金庫でうっかり前の世界でグリンゴッツ破りをした時の話をしそうになり、スネイプから黙れ(シレンシオ)を食らった。

 

「勘違いしないでいただきたいが、吾輩は君に情が移ったわけではない」

 

 グリンゴッツから出た二人がマダム・マルキンの店へ行く道すがら、スネイプはイライラしながらハリーだけに聞こえる声で言った。

 

「リリーの子がむざむざその命を無駄にするのを防ごうとしているだけだ」

 

 校長室で、ヴォルデモートの復活を阻止することより、ハリーの命を優先するような発言をしたことに、誰よりもスネイプ自身が驚いていた。

 

 ポッターそっくりな子供に自身の命の尊さを説くなんて。

 

 なるほどこの少年の世界の自分は献身的にハリーを守ったようだ。

 しかし、ハリー自身を愛して起こした行動でないことはスネイプ自身がよく分かっていた。

 別の世界であろうと自分が考えていることなのだから。

 彼の世界の自分は最後までリリーへの贖罪に死んだはずだ。

 その方がしっくりくる。むしろそうでない事の方が恐ろしい。

 

 どうにかいつもの調子を戻そうと、嫌味ったらしいことをハリーに言ったが、相手は中身四十二歳。

 ようやく黙れ(シレンシオ)が解けたハリーに、

 

「それはご親切にありがとうございます。これからの事は校長と相談しましょう」

 

 とそつなく流された。そのため、スネイプの苛立ちは増すばかり。

 

 これではまるで、本当に己の方がハリーより若造ではないか。

 グリンゴッツの小鬼の前でグリンゴッツの破り方を言いそうになったこの少年より。

 

 ハリーの見た目と、先ほどのうっかりのせいか、スネイプは彼が子供のようにむきになって噛みついてくると思っていた。

 それか、少しは傷ついた表情をすると思っていた。

 なんなら軽蔑された方がよかった。

 

 しかし、ハリーはそのどれもせず、むしろ理解のある大人の微笑みをしていた。

 ジェームズ・ポッターそっくりの顔で大人の微笑みなんて見たくなかった。

 スネイプの記憶のジェームズは子供っぽく粗野で愚かであったからだ。

 

 これ以上一緒にいるとポッターの良いところを発見してしまい、それは自分のプライドを傷つけると悟ったスネイプはハリーから離れることにした。

 スネイプが手分けして必要なものを揃えると述べれば、ハリーも「その方が時間短縮でいいですね」と頷いたのを見て、スネイプは自分の決断は間違っていなかったと思った。

 

 マダム・マルキンの店先まで送り届けられたハリーは扉を開ければ、見覚えのある男の子が丈を測ってもらっている。

 

「やあ、君もホグワーツかい」

 

 気取った感じで話しかけてきたのはマルフォイだ。

 ハリーは懐かしさを感じて笑みが漏れ出るのを我慢できなかった。

 

「僕の顔がおかしいのか?」

「いやいや、そんなまさか。えーと、君に似た知り合いがいたことを思い出して」

「僕に似た知り合い? それは魔法使いか」

「そうだよ。なかなか気の良い奴だよ」

「おかしいな。魔法界で僕に似ている人がいるのなら父上が黙っているはずがないが」

「きっと君のお父さんも会った事ないんだよ」

「いや、僕の父上は魔法省のトップともつながりがあるんだ。父上が知らない魔法使いの情報なんてあるわけがない」

「うーん」

 

 幼いマルフォイをちょっとからかってやろうと思って言ったことをここまで掘り下げられるとは思わなかったため、ハリーはどうにかして話を終わらせることにした。

 

「その魔法使いの名前は?」

「いや、すんごい昔に会ったから僕の思い違いかもしれないな。名前も知らなくて」

「ふーん、そうか」

 

 幼いマルフォイにあったのは三十年ほど前だから間違いではない。

 

「君の名前は何て言うの?」

「ハリー・ポッター」

「へえ? 君が? 僕はドラコ・マルフォイ。家は代々の純血家系だ」

 

 マルフォイは冷静に言って手を差し出したものの、ハリーには彼が驚きを必死で隠しているのが丸わかりだった。

 子どものころのドラコってこうして見ると分かりやすいな、とハリーは再び顔が緩みそうになるのを我慢しながら握手した。

 

「よろしく、ドラコ」

 

 以前の世界では大人になったドラコと仲良くなっていたため、ごく自然に名前を呼んだハリーではあるが、あまりにも親しみにあふれていたみたいで、マルフォイはきょとんとした。

 

「ごめん、馴れ馴れしかったかな、マルフォイ」

「いや、君と親しくするのは僕にとっても良いことだからね。勿論、君にとっても」

 

 早口でそう言ったマルフォイは落ち着きがない。

 

「魔法使いと言っても優秀なのとそうでないのがいるからね。付き合う相手は選んだ方がいい。ほら! あの人を見てごらん」

 

 店の外に教科書類を買い終えたスネイプが立っていた。相変わらず不機嫌そうだった。

 ハグリットだったらアイスを買って待っていてくれたのになあ、とハリーは少し残念に思った。

 

「ああ、スネイプ先生でしょ」

「セブルス・スネイプを知っているのかい?」

「うん、だってあの人と周ってるから」

「へえ、君、マグル育ちって本当だったんだ。あの人は才能のあるスリザリンの寮長だって父上から聞いたことがある。なに、僕はスリザリンに行くって決まっているからそういうことは知っておいたほうがいいだろう?」

 

 ハリーが返事する前に、マダム・マルキンが「さあ、終わりましたよ、坊ちゃん」と言った。

 先に丈を合わせていたマルフォイはひらりと踏み台から跳び降りた。

 

「じゃ、ホグワーツでまた会おう。ハリー」

 

 そして、ウキウキした様子で外に出て、スネイプに何か言っているのが見えた。

 どうやら挨拶をしているようだった。

 スネイプは突然のことに戸惑いつつも、礼儀正しいマルフォイの挨拶にまんざらでもない様子だった。

 その後もしばらく話をしているようだったが、マルフォイが何かを言った途端、スネイプはカッと目を見開いてハリーを睨みつけた。

 

 

「いつの間に、ドラコ・マルフォイそっくりの魔法使いに会ったのかね君は」

 

 ハリーが店から出たとたんスネイプは冷え冷えと言った。マルフォイはもういなかった。

 

「前の世界では会った事があったので」

「貴様の頭に脳はないのか。愚か者! マグル育ちの貴様が一体いつ、どこで魔法使いに会ったのかあの子は不思議に思っていたぞ」

「えっそんなことまで話してたんですか。すみません、まさかそこまで大事になると思わなくて」

「それで吾輩より年上とは大したものだ。グリンゴッツの時といい、知能まで子供に戻っているのではないか? よくそれで分霊箱の破壊に関わろうと思ったものだ。そもそも、いくつになろうと元の知力というのはたかが知れているのだから……」

 

 やけに生き生きと皮肉を言いだしたスネイプにハリーはげんなりしながらオリバンダーの店に飛び込んだ。だが、なぜかスネイプも一緒に店に入った。

 

「手分けして買わなくていいんですか?」

「だから必要なものはもう揃えてある」

「さっきの間に全て?!」

「君とは仕事の速さが違うのだよ、ポッター」

「いらっしゃいませ」

 

 話し込んでいた二人は、突然の柔らかな声に跳び上がった。オリバンダーがいた。

 

「おお、そうじゃとも。まもなくお目にかかれると思ってましたよ、ハリー・ポッターさん」

 

 オリバンダーがハリーに近づいた。

 

「お母さんと同じ目をしていなさる。君のお母さんは妖精の呪文にぴったりの杖を買われていった。二十六センチ、柳の木、振りやすい」

 

 銀の瞳は気味悪いほど輝いていた。

 

「そしてお父さんは二十八センチ、マホガニー、よくしなる。どれより力があり変身術に最高の杖じゃった」

 

 オリバンダーがハリーの傷跡に触れた。

 

「悲しいことにこの傷をつけたのもわしの店の杖じゃった。三十四センチ、イチイの木。とても強力な杖じゃったが、間違った者の手に……」

 

 悲しそうに首を振ったオリバンダーはスネイプに気づいた。

 

「セブルス・スネイプ! 魔法薬学での名声は聞いておるぞ。三十五センチの黒檀、曲がりにくい。そうじゃったな」

「いかにも」

「さて、ポッターさん。拝見しましょうか」

 

 ハリーは右腕を伸ばし、オリバンダーは慣れた手つきで隅々の寸法を測った。

 測っている間、老人は杖の講釈を垂れていたが、一度聞いたことのあるハリーはその半分も聞いていなかった。

 そしてオリバンダーが次々と持ってくる杖を、振ってはひったくられてまた振って、と繰り返した。

 

「次は、そうじゃ、めったにない組み合わせじゃが、柊と不死鳥の羽根、二十八センチ、良質でしなやか」

 

 ハリーは自信たっぷりに杖を振り下ろした。

 失っていた半身をやっと手に入れたようにしっくりときた。

 杖も喜んでいるように虹色の火花を散らした。

 

「すばらしい。ほんとうに、すばらしい。そして不思議なものじゃ。まさか、その尾羽根の兄弟杖があなたに傷を負わせるとはの」

 

 ハリーの隣でスネイプが息を飲んだ。

 

「さよう。杖は持ち主を選ぶ。ポッターさん、あなたは偉大な魔法使いになるだろう。ある意味では『例のあの人』も偉大なことをしたわけじゃから……」

 

 ハリーもスネイプも言葉少なに店を出た。

 

 

 必要なものを揃えたため、さっさと帰ろうとしたスネイプを引っ張りながら、ハリーはイーロップふくろう百貨店へ入った。

 店の奥で、雪のように白く美しいふくろうが羽根に頭を突っ込んで眠っていた。

 意外なことにスネイプが買ってくれた。あまりの衝撃的事態にハリーはクィレル先生のようにどもりながらお礼を言った。

 

「大人の君もペットを欲しがるのだな」

 

 鳥かごをハリーに押し付けながらスネイプは言った。

 

「ヘドウィグはこの世界で唯一の友達ですから」

 

 そう言って、ヘドウィグをかご越しに抱きしめていたハリーは、その時のスネイプの表情を見ていなかった。

 

 入学に必要なものの購入を終え、マグル界に戻ったハリー。

 彼にとって、夜中に放したヘドウィグが持ち帰る『日刊預言者新聞』とダンブルドアの手紙が主な情報源だった。

 と言っても、スネイプが代筆していたため、ハリーは彼の神経質そうな文字を読むのに慣れた。

 

 校長はホグワーツ入学間際のハリーをアピール目当てに公の場所に出そうとするファッジや新聞記者に追いかけられているらしく、夏休み中はホグワーツに入る事もダンブルドアに会う事もできなかった。

 ヴォルデモートの死後しばらくもひどかったらしい。

 

 代わりに、ロンドンで待ち合わせてスネイプと会うようになった。

 マグルの目からも魔法使いの目からも逃れられるような場所でこっそり相談を重ねた。

 ハリーは一年目で何が起こったのか詳細に語った。

 スネイプ曰く、事前に賢者の石をホグワーツに移したと伝えられていたクィレルはグリンゴッツに押し入っていないらしい。

 

 ハリーはできることならクィレルの後頭部にヴォルデモートが寄生するのを止めたいと思っていた。

 ダンブルドアもそれに賛同したため、校長の名の下、新学期は定期的に教員の身体検査を徹底すると通達したためヴォルデモートを体に取り込むことはないはずだ。

 だが、ダンブルドアの言を継いだスネイプから、

 

「ヴォルデモートに心酔して、自ら進んで取り込んだ場合、クィレルを助けることはできない」

 

 と言われた。

 その場合、ハリーはまた人を殺さなくてはいけないため、気持ちがずしりと重たくなった。

 その姿を見てスネイプは不思議そうに尋ねた。

 

「闇の帝王に与する者の命を奪うのも気が重いか。君にとっては正当防衛だろう」

 

 ハリーは首を振った。

 

「ピーター・ペティグリューはヴォルデモートの家臣でしたけど、たった一度僕を殺すのを躊躇しただけであっけなく殺されました。ヴォルデモートの手下というだけで躊躇いなく殺すのはヴォルデモートと同じような気がします」

「甘いな」

「分かってます」

 

 ハリーの瞳に暗い影が落ちた。

 ハリーと頻繁に話すようになって、そういう瞳をした時は決まって過去を思い出しているとスネイプは気づいた。

 

「ダンブルドアは君の意思を最大限尊重するだろう。ところで分霊箱についてだが、まず破壊せず校長の元に集めることにした。そしてまとめて破壊する」

「いつ取りに行きますか」

「学期が始まってからだ。その方が魔法省の監視は少ない」

「クリーチャーが持つロケットはシリウスがいないと取れません。ゴーントの指輪は邸に行けば見つかります。ハッフルパフのゴブレットはベラトリックス・レストレンジの金庫にあります。また金庫破りをしますか? (この時スネイプが眦をつり上げた)そして必要の部屋にレイブンクローの髪飾りがあります。リドルの日記はルシウス・マルフォイが持っています」

「指輪と髪飾りは既にダンブルドアが動いている。問題はそれ以外をどう集めるか、だ」

 

 ハリーは顎に手を当てた。

 

「アズカバンにいる人の金庫って開けられないんですか」

「本人か、カギを持っていないと難しい。しかもそれは魔法省の管轄だ」

「うーん。それとスネイプ先生がマルフォイから日記をもらうことはできませんか」

「交渉次第であろうが容易ではない」

 

 ハリーは頭をかきながらうなった。

 

「あまり動きすぎると僕と先生たちが魔法省に目を付けられてしまいますし、動かないでいるのももどかしいですね。……クィレルにヴォルデモートの所に連れて行ってもらって戦えればいいのに」

「やめろ」

 

 スネイプが顔をしかめたが、ハリーは気にせずおどけた口調で続けた。

 

「やあクィレル先生、ちょっとお聞きしたいんですけど、あなたが仕えているヴォルデモートの所に連れて行ってくれませんか? なーに、ちょこっと触って砂にするだけで……」

 

 スネイプが杖を仕舞っている懐に手を入れようとしたのでハリーは口をつぐんだ。

 

「ポッター、まじめに考えろ。君が未来を知っていることは誰にも悟られてはならない。特に闇の帝王には」

「そもそも、どうして賢者の石をすぐ破壊しないのでしょうか」

「闇の帝王の行動をできるだけ制限するためだ。壊れたと分かれば、それこそ君の血と家臣の肉を使って復活を試みるだろう。近すぎず遠すぎずの場所に引き付けておいた方が良いとダンブルドアはお考えだ」

「あっなるほど」

 

 そんなことも分からないのか、睨んでくるスネイプの心の声が聞こえた気がしたハリーだった。

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