Re: 一方通行、狂人神父に成り代わる。   作:ミツヒコ

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最強のふたり(白いのとデカいの)







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第十話

 一方通行にとっての朗報は主に三つ。

 まず一つ目は、駒王町の管理人であるリアス・グレモリーと協力関係になったこと。力の差は歴然だったが、彼が敢えてそこに落とし込んだ。別に舎弟など要らないし、逆に上司も必要はない。彼が必要としていたのは、この世界における情報源だ。

 

 続けて二つ目。仕事が見つかった。パソコンも何も必要ない、少しの情報とその身一つあればできる仕事だ。その情報というのが、ノート一冊分ほどの紙の束。中に書かれているのは、はぐれ悪魔達の特徴と名前、元々の主人の名前等々。つまるところ、はぐれ悪魔を狩ることが彼の仕事だ。

 一回でそれなりの大金が手に入るが、それなりの実力がないと死の危険がある。それが彼らを相手取るということなのだが、一方通行にとっては学園都市の実験と大差ない。最悪の場合はその場で欠伸をしていれば、勝手に相手が自滅するのだから。

 既に仕事は一つ達成している。正確には、達成していた。アーシアと一緒に遭遇した合成獣のような悪魔が、それなりの賞金首だったのだ。最終的には発見したリアス達がトドメを刺したのだが、賞金のほぼ全額が一方通行の懐に入ってきた。彼女がもう少しがめつかったら、彼の財布は今頃小銭数枚しかなかっただろう。

 

 そして三つ目。フリード・セルゼンという名前ではあったが、日本で活動する上で必要な身分を手に入れた。使うことが滅多になさそうな保険証や、いつの間にか作られた日本国籍がその良い例だ。

 

『お昼はちゃんと食べてくださいね?』

『あァ』

 

 加えて、これは一方通行にとって朗報というほどのことでもないが、教会が小綺麗になった。一方通行が破壊した部分は何事もなかったかのようになっており、老朽化していた建物全体も新築同然になっている。家電や家具も新調済み。小物やら何やらも設置されているせいで、居住スペースだけ見れば、そこらの新居と大差ない。

 二人が今立っている玄関の前も、綺麗に舗装されている。丁寧に整えられた石畳など、以前の教会には似合わなかっただろう。廃教会としての痕跡はほぼ残っていない。強いて挙げるならば、シルエットぐらいだろうか。

 

『机の上に置いてあるのを、レンジでチンしたらすぐ食べれますから』

『分かったっての。俺はガキか』

『言わないと食べたり食べなかったりするじゃないですか。ちゃんと三食食べて、ちゃんと寝ないと体に悪いですよ?』

 

 アーシアと一方通行の生活が始まって既に二週間。似たような問答は既に二十回は行っている。夜食を食べている一方通行の姿が見られた時や、朝方までボーッとテレビを見ていたのがバレた時など、その他にも多くの場面で彼は小言を食らってしまっている。

 

『……もォそろそろ九時か』

『あ!い、行ってきます!』

 

 転入試験を受ける為に走り去るアーシアを見送り、一方通行は白い頭をガシガシと雑に引っ掻いた。別にやり取り自体が不快なわけではないのだ。ただ、毎回後ろから刺さる八つの目線が非常に鬱陶しいのである。

 

「カップルのやり取りではないな」

「兄妹っすかね」

「熟年夫婦とも違う気がする」

「パートに行く母親と、休みの日に起きたばかりの息子ってところね」

 

 レイナーレの言葉に対し、他三人が感嘆の声を漏らす。もう何度目かも分からないコントのようなことを繰り広げる四人を、一方通行は舌打ちと共にジロリと睨みつけた。

 

「オマエらもだろォが。とっとと出てけ」

「酷いっす。ウチとフリードの仲じゃないっすか。もう少し感動的な別れでも良くないっすか?」

「そォか。とっとと失せろ」

「余計酷くなったっす!」

 

 少年の背後にゾロゾロと現れた堕天使達には傷一つなく、ほんの一週間前に酷い怪我を負ったとは思えない姿をしている。その傷をつけた張本人に対しては、敵意も殺意も抱いていなかった。

 一方通行も手を出す気などなく、予定通りに出ていかない彼らに対し、若干の苛立ちを覚えているだけである。本来ならば、怪我が治って即日出ていっても良かったのに、アーシアが病み上がりだという理由で引き留めたのだ。そこまでは彼も理解している。彼の同居人はそういう人間であるのだから、そうなるのは当然だ。

 

 しかし、問題はその後である。帰るという大人組に対して、ミッテルトが駄々を捏ね、アーシアが了承する。「折角ですから皆さんも」という魔法の言葉によって、最終的に全員が引き留められる。そんなことが三日以上繰り返された上、今日の朝には上司から呼び出されたという。にも拘らず、未だに教会で屯しているのだ。

 

「心配しなくても、もう行くわ」

「やっとか」

 

 一方通行がため息を吐くと同時に、四人の背中からカラスのような翼が飛び出した。こちらにも傷はなく、物理的にはともかくとして、見た目だけならば普通に飛べる形になっている。

 

「世話になった」

「あァ」

 

 まずドーナシークが礼儀正しく頭を下げ、そのまま飛び去っていく。交流がほぼゼロだったせいで、交わす言葉もない。一番会話をした日となると、件の夜になってしまうだろう。

 

「機会があれば、また」

「そォだな」

 

 それに続いて、ややバツが悪そうに頭を下げ、空へ消えていくカラワーナ。相変わらずの格好だったが、一方通行は特に何も言わない。ある程度の距離まで見送るだけに留め、残る二人へと視線をずらした。

 先に宙へ飛び出したのは、ゴスロリ衣装の小柄な方。意識を刈り取られたことなど忘れてしまったように、満面の笑みを浮かべている。両手を頭の上でブンブンと振っている姿は、背丈通りの年齢のように見える。

 

「また来るっす!」

「来ンじゃねェ」

 

 一方通行のぞんざいな扱いに対し、ギャーギャーと喚き始める。そのまま器用に後ろ向きで飛んでいくミッテルト。しかし、途中で横から飛んできた本物のカラスと衝突し、今度はカラスに対して喚き始めた。

 残されたのは、大人びた少年と大人の堕天使が一人ずつ。オマエは行かねェのか。無言でそう訴えかける赤い瞳に向き合い、レイナーレは寂しそうな笑みを浮かべた。

 

「まず一つ目、ありがとう」

 

 真っ黒な頭に向け、いつものぶっきらぼうな声が飛ぶ。

 

「それは俺じゃなくて、アイツに言うべきだと思うぜ」

「もう言ったわ。その上で貴方にも言ってるのよ」

 

 視線を逸らし、後頭部を雑に引っ掻く。そんな年頃の少年の捻くれた反応に、堕天使はもう一度笑みを浮かべる。けれど、長くは続かなかった。

 

「二つ目。アーシアの一件、まだ終わってないわ」

 

 レイナーレからしてみれば、隠しておいた衝撃の事実という感覚だったのだが、一方通行は眉一つ動かさない。最悪から最良までの予想はしていたし、それも想像の範疇ではある。どうせなら存在しない方が良かった。それだけの話だ。

 

「……ンなことは知ってる。どォせ、趣味の悪りィ悪魔がいるンだろ。正体は知ってンのか」

 

 一方通行の回答に僅かに驚きを見せるも、彼女はすぐに首を振った。

 

「私も唆された……いえ、付け込まれただけよ。背格好はともかく、顔は見てないわ」

「ならイイ。どォにかする」

「頼もしいわね」

 

 揶揄うような口振りだったが、彼女は彼を信頼していた。彼は筋骨隆々の大男でも、絶大な魔力を保有している名の知れた悪魔でも、神滅具に該当する神器を持つ人間でもない。だが、異常な力を保有した人間だ。

 その能力の詳細を、レイナーレは知らない。何を操っているのか、何を生成しているのか。何もかも知らない彼女だが、その力の一端は身をもって理解している。一瞬の接触で意識を刈り取られ、一撃で痛覚が暴走したかのような痛みを味わう。そんな能力を保持している彼が、どうにかすると言ったのだから、信用する他ない。

 

「そンだけか」

「……三つ目、言ってほしい?」

 

 問い掛けに対する返答はない。少年はいつもの仏頂面で黙り込んでいた。話すならさっさとしろ、もしくは勝手にしろ。何となくそんな意図を察したレイナーレは、クスリと笑った。

 

「あの子を悲しませないようにね」

「……あァ、分かってる」

「本当かしら」

 

 彼女から再度視線を外し、ため息を吐く一方通行。妙に達観している態度が多い少年だが、度々見せる見た目相応の反応には、微笑ましいものがある。

 

「それからもう一つ」

「まだあンのか」

 

 母性本能とはまた違う、可愛らしいと思ってしまう心。自分も自分で年相応だったのだと実感しながら、彼女はまたもや笑みを浮かべると共に、ポケットから一枚の紙を取り出した。

 

「これ。私の電話番号よ」

「堕天使も持ってンだな」

 

 素直に受け取ったそれには、言葉通りに数字が羅列してあった。

 

「人間に紛れる為の必須アイテムを、持ってないわけないでしょう?」

「まァ、確かにな」

 

 懐から取り出したのは、一方通行が先日与えられた携帯電話だった。リアスから連絡用に持っておくように言われ、グレモリー家が関係しているというショップでアーシア共々押し付けられたのだ。人間と生活を送るという点では、必需品であることに間違いはない。

 ちなみに一方通行のモノは流行りの板状のではなく、パカパカと開くタイプの所謂ガラケーだ。学園都市で使っていた機種よりは性能が落ちるが、やはり使い慣れている方が良い。その程度の判断基準だった。

 

「じゃあ、また会いましょう」

 

 最後にそれだけ言って、妖艶な雰囲気を纏った堕天使は飛び去っていく。真新しい教会に残されたのは、一方通行ただ一人。ヒラヒラと一本の羽根が落ちてきたのを指で掴み取り、見つめた。学園都市にはいなかった、堕天使特有の真っ黒な羽根。

 

「やっと終わったか」

 

 指先でソレを宙に弾き、少年は自身の居城に足を踏み入れる。アーシアは試験を受けに行き、堕天使達は組織に戻った。騒がしかった教会は、一時的な静寂に包まれている。

 

「静か過ぎンのも、気味が悪りィな」

 

 騒々しいのが得意ではなくとも、それが日常となっていたせいで、違和感を覚えてしまっていた。そんな自分に何とも言えない感情を抱きながら、一方通行は欠伸を噛み殺す。アーシアの注意によって多少は改善されつつあるものの、彼の生活習慣は崩壊してしまっている。余程の予定がない限り、やりたいようにやるというのが、学園都市にいた頃からのスタイルなのだ。

 自室に戻って惰眠を貪るか。早めに昼食を済ませるか。早速はぐれ悪魔を探すというのも悪くない。何をしようかと考えを巡らせつつ、教会の奥へと足を進める。

 

「にょ?」

 

 礼拝堂に、何かがいた。ミッテルトの着ているモノとは系統が違うが、源流は似たようなモノ。フリフリの女児がやっていそうなロリータ衣装に、アンバランスな筋肉。一方通行も学園都市で作られた身体である為、筋肉はある程度ついている。しかし、礼拝堂の長椅子に座っているのは、それとは比べ物にならない。

 筋肉ダルマとバカにするような文言があるが、まさにそれだった。無理矢理着たようにも思える衣装は、当然悲鳴を上げており、長椅子もミシミシと変な音を立てている。単に木がクッション性を発揮している音ならば良いが、見た目が見た目だけに、かなり疑わしい。一応は教会と共に新しくされた家具の一つだ。

 

「……アイツの言った通り、まともに寝るべきだったか」

 

 目を閉じ、額に指を当てる。しかし、体内のありとあらゆるベクトルを掴み取ってみても、身体的に不調はない。疲労はそれなりに蓄積しているが、幻覚を見るレベルには達していない。当然、精神的にも問題はない。空気中の成分にも何一つとしておかしい点は存在せず、蜃気楼やホログラムでもない。

 

「にょ?」

 

 学園都市にも奇人変人は多数存在していた。缶コーヒーを大量に買う一方通行も、ある意味ではそちら側に分類されていただろう。ただ、彼の目の前で長椅子に鎮座している存在は、中々見ないレベルのモノだった。

 

「神父様、こんにちはだにょ」

 

 座ったままではあるものの、行儀良く会釈。悪い人間ではなさそうだが、身元不明の不審者であることに変わりはない。

 

「何してンだ」

 

 一方通行の能力を行使すれば、どんなに屈強な人間であろうと、問答無用で追い出すことは十分に可能だ。しかし、彼の目の前の輩は何も行動を起こしていない。いつの間にか教会の中にいて、いつの間にか礼拝堂で座っていた。何か危害を加えたわけでも、敵意を持っている様子でもない。

 そんな考えで一旦対話を試みた少年だったが、返ってきたのは予想外の返答だった。

 

「お祈りですにょ」

「邪神崇拝なら他所でやれ」

 

 間髪入れず、少年は顎でドアを差した。

 

「違いますにょ。ニャルラトホテプ星人さんとは友達だけど、信仰はしてませんにょ」

「……なら、オマエはクトゥグア星人か?」

「ミルたんはミルたんだにょ」

 

 どうしたら良いのか。学園都市の最高傑作である頭脳を用いても、良い解答が導き出せなかった。言っていることは分かるのだが、話が噛み合っていないと言うべきか、微妙に通じていないと言うべきか。

 一方通行はその人生において、人と関わった経験が非常に少ない。一瞬だけ関わりのあった、同年代の子供達。幼少期から自分を実験動物として扱ってきた研究者達。同じ研究所にいて、すぐに消えていった少年少女達。どれもこれも癖のある連中ではあったものの、軒並み普通の会話ができる人間ではあった。

 

「悪りィが、芸能には詳しくねェンだ」

「にょ?」

 

 あまりにも奇抜な名前だった為、一方通行はそれを芸名だと考えたのだが、どうやら違ったらしい。ミルたんと名乗る不審者は、可愛らしい動きで首を傾げた。残念ながら、容姿がお世辞にも可愛いモノではないせいで、そこらのB級ホラー映画よりも数段不気味になっているが。

 

「ンで、どォして此処に来やがったンだ。毎日来てるわけじゃねェだろ、オマエ」

 

 一週間は教会で寝起きしている一方通行だが、一度も目の前の巨漢を見たことはなかった。もし見ていたなら、余程のショックで自らの脳に能力を行使しない限りは、確実に覚えている容姿である。

 

「新しく教会が建てられたって話を聞いたんだにょ」

「前からあっただろ」

「そうだったにょ?」

「一応な」

 

 機能していたかはさておき、崩壊まではしていなかったのは間違いない。一方通行とレイナーレが一悶着起こすまでは、普通に人間が住み着けるレベルの場所ではあった。

 築何年だったかは一方通行も知らないが、少なくとも、数ヶ月では決してしないレベルの老朽化はしていた。短く見積もったとしても、五年ぐらいだろうか。

 

「ミルたん、昨日まで遠くの国の悪い亀さんと戦ってたから、最近の駒王町事情には疎いんだにょ」

「悪い亀?」

 

 ワニガメ。カミツキガメ。スッポン。特撮映画の巨大な亀型怪獣。一方通行がパッと思い浮かべたのはその程度だったが、やはりミルたんの語るモノはベクトルがズレていた。

 

「配管工のおじさんの宿敵だにょ」

「地下の下水道の話か?」

 

 ミルたんが少々おかしいことは、一方通行も既に把握している。その中で信用できそうな言葉だけを汲み取り、あり得そうな肉付けをしていった結果が、地下の下水道という説だった。

 捨てられて凶暴化したワニガメと、下水処理業者兼配管工のおじさんのバトル。それこそB級の映画でありそうな話だ。見たいか見たくないかは別として、それなりにリアリティもある。

 

「ミルたん、そこでも頑張ったけど、魔法少女になれなかったんだにょ」

 

 聞こえなかったのか、聞いていなかったのか。一方通行の疑問に対する解答はなかったが、それ以上にトンチキな発言が飛び出してきた。

 

「……今から声優の養成所でも行った方が、まだ望みがあると思うぜ」

 

 一方通行が思い浮かべたのは、ミッテルトとアーシアが二人で熱心に見ていた、日曜朝の女児向けアニメである。おそらくは魔法少女がメインテーマのアニメだ。ミルたんの望みを現実的に解決するとすれば、声優か俳優の道を志してもらうのが最も適切だろう。

 

「行ったにょ。けど、金髪の触覚生えたムキムキのヒーローの役とかばっかりだにょ」

「そォか」

 

 そォだろォな。心の中で呟き、一方通行は以前より明るくなった天井を見上げた。彼は現在も祭服を着ているが、本職は神父ではない。悪魔祓いというのが適切かもしれないが、仕事をしたのは一回だけ。

 どうして、突然現れた変人の悩み相談を真面目に受けてるのか。そんな疑問を浮かべながら、彼はミルたんの隣に腰掛けた。長椅子の悲鳴はいつの間にか消えている。ミルたんは祈りの姿勢を取る一方で、少年は両肘を背もたれに乗せていた。ガラの悪い神父と、妙に敬虔な筋肉信徒。映画のコンビにありそうな組み合わせだ。

 

「ミルキーみたいな魔法少女になりたいんだにょ」

「なれるンじゃねェの。オマエがそォしてェなら、俺は止めねェよ」

 

 一方通行の行使する能力も、何も知らない子供が見たら魔法と大差はない。それは学園都市で生み出された能力者の全てに言えることだ。そして、その能力者を生み出していたのは、世界こそ違えど同じ人間。能力開発ができないとは言い切れない。

 それに加えて、世界には人間の常識が通用しない存在もいる。悪魔や堕天使、それら超常の存在が操る魔力と光力。そういった摩訶不思議な力が存在しているのだから、人間が御伽話の魔法使いになれない道理はない。

 

「魔法があンのかは知らねェが、不可能ってのは案外ねェモンだ」

 

 天井を見上げたまま、一方通行はそう言った。「魔法なンてねェ」と言わなかったのは、彼なりに色々と適応した証拠である。

 

「神父様は変な人だにょ」

「オマエに言われたくねェ」

 

 目を丸くして驚いた様子のミルたんを、一方通行は横目で睨みつけた。

 

「どうしたら良いと思いますにょ」

 

 ただ、そんな質問をされたところで、一方通行には答えられることがない。リアスを紹介するのも一つの手だが、悪魔になって魔力を行使するのと、魔法少女になるというのは別だ。

 学園都市で能力開発を受けるというのも、物理的に不可能だ。機材があればできるかもしれないが、流石の一方通行もそれらを一から揃えることは不可能だ。一番可能性が高そうなのは、世界の何処かにいる魔法使いに弟子入りするというパターンだが、そんな存在を一方通行は知らない。リアスなら知っているかもしれないが、いきなりミルたんを連れて行って、魔法使いを紹介しろというのは、何らかの脅迫現場になってしまう。

 

 結果、彼は諦めた。

 

「俺に聞くな、そンなこと。神頼みでもしてみたらどォだ?効果あンのかは知らねェけど」

「コツとかはありますにょ?」

 

 神頼みにコツも何もない。何をバカなことを言っているんだ。神無月に特定の神社に行ったらどうか。色々と言いたいことはあったが、一方通行は喉元まで来ていたそれら全てを飲み込んで、諦念を吐き出した。

 

「……賽銭でもしとけ」

「にょ」

 

 ミルたんがポケットから取り出したのは、明らかにポケットの容量を超えるサイズの大きさで、奇妙な星が描かれた巨大なコインだった。確かに硬貨ではあるが、賽銭に使うようなサイズ感ではない。部屋の隅か、壁にでも引っ掛けておくのが適切だ。

 

「何処の国のだ、ソレ」

 

 少なくとも、一方通行の知識にある国の硬貨にそんな巨大な物はない。記念硬貨という可能性もあるが、もはや硬貨ではなく、円盤や盾とでも呼ぶべきだろう。

 

「悪い亀さんのいた国に沢山あったにょ」

「あァそォ」

 

 ミルたんに常識は通用しない。そもそも、一方通行の今いる場所は学園都市ではないのだ。彼の知る空間ではない。物理法則がおかしくとも、変な人間が奇妙なコインをばら撒いていようとも、それが異界の常識である可能性は捨てきれないのだから。

 一方通行は真面目に考えるのをストップし、周囲の音を反射のフィルターに組み込んだ。それだけで彼専用の静寂が生まれ、二週間ほどで蓄積された疲れと共に、彼を眠りの世界に誘っていく。

 目を瞑る僅かな時間で、彼の脳裏を過ったのはアーシアの怒り顔。昼食をまだ食べていないことを思い出したが、睡魔に抗うことはなかった。帰ってくる前に食べておけば良いだろう、と楽観的なことを考えたせいだ。

 

 結局、彼がアーシアに怒られたのは言うまでもない。学園都市最強の称号は、良くも悪くも意味がないのだ。

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