若葉の下には大樹が眠る   作:駅員A

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闇の帳

 ホグワーツで秘密の部屋を巡る騒動が起き、それをまたしてもハリー・ポッターが解決したことは大木の耳にも届いた。

 

「一度ならず二度も……厄介ごとによく巻き込まれる子供だ」

「十一年前のことを加えるならこれで三度目だな! やはりあの子は違うと思っていたのだよ! 握手をしたことがもう2年も前だなんて信じられないものだ」

 

 おなじみのパブで大木は常連客と話していた。

 その常連客は何度も握手列に並んだドリスとは違って一度の握手しかしていないが、ハリーのことはやはりそこら辺にいる子供と同じには思えないようだ。

 

「例のあの人を退けるほどの子だ。かなり強力な魔法使いだろうな……もしかするとダンブルドアをもしのぐかもしれないぞ」

「あの子供が? 私にはメガネの冴えない子供にしか見えなかったがな。それに今学期のはじめには友達と悪戯騒ぎを起こしたらしいじゃないか。ただの子供をそこまで持ち上げるのはどうかと思うぞ」

 

 大木の言葉に常連客はキッと睨みつけた。

 

「君はハリー・ポッターの功績がどれほどのものか理解できていないんだ! まったく嘆かわしい!」

 

 これ以上、大木と話していると酒が不味くなると言わんばかりにその常連は離れてしまった。

 

「過度にチヤホヤされた子役が身を崩して悲惨な人生を送る大人になる、そんなのよくあることじゃないか」

 

 イギリス魔法界と違い、大木は日本でマグル製品もよく使う。

 その中にはテレビもあり、ゴシップニュースもよく見たものだった。

 ハリーは芸能人ではないものの、その持ち上げ方が大木にとっては身を崩す前の子役の扱いと同じに見えた。

 

 そんな折、魔法省から注意喚起が届いた。

 

「シリウス・ブラックが脱獄? 確かヴォルデモートの配下で捕まった男のはずだが……」

 

 シリウス・ブラックの名は単なる凶悪犯としてマグルにも提供された。

 当然、在英日本大使館にもその一方は届き、大木はしばらく大使の秘書代わりに付き添い、秘密裏に護衛を行うこととなった。

 その合間を縫って大木はシリウス・ブラックの追跡チームの責任者と面会した。

 その責任者は黒人の背の高い男で、キングズリー・シャックルボルトというらしい。

 

「では、シリウス・ブラックが日本大使館の方に来ることはないと?」

「ああ。ブラックの狙いはハリー・ポッターだ。国際関係の破壊ではない」

「そもそもアズカバンは誰も脱獄できない牢獄だと聞いていたが……何か予期せぬことでも起きたのか?」

「どうやって脱獄したのかは我々もまだ分かっていない。だが、ディメンターたちの警備体制に不備はなかったと認識している」

 

 キングズリーは落ち着いた低音で辛抱強く大木の質問に答えた。

 

「シリウス・ブラックの行方は我々魔法省も全力で追っている。そちらの大使は不要に外出させないようにしてほしい」

「ああ」

 

 大木は何もキングズリーを糾弾したいわけではない。

 日本側に問題が無い、いわばイギリスの内部での問題であれば関与するべきでないと思った。

 

「にしても名付け親で親友だったはずの男が両親を裏切って敵に売ったなんてなぁ。少年漫画の主人公みたいな設定だ」

 

 大木は日本にいたころ、マグルの間で流行っていたマンガもよく読んでいた。

 英雄のように語られる少年はどこまでも主人公のようだ。

 

 その考えはハリーが三大魔法学校対抗試合の代表に選出されたというニュースで強くなった。

 本来なら選ばれるはずのない彼が前代未聞の代表入り。

 ハリーがただの子供にしか見えていない大木でも、『生き残った男の子』の特別さを認めるしかなかった。

 

「俺とは大違いだな」

 

 イギリスに来た時から住んでいる外国人用公務員住宅にて大木はついぼやいた。

 42歳で日本を出た彼も早いもので54歳になっていた。

 もしも日本にいたままならそれなりの地位にいた年齢だろう。

 だが、現実はどうだ。

 左遷され、そのまま若造の職員と混じって大使の雑用ばかり。

 

「これが生まれながらの違いって奴か」

 

 マグルに見られた時に言い訳ができるよう細工を施し持ち帰った『日刊預言者新聞』にはハリーの記事ばかり。

 彼がどれほど特別で聡明で期待を集めているか、ここぞとばかりに書いている。

 

「それにしたってエイモスの息子も健闘しているようじゃないか」

 

 ハリーの影に隠れてしまっているが、ホグワーツの正式な代表はセドリック・ディゴリーで、何かと大木の世話を焼いてくれたエイモスの息子だ。

 だというのに、新聞の隅っこの方に名前が一度載っているのみ。

 

「こりゃあ、エイモスが怒りそうだ。アイツは息子をかなり気に入っているからな」

 

 事実、偶然会ったエイモスにこの話題を振ると誇らしげにしながらも目立たない扱いに不満そうだった。

 

「全く、どこもかしこもハリー・ポッター、ハリー・ポッター! 私の息子もホグワーツ代表だと言うのに! 分かるかね?」

「ああ。それにハッフルパフの監督生らしいな。優秀な息子じゃないか」

「分かってくれるかね! 私は正直ポッターよりも息子の方が優勝できると思っているのだよ。そうだろう? だって私の子は優しく気転も利く。運動神経だっていい」

 

 息子の自慢を我慢せず出来る相手は少ないらしい。

 エイモスはランチの時間をたっぷり使ってセドリックの良さを語ってきたし、大木も止めはしなかった。

 

 だからだろう。

 復活したヴォルデモートに息子が殺された後のエイモスは見てられないほどに憔悴していた。

 

 魔法界はヴォルデモートへの恐怖で混乱状態にあったが、エイモスは息子を亡くしたこと以上にショックなことはないと言わんばかりだった。

 子供のいない大木はどう声をかければよいか分からず、結局ありきたりな気休めしか言えなかった。

 

 魔法界には闇が立ち込めていた。

 

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