ウルトラマントリガー×SSSS.GRIDKNIGHT 作:ライフォギア
ナースデッセイ号の自室にて、『マナカ ケンゴ』は自らが育てた美しい花、『ルルイエ』を見つめながら憂いの表情を浮かべていた。
彼は『ザビル』──『トキオカ リュウイチ』が変身した影の巨人、『イーヴィルトリガー』を倒した。
闇の巨人との戦い、三千万年前の因縁、その全てに決着をつけたケンゴ。
今の自分に不満は無い。仲間にも恵まれ、きっと幸せな人生を歩んでいると感じている。
今までの自分に後悔は無い。自分がやるべき事を、やりたい事をしてきたと感じている。
けれどもケンゴの心にはまるで真っ白な紙の中に1点だけついた黒いシミのような翳りがあった。
(カルミラ、ダーゴン、トキオカさん。みんな、三千万年前を生きた人達だ)
ケンゴの戦いの全ては三千万年前に始まっている。
光の巨人・トリガーが人へと転生した姿がマナカ ケンゴという人間。
その運命の重さとの付き合い方も覚え、既にそれは乗り越えた事ではある。
しかし彼の笑顔に陰が差している理由は、その『三千万年前に自分がトリガーであった』という事実そのものだ。
(僕が、トリガーが引き起こした事なんだ。きっと。
カルミラやトキオカさんが泣いたのも、ダーゴン、それにヒュドラムだって。
トリガーが光に目覚めたから、壊れてしまった)
トリガーは元から光の巨人だったわけではなく、そもそもは闇の巨人であった。
人間を虐げ、世界を暗黒に包み込む悪しき力を振るう巨人。
それがある時未来を照らす光へと目覚め、他の闇の巨人達を封印した、というのが三千万年前の戦いの全て。
ところが、その行いこそがマナカ ケンゴの経験してきた戦いの文字通り
カルミラ達闇の3巨人という仲間を裏切った事が、最終的には彼等3人が決定的に仲違いする遠因となった。
トリガーの圧倒的な光の力に無力感を覚えた結果、ザビルは狂い、イーヴィルトリガーとなった。
(どっちも、トリガーが原因だ)
トリガーが原因であるとは、そのまま『ケンゴのせい』と言い換えられる。
生まれ変わり同然である彼はその自覚も無く生きてきたが、自分がトリガーそのものであると自覚してからは、どうしても考えてしまう事実だった。
果たして生まれ変わりに前世の罪がのしかかるべきなのかは、誰にも分からない事ではある。
少なくともケンゴにとっては、それは『自分の罪』足りえた。
(助けられたんじゃないか。もう少し、手を伸ばせれば、笑顔に……)
彼はみんなに笑顔でいてほしいと望んでいる。その未来を願っている。
カルミラやザビルは、彼の手が届かなかった人であり、自分のせいで狂ってしまった人。
自分のせいで、『笑顔を失った人』。
故にこそケンゴにとってその事実は何よりも重い。
イーヴィルトリガーとの戦いを終えて2ヶ月。
彼の心の翳りは、今だ晴れていない。
ナースデッセイ号の警報が鳴る。
怪獣出現を知らせるこのアラートが鳴ったのも久しぶりであった。
時たま野良怪獣が現れる事もあったが、すぐに地底や海底に戻ったり、速やかにナースデッセイ号により駆除されたりと、そこまで大きな被害も無く終わっていた。
少なくとも『何者かによる手引き』と思わしき怪獣が出現した事はこの2ヶ月間無かった。
「なんだこりゃ……! 郊外とはいえ町ん中に突然現れてんぞ!
地中を掘り返した形跡も上空から現れた形跡も無し……どうなってんだッ!?」
ナースデッセイ号の司令室にてモニタリングを行う『メトロン星人 マルゥル』の言葉が、今回の異常性を全て語っていた。
地底怪獣が現れたのなら、地中を掘り返した跡が残る。
飛ぶ怪獣が現れたのなら、何かしらのセンサーや監視カメラにその影が引っかかる。
しかしどちらも無いばかりか、何の前触れも無く町中に突然現れた。
そこに突如ワープしてきたのでもない限り、そんな事はありえない。
「おいおいおい! どういうこったそりゃあ! 普通じゃないぜ!?」
「同感。……誰かの、差し金?」
声の大きなガタイの良い男性、『サクマ テッシン』の言葉にクールな態度を貫く『ナナセ ヒマリ』は眼鏡をクイッとあげながら同調した。
こういった場合に疑うべきは『誰かが出現させた』という事例になる。
その手の状況にも彼等──『GUTS-SELECT』のメンバーは慣れているが、それは同時に悪意ある第3者の出現を予感させるものに他ならない。
嫌な予感が全員の脳内をよぎる中で、新たに司令室に入ってきた言葉がそれらを一蹴した。
「考えていても仕方がない。マルゥル隊員は引き続き怪獣の分析、サクマ隊員はただちにナースデッセイ号を発進、ナナセ隊員はGUTSファルコンの出撃用意だ!」
蓄えられた髭が威厳の証か、全体を指揮するに相応しい風格を持つ『タツミ セイヤ』の言葉が艦内に響く。
彼は情報局に異動となった『元・隊長』だったのだが、ザビルの一件から再び隊長職に復帰、現在もGUTS-SELECTの指揮を執っているのだ。
隊長歴は既に3年以上となった彼の言葉は、隊員達の不安を消し飛ばし、自らのやるべき事に向き合う指針となる。
「……そうっスね! ラジャー! ナースデッセイ号、発進!!」
「了解」
テッシン、ヒマリが口々に言い、それぞれの持ち場についた。
中央のテーブルで全体を指揮するタツミ、タツミから見て左手側のディスプレイにテッシンが、右手側にはマルゥルが、そして正面の椅子にはVRゴーグルをかけたヒマリが座る。
各々がそれぞれの定位置に収まったのと、再び司令室の扉が開いたのはほぼ同時だった。
扉からは隊員が3名入室する。『ヒジリ アキト』、『シズマ ユナ』、そしてケンゴだ。
扉の音に気付いたタツミが振り返ると、3人は既に指令を待つように直立で並んでいた。
「マナカ、ヒジリ、シズマ隊員の3名は現地警察と協力して民間人の避難誘導、その後に地上からの攻撃だ」
「「「ラジャー!」」」
敬礼と共に足早に司令室を後にする3人。
3人を見送った後、再びメインモニターを見やるタツミ。
映像には町を蹂躙する4つ足の怪獣の姿が映し出されていた。
馬のようなフォルムに、首元には孔雀の羽のような襟巻が付いている。
鮮やかな臙脂色が特徴的なその怪獣は、今まで見たきた怪獣の中でも少々特異な見た目だった。
何というか、生物ではあるのだろうが、あまり生物らしくないような。
地底怪獣等のように地球の自然に生息する怪獣には無い違和感を前に、タツミは目つきをより険しいものに変えた。
(何だ? この違和感は……)
具体的な『何か』は分からない。
だが、その言いようの知れぬ不気味さはタツミの警戒心を煽るには十分なものだった。
現場に降りたユナ、アキト、ケンゴの3人は命令通り避難誘導を懸命に行っていた。
前触れなく現れた怪獣に現場は大パニックであり、現地警察の協力もあるとはいえ沢山の人達が雪崩のように走り込んでいた。
「早くこちらに! ……っ!」
やや遠方で戦う怪獣と黄色の機体で縦横無尽に空を舞うGUTSファルコンを見上げ、ケンゴは顔を顰めた。
全員が精一杯に尽力しており、ケンゴ達の到着よりも前から警察が対応してくれていた事、そして郊外で中心地に比べれば人が少ない事もあり、避難自体は順調だった。
しかしながら問題は怪獣だ。
どうにも怪獣の装甲はかなり強固なようで、GUTSファルコンの機関砲も通りが悪いようだった。
ナースデッセイ号も現地に到着してはいるものの、最大火力のナースキャノンは撃とうにも避難誘導も完了していない中では威力が高すぎて周囲にも危険が及ぶ。
かといってこのままGUTSファルコンのみで相手をするには少々厄介そうな敵だった。
避難誘導が完了するか、もう少し戦場自体が離れてくれるか、あるいは──『怪獣と戦える戦力がもう1つ』あれば。
「隊長! 僕が行きます!」
耳に装着されたインカムに手を添え、司令室に呼びかけるケンゴ。
彼の力、ウルトラマンの力については既にGUTS-SELECT内では周知の事実である。
そして彼等はウルトラマンの圧倒的な力に頼り切るでもなく、ケンゴを仲間として受け入れてくれている。
有事の際も安易にケンゴに頼らず、ケンゴをウルトラマンではなくただの1人の人間として接してくれることがどれほどありがたい事か。
だからこそケンゴも自分がウルトラマンの力を使うという選択肢を憂いなく提示できるというものだ。
ケンゴの提案は司令室全体に響いている。
一瞬の思考の後、タツミが出した結論は。
『分かった。敵の力は未知数だ、無理はするな!
ナナセ隊員はマナカ隊員の援護に注力しろ!』
『喜んでェ! 頼むよケンゴォ!!』
ウルトラマンとして戦うことは、ケンゴはその身体そのもので怪獣と、それも最前線で取っ組み合って相対する事になる。
必然、命の危険は他の隊員以上に付き纏うが故に、タツミはケンゴに対し無理をしないように釘を刺す事を忘れない。
しかしそれでもケンゴの提案を承諾したのは、偏にこれまでの戦いで培ってきた信頼によるもの。
次いで、GUTSファルコンを遠隔操縦するヒマリのハイテンションな声がケンゴのインカムにも響いた。
ハンドルを握ると性格が変わるタイプという言葉を絵に描いたようなヒマリではあるが、そんな状態でも仲間への信頼が何処かに行く、というわけではない。
『頼むよケンゴ』という信頼の言葉に、場違いとは思いつつも笑みが浮かんでしまうケンゴ。
「はいっ! アキト、ユナ、ここをお願い!」
「分かった。無理しないでね、ケンゴ」
「俺達も避難誘導が終わったら、すぐに援護に向かう!」
純粋に心配をするような言葉をかけるユナと、言葉だけなら事務的だがすぐに駆けつける旨を伝えるアキト。
2人の想いも受けつつ、ケンゴは強く頷いて駆けだした。
怪獣が暴れる地点に近づけば近づくほど人通りは少なくなり、建物だった瓦礫が多くなっていく。
GUTSスパークレンスとGUTSハイパーキーを取り出し、キーのスイッチを押しながらも、ケンゴは尚も脇目も振らずに走り続ける。
────ULTRAMAN TRIGGER! MULTI TYPE!────
キーの起動音の後、それをGUTSスパークレンスへマガジンを装填する要領でグリップに差し込む。
続いてその銃身を開き、秘められた力を解放する前準備へと移った。
────BOOT UP! ZEPERION!────
「未来を築く、希望の光!」
輝き続けるGUTSスパークレンスを前方に突き出し、ケンゴは叫ぶ。
自らのもう1つの姿、もう1つの名前。
「ウルトラマン! トリガーァァァァ!!」
GUTSスパークレンスの引き金を引く、それが合図。
輝きがケンゴを包み込み、大きな光の奔流と共に巨人が現出する。
この世界を幾度となく守り、今尚人々の為に戦い抜く、希望と未来を守護するヒーロー。
────ULTRAMAN TRIGGER! MULTI TYPE!────
『ウルトラマントリガー』。
これがこの世界を守る、
怪獣の目の前に現れた50m級の巨人。
それが自分にとっての脅威だと感じたのか、怪獣は強く咆哮をあげ、まるで本当に馬のようなスピードで巨人、トリガーへと駆けた。
構えるトリガーは怪獣の両側頭部から飛び出している角を掴む形で受け止める。
突進の速度もあるが怪獣の重量、そして怪獣自身の力が相当に強いのか、ずりずりとトリガーは徐々に自分が押されていくのを感じた。
「──ッ!!」
ならば、とトリガーは怪獣の角を掴んだまま大きくジャンプし、鉄棒を回るような要領で半回転。
身体が逆立ちの体勢になった段階で手を離し、身体を捻って怪獣の背中に飛び乗った。
見た目が馬のような怪獣だけあり、文字通りの馬乗りとなったトリガーは拳や肘打ちを怪獣の頭に叩きつけていく。
無論怪獣側も黙っているはずもなく、トリガーを振り落とそうと全力で暴れ回る。
ロデオのように上下左右に振られるトリガーだが、ふらつきつつも怯まず攻撃の手を緩めることはない。
このままでは埒が開かないと痺れを切らしたのか怪獣は次の手を繰り出す。
自らのドレッドヘアーにも似た複数本の触手の先端をトリガーに向け、そこから紅い雷のような光線を放ったのだ。
「──!?」
光線を受けたトリガーはたまらず防御姿勢を取るものの、その隙に身体を全力で振るわせた怪獣に振り落とされてしまった。
地面を転がるトリガーはすぐさま体勢を立て直し起き上がるが。
「ッ……!?」
怪獣から白い光の粒子が放たれた瞬間、異変が起きた。
身体が重い。体力が切れた時の比喩的なそれではなく、上から何かで押さえつけられているような重みがトリガー全体を襲っていた。
何とか堪えようとするが膝をつき、最後には完全に地面に倒れ伏す形となってしまうほどにその力は強烈なもの。
その異常はナースデッセイ号でも感知されており、マルゥルが慌ただしく状況を説明していた。
「トリガーの周囲一帯だけとんでもねぇ重力異常が起きてる!
ケンゴの奴、立てねぇはずだぜ……! GUTSファルコンじゃペシャンコだぞ!」
「あの怪獣の力か……!? ナナセ隊員、GUTSファルコンはこれ以上怪獣に近づくな!」
ウルトラマンが立てないレベルの重力を発生させるとなればGUTSファルコンは元より、幾ら頑丈なナースデッセイ号でもただでは済まないだろう。
トリガーも必死に立ちあがろうとしているが全く起き上がれる様子はない。
「サクマ隊員、怪獣との距離をこのまま保て! この位置から援護射撃を行う!
避難が完全でない以上ナースキャノンはフルパワーではなく50%まで出力を絞れ!
マナカ隊員への重力異常が解ければそれでいい!」
「ラジャー!」
しかしナースデッセイ号にせよGUTSファルコンにせよ、メインウェポンは全て重火器やレーザー兵器だ。
遠距離からの攻撃が主立つ以上、打つ手がある。
「撃て!」
「ナースキャノン、発射ァ!!」
タツミとサクマの号令の元、ナースデッセイ号の右舷砲塔から放たれるこの艦における最強の一撃、荷電粒子砲ナースキャノンが放たれた。
フルパワー、あるいは反動を無視して100%以上の出力で放てば怪獣すら一撃で消し飛ばす一撃だが、故にこそ安易に全力全開でぶっ放すわけにはいかない。
50%でも相当な火力の一撃は見事に怪獣の背中を撃ち抜き、大きな爆発と共に怪獣は体勢を崩した。
(身体が動く!)
たまらず能力を解除したのかトリガーにかかる重力負荷も消え、その隙に立ち上がったトリガーは今度は少し距離を取って怪獣に向き合った。
怪獣はナースデッセイ号を睨むように一瞥したのち、再びトリガーに向かって凶悪に吼えてみせる。
どうやら怒りを買ったらしいが、その程度で怯むことはトリガーもGUTS-SELECTも無い。
今考えなくてはいけないのは、この怪獣を如何に倒すかだが。
(凄いパワーだ。パワータイプ……いや、グリッターの力で一気に!)
突進も重力もそうだが、出力が並の怪獣のそれではないことをトリガーは悟る。
自らが使用できる
グリッターはトリガーの切り札であると同時に消耗も激しい力だ。
が、出し惜しみができる怪獣ではなさそうだと、トリガーの選択は決まった。
次の一手を打とうとする、その瞬間。
再びマルゥルの声がナースデッセイ号に響いた。
「ハァ!!? 何だよ次から次に!?」
「どうした!?」
只事ではない声色にタツミも何事かと問いかけた。
マルゥルは怪獣分析以外にも周囲の状況把握等の情報を集める役割を担っている。
彼から報告が上がるということは、怪獣の異変か、あるいはそれ以外の未知の異変が起きた時で。
「周囲の一部空間に歪みを検知した!!」
「そりゃ……一体どういうことだよ!?」
「俺様が聞きてぇよ! でも、この前のパゴスの時にウルトラマンゼットが現れた時とよく似た反応だ!
こいつはもしかして……別次元からまたなんか来るってことかも知れねぇ!!」
別次元、別宇宙、いわゆるマルチバース。
そこからやってくる来訪者の存在には幾度か遭遇経験があった。
GUTS-SELECTも元々それらを検知する術を持たなかったが、幾度かの別宇宙からの介入に伴い、先のマルゥルの報告の様に次元の異常を検知できるようになったという背景がある。
故に状況自体は既知のものだ。
だが問題は、『何がやってくるのか』である。
別次元からの来訪者のパターンは2つ。
『敵』か、あるいは。
「……! 来たぜ!」
マルゥルの言葉にメインモニターを全員が固唾を飲んで見やる。
空間に綺麗な円形の穴が開き、そこから現れたのは──────
「戦艦……!?」
ナースデッセイ号艦内のやり取りはインカムを通して地上部隊のアキトとユナにも伝わっている。
別次元からの来訪者と思わしきその姿を見たアキトが思わず外見の印象を呟いた。
その姿は、深い緑色の外装を纏うナースデッセイ級の大型戦艦。
異彩を放っているのは、その艦橋。
艦橋に艦の色とは全く異なる紫色をした『何か』が立っていた。
何かが変だった。その紫の部分だけ戦艦のデザインから浮きすぎている。
そしてその違和感の正体に最初に気付いたのは、ナースデッセイ号のヒマリだった。
『誰か、立ってる』
「え……?」
インカムから聞こえるヒマリの言葉に、ユナが思わず聞き返してしまった。
地上から空に浮かぶ戦艦は遠すぎてよく見えない。
見えるのは、紫色の巨大な『何か』
しかしそれを指してヒマリは、『誰か』と表現した。
『あの戦艦の上、ウルトラマン並みにデカい『誰か』がいる!』
遠隔操縦とはいえ戦闘機を駆るが故か、ヒマリの視界は広く、明瞭だ。
そしてヒマリはGUTSファルコンの視界越しに確かに確認したのだ。
モニターには背中を見せる、『巨人』の姿を。
「パサルートのクローズを確認、艦体各部異常なし。
やはり、この世界にも怪獣が現れているようですね」
「はい。しかし、あの怪獣は以前に俺達が倒した怪獣です。
蘇ったのだとすれば、何故何の関係も無いこの世界に」
「分かりません。ですが、あの巨人と戦艦の方々がこの世界を守っているのは明らかです。
というわけで、よろしくお願いしますね『ナイト君』!」
「はい」
ヒマリの言葉が正しい事を裏付けるように巨人は戦艦より背中を向けたままその身をゆっくりと倒し、空中にその身を投げた。
自由落下しながらくるりと身を反転させた巨人がその姿を現す。
「紫の……巨人?」
地上からその様子を見ていたユナの呟きが第一印象だった。
紫を全体的な基調とし、赤いバイザーのような目をした巨人。
紫の巨人は落下速度の勢いを利用したまま怪獣の頭部に左足にてキックを見舞い、怪獣を足場にして再度跳び上がる。
蹴られた衝撃で倒れる怪獣を余所に、紫の巨人はトリガーの目の前に着地した。
砂埃と共に地表に降り立った紫の巨人。
改めてその姿がトリガーやGUTS-SELECTの前に晒された。
ウルトラマンと同程度の身長、姿形も完全に人型のソレ、しかし全体的な見た目はゴツゴツとしており、生物というよりはどこか機械的。
「ウルトラマン……なのかぁ?」
「ゼットやリブットとは随分様子が違うけどね……」
テッシンが首を傾げる一方、ヒマリは過去に出会ったウルトラマン達を思い出していた。
過去、この世界には何人かのウルトラマンが現れた事がある。
見た目こそ各人違っていたが、例えば胸のエネルギーを示す青いランプ、カラータイマーを始めとした共通項があったのだが、紫の巨人にはそれが無い。
確かに胸の中央にはオレンジ色の枠に囲まれた黄色の輝きがあるが、カラータイマーとは大分趣が異なっていた。
『貴方は……? ウルトラマン、なんですか?』
巨人同士は人間には伝わらないコミュニケーションを取る事ができる。
トリガーは過去にウルトラマン達に語り掛けた時と同じように紫の巨人へ問いかけた。
紫の巨人は目線だけを後ろに向け、トリガーの言葉に応じる。
『お前は何だ?』
『え?』
応じただけで答えでは無かった。
質問を質問で返され呆気に取られるトリガーだが、彼は驚くべき素直さで「こちらから名乗らないと失礼かな?」と考え、まずは紫の巨人の問いに答える事にした。
『僕は、ウルトラマントリガー。マナカ ケンゴです』
『先にも言っていたな。ウルトラマンとは何だ?』
『ウルトラマンは……みんなの命を、笑顔を守る、光の巨人です!』
『……同じ、か』
紫の巨人の言う『同じ』という言葉がどういう意味なのか。
彼の問いかけにどういう意味が含まれていたのか。
トリガーはそれを聞きたいとも思ったが、その頃には怪獣が既に体勢を立て直して再び咆哮を上げていた。
紫の巨人は戦闘再開を前に足早に語る。
『俺も怪獣を倒す為に此処にいる、目的は同じだ。手を貸せ、ウルトラマントリガー』
『……! はいっ! ええっと……』
『俺の名は、『グリッドナイト』だ』
『グリッドナイトさん! よろしくお願いします!』
どうやらウルトラマンではないらしいが、ケンゴにとっては些細な問題。
コミュニケーションに応じてくれて、味方をしてくれるというのなら話は早かった。
2人は同時に怪獣へ向き直り、構える。
一方、その様子をモニタリングしていたナースデッセイ号には彼等のやり取りは当然伝わっていないのだが。
「なんか、一緒に戦うっぽいぞ?」
「巨人同士のコミュニケーションでもあったんじゃねーか?」
挙動を見る限り共闘するらしい、というのはテッシンやマルゥルの言葉通り、GUTS-SELECTメンバーにも何となく分かった。
過去、トリガーの状態でケンゴは他のウルトラマンと会話をしていたという。
とはいえ不確実な情報で動くわけにもいかない。
タツミはナースデッセイ号の外部スピーカーをONにし、トリガーに呼びかけた。
『ウルトラマントリガー! その紫の巨人は、味方と捉えていいのか!?』
外部スピーカーで呼びかける以上マナカ隊員と呼ぶわけにもいかないので、わざとウルトラマンの名でケンゴを呼ぶタツミ。
対し、トリガーは強い頷きをナースデッセイ号に向けた。
信じるべき仲間が信じた相手なら、タツミの判断に迷いはない。
「あの紫の巨人も援護対象に加える! 協力して怪獣を撃滅するぞ!」
タツミの指示によってGUTS-SELECTの方針は決まった。
ならばヒマリはGUTSファルコンを駆り、テッシンはナースデッセイ号の舵を取る。
避難誘導が完了した地上部隊のアキトとユナもGUTSスパークレンスを携え、巨人達の援護に動いた。
トリガーとグリッドナイトが怪獣に飛びかかって拳を振るう中、ある程度距離が離れた位置からGUTSファルコンの機関砲が放たれる。
同じく一定以上に距離を取りながら地上のアキトとユナもGUTSスパークレンスを撃ち続けていた。
決め手に欠ける攻撃ではあるが、巨人だけに意識を向けさせない、幾つもの対象に意識を逸らさせること自体が戦いにおいては効果的だ。
現に怪獣はあっちにこっちに対応しなくてはならない状況に動きが鈍っている。
多勢になっただけあり、完全にトリガー側が優勢な状況。
しかし、怪獣は再び光の粒子を放ち重力異常を発生させる事でそれに対抗する。
それも今度はトリガーだけではなくグリッドナイトにまで及ぶように。
(くっ、また……!)
(この力も健在か……!)
トリガーは先程、グリッドナイトは過去にこの怪獣と戦った時にこの攻撃を浴びた事がある。
どちらにとっても知っている攻撃だが、結局この力を自力で突破できてはいない。
身体にかかる圧倒的な重さに膝をつく2人を見て、怪獣が再び重力異常を引き起こしているのだとタツミも悟る。
「サクマ隊員! もう一度ナースキャノ……!?」
指示を出そうとする最中、ナースデッセイ号が大きく揺れた。
怪獣の髪の毛のような触手から放たれた紅い光線がナースデッセイ号に発射され、左舷周辺に被弾してしまったのだ。
ただちに回避行動を取るものの、敵の光線はナースデッセイ号、そしてGUTSファルコンの両方を執拗に狙い続ける。
これではナースキャノンの狙いをつける事もできない。
「怪獣のヤロー……! 学習してんのか……!?」
マルゥルの驚きの声は、怪獣の学習能力の高さに対してのものだ。
確かに戦法として正しい対応ではあるし、二の轍を踏まないようにナースデッセイ号の攻撃も封じる有効な手ではある。
しかし宇宙人でもなく、一怪獣にそこまで臨機応変に対応できるだけの知能がある事は稀だ。
この短時間で此処まで明確な一手を打ってくる怪獣。
力だけでなく知能までも高いのかと、分析を担うマルゥルは歯噛みした。
『みんな……! 早く抜け出さないと……!!』
ナースデッセイ号が、仲間が攻撃を受けている様子を見てすぐにでも怪獣に飛びかかりたいが、身体が全く動いてくれない。
隣にいるグリッドナイトも同じような状態のようで、このままでは手も足も出ない。
何とかしないと、とトリガーが全身に力を籠めて重力相手にもがく中。
『なんとかっ、ビームッ!!』
勇ましく、それでいて気の抜ける名前の叫びが響いたのと同時に、空から2つのレーザーが怪獣目掛けて降り注いだ。
重力異常が解除されたトリガーが立ち上がる中で見たのは、レーザーに続いて地響きと共に地上へ降り立つ、『赤い機械竜』の姿。
『よう、この怪獣相手じゃやっぱ手ェ焼くみたいだな』
『喋った!?』
『……余計な真似を』
竜の頭が2人を見やり、グリッドナイトは竜の言葉を冷たくあしらう。
トリガーとしては機械の竜が普通に喋っている事にまず驚きを隠せないのだが、そんな事はおかまいなしに竜はトリガーにも声をかけてきた。
『お前がこの世界を守ってるヤツか?』
『え、あ、はい。ウルトラマントリガー、です』
『トリガーか、良い名前じゃねぇか。俺は『ダイナレックス』だ』
『ダイナ、レックス……』
『手を貸すぜ、お2人さん』
ダイナレックスの咆哮が戦場に響くと、再びその翼を羽ばたかせて空中に飛び上がり、大胆にも怪獣の頭に向かって頭突きをかました。
トリガーもグリッドナイトもそれに続くかのように怪獣相手に拳を振るい、鋭く蹴り込む。
攻撃が止んだ事でナースデッセイ号も何とか落ち着いた通常航行に戻っていた。
新たに現れた赤い竜の出現に、最早マルゥルは驚きを通り越して呆れかえっている様子だ。
「ああ、もう、今日は色々出てきすぎだぜ……今度は何だよ、アレ?」
「ケンゴも普通に戦ってるし、まあ味方って事? どうしますー!? 隊長!?」
GUTSファルコンを操縦するヒマリはテンションをそのままに隊長の判断を仰いだ。
怪獣出現から此処まで戦艦、巨人、赤い竜と中々に戦場は混沌としている。
ただ幸いにも戦艦も巨人も赤い竜も怪獣と戦い、街を守る様子でいてくれていた。
いずれにしてもGUTS-SELECTがやる事は変わらないと、タツミの指示は速かった。
「赤い竜も協力者と判断する! 怯まず攻撃を続けるぞ!」
ダイナレックスの登場により戦局は完全にトリガー達の側に傾いた。
グリッドナイトが接近戦で戦う中、宙に浮かぶトリガーは遠距離から手の先から『トリガーハンドスラッシュ』を放ち、GUTSファルコン達と同時に攻撃を放つ。
重力異常を発生させようとすれば、ダイナレックスがそれを両翼の砲門から放たれる『なんとかビーム』で潰す。
全員が重力異常に捕まらないように自然と役割分担を行う事で、怪獣との戦いを完全に有利な状況に持ち込んでいた。
そして、ある程度怪獣を消耗させたタイミング。
ダイナレックスが威勢良く吼えた。
『ナイト! 決めるか!!』
『ああ。空中で終わらせる! ウルトラマントリガーッ!!』
『えっ、ハイッ!!』
ダイナレックスの言葉に呼応するグリッドナイトはトリガーにも呼びかけた。
瞬間、3つの巨体が同時に怪獣に飛びかかり、ダイナレックスは怪獣の尻尾に牙を突き立て、グリッドナイトは怪獣の頭部を掴み、息を合わせて怪獣を持ち上げる。
その隙に胴体部分に滑り込んだトリガーが怪獣の腹の部分に手を添えたかと思えば、3体は全開で力を籠めて怪獣を宙高く放り投げてみせた。
「空中で決着をつけるつもりか。サクマ隊員、ナースキャノン用意! 出力は100%だ!!」
「ラジャーッ!! ナースキャノン、出力100%ォ!!」
巨人達の意図を汲み取ったタツミの声に、今日一番の声でテッシンが答える。
未だ上昇を続ける怪獣を追う様にナースデッセイ号とトリガーが飛び上がり、グリッドナイトはダイナレックスの背中に飛び乗って同じくその後を追う。
怪獣はもがくが、地面を駆けるその身体は空中を飛び回れるようにできてはいない。
上昇の勢いも衰え、今度は自由落下してくる怪獣は為す術がないようだ。
『ウルトラマントリガー! ビームは撃てるか!?』
『撃てます!』
『ならば決めるぞ!!』
『はいッ!!』
トリガー、ナースデッセイ号、ダイナレックスとその上に乗るグリッドナイトはお互いに距離を取りつつ、三角形を作るように空中に陣形を汲んだ。
怪獣は落下を続け、間もなくこの三角形の中心を通る形で落ちてくるだろう。
最後の一撃の為、それぞれがそれぞれの必殺技の構えを取った。
トリガーは両腕を前に突き出しつつ交差させ、その腕を左右に大きく広げながら光のエネルギーをチャージ。
グリッドナイトは斜め下に広げた両腕を大きく回しながら眼前に交差させながら突き出す。
ダイナレックスは口の中に炎を充填する。
ナースデッセイ号は右舷砲塔にエネルギーをチャージする。
『グリッドナイトォォォォ……ストォォォォムッ!!』
『必焼大火炎! レックスッ! ロアァァァァァッ!!』
『ナースキャノン、発射ァ!!』
『─────ッ!!』
グリッドナイトの右腕から発射された『グリッドナイトストーム』。
ダイナレックスが放つ超火炎、『必焼大火炎レックスロアー』。
ナースデッセイ号が放つ100%出力の『ナースキャノン』。
トリガーがL字に組んだ腕から発射する『ゼペリオン光線』。
4つの必殺が、落下する怪獣目掛けて同時に発射された。
1つ1つが怪獣を倒せるほどの文字通り必殺技。
それらを複数同時に浴びれば幾ら強敵であったこの怪獣といえど耐え切ることなどできず、悲鳴を上げる間も無く、空中にてその身を爆散させた。
爆炎が止み、巨人と竜と戦艦がお互いにその姿を確認したのも束の間、グリッドナイトとダイナレックスは一瞬でその姿を消してしまった。
果たして何者なのか、今の怪獣はなんだったのか。
様々な謎を残しつつも、ひとまず勝利を掴んだウルトラマントリガーは天高く飛翔するのだった。
────次回予告────
突然現れたウルトラマンとは違う巨人、グリッドナイトさんにダイナレックスさん。
戦艦から現れたのは女の人に、金色の怪獣!?
この人達は現れた怪獣の事を知っているみたいで……?
次回、ウルトラマントリガー×SSSS.GRIDKNIGHT『結ぶ同盟』
スマイル、スマイル!