若葉の下には大樹が眠る   作:駅員A

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杖選び

 店内には何千と細長い箱の山が整然と並べられていて、大木は神経質な古本屋を思い出した。

 

「いらっしゃいませ」

 

 現れた老人の大きな薄い目が初めに大木、次にエイモスに向き、カッと開いた。

 

「エイモス! エイモス・ディゴリーじゃないか! 二十八センチのポプラ、安定している。そうだったな?」

「ええ、お久しぶりです」

「そんで、そちらのお方はどなたかな?」

「彼は遠い東の国から来た客人ですよ」

「大木和夫です」

 

 オリバンダー翁はちょうど大木が持っていた万年筆型の杖に目を向けた。

 

「その杖は……日本からの客人ですな?」

「ええ。マホウトコロの出身です」

「そうでしょう、そうでしょうとも。しかし嘆かわしい。そんな死んだ杖を持ち歩いているとは……」

「死んだ杖? これはマグルに見つかっても問題が無いように、と本国の魔法省入省の際に支給されたものです。魔法だって問題なく使えています」

 

 出会い頭に杖をけなされた大木はムカッとした。

 なおもオリバンダーは大げさに首を振って嘆いた。

 

「その杖は誰にでも適応するように作られておる。ええ、見事な技術ではありますぞ。ですがな、杖があなたを選んだわけではない」

「杖が私を選ぶ? ……エイモス」

 

 まるで杖が意志を持っているような言い方に大木は眉を顰め、入った店を間違えていないか聞こうと思った。

 だが、オリバンダーのこういった言動は今に始まったことではないようでエイモスは苦笑している。

 

「カズ、せっかくだからオリバンダーに杖を選んでもらったらどうだ? ほれ、せっかくこの国にいるのならこの国の職人が作った杖を持つのも良いじゃないか」

「信用できる職人なら任せたいものだがな」

 

 ずっと使って来た杖をけなされた大木はムスッとしながら言った。

 が、すでにオリバンダーは杖を選ぶ準備に入っていた。

 巻き尺を持ってきた彼は大木の手の長さや肩から指先までの長さなどを測りだした。

 そのため大木は戸惑うしかない。

 

「何をしているんですか」

「オーキさんよ、オリバンダーの杖は一つとして同じ杖はない。分かるかね? 他人の杖を使おうとしても本領を発揮することはできん……あなたが持っている杖は誰にでも適応できるが、誰にも適応できんのですよ」

「ちょっとよく分からないですね」

 

 大木はそう言いながらもされるがままになっていた。

 こういう時は無駄に抵抗する方が面倒だ。

 

「どれ、こちらを試してみなされ。二十四センチ、ブナの木、繊細」

 

 大木は渡された杖で試しに魔法を使って見ようと思ったのだが、その前にオリバンダーがひったくってしまった。

 

「おい! 試すんじゃなかったのですか?」

「これはいかん、まったくもっていかん……なるほどな、ならばこちらの……ああ、嫌なのか」

 

 今度は大木が杖を握る前に引っ込んでしまった。

 これはパフォーマンスを含めた新手の詐欺だろうか。

 大木が不安になったその時。

 

「やはり結局はこちらの杖がいいということか。サクラの木にユニコーンの毛を芯材に使っておる。二十五センチ、曲がりづらい」

「桜?! 桜の杖も置いてあったのか?!」

「どうしたんだ、カズ?」

 

 大木は杖を受け取らずにエイモスに答えた。

 

「桜を使った杖は持っているだけでマホウトコロでは一目置かれる」

「君が持っていた杖は違うのか?」

「支給品にそんな高価な杖を使ったら国民から不満を言われる。桜の杖だけで家一つは買えるのだからな」

 

 ずっとしかめ面でローテンションだった大木が興奮しているため、エイモスは目をパチクリさせながらもオリバンダーに尋ねた。

 

「そんなに高価なものなのかい?」

「日本の杖職人のやり方と私のやり方は違いますからな。この杖ならば七ガリオンでいいでしょう」

「七ガリオンというと……そんな値段でいいのか? 日本だとどれだけかかるか……」

「まさか自分の国に戻った後に売るつもりじゃあるまい?」

 

 オリバンダーがギロリと睨んだ。

 その凶器を孕んだ瞳に大木は首を横に振った。

 

「いや、桜の杖は私にとっても憧れだ。決して売りはしない」

「よろしい。さあ、試して見なされ。結局最後は杖が選ぶのですから」

 

 大木はそれまでと打って変わって恐る恐る杖を握った。

 試しに魔法を使ってみる必要もなかった。

 じんわりとしたぬくもりが杖から全身に広がり、彼を歓迎しているのが分かった。

 

「これは日本の桜を使っているのですか?」

「かつて日本より海を渡って来た桜でございますよ。この地に長いこと根差していたからこの国の空気にもなじむことでしょう」

 

 杖が満足する持ち主を見つけられたからか、オリバンダーも満足げだった。

 大木は長いこと憧れていた桜の杖を手に入れられた興奮と感動で叫びそうだった。

 が、ぐっとこらえて杖売りに向き直った。

 

「あの……失礼な言動もして申し訳なかったです。この杖を売っていただきありがとうございます」

「構いませんよ。私は杖が選んだのに従っただけなのですからな」

 

 もう大木への興味を失くしたのか、オリバンダーは金を受け取った後はそっぽを向いて店の奥へと戻ってしまった。

 

「どうだい、カズ。入って良かっただろう?」

「まあ……まさかこんな場所で桜の杖を手に入れられるとは思わなかったからな」

「君の国だと希少な木なのかい?」

「いや、そこら中に生えてはいるが杖に使えるものとなるとかなり希少となる。そもそも、日本じゃ魔法使いが少ないせいで杖職人の生計も成り立たなくなってきているからな」

「ふーん、トヨハシテングの国もなかなかに大変なんだな。ああ、そうだ。せっかくだから箒も見に行かないかい?」

「私はクィディッチはできん」

「いいじゃないか」

 

 結局、エイモスが連れまわしてくれたおかげで大木はダイアゴン横丁にすっかり詳しくなったのだった。

 

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