ロボット怪獣達の撃滅を持って、戦闘そのものは完全に収束。
しかしながら先程の戦闘は新たな事件の開幕を告げるものでしかない。
何はともあれその事件の渦中の中にいた別世界からの来訪者2名を連れて、大地達はXio基地へと帰還した。
Xio隊員の4名は揃って司令室に入室し、その後ろから遅れてレイとミカヅキの2名が歩いて来る。
落ち着いた様子のレイとは対照的に、辺りをキョロキョロと見渡すミカヅキは何処となく落ち着かない雰囲気だった。
隊長への状況報告は代表してアスナが行う事となった。
「隊長、全員ただいま帰還しました。現地で遭遇した2名も一緒です」
「うん、全員ご苦労だった。民間人への被害も無く状況終了できたのは不幸中の幸いだ。よくやってくれた」
まずは全体への労いを一声。
怪獣災害への対応は言ってしまえば『いつもの事』だが、それはいつでも死と隣り合わせの任務である。
彼等はその道のプロだが、決して慣れで油断をしていい仕事ではない。
故に神木は隊員への気遣いと労いは忘れないのだ。
さて、今回の事件は何者かによる作為的なものであるとXioは判断している。
暴れた怪獣が自然発生するはずが無いロボット怪獣であった事からもその見立ては間違っていないだろう。
そしてその真っ只中に現れた来訪者2名。
神木は2人をそれぞれに見やって声をかける。
「君達も先程はありがとう。お陰で隊員達も大きな怪我をする事なく任務を完了できた。Xioを代表して礼を言いたい」
「いや、こちらこそ。見ず知らずの俺を信用してくれてありがとう」
「あの、えっと、人助けはまあ、当たり前なので! はい!」
片や落ち着いた対応、片や慌てたような対応。
帰還までの間にアスナや大地からレイとミカヅキに関するある程度の報告は受けていたが、どうやらその通りのようだと神木は思った。
レイと名乗る青年はある程度の経験値があるのか場慣れしており、対照的にミカヅキと名乗る少女は別世界どころか怪獣自体見るのが初めてらしい。
別世界からの来訪者が来ること自体は何度かあったが、別々の世界から同時に1人ずつ来たのは神木が知る限りでは初だ。
いずれにせよ神木達はレイにもミカヅキにも無知。
幸いにもかつてこの世界に来訪したウルトラマン達のように友好的であるのなら事情は聞けるだろう。
神木としては戦闘後で疲れているだろうに申し訳なさもあるが、一先ず事情聴取を優先する事とした。
「君達が一体どのような状況で、何故この宇宙にやってきたのかを聞きたい。
……レイ君から、まずは聞くべきかと思うのだが、いいだろうか?」
「そう、ですね。なら俺から」
神木とレイはそれぞれにミカヅキを一瞥した。
彼女は未だに状況を飲み込めていないようだった。そんな彼女にいきなり事情を説明しろというのは酷だろう。
お手本を見せるというわけでもないが、そんな様子にレイも納得したようだ。
「改めてだが、俺はレイ。元の宇宙ではZAP SPACYのスペースペンドラゴンという船のクルーだ」
「そのZAP SPACYとスペースペンドラゴンというのは?」
「惑星の開拓と物資の輸送を行う組織と、その宇宙船の事だ」
「惑星の開拓……君達の文明は随分と発達しているんだな」
「そう、なのか? 出身宇宙の事だからあまり自覚は無いんだが……」
端的な感想を述べる神木と戸惑うレイ。
レイは他宇宙への耐性こそあるものの、その世界に長居した事はあまり無く、その世界の文明に詳しく触れた経験も無い。
次元が違えば文明レベルも違うというのは理解できるが、自分の宇宙がどれほど発達しているかという自覚には薄かった。
どうあれ地元の文明レベルは今回の件とはそこまで関係ないのでそこそこに、引き続き自分のパーソナルな事を語り始める。
「それから俺は怪獣使い、レイオニクスなんだ。このバトルナイザーを使ってゴモラやリトラと一緒に戦ってる」
右手でネオバトルナイザーを取り出して見せるレイ。
ゴモラ、という名前にミカヅキがぴくりと反応し、ネオバトルナイザーを見つめる。
そしてそれは大地にとってもとても興味深い話だ。
「そのレイオニクスっていうのは何なんですか? 怪獣使いな事は分かったんですけど……」
「……何処から話せばいいか。始まりから話すと、『レイブラッド星人』の話になるんだが」
と、そこで司令室の扉が開いた。
中から現れたのは白衣に身を包んだ2人の男女。
双方ともに若く、男性の方は少々恰幅の良い穏やかそうな青年、女性の方はツインテールで活発そうな少女だった。
それはともかく真ん中にいる人──いや全く人間ではない。
触覚に目が付いたような見た目、体全体が橙色と、全体的にガタイがいい人間型ではあるのだが、フォルムは明らかに人間のそれではない。
一切動じないレイと跳び上がるレベルで驚いているミカヅキの様子が対照的だ。
「レイオニクスとレイブラッド星人の話なら、私も知っているぞ」
「グルマン博士」
大地に『グルマン博士』と呼ばれた彼はXioに協力する宇宙人、『ファントン星人』だ。
驚いて若干の怯えを見せているミカヅキにアスナが寄り添い、「大丈夫、ちょっと見た目怖いけど」とフォローを入れた。
グルマン博士と一緒に居るのは男性が『三日月 マモル』、女性が『高田 ルイ』といい、2人共にXioが誇る天才科学者である。
グルマン博士はつかつかと司令室の輪の中に入っていき、自らの知識を語った。
「レイブラッド星人とは、かつて宇宙、それもマルチバースレベルで全てを支配しようと企んだ強大な宇宙人と聞いている」
「かつて? という事は既に……」
「うむ、既に滅んでいる。だが、レイオニクスはその因子を受け継いでいる者であり、怪獣使いの力はレイブラッド星人由来なのだ」
グルマン博士の言葉に全員の視線がレイに注がれる。
肯定の意味で頷きつつ、レイはレイオニクスに関する話を引き継いだ。
そうして語られるのは、レイオニクス、レイブラッド星人、そして『レイオニクスバトル』の事。
宇宙には沢山のレイオニクスがいて、自分が地球のレイオニクスである事。
レイオニクス達はレイオニクスバトルという戦いを行い、最後の1人になるまで戦い続けていた事。
レイオニクスバトルの目的はレイブラッド星人の後継者争い、という事になっていたが、実態はレイブラッド星人復活の器を決める為の策謀であった事。
それに気づいたレイと仲間達は、もう1人のレイオニクスやウルトラマン達と共にレイブラッド星人の思念体を倒した事。
今は戦いも終わり、時折別件の戦いに巻き込まれる事もあるがZAP SPACYの任務に従事していたのだが。
「だが、急に奴……バルタン星人テナタスを名乗る宇宙人の襲撃を受けた。
奴はバトルナイザーを持って、俺の目の前に現れたんだ」
「じゃあ、そのテナタスもレイオニクスってこと?」
アスナの言葉にレイは首を振った。
「いや、違うと本人が言っていた。バトルナイザーはレイオニクスにしか扱えない以上、そこで嘘をつく理由が殆ど無い。
だから本当の事だとは思うんだが、だとしたらレイオニクスでもないのに何故バトルナイザーを持っているのか……」
バトルナイザーをただの物言わぬ箱としてレイオニクス以外の人間が持つ事はできるが、それ以上の意味は無い。
故に基本的にバトルナイザーの持ち主はイコールでレイオニクスだ。
自分がレイオニクスではない、という自己申告にはあまりにも説得力がない。
だが、それはレイオニクスを知る者なら当たり前のように分かる事でしかないので、嘘をつく意味は無い。
テナタスの言葉が本当であれ嘘であれ、目的が全く見えない、というのがレイの率直な感想だった。
グルマン博士も大きな顎に手を当てながら「ふむ」と思案する。
「何かあるのかもしれんな、バトルナイザーを使う、もしくはバトルナイザーを何らかの形で利用する術が」
「何か……」
グルマン博士が可能性で語る『何か』が何なのかはレイにも分からない。
分からないが、少なくともバトルナイザーが絡んでくるという事はどうしたってレイブラッド星人の影がちらつく。
漠然とした嫌な予感を前に、レイの表情は強張っていた。
「……ともかく、その件はこの後で調査しよう。まずは彼女の話も聞いてみたい」
と、此処で神木が割って入った。
いずれにしても答えの出ない疑問を考え続ける必要は無いし、今この場にはもう1人異世界からの来訪者がいるのだから。
全員の視線を一身に受けたのは彼女、黒田ミカヅキ。
難しそうな話にぽけっとしていたら突然注目を浴びたミカヅキは戸惑いながら視線達を見やる。
「あー……えっと、ごめんなさい、私って今、どーいう状況なんです……?」
たはは、と、苦笑う彼女は大層困っている様子だった。
怪獣、ウルトラマン、防衛隊、レイオニクス、あれやこれやを一気に見聞きして脳の処理が完全に追いついていないようだった。
大地とアスナが同時にお互いを見やり、頷く。
現場で最初に会った自分達がフォローしよう、という意味を込めたアイコンタクトを取った2人はミカヅキの身長に合わせるように膝を曲げ、ミカヅキに接した。
まず声をかけたのはアスナから。
「車の中で話した通り、貴女は別の世界に来てしまったの。此処までは分かる?」
「は、はいぃ……。もうアニメだなぁって感じですけど……」
「貴女もバルタン星人を追ってきたの?」
「あの、アレですよね? お兄さんと会った場所にいた、変な……」
お兄さんと呼ばれたレイが、彼女の緊張をほぐす様に穏やかな笑みを浮かべながら頷く。
周囲は大人ばかりだが、雰囲気はかなり朗らかなものだった。
どうやら自分のペースで話してもよさそうだと判断したミカヅキは、一旦息を吐いて落ち着きつつ、自らの成り行きを語り始めた。
「私、元々アギちゃん……あぁえっと、友達と遊んでたんです。
そこでシャドウが出てきちゃって、戦いになって……」
「シャドウ?」
「人を襲ってる怪物で、私達はそれと戦ってるんです」
「君みたいな、学生の女の子が!? 俺達みたいな防衛軍とか、そういうのは……」
「何でか分からないんですけど、シャドウは怪獣娘にしか倒せなくて、私達もそれをお仕事にしてますし……」
驚きの声が大地から出る。
実年齢までは聞いていないが、ミカヅキはどうみても学生の女の子。
とても戦場に立つ様な子には見えない。
それに『シャドウ』に『怪獣娘』。
どちらもレイオニクスと同じく、Xioのメンバーには効き馴染みの無い言葉だ。
ともあれまずは経緯を話す事を優先してほしいと神木から促され、ミカヅキは改めて道中の話を再開した。
「シャドウの中でも大きくて強いタイプをシャドウビーストっていうんですけど、
あのバルタン星人は、それを何か……筒? カプセル? みたいなものの中に閉じ込めて、持って行っちゃって。
で、変な穴を開けて何処かに行っちゃったので、私はそれを追いかけてきたら……」
「あの工場の中で、俺と会ったんだな」
そこから先はレイと行動を共にし、テナタスを追いかけ、Xioと出会った。
しかしこれは新情報である。
どうやらテナタスはミカヅキの世界でも暗躍していたらしく、シャドウビーストなる怪物を閉じ込めた物を持ちだしたとの事だが。
再びグルマン博士が大きな口を開く。
「どうやらバルタン星人テナタスは、2人のいる宇宙のそれぞれで何かを企てた上で、我々の宇宙にやってきたようだな」
「え? でもおかしくないッスか?
今の話を聞く限り、テナタスは違う宇宙で同時並行しながら動いてるって事になるんじゃ」
マモルの指摘は尤もだ。
時系列に直すと、テナタスはレイとミカヅキの宇宙で同時に動き、この宇宙にやってきた上で2人に追いつかれた事になる。
だが、それについてはグルマン博士の方が詳しい。
「いや、バルタン星人は種族の特性として分身能力を持っているんだ。
恐らく、その能力を使って同時に別宇宙で行動していたのだろう」
バルタン星人は幾つかの次元で有名な宇宙人で、グルマン博士の母星であるファントン星にもその名は轟いている。
全宇宙全体でもウルトラマンと同じく知名度抜群の宇宙人と言って差し支え程度には。
ともあれテナタスの目的は見えない。
レイオニクスに関係するあれこれをちらつかせたかと思えば、シャドウビーストなる未知の怪物を奪い、その上でこの世界にやってきた。
知り得た情報だけでは何かを企んでいる以上の情報は無い。
「……すまない。ところで怪獣娘、っていうのは何なんだ?」
話を遮る事を謝罪しつつ口にされたレイの言葉は、全員が一様に抱いている疑問である。
ミカヅキがどうやら何かの『力』を持っているらしい、そして怪獣娘という言葉から類推するに『怪獣の力を使える女の子』という意味合いになるのだろうか。
そこまでは分かるのだが、やはり詳細は気になる。
「怪獣娘っていうのは……怪獣の生まれ変わりの女の子で、怪獣の力を使う姿に変身できるんです」
「私を助けてくれたのも、その力なんだ。ありがとう。
……にしたって怪獣の力を使う女の子って、凄い話」
実際にその力で救われたアスナも驚愕の色は隠せない。
やれウルトラマンに変身する、やれ怪獣を操る等々見てきたが、怪獣の生まれ変わりで怪獣の力を使う姿に変身する女の子とはまた前代未聞だ。
キチンと確認できているわけではないがアスナの記憶では、年頃の女の子がするには中々際どい姿をしているような気もしたのだが、そこは気のせいだと信じたいところだった。
「ミカヅキちゃんは、なんて怪獣なの?」
怪獣大好きな大地が単純な興味で聞いた。
全く聞き覚えの無い怪獣の名前が飛び出す可能性もあったが、それならそれで興味がある。
大地の言葉に周囲も気になり始めたのか、再び全員の視線がミカヅキに注がれる。
「えーっと、実は……」
レイの方をちらっと見やるミカヅキ。
視線の意図が分からず首を傾げるが、直後に放たれた言葉は全員に、とりわけ大地とレイには強い衝撃を齎す事になる。
「私……ゴモラです」
「ゴッ……!?」
何かに叩かれた時のような声が、この場にいるミカヅキ以外の全員から漏れた。
そして代表するかのように、大地とレイのそれはそれは大きな声が重なった。
「「ゴモラァッ!!?」」
たはは、と後頭部を掻きながら、今日何度目か分からない困ったような笑みを浮かべるミカヅキ。
奇妙・奇怪・奇跡・奇縁、何というべきかは分からないが、とにもかくにも此処に『ゴモラ』に強い繋がりを持つ3人が揃うのだった。
テナタスはとある鬱蒼とした森の中にいた。
身を潜めているというのもあるが、彼は此処で『探し物』を手にしてしまったのだ。
彼の手はハサミではなく人間のような手に変質したままで、人形を手にしていた。
その人形は、人形と言いつつも全く人型をしておらず、どちらかと言えばフジツボのようにも見える形状だった。
「……賭けには勝ったか。グリーザのいた宇宙ならあるいは、と思ったが」
その実、この『探し物』があるという確固たる情報は無く、彼の言葉通り、この世界にあるかどうかは賭けだった。
何より無くても彼の『計画』自体は遂行できるのだ。
ただ、成功確率をより上げる為の抑えのワンピースというだけで。
あればいいな、程度の物。だが、あれば自らの目的を確実なものとできるキーアイテム。
テナタスが手にしたものはそういうものだった。
彼は一旦人形をある程度の物の出し入れができる異空間にしまい込むと、代わりにレイから掠め取った血液の入った試験管を取り出した。
「……さて、バルタンの技術力ならば不可能ではないだろう」
この試験管は地球のものとほぼ同様に見えるが、バルタンの技術が扱われている特別製だ。
サンプルを保存しておくという用途は勿論の事、特殊な機構が施されていた。
そして彼のしようとしている事、それは彼自身を被験体にして行われるもの。
「実験を、始めようか」
そう言うと、彼は試験管を変質させた。
試験官は内部の血液も巻き込んでぐにゃりと変形し、ぐちゃぐちゃという擬音と共に姿を変え、いつしか赤黒い球体へと変貌した。
テナタスはそれを手に取り──────
「ぐ、が……ッ!!」
自分の胸に深く、深く押し当てた。
テナタスの胸を食い破るかのように赤黒い球体は彼に吸い込まれていく。
「がっ……あっ……!! ぐぅ……ッ!!?」
胸を中心に体が軋む。
ゼロとジードを退けるテナタスですら声を上げる程の衝撃が全身を襲っていた。
押し殺す様な呻き声を上げるテナタスだが、いつしかその声は全く違う声へと変わっていった。
「くっ……ははっ……ははははははッ!!!」
──────それは実験の成功を確信する、狂気に満ちた笑い声だった。
────大地の怪獣ラボ────
「『大地の怪獣ラボ!』」
「今回の怪獣はこれだ!」
────『ゴモラ』、解析中────
「古代怪獣ゴモラ。俺の大切な仲間で、今回知り合ったレイさんやミカヅキちゃんにとっても縁の深い怪獣だ」
『そしてゴモラの力で装着する『ゴモラアーマー』は、頑丈な装甲と振動波による攻撃が強烈な姿だ。この先もとある活躍をするらしいぞ?』
「次回も」
「『見てくれよな!』」