ハリーポッターとまどろみの逆行   作:ユフィ

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未来と変化

 定期的な身体検査が効いているようで、クィレルの後頭部にヴォルデモートはいなかった。

 ちなみに「生き残った男の子ハリーを守るために魔法省から課された」と言っていたためクィレルはまだ不審に思っていないようだ。

 

 だが、やはり四階に隠された賢者の石を取り出す方法を探っているようだった。

 以前と同じようにハロウィンにトロールを引き入れた。

 ロンとハーマイオニーを無理やり仲直りさせていたハリーは、はぐれたふりをして一人で女子トイレに向かった。

 かのように思っていたら、ハーマイオニーが目ざとくハリーを見つけ、ロンと二人で追いかけて来た。

 ハリーは誰もいなくなった廊下で顔をひきつらせた。

 

「ハリー、あなたどこに行こうとしているの?まさか、トロールを倒しに行こうと思ってるの?ダメよ!一年生でそんなことするなんて」

「(げっなんでいるの!)いや、違うんだよ。えーと、その、人込みのせいではぐれて、その…」

「いいから早く寮に戻るわよ」

「そうだよ、ハリー。これでもしトロールが来たら僕たち死んじゃうよ」

 

 ロンの心配通りトロールは来ていた。

 背後から強烈な生臭いにおいがする。

 

「うわあああああ!」

 

 三人は無我夢中で女子トイレに駆け込んだ。

 トロールも扉を破壊させながら入ってきた。

 

「どうしよう、どうしよう!」

「僕が引き付けるから隙を見て二人は逃げて!」

「そんなのダメ!ハリー!」

「いいから、早く!ロン、お願い」

 

 ハリーは蛇口の破片をトロールに投げつけて視線を向けさせた。

 その間にロンがハーマイオニーの手を引いて壊れた扉から出た。

 二人が出て行ったことを確認したハリーはトロールの足元に水を大量に出そうと杖を向けた。

 水で滑って頭を打ったことにすれば、誰もトロールを倒したとは思わない。

 先生たちが来る前にさっさと戻らなければいけない。

 

「ハリー!」

 

 まさに今、術を使おうとしたハリーに声をかけたのは戻ってきたロン達だった。

 

「なんでいるの!早く行って!」

 

 不意をつかれたハリーは慌てて奥へ入った。

 その瞬間、トロールが棍棒を振り下ろした。

 さっきまでハリーがいた場所の地面がひび割れた。

 

「ウィンガーディアム レビオーサ」

 

 ハーマイオニーが大きめの破片を浮遊させてトロールの頭にぶつけた。

 それでもハリーへの歩みは止まらない。

 ロンもそれに倣って訳が分からないまま呪文をかけた。

 

「ウィンガーディアム レビオーサ」

 

 しかし、ロンが浮遊させようとした破片をトロールが蹴飛ばして不発に終わった。

 ロンは無茶苦茶に杖を振り回しながら魔法を飛ばした。

 その一つが幸運にも棍棒にあたった。

 トロールが持っていた棍棒はすぽっと手から抜けて、頭に当たった。

 ハリーは倒れたトロールの下敷きにならないように避けた。

 

「ハリー無事かい?!」

「ハリー!」

 

 ハリーは鼓動が耳の中に響くのを感じていた。

 こんなに心臓が早く打つのは、ヴォルデモートに殺される直前以来だった。

 

「なんですぐ逃げなかったんだ!とても危険だったんだぞ」

「親友を置いて逃げるなんてできないよ!」

「そんなこと……」

「いいから早く行きましょう」

 

 三人が動きだす前に先生たちが入ってきた。

 

「三人とも、これはどういうことですか」

 

 マクゴナガルが怒りで声を震わせながら尋ねた。

 その後ろにスネイプもクィレルもいた。スネイプはまたしても足を怪我していた。

 

「僕のせいです。僕。トロールを倒してやろうと思っていました。でも、この二人がいないと多分死んでました」

 

 ハリーの言葉にロンもハーマイオニーも息を飲んだ。

 

「なんて愚かなことを、ポッター。あなたはそんなことをしないと思っていましたがね。グリフィンドール五点減点。けど、あなたたちの運の良さに十点差し上げます。トロールに立ち向かって生き延びられる一年生なんてなかなかいませんから」

 

 またあとでスネイプに絞られると思うとハリーは陰鬱になった。

 

 

 

 談話室に戻った時、ハーマイオニーが聞いた。

 

「ねえ、ハリー。あなたどうしてあの廊下にいたの?」

「トロールを倒すためだよ」

「でも、ハリーってそんな危険な事するような人には見えないわ。本当は違うんじゃないの?」

「よせよ、ハーマイオニー。みんな無事だったんだからそれでいいじゃないか。それよりさっきのスネイプ、見たか」

「ええ。脚を怪我していたわ。ねえハリー。実は私たちあなたの後を追っていた時に四階へ向かうスネイプ先生を見かけたのよ」

「えっ」

 

 ハリーは自分もたいがいうっかりしていると思うが、案外スネイプもうっかりしていると思った。

 前もって注意したのに。

 

「きっとあの怪物犬のところに行ったんだ」

「ちょっと待って、なんで怪物犬なんて知ってるの?!」

「実は一度、夜中に抜け出した君を追ったことがあるんだ。学校に入って一週間くらいだったかな。ハリー、君は気づかれてないと思ってただろうけど、僕もネビルも不思議に思ったんだ」

ハリーが校長室に行っていたときのことだ。まさか後を付けられているとは思わなかった。

「僕の事追いかけてたってどこまで?」

「それが、ハーマイオニーに足止めを食らっちゃったせいで君を見失ったんだ。戻ろうと思っても、太った婦人がいなくて談話室に戻れなかったんだ。だから僕とハーマイオニーとネビルで君を探していたら、フィルチが来て、慌てて逃げ込んだ先に頭が三つの怪物犬がいたんだ」

「ほら、ダンブルドアが新学期の時に入るなって言われてた四階よ」

 

 ハリーは思いっきり叫び出したかったけれど、なんとか我慢した。

 

「多分、それってスネイプ先生に罰則を受けていた時だよ。くだらない理由で罰則受けてたから恥ずかしくてこっそり抜け出したんだ」

「そうだと思ったよ。だって君、その次の日からしばらくスネイプを怒らせないようにビクビクしているみたいだったもの」

「スネイプ先生ってあなたへのあたりが人一倍強いから仕方ないわ」

 

 それは恐らく、ダンブルドアの真実を知ったスネイプがどう思っているのか図れなかったからだろう。

 ハリーは頭を抱えた。

 

「今日は僕のせいで危険な目に遭わせてごめん。でもお願いだから、二人とも自分から危険に飛び込むようなことはしないで」

「飛び込むつもりはないさ。それに君こそ人のこと言えないだろ。一人でトロールを倒しに行こうとするなんて」

「ロン、ハリーは私たちを逃がそうとしてくれたのよ」

「ハリーを心配した間抜けな僕らをね!」

「ロン!」

 

 ロンは勢いよく部屋に戻ってしまった。

 

「ええっと。ロンってきっとあなたに置いて行かれたから拗ねているのよ。ほら、男の子って冒険が好きみたいじゃない。それにあなたってまるで大人みたいに私たちのこと止めてくるんだもの。お願いだからあなたも一人で危険なことしないで。おやすみ、ハリー」

「ああ、おやすみ」

 

 ハリーはそう言ったものの、なかなか部屋に戻る気にはなれなかった。

 

 

 

 

「こっちの都合も知らないで!向こう見ずで、自分たちがどれだけ危険な事をしているのかちっとも理解していない!」

 

 ハリーは校長室にいた。今しがた起きたことを全て話していたのだ。

 スネイプは治療中でいなかった。

 ダンブルドアはうろうろするハリーをキラキラした瞳で眺めていた。

 

「ハリー、友を信じるのじゃ。幼く頼りない子どもに見えたとしても、友は君に頼られたいと思っている」

「そんなこと言ったって、僕は彼らの父親くらいの年齢です。自分の子供より年下の子を危険な目に遭わせたくありません」

「誰しも子供の時代はある。今の時代の友人を通して、君の時代の友人を見るのはよした方がいい。未来を見すぎるのでなく、今を見るのじゃ」

「ええ、ええ。未来から来た人間にはとても簡単なことでしょうね」

 

 ハリーはダンブルドアの煙に巻くような言い回しに懐かしさを感じつつ、苛立ってもいた。

 ダンブルドアもそんなハリーの様子に気づいていて、クスリと笑った。

 

「ハリー、君の生きて来た世界とこの世界は確かに似ているだろう。けれど、君の世界がすなわち未来とは限らないのだ。この世界はこの世界だけの未来が待っておるだろうからのう」

「だからこそ少し間違えればまた誰かが死んじゃう」

「よいか、今生きている友と向き合うのじゃ。対等に。大人の目線で子ども扱いするでない。子どもは自分と同じ目線にない人間には敏感じゃ。自ら孤独を選ぶでないぞ」

 

 ハリーは不承不承頷いたが、それを実行するかどうかはまた別だった。

 

 それからロンには避けられていた。

 まるで炎のゴブレットに名前を入れられた四年生の時に戻った気分だった。

 あの時もロンは怒って話しかけてくれなかった。

 

 さらに、クィディッチの練習が始まったため毎日へとへとになってしまった。

 これでは分霊箱を探しに行けない。

 ハリーはしばらく校長室に行けずじまいだった。

 そしてクィディッチの試合当日。

 

「ようハリー。我らがシーカー。気分はどうだ?」

「準備は十分か」

 

 競技場へ向かう途中、フレッドとジョージが話しかけて来た。

 

「俺らのロニー坊やとどんな喧嘩をしたのかは知らないが今日は集中してくれよ」

「練習に気が入ってない時があるようだったからな」

「あいつって、俺らの部屋に来てイライラしてると思いきや」

「すぐメソメソするんだ。何をそんな怒ってるんだ?」

 

 双子が言葉をつなげながら話してくる。

 

「怒ってるのはロンだよ。僕を無視するからどうすればいいのか分からないんだ」

「そうなのか?じゃあ、今日は勝ってあいつに手でも振ってやってくれ」

「そうすりゃ坊やも大喜び。なんせあいつって」

「「ハリーの大ファンだからな」」

「おいっ!我らがシーカーにちょっかいを出すな!今日の勝利の女神だぞ!」

 

 ハリーの両脇で肩を組んでいた双子に、キャプテンのウッドが大声を上げた。

 

「ほー、ウッド。こりゃたまげた。ハリーは女だったのか」

「俺らはずっと勘違いしていたようだ」

「言葉の綾だ。揚げ足を取るな」

「「じゃあ、頑張ろうな、ハリー」」

 

 双子はそう言って、身体を揺らしながら近づくウッドから一目散に逃げた。

 

 試合は順調に進んでいたが、ハリーはまたしても箒に呪いをかけられる妨害を受けていた。

 揺れる視界の片隅で、スネイプが反対呪文を唱えているのが見えた。

 けど、焦げ臭いにおいがした途端に妨害がやんだので、ハリーはそのままの勢いでスニッチを飲み込み、地面に勢いよく転がり込んだ。

 誰よりも早くグラウンドに来たのはロンだった。

 

「ハリー!ハリー!」

 

 血みどろ男爵みたいに真っ青な顔をしている。

 ハリーは吐き出したスニッチをロンに向かってかかげて見せた。

 そして二人はニヤリ、と笑みを交わし合った。

 遅れてグラウンドへ降りて来たハーマイオニーはすっかり仲直りした様子のハリー達を見て、

 

「男の子って本当に分からない」

 

 と呆れて目をむいていた。

 

 

 

「君を殺そうとしていたのはスネイプだ!」

「そんな訳ないよ」

「いいや! スネイプだ! 僕は見たんだ」

「ロンの言う通りよ。私も見たわ。それにスネイプのローブに火をつけた途端に妨害が終わったもの」

 

 試合が終わったあと、三人はハグリッドの小屋にいた。

 ハリーはロンとハーマイオニーが本気で心配してくれていることは嬉しかったが、核心に近づく二人が心配でならなかった。

 必死にハグリッドと二人で二人の言葉を否定した。

 

「スネイプ先生がんなことするはずがねえ。賢者の石を守るメンバーの一人なんだから」

「賢者の石?」

 

 だが、ハグリッドがうっかり口を滑らせてしまった。

 スネイプにうっかりを治す薬でも作ってもらえばよかったとハリーは後悔した。

 

「頭が三つの怪物犬が守っているものは賢者の石ってものなの?」

「なんでフラッフィーのことまで知っているんだ!」

「フラッフィー?」

 

 なんとしてでもうっかりを治す薬をハグリッドに飲ませるとハリーは誓った。

 ハーマイオニーが身を乗り出した。

 

「あの犬を置いたのはハグリッドで、スネイプも賢者の石を守るのに協力しているのね?じゃあ、他の先生も協力しているの?」

「ああ、もう。そうだ。スプラウト先生、フリットウィック先生に、マクゴナガル先生に。それにクィレル先生と勿論ダンブルドア先生も」

 

 うっかりを治す薬を作るよりも今すぐハグリッドを黙らせる呪文をかけた方が早いとハリーは思った。

 

「これ以上聞くのはやめてくれ!とにかく先生たちが厳重に守っているんだ。お前さんらは何も心配する必要はない」

 

 幸い、ハグリッドが三人を放り出したため、ハリーも呪文をかける必要がなくなった。

 ロンたちがスネイプへの探りをさらに深めるのではないか、とハリーは警戒を強めていた。

 しかし、クリスマス休暇に入るころには試験に向けた課題が山積みになってきたため、ロンもハーマイオニーも賢者の石のことを考える時間がなくなった。

 

 それにクィレルの不穏な動きが減ったことによって、スネイプが動かなくなったことも理由の一つだった。

 だが、分霊箱集めは難航していた。

 ルシウス・マルフォイの持つ日記とベラトリックスの金庫にあるハッフルパフのゴブレットを手に入れる目途がなかなか立たなかったからだ。

 それに、ハリーの中の分霊箱を除く手段が見つかっていないため、未来を変えすぎる行動がとれなかった。

 未知の未来にしてしまったときの危険は計り知れない。

 

 ハリーはスキャバーズを見るたびに捕まえたい気持ちがふつふつと沸いていた。

 早くシリウスに会いたいのに、未だにアズカバンに閉じ込めたままでいるのは心苦しかった。

 それなのにペテグリューはネズミのふりをしてスヤスヤと眠っている。

 だが、まだ手を出してはいけない。

 

 あまりにも多くのことを同時に考える必要があり、ハリーの頭の中はパンク寸前だった。

 だから、自分あてのクリスマスプレゼントが積まれているのを見た時はとてつもなく晴れやかな気持ちになった。

 以前と違い、マルフォイとスネイプからの贈り物も増えていた。

 けれど、二人ともグリフィンドールの寮に向けたプレゼントに抵抗があるのか、送り主を隠していた。

 そして、ウィーズリーおばさんの手編みのセーターを着た時は懐かしさと温もりで心が和んだ。

 フレッド、ジョージ、ロン、パーシーとおそろいのセーターを着るのは久々のことだった。

 

 さらにハリーとロンはクリスマスプレゼントで届いた透明マントを被って「みぞの鏡」の前にいた。

 良くないことだとは分かっていたけど、ハリーはもう一度この鏡をのぞく願いを捨てられなかった。

 そして、ロンとこっそり何かをするワクワク感をもう一度味わいたかった。

 

「ハリー、何が見える?」

「僕の家族。君は?」

「監督生になって、クィディッチの優勝杯も持ってる。それに君と笑い合ってる」

 

 二人は鏡の前を取り合いながらも、しばらく経ったら寮へ戻った。

 ハリーが鏡をのぞいた時、そこにハリーは映っていなかった。

 それにすでに死んでいる両親も映っていなかった。

 映っていたの前の世界で共に戦った仲間であるロンやハーマイオニー、DAのメンバーたち、さらにこの世界ではまだ生きているが、前の世界では死んでしまったハリーが救いたいと思っている人たちの姿だけだった。

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