若葉の下には大樹が眠る   作:駅員A

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第8話

 不本意にイギリスへ来た大木だが、マグルと魔法界の間を行き来しているうちに11年の時があっという間に過ぎていた。

 その間もハリー・ポッターが魔法界に姿を現すことは一度もなかったが、定番の乾杯の挨拶に変わりはなかった。

 

「そろそろハリー・ポッターはホグワーツに入学する時期だ。きっと偉大な魔法使いになるだろうよ」

 

 大木はパブでハリーファンの老人ドリスに捕まってしまい、仕方なくその相手をしていた。

 

「それにだな、私は彼を見てしまったのだよ! 会釈をしていた私を彼は見ていた!」

「それは本当にハリー・ポッターなのか? そこら辺のマグルの子供と間違えたのなら君はただの変質者だぞ」

「いいや! あれは生き残った男の子だとも! 父親のジェームズにそっくりだった!」

 

 偶然、マグル界で暮らすハリーを見かけたらしく、それ以来のドリスは必ず一度はその時の話をしていた。

 ハリーの両親の顔なんて知らない大木は疑い半分に聞き流していた。

 だが、この老人の話が本当だと知ることになった。

 なぜならパブを訪れたハリー本人が言っていたのだから。

 

「僕、あなたを見たことがあるよ。お店で僕にお辞儀してくれたよね」

「覚えていてくださった! みんな聞いてくれ! 彼が私を覚えていたんだ!」

 

 ハグリッドとかいう巨大な男に連れられたハリーは大木からするとどこにでもいそうな子供にしか見えなかった。

 だが、ドリス・クロックフォードはそんな子供の姿に涙をにじませ、何度も何度も握手を求めていた。

 どうやらドリスの予想通りにハリーはホグワーツ入学の準備をしに来たらしい。

 大木たちがいるパブはダイアゴン横丁に繋がっている。

 

「ハリー・ポッターだ」

「本物だ……」

 

 ドリスだけでなく、ちょうどパブにいた者たちが皆いそいそと握手の列に並んでハリーに手を伸ばした。

 

(そんな芸能人を見つけたみたいな反応をして……)

 

 大木は列に並ぶに店の端で観察するにとどめた。

 いくら10年近く住んでいるとは言え、余所者の大木がハリーに握手を求めるのは何か違う気がした。

 ハリーはどうして大人たちがこぞって自分と握手したがるか分かっていないようでポカンとしている。

 だが、良い子なのだろう。

 嫌がることなく何度も並ぶドリスにも応対してやっていた。

 

 握手列が落ち着いてくるとハグリッドがハリーを連れてダイアゴン横丁へと向かった。

 彼らがいなくなってからもドリスは興奮冷めやらず、大木はその後も彼のポッター談議に付き合わされることになったのだった。

 

 大木はただのメガネをかけた子供にしか見えなかったハリーだが、やはり生まれ持っての星があるのだろうか。

 ホグワーツに入学した年にヴォルデモートを再び撃退したというニュースに魔法界が沸いたのだ。

 

「だから特別な魔法使いになると言ったでしょう!」

「私はそれ以上に、あのターバンを纏ったクィレルの後頭部にヴォル……例のあの人がいたことにショックだ。神経質すぎるが良い青年だったのに」

 

 大木はクィレルとパブで会ったことがあったため面識があった。

 大雑把なところの多い魔法界において彼は繊細な男で、その気質が大木としては合っていた。

 まさかその後頭部にヴォルデモートがいるなんて誰も思わない事だろう。

 

「クィレルは死んでしまったのだろう?」

「ああ。どっちみち例のあの人と関わって生きていられはしまい。あの人は冷酷だからな」

「それにしても例のあの人だかは死んだんじゃなかったのか?」

「だから恐ろしいのだ。まさか他人の身体に寄生して生き延びていたとは……」

「さすがにもう死んだのだろうな?」

「そうでないと困る!」

 

 11年信じていたヴォルデモートの死亡が揺らいだことにドリスだけでなく魔法界も震撼していた。

 そのため、ハリー・ポッターが再び打ち破ったというニュースに沸き立つのも訳が無かった。

 

「へえ、それじゃあ君の息子のロンとハリー・ポッターは仲が良いのか」

「ああ。同じ寮だから一緒に動くことも多いのだろう」

 

 そんな中、大木は久しぶりに魔法省で会ったアーサーと彼の息子の話になった。

 この11年ほどでアーサーもエイモスも部署異動などで忙しくなり、ゆっくりランチに行くことも減った。

 

「そういえば君の末の娘は今年ホグワーツか?」

「ああ。ジニーは去年も兄たちと一緒に学校へ行きたがったらしいからかなり心待ちにしていたようだ」

「ようやく全員を学校に行かせられて君も細君もホッとしているだろう」

「そうだな。けど、我が家には特別手のかかる双子がいるからこれからも気は緩められないな」

 

 アーサーは軽く言って笑った。

 ウィーズリー家の双子が悪戯放題なのは魔法界でも有名になっていた。

 

「ああ、そうそう。カズ、君にも相談に乗ってもらった魔法の車だがね、ついに完成したよ」

「……君は魔法がかけられたマグル製品を取り締まる側だろう? 完成させて良い代物なのか?」

「なぁに、たとえ空飛ぶ車を作ったって空を飛ばさなけりゃいいのさ。そうすりゃただの陸を走るまともな車だ。そうだろう?」

「こちらの魔法使いは相変わらず屁理屈がお上手だな」

 

 そう言いながらも大木は魔法省にチクる気にはならなかった。

 空飛ぶ車は日本で見たことがあるので大木は軽い気持ちでアーサーに助言を与えたことがあった。

 それを元に本当に作られてしまったのだから、いまさらチクると大木も何か注意を受けて面倒かもしれない。

 

 なお、後日アーサーの息子たちがその車を拝借してハリーの家まで突撃し、さらにはハリーとロンまでがその車でホグワーツに行ったのだった。

 当然、アーサーはとてつもなく面倒なことになっていて、その騒動のあとにはげっそりとしていた。

 

「妻のモリーは今でも許せなくてね。危うく私のガレージの宝物たちを捨てる羽目になるところだったよ。どうにか捨てるのだけは阻止できたけどね。ハハハ!」

 

 アーサーのガレージには魔法の車のように怪しいマグル製品が詰まっている。

 こいつ、本当に反省しているのか?

 とついつい大木は思ってしまうのだった。

 

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