ウルトラマントリガー×SSSS.GRIDKNIGHT   作:ライフォギア

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第4話 過去よ再び

 夢を見たんだ。

 僕はまだ『僕』じゃなく、闇の巨人だった頃の夢。

 

 一度目の夢で、僕は今の僕と同じ事をした。

 カルミラが泣いていた。

 

 二度目の夢で、僕は闇の巨人のまま過ごした。

 ユザレが泣いていた。

 

 次の夢ではトキオカさんが泣いていた。

 次の夢ではまた違う誰かが。

 次も、次も、その次も。

 

 僕はみんなを笑顔にしたい。

 けれど、絶対に誰かが泣いてしまうんだ。

 

 僕は──────

 

 

 

 

 

 突如として自分の意識が消え、自分は今気がついたのだと理解するのに数秒の時間を要した。

 マナカ ケンゴが辺りを見渡すと、そこはビル街も何もない、土煙の舞う開け放たれた何処か。

 

 

(ど、何処ここ!?)

 

 

 地球は広い。未開拓の場所だって沢山ある事だろう。

 とはいえ、土地勘も何もない場所に飛ばされては本当に何もできない。

 そもそも此処は日本なのか、何だったら地球なのかすらも怪しいところだ。

 まさか火星にでも飛ばされたんじゃ──などという考えは、すぐに霧散した。

 

 

「ッ!?」

 

 

 規則的な地鳴りが響く。

 まるで巨大な何かが歩いているかのような──怪獣や巨人の出現で幾度も感じたことのあるそれ。

 音のする方角を見た時、彼の顔には色濃い動揺が生まれた。

 

 

「…………カル、ミラ」

 

 

 隣にはダーゴンも、ヒュドラムもいる。

 そしてあろう事か──『トリガーダーク』までもが。

 

 トリガーダークとは闇の巨人だった頃のトリガーを指す。

 言い換えれば、トリガーという巨人の本来の姿。

 紆余曲折あって、今はその闇の力は自分の仲間が所有している筈。

 

 ケンゴはこの状況に一度立たされた事がある。

 突然過去に飛ばされて、過去のトリガーに出会ったあの日。

 

 そう、ここは『三千万年前』。

 

 

(できるかも、しれない……)

 

 

 あの時とは違うのは、自分は最後まで未来を知っている。

 カルミラ達がどうなるのか、トリガーがどうなるのか。

 だったら、きっと、もしかしたら。

 

 

(『みんな』を笑顔にできるかもしれない……!!)

 

 

 走り出したケンゴの頭から、怪獣の事もグリッドナイト同盟の事も、気を失う前までの何もかもが抜け落ちていたのは、『この空間』の特性なのかもしれない。

 

 そうしてマナカ ケンゴは、過去の檻に囚われた。

 

 

 

 

 

 シズムに剣を躱されたナイト。

 跳躍にて距離を取ったシズムを前に、ナイトは背後を見やる。

 インスタンス・ドミネーションとは、怪獣優生思想が怪獣を『掴む』事で自分の支配下に置く能力だ。

 それをナイト達の背後に向けて行った。

 つまるところ、ナイト達が気付いていない怪獣が後ろにいた、という事に他ならないのだが。

 

 

「ッ!! あの怪獣は……!」

 

「僕の知っている君達は、この怪獣を倒したところまでだね。

 この怪獣も別の時間から呼び出されたらしいよ」

 

 

 ステルス機能でもついているのか、今しがた現れた怪獣『ガルニクス』は、吼えるでもなくその場所に佇んでいる。

 動きもしない。破壊活動もしない。

 しかしそれだけで脅威であると、ナイトは身をもって知っている。

 

 

「マナカ ケン……!?」

 

 

 変身するためにケンゴに呼びかけようとしたが、その姿がどこにもない。

 怪獣に気を取られていたが、ケンゴは忽然と姿を消していた。

 ケンゴがそこにいた事を示すような影を地面に焼き付けながら。

 

 

(遅かったか……!)

 

 

 ガルニクスの能力。

 それは『周囲を取り込み、その人間にとって大切な過去の時間に飛ばす』というものだ。

 過去そのものに飛ぶのではなく、過去を再現した空間内に閉じ込める能力。

 何より脅威なのは、その能力が音もなく、前触れもなく、抵抗もできずに囚われるという事。

 対象はランダムで選ばれているらしく、以前戦った時も自分の仲間達が不規則に、かつ徐々に消えていき、自分もそこに囚われた事をよく覚えている。

 

 

(巻き込まれてはマズい!)

 

 

 そこでナイトは一旦引く事を選択した。

 自分まで取り込まれれば状況を知る者がいなくなり、ケンゴを助ける確率も、怪獣への勝率も下がる。

 苦々しげにシズムを睨みながら、ナイトはその場を急いで後にした。

 

 撤退するナイトを追うでもなく、シズムはガルニクスを見上げる。

 

 

「一度経験した相手は、巻き込み辛くなってるのかな」

 

 

 ガルニクスとかなり近い距離にいながら、ナイトはその能力から逃れた。

 状況も何も分からないまま相手を取り込む能力、それはある種初見殺し的なものだ。

 裏を返せば初見でない相手には効きづらいのかも、というのは特に裏付けもないシズムの考察でしかないが。

 

 

「まあ、いいや。今度こそ自由になれるかもね」

 

 

 誰にともない一言だけを残し、彼は消失する。

 シズムの影だけが、そこに残った。

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、マジかよ……!!」

 

 

 レックスが遠くに見据えたのはガルニクスの姿。

 ナイト達とは別行動ではあるものの、流石に50m級の巨体は街のどこにいてもよく見える。

 何よりその怪獣が、またも自分にとって見覚えのあるものであるという事がレックスにとっては気掛かりだった。

 

 

(また俺の世界に出てきた怪獣かよ! 

 ナイトの言う通り誰かが蘇らせてるってのか!?)

 

 

 だとするならば、敵は自分の、レックスがかつて『ガウマ』と名乗っていた頃の戦いを知っているのではないかという疑惑すら持てる状況だ。

 それこそ怪獣優生思想が復活したのではないかとすら思えてしまうような────

 

 

「ッ、ンな事よりだ! あの怪獣はヤベェ! 一旦此処から退いて……!?」

 

 

 ナイトと同じくガルニクスが初見ではまず対処できない能力を持っている事をレックスは知っている。

 急ぎユナと共にこの場を離れなければと、焦りながらユナの手を引こうとしたのだが。

 

 

「ユナ……ッ!?」

 

 

 レックスが掴もうとした腕は消失し、呼びかけだけが虚しく響く。

 既にユナの姿は無く、彼女の影が地面に焼き付いていて。

 彼女がガルニクスの能力に囚われてしまった事を示していた。

 

 ユナを見捨てるわけにはいかないが、今この場ではダイナレックスにはなれない。

 しかも以前戦った時の実力から考えるにダイナレックス単騎では勝てるか怪しい上に、何よりも自分まで敵の能力に巻き込まれればそれこそ状況は悪化してしまう。

 

 故にレックスは悔しさで拳を握り締め、歯を割れんばかりの勢いで強く噛みしめながらも、怪獣に背を向けて走るしかできなかった。

 

 

(すまねぇ……! ぜってぇ助けるからな、ユナ!!)

 

 

 この悔しさは必ずあの怪獣に叩き込む。

 その決意を胸に、レックスはナースデッセイ号へとひた走った。

 

 

 

 

 

 再び鳴るナースデッセイ号のアラート。

 研究室に籠っていたアキトが白衣を脱いで司令室に飛び込んだ時、最初に見たのはモニターを睨み付ける仲間達の姿だった。

 

 

「隊長! 怪獣ですか!?」

 

「ああ、モニターを見ろ。出現した怪獣を中心地として、周囲一帯が忽然と消滅していっている」

 

 

 建物が、植物が、動物が、人が消失していく。

 怪獣ガルニクスが現れてから、そこを中心に街が徐々に消えていっていた。

 ガルニクスは人だけでなく物体も見境なく取り込んでいく。

 消えていったものの黒い影だけが地面に残り、街は瞬く間に黒く塗り潰された平坦な世界へと変わっていく。

 

 この異常を前にナースデッセイ号は沈黙を守っていた。正確に言えば『沈黙せざるを得なかった』。

 状況に気付いた際には直ちに出撃しようとしたのだが、それに2代目が待ったをかけたのだ。

 司令室のメインモニターには2代目の焦った表情が映し出されている。

 

 

『あの怪獣に無闇に接近してはいけません! 取り込まれてしまいます!!』

 

「取り込む……? 貴女はあの怪獣についても知っているのですか?」

 

 

 サウンドラスからの通信に耳を傾けるタツミ。

 怪獣と異常事態を前に悠長にはできないが、声を荒げて『近づくな』という事は何かあるのだろう。

 敵に対しての知識が前もって得られるならばと、GUTS-SELECTは2代目の忠告を素直に聞き入れた。

 

 

『あの怪獣は人や物を取り込んでいくんです。

 その範囲はどんどん広がり続けますが、怪獣を倒せば消えた人達は戻ってきます』

 

「何だよ! だったらズバッとナースキャノンでぶっ潰してやろうぜ!」

 

 

 そんな簡単な話なら、とマルゥルが指をパチンとならすが、2代目は首を横に振った。

 

 

『いえ、あの怪獣は見た目とは違って凄まじい速さで動くんです。

 何より攻撃の前にサウンドラスやナースデッセイ号が先に取り込まれれば、その時点で私達の負けになってしまいます。

 そしてあの怪獣の取り込む能力には予備動作も前兆も必要ないんです。

 いつ、どのタイミングで私達が行動不能に追い込まれるか……』

 

「遠隔操縦のファルコンちゃんなら……建物まで取り込んでるなら無人機もダメか」

 

「GUTSファルコンの火力じゃあ怪獣を一撃! ってワケにもいかねぇしなぁ……」

 

 

 GUTSファルコンという機体に自信を持っているヒマリだが、冷静に状況を鑑みてファルコンでは厳しいとジャッジした。

 テッシンも同じ見解らしく、彼の言う通りGUTSファルコン自体は優秀な機体だが、どちらかと言えば手数や素早さで戦うファルコンは火力という面でどうしてもナースデッセイ号やトリガーに劣ってしまう。

 

 今回の敵であるガルニクスの恐ろしい点はその能力だ。

 が、もう1つ恐ろしい点は単純な実力が備わっているという点。

 動きは機敏などという言葉を遥かに通り越しており、その速度たるや目で追えないレベル。

 4足歩行の体躯の通り体重もキッチリ重く、その体重はトリガーの2倍弱。

 そんな物体が目に追えないスピードで動くのだから単純な体当たりでも相当の威力が出る。

 

 と、そんな話の最中、ゴルドバーンが活動を開始した。

 並列しながら空中を飛ぶナースデッセイ号とサウンドラスを纏めて包み込むように球状の光のバリアを展開したのだ。

 突然の行動にGUTS-SELECTが驚く中、2代目が冷静にゴルドバーンの意図を話す。

 

 

「ゴルドバーンのこのバリアの中であれば、怪獣の干渉を受けずに済みます。

 尤も、こちらからも動く事は出来ませんが……」

 

 

 以前に戦った時もゴルドバーンのバリアのお陰で難を逃れる事ができた。

 彼の存在は非常に心強く、何度もグリッドナイトやダイナレックス、そしてグリッドマンをも救ってきたのだ。

 ゴルドバーンの存在と彼を生み出した『仲間』に思いを馳せつつも2代目は険しい面持ちを崩さない。

 

 

「幸いあの怪獣は周囲を取り込むだけで、倒しさえすれば全てが戻ってくるので被害は出ません。

 ゴルドバーンが作ってくれた時間で、勝つ為の作戦を立てましょう」

 

 

 無策では勝てない相手なのは十二分に伝わった。

 限られた短い時間の中で行われようとする作戦会議。

 ナイトとレックスから帰還の報告がされたのは、その直前の事であった。

 

 

 

 

 

 一時的にバリアを解除したゴルドバーンがナイトとレックスを回収し、ナースデッセイ号へと2人を送り届けた。

 サウンドラスではなくナースデッセイ号の方へ運んだのは2人の希望だった。

 

 

「すまねぇ!! ユナがあの怪獣に取り込まれた! 俺が付いていながら……!」

 

「マナカ ケンゴも同様だ」

 

 

 真っ直ぐな謝罪から入るレックスは今にも土下座でもせんばかりの勢いである。

 ナイトも無表情を崩す事は無いが、目つきが先程までよりも幾分か鋭い。

 先程2代目もあの怪獣は『取り込む』と言っていたが、取り込まれた人の安否は気になるところだ。

 そこに切り込んだのはアキトだった。

 

 

「あの怪獣に取り込まれた人達は、あの中でどうなっているんだ?」

 

「なんつーか……昔の事を見せられるんだ。一番記憶に残っている事とか、後悔している事とか……」

 

「俺とレックスも経験している。過去を追体験し、時に過去の選択を変える事もできる。

 現実には何の影響もないが、いずれにせよその人間は過去に囚われる。自力でこちらに戻る事は難しい」

 

「……過去に、囚われる」

 

 

 ケンゴとユナが心に一番残している事、一番の後悔。

 考えるまでも無くアキトには幾つか候補が浮かんだ。

 どれであれ、もしもそれを見せつけられて、追体験させられ、しかも現実とは違う選択肢を選ぶ事が出来るのなら。

 2人、特にケンゴはそこに囚われるであろうという事は想像に難くない。

 

 

「外部から救出する必要がある。が、その前に俺が見た情報を共有しておく」

 

 

 ナイトは自分が見た事、知り得た情報の全てを話した。

 それはGUTS-SELECTを、そしてレックスを驚愕させるには十分過ぎるものだった。

 

 

「過去から来ただと……! シズムの野郎……ッ!!」

 

 

 この場の誰よりも怪獣優生思想と関わりの深いレックスの面持ちは、普段の彼らしからぬ嫌悪の色が見て取れる。

 あの時倒した筈の敵、あの時終わった筈の事、それが再び蘇った。

 それも今回は完全に無関係な世界まで巻き込んで。

 自分も無関係な人を巻き込んだ側なので強く言えるわけではないが、それでも人を平気で傷つけていく怪獣優生思想のやり方は看過できるものではない。

 

 一方、タツミを始めGUTS-SELECTの面持ちも険しい。

 アブソリューティアンの実力がケタ違いなのは実体験だ。

 一度は最強の力・グリッターを使ったトリガーに加えてナースデッセイ号・バトルモード、更には別世界からのウルトラマン、リブットの力を借りるという全力全開で臨んで何とか勝てた相手。

 今回はアブソリューティアン本人というわけではないが、それでも恐ろしい話である。

 

 

「報告はもう1つある。シズムは怪獣を2体連れてきたと言っていたが、同時に『今現れている怪獣が倒された直後の時間から来た』とも言っていた」

 

 

 シズムが連れてきた怪獣は、彼の話を信じるならブルバインとガルニクス。

 しかしナイトが付け加えた『シズムが連れてこられた時間』を聞いたレックスは、表情をさらに強張らせた。

 

 

「……! おいちょっと待て。って事は、今この世界にいるシズムは『最後の戦いの前』って事か!?」

 

「ああ。レックス、その意味はお前なら分かる筈だ」

 

「野っ郎ッ……! 何が怪獣2体だ! もう1匹ちゃっかり連れてきてるって事じゃねぇか!!」

 

 

 舌打ちと共に放たれたレックスの言葉は、この世界の守護者であるGUTS-SELECTとして聞き逃せるものではない。

 ケンゴとユナが取り込まれ、自分達も満足に動けないこの状況に対し、さらに追加でもう1体いるというのか。

 とりわけ思っている事がすぐに口に出るテッシンの大きな声が面々の驚きを代表した。

 

 

「おいおい! 怪獣が他にもいやがるのか!?」

 

「ああ……俺やナイト、みんなで一緒に戦った最後の怪獣は、シズムが『体の中に飼ってた』んだ」

 

「シズムや他の怪獣優生思想と融合し、俺達と戦った。体感だが、今現れている怪獣よりも強い」

 

 

 怪獣を体の中に飼う、という言葉は中々に凄まじい話だが、『怪獣に変身・融合する』という意味で捉えるのならばこの世界にも前例がいる。

 この世界で最後に戦った『闇』である『メガロゾーア』は、カルミラを中心とした闇の集合体。

 怪獣化したカルミラと言って差し支えの無い邪神とでもいうべき姿に変貌した事は、2年前の事でもまざまざと思い出せる。

 それよりも問題なのはナイトの言葉だ。

 今現れている怪獣よりも強いともなれば、ガルニクスを倒せたとしても過酷な連戦になる恐れがある、という事。

 

 

「だからこそ、マナカ ケンゴとシズマ ユナを先に救出する必要がある」

 

 

 それがナイトの答えだった。

 そもそもケンゴとユナを救う為ならガルニクスを此処にいるメンバーで倒すだけでいい。

 が、当のガルニクスはグリッドナイトとダイナレックス、そしてゴルドバーンの最強の姿『カイゼルグリッドナイト』でも苦戦を強いられるであろう敵だ。

 さらにはシズムがまだ体内に宿しているであろう怪獣に、アブソリューティアンの力と、敵の戦力が大きい上に不確定要素が強すぎる。

 

 

「『全員』で戦えなければ、勝機は無い」

 

 

 これは『ウルトラマントリガーが必要である』という意味ではなく、『ウルトラマントリガーもGUTS-SELECTも全員で』という意味でナイトは語っていた。

 過去、『誰も乗っていないダイナレックス』と合体してカイゼルグリッドナイトとなった時、ナイトはシズムの怪獣に完敗した。

 しかし仲間が全員で乗り込んだカイゼルグリッドナイト、そしてダイナレックスは凄まじい力を発揮して見せたのだ。

 当時のパイロットは全員一般人であったにも拘らず。

 

 ナイトが元々いた世界でも、一般人の支えがあってグリッドマンは戦い、時に全力以上の力を引き出していたように思える。

 『みんながいてくれる事』、それはグリッドマン自身が直近の戦いで語っていた事でもあった。

 力があるとかないとか関係ない。文字通り『仲間がいる』事が大事なのだとナイトも学んだのだ。

 

 

「……分かった。まずはマナカ隊員とシズマ隊員を救出する! 

 その為にはグリッドナイト同盟の力も必要だ。……お願いできるだろうか」

 

 

 誰かを救う為、何よりも仲間を救い、勝利を得る為となればGUTS-SELECTも迷う必要は無い。

 タツミの言葉にレックスは強く、ナイトは静かに頷いた。

 

 

「当ったり前ッスよ! ユナの事は、一緒にいた俺の責任でもあります! ぜってぇに助ける!」

 

「ああ」

 

『勿論、私もサウンドラスで可能な限りフォローいたします!』

 

 

 元よりそれが使命であるのだから断る理由など微塵もない。

 通信機越しの2代目含め、そう感じさせるような応答でもってグリッドナイト同盟は協力を即断した。

 

 

「とはいえ、あの怪獣の中にいるケンゴとユナをどうやって……?」

 

 

 アキトの言う通り問題は作戦の内容だ。

 実はアキトも怪獣の体内に囚われた経験があるが、あれはバリガイラーが騙されていてそこまで悪い奴では無かったため何とかなったという部分がある。

 単純に倒すわけではないのなら、それ相応の策は必要だ。

 しかしそこについてはグリッドナイト同盟、延いてはレックスが経験済みのところでもある。

 

 

「簡単だ。アイツの口の中に飛び込んで中に入んだよ」

 

「中には俺とレックスで行く。いいな、レックス」

 

「おうよ」

 

「ああ、口の中に……。いや待て飛び込むのか!?」

 

 

 何でもないかのようにレックスとナイトが語るものだから普通に流しそうになったが、アキト含めGUTS-SELECT一同驚きを隠せなかった。

 体内にいる仲間を助けるのなら、相手の体内に飛び込む。

 そりゃそうだろうし単純明快ではあるものの、そんな簡単にできるものだろうかという疑問は湧く。

 が、2代目もそれについて訂正する気は全く無いようで、至極当然と言った顔で頷くだけだった。

 

 

「前もそうやったしな! まあ、俺はその前に取り込まれちまったんだが……」

 

 

 あまつさえ一度実行済みというのだから凄まじい話である。

 あの時は仲間──蓬に助けられたっけなぁ、と回顧するレックス。

 

 さて、中に飛び込めば何とかできるであろうという事はグリッドナイト同盟が身を持って証明済みである。

 であるのならば、危険は伴うだろうがGUTS-SELECTとしてもその作戦に乗る事になるのだが。

 

 

「つっても、前は近くのビルからヒョイっと飛び込んだんだが……。

 今回は周りのビルとか高台も全部取り込まれちまってるからなぁ……」

 

 

 ガルニクスの周囲は真っ平らである。

 接近する為の足場など1つも無く、ビルを含めた建物は全てガルニクスに取り込まれきっている。

 戦うには絶好の舞台だろうが、今回の場合は少々困った状況だ。

 

 

「あ、だったら」

 

 

 スッと小さく手を挙げたのはヒマリ。

 彼女は周囲の注目を集めると、ナイトとレックスをそれぞれ一瞥した。

 

 

「2人とも、飛ぶ戦闘機に掴まっていられる?」

 

「……? できない事は無い」

 

 

 代表してナイトが答えるが、質問の意図が読めないのか怪訝そうな顔である。

 一方でその回答に満足したヒマリは右手で眼鏡をくいっといじると、今度はGUTS-SELECTのメンバーに語り掛けた。

 

 

「やった事あるでしょ、怪獣の懐に飛び込む作戦。アレと同じ事をすればいいんじゃない?」

 

 

 そんな危険な事をした事は……と全員が思うが、同時に全員が同じ怪獣の名前に行き着いた。

 今は地球にはいない仲間と初めて共同戦線を敷いた、あの作戦とあの怪獣。

 

 

「あー! イグニスと初めて組んだ時の!」

 

「『サタンデロス』ん時の、GUTSファルコンで接近する奴だよな!」

 

 

 テッシン、マルゥルの言葉を含め全員の中で作戦の概要が一致した。

 サタンデロス。それは過去この地球に現れたロボット怪獣で、強固なバリアを持った怪獣。

 この怪獣はバリアは破ってもすぐに修復される上、当のバリア発生装置はバリアの内側にあるという厄介な特性を持っており、それを破る為にイグニスという仲間と共闘したのだ。

 作戦内容としてはバリアを破って修復されるまでにGUTSファルコンで接近し、ファルコンに掴まっていたイグニスが怪獣の懐に飛び込んでバリア発生装置を破壊する、というものだった。

 最終目的が違うだけで、言ってしまえばこれと同じ事をすればいいのだとヒマリは語る。

 

 

「ファルコンちゃんの機動力なら怪獣に取り込まれる前に接近できるかも」

 

「レックス君達が飛び込んだ後で仮にGUTSファルコンが取り込まれても、ファルコンは無人機だ。

 あの怪獣を倒しさえすれば戻ってくるのなら、こちらの被害も最小限だな……」

 

 

 タツミの言う通り、GUTSファルコンは貴重な戦力ではあるが遠隔操縦なので、最悪取り込まれても操縦者のヒマリにまで影響は出ない。

 ナースデッセイ号やサウンドラスと違い小回りも効き、この状況で動かすには最適な機体。

 そしてGUTSファルコンにナイトとレックスが掴まっていられるというのであれば、作戦は決まったようなものだ。

 

 

「よし、ならば……」

 

「……隊長!」

 

 

 サタンデロスの時の戦いと言っても、ナイトとレックスは何の事か分かっていない。

 それも含めて全体の意思共有をするためにタツミが作戦を説明しようとするが、そこに割って入ったのはアキトだった。

 

 

「どうした、ヒジリ隊員」

 

 

 タツミが見るアキトの顔は、何処か意を決したような表情だった。

 彼はずっと考えていた。この状況で自分に何ができるか、何をしたいか。

 

 

「俺も行きます。行かせてください」

 

 

 きっとGUTS-SELECTの中で、誰よりもケンゴとユナに近いアキト。

 だからこそ思った。自分の手でケンゴとユナを助けたいと。

 

 

「ケンゴがここ最近悩んでいた事は知っている筈です、俺達全員が。その理由も。

 もしケンゴが過去に囚われるとしたら、きっと……」

 

 

 最後まで語られる事は無かったが、その言葉にGUTS-SELECT全員の視線が僅かに落ちた。

 ケンゴが悩んでいる事も、その内容も大まかにだが彼等は察している。

 しかしそれは過去の後悔であり、どれだけ悩んでもどうこうする事のできない、決まってしまった『現実』だ。

 だが、今現れている怪獣が過去を見せ、その選択をも変える事ができる怪獣であるというのなら。

 

 そしてそれはユナも同様である。

 何せユナが抱えているであろう『後悔』はアキトのそれと同じであろうから。

 

 

「だから俺が、GUTS-SELECTが行かないと。2人の後悔を知っているのは、見てきたのは、俺達だけです!」

 

 

 声を荒げる様子はアキトらしくないものだった。

 けれどもそれは、彼がどれだけケンゴとユナの事を大事に想っているかの証左でもある。

 彼の気迫を前にタツミは穏やかに笑うと、彼の両肩に手を置いた。

 

 

「無論だ。GUTS-SELECTの仲間を助けるのに、我々が待つだけでいられるものか。

 誰か1人は同行させるつもりでいた。……頼めるか、ヒジリ隊員」

 

「……! ラジャーッ!!」

 

 

 隊長からの正式な命に、敬礼と感謝を交えてアキトは答えた。

 

 怪獣の中に飛び込むというのは当たり前だが凄まじく危険が伴う任務である。

 そんな危険な任務に、何より自分達の仲間を助けるのに、余所から来たナイトとレックスだけに任せるわけにはいかない。

 彼等を信じていないわけではない。

 ただ、自分達の仲間を助けるのに何もしないわけにはいかないという、彼等が一様に持つ仲間意識によるものだった。

 

 正直なところタツミは自分が行く事も考えていた。

 元々自分は一度は隊長を退いている身。

 イーヴィルトリガーの一件が無ければ自分はGUTS-SELECTの隊長には戻らなかったのだから。

 だからきっと、自分の身に何かあってもTPUから新たな隊長が抜擢されるか、テッシン辺りが新隊長になるだろうと踏んでいたのだ。

 

 だが、部下のたっての希望であるならば。

 隊長としてそれに応えないわけにはいかない。

 

 

「よし、では改めて作戦を共有する。グリッドナイト同盟との共同作戦だ」

 

 

 作戦は決まった。

 ならばあとは実行するだけだと、タツミの号令の元に同盟達は意思を統一させるのだった。

 

 

 

 

 

 超常の身体能力を持つナイトやレックスに対し、アキトは普通の人間の範疇を出ない。

 当然ながら飛んでいる戦闘機の上に立つなんて離れ技は危険過ぎるので、パラシュート等、アキトには準備が必要だった。

 装備品は一式あるので、GUTSスパークレンスやハイパーキーも含めて細かく点検しつつ、アキトは自室で装備を整えていく。

 

 そんな中でアキトは鮮やかな緑のハイパーキーを手に取っていた。

 これは『ウルトラマンリブット』のキー。

 かつてこの時空に来訪したリブットが残していった、ウルトラマンの力を秘めたハイパーキーである。

 その力は闇の巨人にトドメをさせる程に強大な代物で、GUTS-SELECTも滅多な事では使用しないキー。

 これを外に出しているのは、隊長の命令だった。

 自室で装備を整える前、司令室での一幕が思い返される。

 

 

『ヒジリ隊員。リブットのハイパーキーを持っていくんだ』

 

『リブットの? 確かに強力なキーですが……何故『リブット』なんですか?』

 

 

 強力なハイパーキーであることは間違いない。

 が、GUTS-SELECTの所有するハイパーキーは基本的にどれもが強力で、中には『ガーゴルゴンキー』のようにナースデッセイ号を介して使用すれば怪獣をも石化させるという恐るべき力を秘めたものもある。

 にもかかわらず、タツミはリブットキーを指定した。

 

『相手がアブソリューティアンの力を持っているなら強力な力は必要になるだろう。

 それから……隊長としてこんな不確実なことを言うべきではないが、そのキーは、力になってくれるような気がしている」

 

『どういう意味ですか?』

 

『リブットは過去にもアブソリューティアンとの戦いの時に協力してくれた。

 それに、あの時にマナカ隊員とシズマ隊員を救ってくれたのも、彼なんだろう?』

 

 

 あの時、というのは以前にアブソリューティアンが現れた時の事。

 その頃のケンゴやユナはアブソリューティアンの襲来とは別に追い詰められていた。

 敵にではない。自分自身の『運命』の重さにだ。

 ケンゴはかつてトリガーそのものであった事、グリッターという強力な力を手に入れたが故に一層自分が戦わなければと気負っていた。

 ユナは超古代の巫女、『ユザレ』の血を引く者として、超古代から続く戦いを終わらせる鍵となる存在だった。

 その運命との向き合い方を教えたのがリブットだった。

 

 ウルトラマンの力に頼り切ることはタツミとしても本意ではない。

 が、それでも仲間の命がかかっている現状、藁にも縋りたいというのもまた本音だった。

 

 

『……どうあれ、相手がアブソリューティアンクラスの敵ならこちらの手札を惜しんでいる状況ではない。

 頼んだぞ、ヒジリ隊員』

 

 

 隊長からの命令に敬礼と共に『ラジャー』と返し、装備の準備に取り掛かり現時刻に至る。

 装備の殆どはアキトが自ら作り上げたものだ。

 故にそのスペックの全てを知り尽くしているが、だからこそ点検に油断が生まれかねないとアキトの確認は慎重である。

 攻撃用のハイパーキーを2本、リブットのキーと合わせて3本。

 GUTSスパークレンスやパラシュートにも一切の落ち度は無い。

 

 

(待ってろ、ケンゴ、ユナ……!)

 

 

 作戦行動に必要な装備一式を携え、アキトは力強い足取りで自室を踏み出す。

 艦内の通路では部屋の扉の両端を陣取る形で2人の青年が壁に背を預けながら待機していた。

 これからの作戦を共にするナイト、レックスの両名は片や先程までと変わらぬ仏頂面を、もう一方はサングラス越しにニッと気さくな笑みを見せる。

 

 

「準備万端か? アキト」

 

「ああ、足手纏いにはならない。必ずケンゴとユナを救う」

 

「へへっ、いい気合だ。頼りにしてるぜ!」

 

 

 アキトの背中を軽く叩きながらレックスは「先に行ってるぜ」とGUTSファルコンに通じるハッチへと向かっていった。

 先程見せた笑みや爽やかな雰囲気とは裏腹に、その足取りも握られた拳にも妙に力が入っている。

 それこそ今日からの付き合いであるアキトにも背中越しで分かるほどの怒りをレックスは放っていたのだ。

 

 

「レックスさん、怒ってるのか?」

 

「怪獣優生思想は奴の宿敵だ。それが蘇った事もあるが、目の前でシズマ ユナを助けられなかった自分への怒りもあるだろう」

 

「……優しいんだな、レックスさん」

 

「そういう奴だ」

 

 

 言葉少なな中にもナイトからレックスへの理解と信頼が見て取れる。

 和気藹々とした雰囲気とは程遠いナイトだが、彼には彼なりの絆の在り方があるのだろうとアキトは感じた。

 果たして彼等の出会いと戦いには何があったのだろうと気にはなるが、それはこの戦いが終わったら聞いてみようとアキトもレックスに続こうとするが。

 

 

「ヒジリ アキト。お前に聞きたい事がある」

 

 

 ナイトが言葉でその足を止めさせた。

 質問があるという言葉で改めてナイトに向き直るアキトだが、変化の無い表情からは何を聞きたいのかは読み取れない。

 

 

「マナカ ケンゴは何を悩んでいる?」

 

「え?」

 

 

 素っ頓狂な声が漏れたとアキト自身が感じていた。

 ケンゴが悩んでいる事にはアキトも当然気付いているし、その理由にも大体の予想はついていた。

 まだ数時間程度の付き合いであるナイトがまさかそこに切り込んでくるとは、というのがアキトの驚きの理由。

 

 

「奴は時折何かに思い悩んでいる。奴自身にそれを聞こうとしたが、怪獣優生思想が現れた。

 しかし奴は守る事や戦う事に躊躇いは無いと言っていた」

 

「そう、だと思います。ケンゴが感じているのは多分、『後悔』なので」

 

 

 シズムが現れる直前にナイトが聞けたのは、彼に戦いへの迷いは無いという事のみ。 

 対し、アキトはケンゴの悩みを正しく理解している、というよりも彼自身も似たような後悔を抱えている。

 

 

「……『過去』、か」

 

 

 そしてその返答を聞いたナイトもまた、同じ様にある種の『後悔』を抱えている。

 正に今出現している怪獣に見せつけられたナイトの心残り。

 それは今のナイトが迷う理由にはならないが、確かなしこりとして彼の中に残っているもの。

 成程、と、ナイトは納得した。

 ケンゴもまた過去に何かを『残してきてしまった』のだと。

 

 

「それだけ聞ければ十分だ」

 

 

 1人で納得したナイトはアキトに背を向け、レックスを追う様に通路を歩み始める。

 詳細まで語ってはいないのにも拘らず納得された事はアキトからすれば不思議ではあるのだが、それ以上に1つの疑問が湧いたアキトは、ナイトの背中を呼び止めた。

 

 

「あの!」

 

「……なんだ」

 

「ナイトさんにも、あるんですか? 悩みとか、その……過去への後悔が」

 

 

 不躾な質問であるというのは分かっている。

 言ってみればその人の心の傷について思い出させるような質問なのだから。

 それでもどうしても気になったのだ。このたった数時間のうちにケンゴの悩みを察知し、気にかけるような彼の態度に。

 それは同情とか共感とか、そういう類のものなのではないか。

 だとするならば、ナイトにも何らかの苦悩が、後悔があるのでは、と。

 ナイトは背中を向けたまま、たった一言答える。

 

 

「ある」

 

「……ナイトさんは、その後悔をどうしたんですか?」

 

 

 あの時ああしていれば、あれを言えていれば、そう思った事はある。

 『あの頃』から人間のように他者を想う心があれば、人間らしい振る舞いができれば、『彼女』を救えたのではないか、と。

 

 だが何の因果か、世界は『彼女』との再会を用意してくれた。

 

 今でも目を閉じれば思い出す事のできる後姿がある。

 最後に撫でられた感触が頭に残っている。

 碌に言葉も交わせずに終わってしまった『あの時』とは違い、精一杯の感謝を伝える事ができた。

 無論、だからと言って後悔、過去、それらが完全に消え去ってしまう事は有り得ない。

 何よりナイトの中には未だに成し遂げられていない『未練』がもう1つある。

 けれど、それでも、それはナイトが足を止める理由にはならない。

 

 

「どうもしていない。後悔ばかりに気を取られていられないからだ」

 

「気にしないようにしてるって意味ですか?」

 

「違う。向き合い方がある、という意味だ」

 

 

 後悔を忘れたりなどしない。できない。

 しかしそんなものに構っているよりも先にやるべき事がある。

 

 

「行くぞ、ヒジリ アキト。時間があるわけではない」

 

「……はい!」

 

 

 ナイトは多くを語らず、感情の起伏もあまり感じさせないままにレックスを追う形で足を進めていった。

 知り合ってまだそう時間も経っていないアキトに彼の心境を慮る事は完全にはできない。

 だが、それでも伝わる事はあった。

 

 ナイトもただ冷徹なだけではない。

 何か後悔を残している、それでも未来に目を向け続けている。

 何よりケンゴの事を、たった数時間の付き合いなのに真剣に理解しようとしてくれているのだと。

 マナカ ケンゴの持つ『後悔』に同調し、その上でケンゴの事を憂慮するアキト。

 そんな彼が『信頼してみたい』と思わせる言葉と行動。

 先達として信頼できる、頼もしいと思える背中を追いかけ、アキトもGUTSファルコンへと走るのだった。




ガルニクスの内部に突入するアキト達。
そこでみんなは、それぞれの過去と後悔を突きつけられる。
あの日に残してきたものが、みんなにあって。
僕はみんなを笑顔に────したかったんだ。

次回、ウルトラマントリガー×SSSS.GRIDKNIGHT
『Re:マイフレンド』
スマイル、スマイル!
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