ウルトラマントリガー×SSSS.GRIDKNIGHT   作:ライフォギア

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第3話 傷だらけの過去って、なに?

 『少年』の前に金色の巨人が現れたのはあまりにも突然だった。

 伏線も、予兆も、前触れも、その他一切の前置き無しに、怒るような表情を湛えた巨人は語る。

 

 

 ────お前の未来を知りたくはないか?

 

 

 まるで未来を、時間を超越するかのような物言いに、興味本位で少年は頷いた。

 そうして頭の中に直接見せられたイメージを前に、少年は何の感慨もなく、「ああ、そうなるんだ」と思った。

 

 自分達はガウマに殺される。そうして無上の自由は手に入らない。

 

 成程どうやら自分の望みは叶わないらしいと、彼は諦観しているようだった。

 この光景を見せた張本人たる金色の巨人は、仏頂面を一切崩す事はない。

 

 

 ────未来を変えられるとしたらどうする?

 

 

 その声は、正しく悪魔の囁きだったのだろう。

 けれども少年にとってこの巨人が怪獣だろうが悪魔だろうが、特に興味も関係もなかった。

 金色の巨人は時間も空間も自由に超えられるらしい。

 未来を変えられる。時間を超えられる。多くの不自由から解き放たれている。

 それは、少年の求める自由にとても近いものだった。

 

 

 ────お前を別の時間軸、別の世界へと案内しよう。

 

 

 金色のゲートが目の前に開いた。

 まるで少年を誘うように。

 

 

 ────『エタニティコア』があれば、宇宙はお前の意のままとなる。

 

 

 巨人は少年に『力』と『知識』と、さらに別の時空から呼び出した『戦力』を与えた。

 

 

 ────あとは、お前の『自由』だ。

 

 

 少年は決して愚かではない。

 彼の見せたあまりにもリアルなイメージが、嘘をついた幻覚である可能性もあった。

 が、ここ最近の戦績を考えれば、いずれ自分達が負ける事は殆ど目に見えている。

 

 

「うん、だったら乗った方が面白いかもね」

 

 

 そんな軽い口ぶりとともに、少年は金色の導きに従った。

 

 

 

 

 

 地上に降りたのはケンゴ、ユナ、ナイト、レックスの4人。

 二代目は有事に備えて戦艦・サウンドラスに戻って待機する事となった。

 奇しくもGUTS-SELECTとグリッドナイト同盟が2対2になるような形だ。

 

 降りた街はブルバインが襲撃した街からそう離れていない市街地。

 怪獣が近辺で現れた事で若干慌ただしい空気が流れているようにも感じるが、それ以外に目立った変化は無かった。

 

 

「さて、どーする? 複数で行動って隊長さんは言ってたし2人1組で手分けすっか?」

 

「そうですね。チーム分けはどうします? 

 私とケンゴ、ナイトさんとレックスさんが動きやすいのかな」

 

 

 レックスの言葉にユナが同調し、組み分けを提案する。

 実際同じチームに属している者同士の方が何かと連携は取りやすいだろう。

 しかし、此処で待ったをかけたのはナイトだった。

 

 

「いや、俺とレックスは別の方がいい」

 

「なんでだ?」

 

「あの怪獣の件を踏まえれば、敵は『怪獣優生思想』に近い存在が予想できる。

 もし怪獣優生思想やそれに似た『何か』が裏にいるのなら、それを判別できる可能性があるのは俺とお前だけだ」

 

「あー……確かになぁ」

 

 

 聞き馴染みのない言葉ばかりの今日だが、またも知らないワードが飛び出た。

 文脈からおおよその察しは付くが、それでもユナは詳細が気になったようだ。

 

 

「あの、怪獣優生思想って?」

 

「俺が元いた世界で戦った怪獣を操る連中だ。

 怪獣の思想で動いてるヤベー奴等でな。

 怪獣を操って街や人をめちゃくちゃに襲ってたんだよ」

 

 

 苦々し気なレックスの表情からは単純な敵味方以上の嫌悪が感じ取れる。

 対し、ユナもそれを聞いて思い返すのはやはりそのような存在が自分達の世界にもいた事だった。

 

 

「本当、テッシンさんの言う通り闇の巨人みたいな人がいたのね……」

 

「おー、何かさっきも言ってたよな? 

 そいつはアレか、こっちの世界で怪獣を操ってたみてぇな?」

 

「はい。闇の巨人達自体も凄く強くて……」

 

 

 と、思わず続けてしまった会話にユナの顔色が変わった。

 彼女はチラリとケンゴの顔を見やったユナはバツの悪そうな表情を一瞬浮かべたのち、大袈裟に声を出して仕切り直しを図った。

 

 

「そ、その話は後でするとして! 組み分けはどうします?」

 

 

 急な話題転換にレックスが首を傾げる中、組み分けは思いの外すんなりと決まる事となる。

 

 

「行くぞ、マナカ ケンゴ」

 

「え、ぼ、僕ですか? あ、ちょっと待ってください! 

 そ、それじゃあユナ! レックスさんと調査よろしく!!」

 

 

 呼びかけだけしてつかつかと先に行ってしまうナイト。

 有無を言わせない強さに驚きつつ戸惑いつつ、ケンゴは慌てて彼の背中を追う事となった。

 組み分けが決まるのはいいのだが、ここまで即時即断になるとは、と、呆気に取られてしまった。

 

 

「なんだぁ、ナイトの奴……」

 

「クールな人……? なんですね」

 

「クールねぇ……ま、いいか。そんじゃよろしくな、ユナ!」

 

「はい!」

 

 

 一方で明るく笑顔でスタートするユナとレックスのペア。

 2手に分かれた調査はこうして幕を開けた。

 

 

 

 

 

 街を歩きながら何か異変が無いかと目を光らせるユナとレックス。

 とはいえ現在手掛かりが全く無い状態での調査である以上、多少なりとも闇雲な調査にならざるを得ない部分はある。

 パトロールを兼ねて情報が得られれば御の字と言ったところだ。

 

 

「なぁユナ、さっき何で話を無理矢理変えたんだ?」

 

 

 歩きつつ、レックスは先程の不自然な話の遮り方について尋ねた。

 闇の巨人の話を出したタイミングで何処か慌てたようなユナが印象に残っている。

 ユナはレックスの言葉に振り返ると、少し目線を落として考え込む様子を見せた。

 それは言葉を探っているような、あるいは話していいものか迷っているようにも見える。

 しばらくの後、意を決したようにユナは顔を上げた。

 

 

「……さっき話に出てた闇の巨人、あれはただの敵じゃないんです」

 

「っていうと?」

 

「ケンゴにとっては、救いたかった相手っていうか……」

 

「救いたかった……?」

 

 

 救うという言葉は敵に対して語るには似つかわしくない表現。

 レックスが首を傾げるのも無理はない。

 ぽつぽつとユナが語るのは、闇の巨人とケンゴの間にある一言では言い表せない関係。

 

 

「ケンゴはみんなを笑顔にしたいって思っていて、その為に戦ってるんです」

 

「おぉ……立派じゃねぇか」

 

「……その『みんな』の中に、闇の巨人も含まれていて。

 ケンゴにとって闇の巨人は……」

 

 

 口籠るユナ。

 どうやらその先の言葉を口にできないが故にこの話ができず、今もどこか言葉を選んでいるような沈黙が生じてしまっているようだ。

 意外にも、というべきかレックスは直感した。

 この状況で言えないこと、言いづらいこと、それは自分にも心当たりがある。

 

 

「あー……例えば、『昔は仲間だった』とかか?」

 

「ッ!? な、なんで……」

 

「お、当たりか? なんだよ、ンなもったいつけなくても良いじゃねーか」

 

 

 ハハハ、と屈託なく笑うレックスに対し、ユナは鳩が豆鉄砲を食ったような顔だった。

 何せその答えはドンピシャ、正しくその通りなのだから。

 口籠るのも当然だ。『私の仲間は昔は悪人でした』と口にするようなものなのだから。

 

 

「いや、言いづらいから! ケンゴは悪い人じゃないのに、誤解されたく無いですし……!」

 

「分かってるよ。心配すんな、そりゃ俺も経験してる」

 

 

 あまりにもあっけらかんと言い放たれた言葉にユナは今日何度目か分からぬ驚きの表情を浮かべた。

 経験している、などという言葉が出てくるとはとてもじゃ無いが想像できなかった。

 対し、レックスは「ここは話さなきゃフェアじゃねぇな」と呟くと、自らの過去について語り始める。

 

 

「さっき言ってた怪獣優生思想な、アレ、昔は俺もそこの仲間だったんだよ。

 大昔にアイツらを裏切って、一回死んで、ミイラになって、んで蘇ってまた死んで、今はダイナレックスやってんだ」

 

「ちょ、まっ、え? 死んだ? ミイラ? え?」

 

「わけわかんねーだろ?」

 

「何にも入ってこない……」

 

「だよな、自分でもとんでもねー人生だと思うぜ。

 でもま、俺も昔は怪獣側だったってコトだ。ケンゴの過去がどうあれ、俺も似たようなモンだ。気にせず話してみな」

 

 

 なんでも無いかのように語るレックス。

 実際、彼にとってそれはなんでも無いのだ。

 レックスも、そしてこの場にいないナイトも『元は敵の陣営にいた』という経歴を持っている。

 今更それは驚くべき事でも、まして余所者の自分達が糾弾するような事項でも無いと考えていた。

 彼の言葉に嘘がないと直感的に察し、気持ちも少し軽くなったユナ。

 それでも人の過去、まして生半可ではないこれを語るのなら軽く喋るわけには行かない。

 あくまでも慎重に、ユナは少しずつマナカ ケンゴを語り始めた。

 

 

「ケンゴは昔、トリガーそのものだったんです。

 闇の巨人トリガーが光に目覚めて、他の闇の巨人を封印した……。

 その後眠りについたトリガーが人間として生まれ変わったのが、ケンゴなんです」

 

「成程な。前世の自分、みたいなもんか」

 

 

 「後からダイナレックスになった俺とは逆だな」という言葉の意味はよく分からなかったが、理解してくれた様子のレックスを見てユナも言葉を続ける。

 

 

「ケンゴはトリガーそのものだった頃の事をほんの少し覚えてるみたいで、闇の巨人達も笑顔にしたいと願ってました。でも……」

 

(……誰も救えなかった、か)

 

 

 ユナの拳が固く握られていた。

 彼女にも救いたいと思えた闇の巨人が、共に生きたいと願った者がいる。

 そしてそれはアキトも同じ想いを抱いていた。

 結局、ケンゴ達3人の願いも虚しく、闇の巨人達は全員が大地へと還っていってしまった。

 敵だった。許されない存在だった。人類の怨敵だった。

 それでも、言葉も心も通じ合えたかも知れなくて。

 それは3人に、とりわけケンゴの中に残る深い深い後悔だった。

 

 

「ケンゴも私達も闇の巨人を許そうとも、許されてほしいとも思ってはいないんです。

 でも、ほんの少しでも分かり合えたら、戦う以外の道もあったのかなって思うと……。

 ケンゴ、その事でたまに思い詰めてるみたいで……」

 

 

 ケンゴが時折見せる表情はスマイルを心情とする彼とはあまりにも正反対なもので、身近な者、特にGUTS-SELECTのメンバーは全員が気が付いている。

 ただ、かける言葉がなかった。

 既に終わってしまった事であり、何を言ったところで後悔が払拭されることはないであろうから。

 だからせめて普段通りに、笑顔でケンゴと共にいると彼等は決めていたのだ。

 

 

「すいません、だから話を逸らしたんです。

 ケンゴにあんまり辛い思いはしてほしくないし、ケンゴの事をレックスさん達に誤解されたくなくて」

 

 

 無言で一通りの話を聞き終わったレックス。

 脳裏に浮かぶのは5000年前を共に生きたかつての仲間達。

 倒す事に迷いはなかったが、思うところが無かったわけではない。

 容赦なくぶん殴ったが、それでも同じ時間を生きた仲間だ。

 そしてマナカ ケンゴという男は、どうやら自分と同じかそれ以上に波瀾万丈な人生を歩んでいるらしく、その歩みは今なお悩みに満ちているようだと理解した。

 

 

「とりあえず、まずは1つ言わせてもらうぜ」

 

 

 だがそれよりも。

 御託も理屈も無く、レックスはこれだけは言わねばと思っていたことがある。

 それは──────

 

 

「すまん!!!」

 

 

 腰を90度に折り曲げて、深々と謝罪をする事だった。

 

 

「えっ!? は、ちょ、なんで……!?」

 

「人の悩みや周りの気遣いに土足で踏み込んじまった! 

 知らなかった事とはいえ、本当にすまん!」

 

「い、いやいや! 話しちゃったの私ですし! 

 謝るならまずは私がケンゴに謝らないといけない事で……!」

 

「いや! 気にせず話してみな、なんて言っちまったのは俺だ! 

 詮索するような事をしちまって悪かった」

 

 

 頭を上げたレックスは未だに申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 相手が中々言い出せなかった事柄なのだが、それ相応の理由があるのだろうという事はレックスにも当然予想できていた。

 だから実のところ、全てを聞き終わった後に頭を下げようとは最初から思っていたのだ。

 後ろ髪を掻く彼が、それでも此処まで詮索したのには理由がある。

 

 

「でも、これでスッキリしたぜ。心置きなく一緒に戦えるってもんだ」

 

「え?」

 

「昔、一緒に戦ってた仲間に言われたんだ。

 ガ……『レックスさんが戦ってる理由って何ですか?』ってな。

 話し辛かったもんではぐらかしてもしつこく聞いてきて、あげくにゃ戦闘中にまで聞いてきやがってな。気ィ取られてたら危うく死にかけちまった」

 

 

 へへっ、と悪戯っぽく笑うレックスの表情は見た目からは想像できないくらいあどけないものだった。

 

 

「んで、俺の戦う理由を話したら、アイツ等と来たらあっさり納得してくれやがってよ。

 ……俺の事を知りたい、そう言ってくれた。

 だから俺も思ったんだ、一緒に戦う仲間の事は知っておきたいって」

 

「レックスさん……」

 

「いやまあでも、話せない事もあると思うぜ?

 だからよっぽど言えなければ追及は止めようとも思ってた。

 なのにありがとな、話してくれて。ケンゴにも後で勝手に聞いた詫びを入れとくぜ」

 

 

 礼の言葉と共に改めて頭を下げるレックスからは、ユナも何度も感じた誠実さが見て取れる。

 ケンゴの過去、仲間の過去を勝手に喋った罪悪感はあるが、この人には話して良かったかもしれないと感じさせる人柄だ。

 彼と知り合って僅かな時間しか経っていないが、彼は信用に足る人間だと、そう思えるくらいの。

 ところでだが、ここまでの話でユナにも気になる事が1つ。

 

 

「……ちなみに、言い辛かったら答えなくて大丈夫なんですけど」

 

「お? いいぜ、お詫びに何でも答えてやるよ」

 

「さっき言ってた、昔レックスさんの戦ってた理由って?」

 

 

 その言葉にレックスは一瞬キョトンとした顔を浮かべたかと思えば、何処か気恥ずかしそうに顔を背けた。

 話し辛かったとも言っていたしやはり聞いたらマズかったのかな、と質問を撤回しようかと考えるユナ。

 しかし思ったよりも早くレックスは口を開き、自らの過去を語り始めてくれた。

 

 

「会いたい人がいたんだ。どうしても会いたい人が。

 俺が大昔に一度死ぬ前から大切な人で、俺が蘇ったんだからきっとあの人も……そう思ってな」

 

 

 殆ど頭に入らなかったが先程ちらりと大昔に一度死んだ、というような事を話していたのはユナも覚えている。

 恐らくはトリガーと同じようなあれこれがあったのだろうと一旦自分に理解できるような整理の仕方をした上で、ユナはさらに問いかけた。

 

 

「それって、男の人?」

 

 

 対し、レックスの返答は酷く神妙な顔で。

 

 

「いや────女だ」

 

「あぁ~…………」

 

 

 その『あぁ~』にどういう意味が込められているのかはユナのみぞ知る。

 ただ、ユナの顔が若干ニヤけつつ納得感に溢れていたという事だけは付け加えておこう。

 

 

 

 

 

 勝手に歩を進めるナイトに追いついたケンゴは、彼の中々速めの歩行スピードに併せて歩いていた。

 辺りを強く警戒しながら街を回るナイトと、周囲へ注意を払いつつもナイト個人の事が気にかかっているケンゴ。

 無言で歩を進める中で会話の口火を切ったのはやはりというべきかケンゴだった。

 

 

「あの、ナイトさんは前から怪獣退治をされてるんですか?」

 

「ああ」

 

「じゃあずっとグリッドナイトとして戦い続けてるんですね……ウルトラマンみたいに」

 

「初めからではない」

 

 

 ケンゴはグリッドナイトを見た時から過去に出会ったウルトラマンの事を想起し、てっきりリブットのようにずっと活動してきているのかと思っていた。 

 だから短いながらもきっぱりとしたナイトの返答は意外なものだった。

 

 

「なら、何でナイトさんはグリッドナイトとして戦い始めたんですか?」

 

 

 ぴたりと、足が止まった。

 その質問が何か気に障ってしまったのだろうかと思うケンゴに対し、ナイトは振り向く。

 

 

「俺には倒すべき相手がいる。グリッドマンを倒す事が、俺の宿命だ」

 

「グリッドマン……?」

 

「お前は言った。ウルトラマンとは『みんなの命を、笑顔を守る、光の巨人』であると。

 だとするならばグリッドマンはそれと同じ使命と精神を持つ」

 

「……え、えぇ!?」

 

 

 ケンゴが心底驚いたのも無理はない。

 話を統合すると『ウルトラマンと似た存在を倒す事が目的だ』と言われたのだから。

 言葉だけで判断するのなら過去敵対していた存在と何ら遜色ない言い分である。

 

 

「ど、どういう事です? ナイトさんだって、さっきは怪獣を倒してみんなを守ってくれたじゃないですか!?」

 

「ああ。それが使命だからな」

 

「凄い矛盾してる気がするんですけど……!?」

 

「していない。俺はグリッドマンを倒す為に、グリッドマンと共に戦っている」

 

「いや、何か…………情報量が多いですね!」

 

 

 ちょっと何を言っていいか分からなくなり、ケンゴの脳内容量もオーバーヒートしたらしい。

 実際、ナイトの説明は知らない人間からすれば矛盾していた。

 しかし彼の中でこの説明は一切矛盾せず、彼の中の確固たる意志として一本の筋が通っている。

 言葉少ななナイトの言葉からそれを察する事は難しい。

 だが、迷いの無い何らかの信念があるのだろうという事は、彼の断定した物言いからは感じ取れた。

 

 

「お前は何を悩んでいる」

 

「え……」

 

 

 ドキリ、と胸が鳴る。

 彼の短く、それでいて鋭い言葉はケンゴの心境を確実に見抜いていた。

 出会って数時間にも満たない中で見抜くナイトが鋭いのか、それほどまでにケンゴの悩みが表情に出ていたのか。

 ケンゴの目は泳ぎ、ナイトはその間もケンゴに向ける視線が微動だにする事は無い。

 

 

「心を持つから悩みを持つ、心とは面倒なものだ。

 だが、それが人間らしさである事を否定はしない。迷い、悩み、立ち上がるのが人間だと俺は知っている」

 

 

 普段の彼を知るものからすれば、多くを語り始めるナイトの姿は珍しいものだろう。

 ナイトの言葉には言いようの知れぬ厚みがあった。

 きっと彼にも何か沢山の出会いがあり、沢山の戦いがあり、沢山の景色を見てきたのだろうと感じさせる説得力が。

 

 

「悩むのはいい。だが、それが戦いの中での迷いに繋がる事は無いようにしろ。

 迷っている内に被害を出してからでは遅いぞ」

 

「それは、勿論です! 守る事に、迷いはありません!」

 

「ならばお前は、何に悩む?」

 

「……それは」

 

 

 ケンゴの抱える悩みは確かに『守る事』には直接的に結びつかない。

 これからもこの先も、守る事、その為に戦う事に迷いを抱く事は無いだろう。

 何故ならば彼の苦悩は『この先』ではなく、『今まで』にあるのだから。

 

 

「僕は……」

 

 

 語るべきか、誤魔化すべきか、どちらとも決めずに口にした一人称。

 その最中、ナイトの目つきが恐ろしく鋭いものに変化した。

 

 

「ッ!!」

 

「えっ、あの、ナイトさん!?」

 

 

 すると常人とは思えぬ速度で走り出し、腰の剣を引き抜きながら1人の人影に急接近。

 人影は接近するナイトに気付くと、こちらもまた常人とは思えぬジャンプでナイトの剣の一振りを躱して遥か後方に着地した。

 その人影はケンゴやナイトと比べると小柄で、体躯からすれば少年のソレだった。

 

 

「ちょちょ、ナイトさん!! 町中で突然それは……!」

 

「黙っていろ。奴は……!」

 

 

 剣を携え、一連の人間とは思えぬ挙動をした2人に周囲の人は困惑と驚きに満ちていた。

 困惑しているのはケンゴも同じだが、ともあれ自分がGUTS-SELECTである事を利用して彼は周囲に『危険だから今すぐ避難を』と促す。

 怪獣が出ているわけでもないが、刃物を持った男性と超常の身体能力を持った少年を見ていた周囲の人々はおとなしくそれに従って蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 民間人が一旦周りにいなくなった事を確認すると、ケンゴもGUTSスパークレンスを引き抜き、構える。

 

 

「彼の言う通りだよ。町中で突然剣を振り回すなんて、迷惑行為だよ」

 

 

 少年がゆったりとした口調で、何でもない注意喚起のような言葉を発する。

 白を基調とした軍服のような衣装を身に纏い、褐色の肌と金髪を一本の三つ編みでおさげにしている。

 見た目の情報はそんなところだが、その少年を見るナイトの警戒からは警戒の色が消える事は無い。

 

 

「怪獣優生思想……! 貴様は、あの時俺達が倒した筈だ!!」

 

「一応『シズム』って名前があるんだけどね。一緒くたにされてるけど」

 

 

 落ち着いた口調で語るシズムを名乗る少年は、ナイトの怒気に怯む様子は無い。

 ナイトの言葉にケンゴも思わず息を呑む。

 怪獣優生思想。先程ユナ達と別行動に移る前に聞いた話では、怪獣を操り人を襲う集団。

 ナイトの今の言動と先程の話からしても、怪獣優生思想との戦いは過去のものであるかのようであった。

 

 

「ナイトさん、それって……!」

 

「先程話した連中だ。以前、俺達が倒した。

 ……何故生きて、別の世界にいる!?」

 

 

 至極真っ当な疑問。

 しかし返答となる言葉は、予想だにしていないものだった。

 

 

「何故って、俺は君達に倒された覚えなんかないよ。

 まぁでも『彼』の言う通り、『そっちの時間』じゃそうなってるんだ」

 

「何!?」

 

「別に隠す事でもないから言うけど、俺の前に突然怪獣じゃない金色の巨人が現れたんだ。

 そして俺の未来を教えてくれた。俺は君やガウマに倒されて、怪獣優生思想も全滅するってね」

 

「貴様は過去から来たとでも言うのか!?」

 

「そうだね。『アブソリューティアン』、だったかな。

 そいつのお陰で俺は時間と空間を超えて、この世界に来てるんだ」

 

「アブソリューティアン……?」

 

 

 初めて聞く名前に訝しげな目つきとなるナイト。

 一方で、今度はケンゴが驚きと警戒を示す事となる。

 怪獣優生思想がナイト達のテリトリーの敵なら、アブソリューティアンはウルトラマンのテリトリーの『敵』だ。

 

 

「アブソリューティアン!? ディアボロの仲間か!」

 

「ああ、君は知ってるんだ?

 俺の前に現れたのはタルタロスって言ってたけど。凄く丁寧に名乗られた」

 

「タルタロス……!」

 

 

 究極生命体アブソリューティアンの戦士・『アブソリュート・タルタロス』。

 直接の交戦経験こそないが、かつてディアボロと戦うリブットの前に現れ、ディアボロと共に撤退していった姿を見た事がある。

 また、当時アキトがイグニスから受け取ったデータの中にもタルタロスの記載が残っていた。

 いずれにせよケンゴ達にとっても既知の存在、それも強敵と言えるアブソリューティアンが怪獣優生思想と結びつきを持ってしまったらしい。

 ナイトの行動を諌めていたケンゴだが、この事実を前にしてはケンゴも最大級の警戒を持たざるを得ない。

 

 

「まあ、そんな事はいいや。

 彼のお陰で、俺は『2体』の怪獣と一緒にこの時空に来た」

 

「2体だと……!? 先程のと、もう1匹……!」

 

「ああ、最初のあの怪獣はもったいなかったよ。

 前はオニジャ達が2人がかりで『掴んで』たけど、今回は俺1人で掴めた。

 アブソリューティアンがくれた力? のお陰なのかな」

 

 

 そう語る彼の指先から、僅かにだが黄金に輝く粒子のようなものが散っていた。

 アブソリューティアンがくれた力、黄金の粒子、そこから導き出されるのは『アブソリュート粒子』のワード。

 ナースデッセイ号が『バトルモード』という多大なエネルギーを消費する姿に変形する、そのエネルギーを賄える程の強力な力だ。

 言葉と粒子を見る限り、シズムはアブソリューティアンの力の一部を譲渡されていると見るのが妥当なところだろう。

 

 

「ナイトさん、気を付けてください!

 アブソリューティアンとは以前戦った事があります!

 奴等は、とてつもない強敵でした……!」

 

「こいつはその力で強化されているという事か……!」

 

「お陰様でね」

 

 

 気迫と警戒の雰囲気を纏うケンゴとナイトとは対照的に何処までも冷静なシズム。

 ふと、シズムの目線がケンゴやナイトよりも向こう側、ビル群以外には何もない遠くに向いた。

 

 

「もう少し様子見してからにしようと思ったけど、見つかっちゃったし。

 次の怪獣、いってみようかな」

 

 

 彼の左手、その手の平が目線の先、虚空へと向けられた。

 続いて中指と薬指の間が開かれるが、それが何を意味するのか知っているナイトは。

 

 

「ッ、止めるぞ! マナカ ケンゴ!」

 

「えっ、はいっ!!」

 

 

 剣を振るい接近するナイトと、足元を狙って引き金を引こうとするケンゴ。

 けれどもその行動のどれもが、今一歩遅かった。

 

 

「『インスタンス・ドミネーション』」

 

 

 呪文と思わしき何かが唱えられた。

 シズムの目が赤く輝き、数瞬遅れて振るわれたナイトの剣をシズムはあっさりと躱してみせて。

 

 

 ────そうして、マナカ ケンゴの意識は消失した。




ナイトさんの前に現れた怪獣は、またもやグリッドナイト同盟が戦った事のある怪獣だった。
アブソリューティアンの力を持った怪獣優生思想を前に呑気に寝てられない!
気がついた僕の前にいたのは……カルミラ……!?

次回、ウルトラマントリガー×SSSS.GRIDKNIGHT
『過去よ再び』
スマイル、スマイル!
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