あくまで導入のみなのでこの後の出番はありません。
暗い宇宙空間の中に1つの影が佇んでいた。
遠く輝く星々や最も近くにある恒星が照らし出すその姿は2本角のような頭とハサミのような両腕が特徴的だった。
全体的にシャープな姿をしたその影の名は『バルタン星人』。
彼は無重力の中に浮きながら青い星を眺めていた。
太陽系第三惑星──『地球』。
幾度か彼の仲間が襲撃し、その度に光の巨人に敗れてきた、彼等種族にとっても因縁多き星。
────尤も、この地球は彼等種族が最初に現れた地球とは別の世界のものだが。
別の世界の地球──『マルチバース』の1つで、何処かの世界ではこの世界の事を『サイドスペース』と呼ぶらしい。
「さて……」
バルタン星人は片方のハサミをグニャグニャと変質させ、人間に近い手に変えた。
続いて銃のような物を何処からか2つ取り出したかと思えば、彼自身から2つの影が分離。
否、それは分離などではない、『分身』だ。
彼等バルタン星人の多くは『宇宙忍者』の別名を持つ。
その名に恥じぬ能力の1つが、この分身能力だ。
それは幻影のような分身から実体を持つ分身まで使い分ける事の出来る技。
今回の分身は実体の伴っている分身だった。
3人となったバルタン星人のうち2人は本体から受け取った銃のようなものを用い、空間に『穴』をあけた。
それは時空間を行き来する為の穴。
かつて『ナックル星人 バンデロ』が所持し、このバルタン星人も闇ルートで手に入れた『並行宇宙を行き来する為の銃』。
バルタン星人が所持している銃はまさにそれ。
分身に渡した銃とは別にもう1つ、本体用という意味で彼は3丁の銃を持っていた。
バルタン星人の2人の分身はそれぞれに時空間を跳び越え、何処かへの時空へ飛び立つ。
残された最後の1人、本体のバルタン星人は依然として地球を眺め続けていた。
「ウルトラ戦士と人間に守られて来た星……」
ポツリと、呟く。
「人間ではどうしようもない事を、ウルトラマンが。
ウルトラマンが倒れた時に、人間が。
双方が支え合う事で誕生する、未知にして強大な力……」
バルタン星人の目から光が消える。
それは人間でいうところの目を瞑っている状態。
彼の脳裏には数多くの宇宙人や怪獣達の名前が浮かび上がっていた。
中には全宇宙に名が轟くほど強大な、あらゆる者から恐れられていた宇宙人の名前すら浮かんでいる。
それらの共通点はただ1つ。『人間とウルトラマンに敗れた者達』だった。
ゆっくりと、バルタン星人の目に光が戻る。
「ある時は身近な人間に、ある時は大衆に、何であれ人間にウルトラマンは支えられる。
……それを侮るから、誰も彼もが負けるのだ」
バルタン星人は人間に近い手に変えていた片方の手を、元のハサミへと変質させる。
「私は違う。決して絆を侮らない。
人とウルトラマンの間に生まれる信頼関係を、決して。
そして、必ず成し遂げよう」
彼は動き出した、地球へ向かって。
別の宇宙へ飛んだ分身達もまた、各々の時空でそれぞれがやるべき事を開始する。
全ては、ただ1つの目的の為。
「打倒、ウルトラマン……そして、人類──────!」
それはいつか何処かの時空で『全人類に挑戦する』と掲げたバルタン星人の、矜持。
とある市街地に重々しい音が響き渡る。
その音は巨人が大地を踏みしめた音だった。
「シェアッ!!」
およそ50mほどの巨体を誇る宇宙人に対し、ほぼ同等の全長を持つ1人のウルトラマンが組みついた。
青い瞳、何処か恐怖を連想させるものの、間違いなく人類の味方である彼。
彼の名は『ウルトラマンジード』。この世界におけるウルトラマンだ。
「おっしゃ、そのままァッ!!」
対し、もう1人。
ジードが組みついて身動きを取れなくしたところに飛び蹴りを浴びせるウルトラ戦士。
青と赤の体に加え、彼もまた少し目つきが悪く荒っぽいものの、間違いなく人類の味方。
彼の名は『ウルトラマンゼロ』。この世界とは別の世界から来たウルトラマンだ。
そして今しがた、飛び蹴りを食らったの同時にジードが手を離したがために吹き飛ばれた宇宙人。
それは地球を眺めていた、あのバルタン星人だった。
バルタン星人は吹き飛ぶものの、くるりと宙で回転し膝から着地。
するとゆっくりと埃を払うかのような仕草をしながら立ち上がって見せた。
「フン……流石、やるな」
「へっ、今のモロだっただろ? それでそんだけ平然としてる辺りテメェも大概だぜ。
なぁ、『テナタス』」
テナタス──それが彼の名前だった。
ゼロの横にジードが並び立ち、テナタスから目を離さぬままにゼロへ話しかける。
「ゼロ、こいつは一体……?」
「バルタン星人テナタス。幾らか暴れた後に星を破壊するでも支配するでもなく、ただどっかの宇宙に行っちまう神出鬼没な野郎だ。おまけに分身を囮にすると来てる。
お陰で、本体の尻尾を捕まえるのに手間取っちまった」
あらゆる宇宙を飛び回るテナタスに対し、あのウルトラマンゼロですら手を焼いていた。
直接戦闘する事もあまりなく、ただただ他の宇宙に現れるのが何よりも厄介だったのだ。
目的も不明、行き先も不明。
他の宇宙を自由に飛び回れるゼロとはいえ、流石に膨大な宇宙の中から見つけるのは一苦労だった。
しかしゼロは、その顔では分からないがニッと笑うような声を出した後、人差し指でテナタスを指差して見せる。
「だが、運が悪かったな。此処はジードのいる宇宙な上、俺とも鉢合っちまった」
ゼロの言う通り、この宇宙にはそもそもウルトラマンジードがいる。
ゼロが間に合ったのは半ば偶然だが、結果的にテナタスは2人のウルトラマンの相手を余儀なくされている。
ところがゼロの予想に反しテナタスは鼻で笑うかのような態度を見せた。
「運が悪かった? ……フッ、違うな。
そもそもこの宇宙にウルトラマンジードがいる事は知っていた。
だが、それでもこの宇宙は私が元から巡る予定だった宇宙の1つなのだ」
「何だと……?」
「私が何故、多くの宇宙を巡って来たのか……考えなかったわけではあるまい? ウルトラマンゼロ」
それは、とゼロは言葉に詰まってしまう。
考えない筈がない。何せ多くの他次元宇宙で暴れて被害を出したかと思えば、別にそれ以上に何をするでもないのだ。
侵略、破滅、そういった事が目的ではない。
では、何が目的で別の宇宙へ出現しているのか。
「他の宇宙に分身まで置いて、こっちの捜索を撹乱してきやがったんだ。
何かしら企んでる事くらいは分かるぜ。あちこち飛び回って探し物でもしてたのか?」
「探し物……ああ、概ね正解だ。私は、必要なものを探している」
「何?」
半ば冗談で言ったつもりだった事への意外な返答。
なにより、思いの外簡単に口を割ってきた事に驚くゼロ。
テナタスは悠々と語り始める。
「この宇宙には私が探し求めるものの一部があったのだ。
それを知った私はまず、他に必要なものを別宇宙で探しつつ、貴様の攪乱を始めた」
「俺の攪乱だと……?」
「そうだ。貴様は何度かこの宇宙に出入りしていて、この宇宙とは縁深いだろう?
故に、この宇宙で活動すれば簡単にかぎつけられる可能性があった。
だからこそ他の、まるで関係の無い宇宙にまで顔を出し、貴様の捜索を妨害したが……。
どうやら、思った以上に鼻が効くらしいな」
呆れるような物言いのテナタスを余所に、ゼロとジードの脳裏には別の事が浮かんでいた。
この宇宙にあるテナタスの『探し求めるもの』。
その言葉を聞いて、ゼロとジードの脳裏には『ウルトラマンキング』や『カレラン分子』の言葉が浮かぶ。
かつてこの世界にあった強大な力の一片だ。
しかしその力は既にこの世界から消え去っている。正確に言えば、元の場所に還っていた。
「……ハッ! まあ、今更お前の目的は関係ねぇ。此処で、倒すッ!!」
疑問は尽きぬものの、よからぬ事を企んで、あまつさえ被害を出しているのは間違いない。
此処で倒せば何も問題の無い話だと切り替えてゼロは再び構えた。
ところがテナタスはそれを制すように片手をスッと前に出して見せる。
「いや、もうこの世界に用は無い」
「何ッ!?」
「言った筈だ。私が探し求めるものの一部が、『あった』、と」
そう、彼は過去形で語っている。
そもそもこの戦闘に突入したのは、この世界で暗躍していたテナタスを捕捉したゼロが不意打ち気味に攻撃を仕掛け、そのまま市街地戦に突入。
そこに騒ぎを聞きつけたジードがやってきた、というのがあらましだ。
つまりゼロが介入してくるまでの間、彼がこの世界で何をしていたのかを知る術はない。
そしてその間に彼は目的を果たしていたのだ。
テナタスは片手のハサミの形状を手に変え、銃を取り出した。
その銃はゼロもよく知っている。
ナックル星人バンデロが使っていた、別次元を超える為の銃だ。
「逃がすかァッ! 『ワイドゼロショット』ッ!!」
「ッ! 『レッキングバースト』ォッ!!」
腕をL字に組んで発射されるゼロの必殺光線、ワイドゼロショット。
腕を十字に組んで発射されるジードの必殺光線、レッキングバースト。
どちらも怪獣を葬り去るだけの威力を持った強力な一撃だ。
「フンッ!!」
────しかしテナタスは銃を持つ手とは逆の、ハサミの手から発射した光線で、その2つと拮抗して見せた。
「ッ、マジかよ……ッ!!」
テナタスから照射される白い光線が、ワイドゼロショットとレッキングバーストの合わせ技を押し返していく。
負けず、ゼロとジードも光線の出力を上げていくが、既に戦闘が始まってしばらく経っていた事もあり、胸のカラータイマーがエネルギーの減少を知らせ赤い点滅を始めてしまっていた。
(チ、ィ……ッ!!)
しかし対するテナタスも必死だった。
拮抗しているようで、実はテナタスも全力だったのだ。
そして数秒の後、どちらの光線も弾け、結局のところお互いにダメージが通らないままに光線の撃ちあいは終わってしまった。
エネルギー減少の影響で膝をつくゼロとジード。
そしてテナタスもまた、やや体をふらつかせていた。
「チッ、片手では……少々無理があったか」
今の光線をテナタスは本気で放ってこそいたが、本領ではなかった。
本来、今の光線は両手から発射される光線。
故に力は精々2分の1程度になってしまっている。
それでも2人のウルトラマンの光線と競り合えてしまうのだが。
テナタスはゼロとジードが疲労で苦しむ隙を付き、時空間に穴をあけた。
「待ちやがれ、テナタス……ッ!!」
「まだ、僕達はやれる……!」
闘志の尽きぬウルトラ戦士を前に、テナタスは冷静に告げた。
「知っているとも。お前達はまだ切札を出していない。
余力は尽きかけているようだが、その切札を2人同時に切られれば、屈辱的だが『今の』私では、負ける。
断言しよう、お前達は強い。流石はウルトラ戦士だ」
彼はゼロとジードの力を認めていた。侮ってなどいなかった。
今の自分では全力で戦っても勝てないであろう事は悟っている。
2人の力を彼は全力で称賛した。屈辱ではありながらも、認めざるを得ない事実だから。
そしてだからこそ、彼は退却を試みていたのだ。
「知っているからこそ、此処は退かせてもらう。
……また会おうウルトラマン達。今度は、『無敵』の私で」
そう言い残したテナタスは時空間の穴へと消えていった。
残されたゼロとジードはゆっくり立ち上がり、肩で息をしながらもお互いを見やる。
「ごめん、ゼロ」
「いや、お前のせいじゃない。アイツが異常に強いのもあるぜ、あれは」
「異常に、強い?」
「ああ。他のウルトラマン達が戦ってきたバルタンの一族の話を聞いた事がある。
確かに強いバルタンは多くいたようだが、俺とお前の光線を片手で防ぎきるなんて、どう考えても普通のバルタン星人じゃねぇ。
何らかの力で強化してやがる、そんな気がする」
「何らかの、力……?」
「何かは分からねぇけどな。それに抜け目もねぇ。
『俺達の切札が怖い』みたいな事言ってやがったが、その切札を切らせる暇は全部潰してきやがった」
戦闘に入ってからというもの、ゼロとジードは数回、姿を変える事を試みた。
しかしそこは流石のバルタン星人。
バルタン得意の分身戦法で、息もつかせぬ状況を作りだして見せたのだ。
殆どが幻影のような分身だが、幾つかは本物や実体化した分身が混じった脅威の戦法。
ゼロスラッガー等を駆使してそれらを薙ぎ払っても後から後から湧いてくる。
おまけに本体は分身に紛れてゼロとジードを観察し、姿を変えようとした瞬間に殴ってくる。
彼はゼロとジードに切札を切られるのを恐れていたのだ。
逆に言うとそれ以上に過剰な攻撃は仕掛けてこなかった。
ただただ、切札を切られる状況だけを徹底的に潰していたからだ。
結局、姿の切り替えができない事を悟ったゼロとジードは最もスタンダードな形で戦う事に集中して、何とかジードが本体を捉えてゼロが飛び蹴りをかました、というのが事の顛末である。
「これからどうするの?」
「奴を追う。アイツが何を欲しがって何をしようとしてるのか、ついでに他のどの宇宙に行ったのかは分からねぇが……。
まあ、動かない事には始まらねぇ。骨が折れるだろうが、追い続けてやるだけだ」
「僕も行こうか?」
「いや、お前は残ってくれ。
脅威はテナタスだけじゃない。万が一の為に動ける奴は1人でもいた方がいい。
んで、あちこち飛び回ってるアイツを追うなら、適任は俺だ」
「ゼロ……」
「レイト達を頼むぜ、ジード」
ジードの胸を軽く小突き、ヘッと笑うゼロ。
確かに託されたそれに対して「うん」と、肯定の返事を笑みと共に返すジード。
両者が戦いの中で築いてきた信頼関係は、今尚健在という事だろう。
ゼロは『ウルティメイトブレスレット』より発生させた銀色の鎧、『ウルティメイトイージス』を纏って、テナタスと同じように別の宇宙へと飛び去って行く。
ゼロの後ろ姿を見送るジードはしばらくの後、彼の人間としての姿、『朝倉 リク』の姿へと戻った。
リクの姿に戻っても尚、彼はゼロの飛んでいった方向を見上げていた。
『リク』
「ん? どうしたの、レム?」
彼の腰につける変身アイテムの1つ、ジードライザーのナックルに通信が入る。
天文台の地下にある秘密基地、星雲壮の報告管理システム、レムからだ。
『先程出現した宇宙人がこの宇宙より持ち出した物の推定ができました』
「えっ、ホント!? ゼロがいる間に分かってれば、教えてあげられたけど……」
『申し訳ありません、リク』
「いや、しょうがないよ。で、何だったの?」
無機質な言葉ながら謝罪の意を示すレムを許し、リクが問う。
結局、テナタスの言葉から得られた情報は『探し物をしています』程度の事で、まるでヒントになっていない。
もしもまたゼロがこの世界に来た時に役に立つ情報であれば、とリクは思う。
『あの宇宙人全体をスキャニングし、所有物と思わしき反応を見つけました。
それは、ライザーに酷似した反応です』
「……え? ライザー……!?」
そしてその推定は、リクを驚かせるのにはあまりにも十分すぎた。
ライザーとはリクも変身に使うジードライザーの事。
ウルトラマンや怪獣、宇宙人の力が宿るウルトラカプセルの力を解放するのがライザーの役目。
カプセルと合わせれば凄まじい力を手に入れる事もできる物。
ウルトラマンゼロも所有し、ゼロビヨンドという絶大な力を手にする事ができた代物だ。
そして同時に、ジード最大の強敵にして、ジードの親であった者達も。
「……レム、もっと詳しく」
『微弱な反応でしたので、そのライザーは残骸のようなものだと推定されます』
「残骸?」
『はい。恐らくは、伏井出ケイとウルトラマンベリアルが使用していたライザーです』
「……伏井出ケイと、父さん……」
ウルトラマンベリアル。
それはゼロの故郷にいるウルトラマンの中で唯一の悪人。それも極が付くほどの。
そして、リクの父親。
伏井出ケイはそんなベリアルに心酔していた宇宙人。
ベリアルの細胞からリクを実際に生み出した張本人。
双方ともにライザーを使用し暗躍していた者達だ。
それらは倒されたが、確かに彼等の使っていたライザーの行方は分かっていない。
てっきり、ベリアルやケイと共に消滅したものと思っていたが。
「じゃあ、あのテナタスって宇宙人はカプセルの力を……?」
『あくまで残骸だと仮定するのであれば、ライザーは機能を失っています。
そこまでの力が残っている可能性は極めて低いと推察』
「……そっか。ありがと、レム」
そこで通信を終えたリクは、再びゼロの消えていった空を見上げる。
今度は何処か不安そうな顔で。
ライザーの力。テナタスの残した『今度は、無敵の私で』という言葉。
その2つのワードがリクの心に影を落とす。
悪の宇宙人が持ち出したとしたら危険すぎる、しかし機能を停止しているのなら持ち出す理由が無い、そんな歯車がかみ合わないような違和感が、不安となる。
(ライザーの力はとても強い。2つの力を融合させて……それは僕が一番よく知ってる。
ゼロもだけど、テナタスが行った先にいる宇宙の人達……どうか、無事で……)
この世界を守るため。だからこそ、この世界を離れられない。
歯痒さを感じつつも、リクは一度星雲荘へと帰還した。
これが始まり。
バルタン星人の、ウルトラマンと人類への、再挑戦の幕開けだった。
────ウルトラカプセルナビ────
「今日のカプセルは、これだ!」
──バルタン星人──
名前:宇宙忍者 バルタン星人
身長:ミクロ~50メートル
体重:0~1万5000トン
得意技:エクシードフラッシャー
『宇宙忍者バルタン星人。
ウルトラ戦士に幾度となく挑戦している種族です。
得意技は、分身能力やハサミからの攻撃。
今回出現した個体の目的はライザーの残骸を回収した事以外、未だ不明です』
「次回も見てね!」