ハリーポッターとまどろみの逆行   作:ユフィ

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賢者の石
一年生の始まり


 学校生活はつつがなく始まった。

 マクゴナガルとスネイプに絞られ、ハーマイオニーと衝突するロンをなだめ、失敗ばかりのネビルをフォローする生活は以前と同じだった。

 

 ちなみにハリーは、いびりを少しは手加減するようにスネイプに頼んだら、「それはそれ。これはこれ」との返答をもらった。

 むしろ、裏で協力関係にあるのがバレない様に以前以上に当たりが強くなったようにも感じた。

 だが、スネイプの目に若干の優しさが見えているのに気づいていたため、ハリーは以前のような憎しみを感じることもなかった。

 

 残念だったのが、仲良くなれたと思えたマルフォイの態度が以前と同じようになってしまったことだ。

 彼は飛行訓練の時にスリザリン生と共にネビルを馬鹿にし、思い出し玉を持って飛んで行ってしまった。

 

「待ってよ、ドラコ」

「来いよ、ポッター!」

 

 ハリーは以前と違い挑発に乗ったのでなく、マルフォイをなだめるために箒に乗った。

 なぜだかマルフォイが止めてほしそうな顔をしていたように感じたからだ。

 そして、もはや反射神経で落ちていく思い出し玉を取り、興奮するマクゴナガルに連れられてあれよあれよと言う間にシーカーになっていた。

 

 結果的にドラコに恥をかかせてしまったため、ハリーとしては大変不本意であった。

 更にスネイプに眉間をピクピクさせながら「シーカー就任おめでとう」と言われ、協力関係が終了してしまうのでは、と不安になった。

 

 とにかく、このままマルフォイと話をしないまま不仲になるのは嫌だった。

 そのためハリーはどうにかマルフォイと話すチャンスがないか探ったが、なかなか彼に近づけないでいた。

 

 そして箒騒動が起きてから一週間後にやっと、寮へ戻る途中の廊下でマルフォイを見つけた。ハリーは嬉しくなりながら駆け寄った。

 

「ドラコ!」

「ああ、君か。名前で呼ぶな、馴れ馴れしい」

「え?」

 

 腕を組んだマルフォイが睨みつけてくる。

 

「シーカーになった気分はどうだ?まんまと君の輝かしい栄光の手助けをしたなんて屈辱だ」

「あれは不可抗力というか。そもそも君がネビルの思い出し玉を落としたりするから悪いんだ」

「ふん。一週間経っても家柄のいい魔法使いとそうでないのが分からないのかい。グリフィンドールにいるあんな下らない連中と仲良くする君にイライラしたんだ」

「ネビルも、グリフィンドールのみんなも下らなくなんかないよ」

 

 マルフォイが口元をゆがめた。父親のルシウスにそっくりな笑い方だった。

 

「ポッター、今なら選ばせてやろう。間抜けなウィーズリーや穢れた血や出来損ないとつるむのか、由緒正しきマルフォイ家の僕と仲間になるのか」

「うーん。そうは言っても僕、グリフィンドールだからロン達と仲良くしないのは不自然だよ」

「そうか。それが君の選択か」

 

 マルフォイは背を向け歩き出そうとした。

 ハリーはそれを止めるよう慌てて手を伸ばした。

 

「あ、でもドラコとも仲良くしたいと思っているよ」

 

 ピタリと立ち止まったマルフォイが顔だけ振り向いた。

 

「ウィーズリーとも僕とも仲良くしようと思っているのか」

「どっちかを選べっていう極端だ」

「マグル育ちの君は知らないだろうから教えてあげよう。ウィーズリー家とマルフォイ家は犬猿の仲だ。本来グリフィンドールとスリザリンが仲良くするのは例の無い事だが、君はグリフィンドールの中でも特別だから僕は目をつむってあげても良いと思っているんだ」

「うーん」

 

 ハリーはマルフォイとは三十年来の付き合いもあって、言っていることも理解できなくはないと思った。

 けど、ここではっきりと決別することは避けたい。

 

「さあ、僕とウィーズリーどっちを選ぶんだ」

 

 ハリーはマルフォイのこの言い方に既視感を覚えた。

 最近じゃなく、ずっと昔にこんな事を誰かに言われたことがある。

 さて、誰だったか。黙り込んだハリーを不安そうにマルフォイが見つめた。

 

 

「あっ分かった!!」

「何だ?」

「君、ロンに僕を取られると思って不安なんだね!」

「は?」

「あーそっかそっか。下の子が生まれると上の子ってそういう不安を起こすんだよね~。別に親としてはそんなつもりちっとも無いんだけど、急に下の子に愛情全部行っちゃったって思っちゃうもんだよね」

「君は一体なんの話をしているんだ?」

「あっ」

 

 今のマルフォイは次男(アルバス)が生まてしばらくの長男(ジェームズ)にそっくりだった。

 兄弟のいる子の不安は以前の世界のロンにしっかり習った。

 今のマルフォイもそれに近いものだろうし、彼は一人っ子だから初めて直面する事態なのだろう。

 

「あ、えーと今のはマグル界で流行ってるジョークなんだよ。まあ、そんなことはさておき、僕はロンも親友だと思ってるけど、同じくらいドラコが大切だよ。ドラコと親友になりたい」

 

 ハリーはロン仕込みの言い回しを試みた。長男(ジェームズ)はこれで納得した。

 

「本当にそう思っているのか」

 

 マルフォイは伺うように上目遣いで聞いてきた。

 

「勿論。だって君は魔法界で初めてできた僕の友達だ!」

 

 ハリーは最後の一押しをした。

 迷いなく断言することが大切であり、かといって嘘をついちゃいけない。

 信頼を失った時のダメージが倍増する。全部ロンのアドバイスだ。

 いつの間にか、マルフォイはすっかりハリーに向き合っていた。

 

「……君がそこまで言うのなら、信じる。けど、ウィーズリーたちのように君の親衛隊になるつもりはない」

「ロン達をそんな風に思ったことは一度もないよ!」

 

 ハリーは本心から強く否定した。

 

「君はそうだろうさ。けど周りはそう見ていない。だから僕は君と並び立ち、競い合う存在になりたい」

「ライバルってこと?」

「そうだ。僕には古くからの馴染みはいるけれど、誰も僕と競おうとしない。マルフォイ家の名前は強いからな。でも君なら気にしないだろう?親友とやらはウィーズリーに譲る。でも君のライバルは僕だけだ」

 

 競い合う相手がいなかったのはハリーも同じだった。

 前の世界での対立は常に命がかかっていた。

 正面切って並び立ちたいと言われたことは初めてであり、今まで感じたことの無いぬくもりがじわじわと胸中に広がった。

 マルフォイが幼いからこそここまで素直に言えて、長年大人との付き合いをしていたハリーはその直球さがまぶしかった。

 

「じゃあ、僕らは今日からライバルだ。よろしく、ドラコ」

「ああ、ハリー」

 

 二人は握手を交わし、お互いの寮に戻った。

 部屋に戻ったハリーはロンに、

「あれ、ハリー。どこ行ってたの。なんだか嬉しそうだね」

 と言われた。

 

 さて、マルフォイとのいざこざが終結したハリーを次に悩ませたのはスネイプだった。

 スリザリンが今年も優勝すると考えていた彼は、少しでもグリフィンドールが有利になる状況が面白くなかった。

 夜中に校長室で分霊箱の相談をしている時も、スネイプは怒りが抑えられなかったらしく、ネチネチとハリーを攻撃しだした。

 

「目立ちたがり屋なポッター君はシーカーになることを抑えられなかった。百年ぶりの選手になる栄光なんて一度だけでは不十分だ。二度受けたってかまわないと、そう思ったのだろう」

「僕がなりたくてなったわけじゃありません!あなたの寮生をなだめたせいでこうなったんです」

「君と違ってドラコはまだ幼い。大人の君が張り合ってどうする」

 

 見かねたダンブルドアが口を挟んだ。

 

「これ、セブルス。ハリーは成り行きに任せただけじゃ。それに以前の世界と同じ結果になったことは喜ぶべきではないか」

「何も、規則を捻じ曲げてまたシーカーになる必要はなかったであろう。来年からでも…」

「セブルス。君が寮杯を欲しいと思う気持ちはよく分かる。なんせあのマクゴナガル先生も規則を破るほどだからの。だがハリーにその気持ちを押し付けるのはちと違うかの。さて、分霊箱に話を戻そう」

 

 スネイプもなおも何か言いたそうではあったが、ダンブルドアがそれを許さなかった。

 ハリーは何もスネイプに嫌味を言われるために校長室へ来ているわけではない。

 学校が始まってから一週間。

 ダンブルドアは既に指輪を取りに行っていた。

 ハリーがあらかじめ指輪をはめないように注意していたため、彼が死の呪いを受けることはなかった。

 

「必要の部屋にあった髪飾りは場所を移した。なに、前のような物の隠すための部屋でなく、本当に破壊したいと思う人だけに開けるように条件を変えた部屋に入れておいた」

「必要の部屋は必要の部屋でも、分霊箱専用の隠し場所ですね」

「そうじゃ。だからこの指輪もそこに置いておこうと思う」

「破壊はまだしませんか?」

「うむ。できれば一時に破壊したいと思う。勿論、君を除いての。なぜなら少しずつ破壊をして、その途中でヴォルデモートが復活し、わしらが破壊していることに気づいた場合、奴がまた新たに分霊箱を作ってしまうかもしれない」

「できるだけ、我々が何も知らないように思わせるということですな」

「そうじゃ。だからハリー。くれぐれもクィレルに悟られるでないぞ。君が子供以上に賢い大人であると」

 

 ハリーは気を引き締めて頷いた。

 

「さあ、そろそろ眠る時間じゃ。スネイプ先生に部屋まで送ってもらいなさい」

 

 スネイプが立ちあがったがハリーは座ったままだった。

 

「ハリー?どうしたのじゃ」

「透明マントはクリスマスに返してもらえますよね」

 

 ダンブルドアが珍しくなんて言っていいのか分からないかのように黙った。

 

「ニワトコの杖、蘇りの石、透明マント。死の秘宝が三つ揃いました」

「何を言っている、ポッター」

 

 死の秘宝の存在は聞いていたものの、ダンブルドアがそれらを集める事に憑りつかれていたことは知らなかったスネイプは無理やりハリーを立たせようとした。

 だが、ハリーは頑として動かなかった。

 

「先生が一人で指輪を取りに行ったのは、蘇りの石が目的だったこともあるんじゃないですか」

「秘宝、秘宝。死に物狂いの、人間の夢じゃ!」

 

 ダンブルドアが目に涙を溜めながらため息をついた。

 

「ハリー、君が前もって注意してくれなければわしはまたしても過ちをおかしたであろう。今も、この指輪をはめたいという欲望と闘っておる」

「何の話をしているのですか?」

 

 スネイプは何が起こっているのかよく分かっていなかった。

 

「セブルス。君は聞く権利がある。この愚かな老人が何を求め、何をしてきたのか」

「それは吾輩が今聞いてもよいものなのでしょうか。いずれ闇の帝王に下る可能性のある吾輩が」

「そんなことはさせません!」

 

 ハリーが勢いよく言った。

 

「ハリーもこう言っておる。それに、ハリーの世界のわしは結局、君に何も教えないまま君を殺してしまった。それなら君は未来の君の分まで今聞いた方が良いのじゃ」

 

 そうして、ダンブルドアはグリンデルバルドと死の秘宝を探し求めたことや妹のことを話した。

 そして、ハリーの父から透明マントを借りていたことも話した。

 

「ハリー。以前のわしは一度君に謝っていただろうがもう一度謝らせておくれ。君の運命をこのようなものにしてしまって本当にすまなかった。そして今のわしを信じて指輪を託してくれてありがとう」

 

 ハリーは静かに頷いた。

 そしてダンブルドアはスネイプに語り掛けるように言った。

 

「ポッター夫妻はわしが殺したようなものじゃ。あの時マントを借りていなければ。セブルス、本当にすまなかった。君の愛した女性はわしのせいで死んだようなものじゃ」

 

 スネイプは頭を抱えたまま黙っていた。

 

「あなたを信じてきた。そしてこれからも。…………あなたはもしもポッターに促されなければ吾輩に何も言わず仕事をさせたのですか」

「いかにもそうじゃ。未来のハリーが来たことによる変化が起きなければわしは同じことを繰り返した自信がある」

「そして吾輩はなにも知らず死んでいただろう」

「でも、今のダンブルドア先生は全て話しました!これから起きる未来は前とは違います!」

 

 必死に主張しようとするハリーをダンブルドアはとどめた。

 

「ハリー、人の本質は変わらない。わしの愚かさと狡猾さをスネイプ先生は知った方がいい。わしがしたことは許すまじことじゃ。先生に真実を明かさず動かし続けた」

「真実。それはとても美しくも恐ろしいもの。だからこそ注意深く扱わなければいけない」

 

 ダンブルドアはハッとしてハリーを見た。スネイプは小さく身じろぎした。

 

「以前の僕の世界でダンブルドア、あなたに言われた言葉です。先生がスネイプ先生に全ての真実を言わなかったのは、注意深くなっていたからではないですか。先生は騙して人を動かすようなことはしてません。それを知らない方がいいと思ったから黙っていたんだと思います。今の先生も、僕の世界の先生も」

「そのやり方でセブルスを殺してしまったと分かった今は、こうして全てを話すことができて良かった。わしはあまりにも他

人を信用していなかったようじゃ」

「…………ポッターはいい加減就寝の時間だ」

 

 顔を覆って下を向いていたスネイプが急に立ち上がった。

 話はもう終わりのようだった。

 

「え、いや、まだ」

「そうじゃの。セブルス。送ってやってくれ」

 

 スネイプは今度こそ抵抗するハリーを無理やり立たせて階段へせっついた。

 そして去り際にぼそりとつぶやいた。

 

「闇の帝王はマントがあろうとなかろうと見つけ出せたでしょう。あの方の力は偉大だから」

 

ダンブルドアの頬を一筋の涙が伝った。

 

 

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