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第十一話
熱量、電気量、運動量、その他諸々。世界には多くのエネルギーが存在していて、それらには基本的に動く方向も存在している。もし、その『
物理学をほんの少しでも知っている人間ならば、その能力の脅威は十二分に理解できるだろう。そんな常軌を逸した能力を保持しているのが、かつて学園都市最強の超能力者だった、
『フリードさん、選択科目ってどうするべきなんでしょうか』
月明かりが差し込む教会の中。目つきの悪い白猫がプリントされた、灰色のマグカップ。真っ黒なコーヒーが並々と注がれたそれを片手に、真っ白な少年は声の方へと顔を向けた。
『選択科目?』
ニュアンスで何となくは理解できるが、何を選択するのか。そもそものカリキュラムを知らない彼には、何とも言えなかった。
『理科が三科目あるんです。化学は皆受けるんですけど、物理と生物はどっちかしか受けられないらしくて』
そんな一方通行と一緒に暮らしているのが、アーシア・アルジェントだ。傷を癒す神器を保持しており、かつては聖女と呼ばれていた金髪碧眼の少女。敵対関係にある悪魔を治療したことで追放され、紆余曲折あり、一方通行と一緒に教会で暮らしている。
教会で暮らす修道女だが、身分としては学生だ。超がつくほど優秀な家庭教師の尽力もあり、先日の転入試験を全教科満点で合格。無事に駒王学園高等部二年になったは良いが、時期があまりにも微妙だった。他の面々は一年の末に決めている文理選択と、更に分かれる選択科目。とりあえず理系を選んだは良いが、その先を決めかねていた。
『物理は考え方だ。こっちの生物分野の話は知らねェが、ほぼ暗記だろ』
『考え方、ですか?』
首を傾げる少女に説明をする為、頭の中の小難しいワードを噛み砕きつつ、一方通行は近くにあったスーパーのチラシをひっくり返した。
『……想像力って言うべきかもしれねェな。何がどォ動いたら、どれがどォ動くか。それが分かるンなら、別に難しいモンじゃねェ……多分な』
首を傾げる少女の為、彼はほんの数秒だけ考え込んだ。難易度の高い計算式は幾らでも口に出せる一方通行だが、初心者向けの問題となると話は別だ。学園都市レベルの初心者基準では、どう考えても難易度が高い。それは転入試験の勉強を見ていた際に知っていた。
頭に思い描くのは、外出先で見かけるような子供達。彼らに向けた子供騙しのような実験。身近な道具だけを使って、想像するのが簡単なモノ。教会のあちこちに視線を巡らせていき、目に止まったのは家電の数々。冷蔵庫にテレビ、電子レンジにオーブントースター。季節的に使わない物だが、とりあえず置いてある扇風機。それ以上のヒントはなかった為、彼はとりあえず、そのプロペラ付きの家電をピックアップすることにした。
『なら、風呂場思い浮かべろ』
『お風呂ですね』
一方通行は転がっていたファンシーな柄のボールペンを手に取り、チラシの裏に絵を描いていく。上辺のない長方形と、左右の辺を結ぶように伸びる波線。
『湯を張った浴槽。ガキが遊ぶよォな帆船が浮いてて、その帆船の上には小型の扇風機がある』
『船に、扇風機』
デフォルメされた帆船を描き、その上によくある扇風機の絵を描く。ややごちゃごちゃしているが、十分に理解できる丁寧さだった。
『扇風機のスイッチを入れて、その帆に風を当てる。その時、帆船は進むかどォか。普通なら条件があるンだろォが、今回そォいうのは抜きだ』
差し出された紙を受け取り、アーシアは首を捻った。情景が思い浮かんでいないわけではない。目の前の少年が言っていることも、紙に描かれてあることも理解している。
『進まなさそうですけど……ん?』
答えは何となく浮かんでいたが、本当にそうなるという根拠がなかったからだ。進みそうにはない。それは感覚的に理解できたが、どうして自分がそういう風に考えたのか。風が帆に当たっているのだから、進むのではないか。
時間が経てば経つほど、当初の考えが間違っているように思えてしまう。自分の感覚的な理由をどうにかして言葉にしようと、少女は近くにあった扇風機のプラグを引っ張り、コンセントに突き刺した。そしてスイッチを入れ、首を振る扇風機の前後左右を駆け回り始める。普段のシスターとしての装いではなく、多少動きやすそうなパジャマ姿ではあるものの、普通に転倒しそうな勢いだった。
『進まないと思います!多分ですけど』
最後の部分は小声だったアーシアのファイナルアンサー。それは半分正解だった。曖昧な条件下であることを考えると、満点を与えても良いかもしれない。
『進まねェ。もしくは逆走する。大半は逆走になるかもな。詳細な答え出すなら、全部に数値ぶち込ンで、設定を細かくしなきゃ無理だ』
湯の温度によっては生まれる気流、扇風機と帆船の重さ、水流の有無。そもそも扇風機の風は全て帆に当たるのか。様々な要因が重なり合わなければ、正確な答えは生まれない。
『学校の物理なンてのは、コレに数字入れて設定簡略化してるだけだ。駒王学園のカリキュラムは知らねェが、転入試験の難易度見る限り、進学校の物理って言ってもそンな難しくはねェだろォな』
一方通行基準では、そんな状況設定をされている時点で生温い。彼が普段行っている演算は、そもそもの対象が進行形で変動しているモノだ。故にカオス理論すら計算式に組み込むが、学校の問題は違う。簡略化された値に、使うべき公式の提示がされる。テストではそう簡単にいかないものの、暗記で補えてしまう部分が多いのも事実だ。
ただ、どれもこれも一方通行個人の解釈である。最終的な判断はアーシアに委ねるしかない。一方通行は未だに扇風機の近くでチラシを握っているアーシアを一瞥し、マグカップを口元に近づける。
『何にしても、最終的に決めンのはオマエだ』
そのままコーヒーを口に含み、机の上に紙の束を放り出した。はぐれ悪魔の名前と写真、幾つかの情報が記載されたそれに、ペンでバツ印をつけていく。中には一方通行がスクラップにしてしまった悪魔もいるが、そのバツ印は始末した証ではない。情報通りの場所にいなかった悪魔達の印だ。
「精度がゴミだな」
顔を顰め、ため息を一つ。労力に対する報酬は多い。それは依頼人が貴族であり、その面子やら何やらを守ろうとしているから当然の話だ。しかし、能力を使って楽に処理と移動をしている一方通行であっても、無駄な労力と時間を使いたくない。
明日か明後日には、直接文句をつけてやろう。そんな予定を頭の中で組み立てつつ、一方通行は最後のバツ印を記し終えた。その数は六。少ないようにも思えるが、殺し屋の仕事だと考えたら最悪な依頼書だ。
「めンどくせェ。何してンだ」
けれど、気になることもあった。ミスが多過ぎるのだ。相手は土地の管理人というだけでなく、悪魔の中でも名の知れた貴族。経験不足の学生であるということを差し引いても、悪魔ならば契約の重要性は理解しているのが当然だ。
にも拘らず、座標のミスが六つ。情報に関する誤字脱字も多少。一方通行には判断できないが、はぐれ悪魔の名前も間違えているかもしれない。それだけの間違いを格上の協力者に渡すというのは、何らかの問題を抱えている可能性がある。精神的な不調、一方通行に対する不信感か敵対心、視力や脳機能の障害。どれがあるにしても、協力者が崩れるのは相当に面倒な問題だ。
「どっちみち、明日以降にするしかねェか」
時計に目を向ければ、時刻は二十二時。以前は昼夜逆転しそうな生活を送っていた一方通行だが、現在はアーシアによって改善されつつある。つまるところ、一応は寝る準備をしておかなければ、色々と小言を言われる時間帯ということだ。
お風呂が温くなっちゃいますよ。歯磨きはした方が良いです。夜遅くにお菓子は良くないです。この時間にコーヒーを飲んだら、寝れなくなっちゃいますよ。どれもこれも間違ったことではないので、彼も反論したことはない。したことはないのだが、毎日のように違う指摘が入るのだ。これまで一方通行が言われてきたことを書き連ねれば、ポケットサイズの辞書が完成するだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、一方通行は席を立とうとした。しかし、それと同時にアーシアの指先が肩に突き刺さり、普段あまり出さない声を上げてしまう。下手人をジトッとした目で見つつ、彼は半端な姿勢で動きを止めた。
『物理にしてみます』
『そンな雑に決めるモンなのか』
一旦座り直し、少年は疑問を口にする。すぐに変えられるようなことなら、そもそも相談をするはずがない。何となくでどっちも学んでみて、気に入った方に切り替えるという方法が取れるはずだ。
『行きたい学部の入試とかにもよるみたいですけど』
口を動かすのをほんの少しだけ止め、アーシアは微笑む。
『凄い先生がいるので、何とかなるんじゃないかなって』
一方通行の方を見て、小さく舌を出す少女。その言葉の意味するところを理解してしまった少年は、マグカップを置いて顔を顰めた。
「先生なンつーガラじゃねェだろ」
その言葉はアーシアに向けたものなのか、それとも自虐だったのか。一方通行は薄く笑いつつ、背をパキと鳴らして席を立った。向かう先は風呂場。既にアーシアが入った後である為、今から湯を張る必要はない。服を洗濯カゴに投げ込み、タオルを一枚手にした。
脱衣所の鏡に目を向ければ、そこに映るのはいつもの自分の姿。真っ白な肌に真っ白な髪、赤い目。細身ながらも筋肉のついた体。フリード・セルゼンの名前を借りているが、そこにいるのは確実に一方通行と呼ばれていた人間だ。
「先生、ね」
風呂場の扉をガラリと開き、呟いた。
先生という言葉に対する一方通行のイメージは、あまり良いものではない。学生の多かった学園都市において、大人の種類は少なかった。基本的には研究者と教員。後者は比較的マシだったが、前者は学園都市以外では生きていけなさそうな人間も多かった。一方通行が渡り歩いてきたのは暗部の研究所である為、出会ってきたのはその中でも最悪級の人間ばかり。子供をニヤケ面で殺す輩に良いイメージを持つことなど、聖人君子だったとしても難しい話だろう。当然、この少年も例外ではない。
普段ならあり得ない水浸しの状態に自らなり、液体を手のひらに広げる。そのままシャカシャカと頭で泡立て、洗い流す。もう一度セットのトリートメントを手のひらに出し、乱雑に塗りたくるように広げた後、同じように洗い流す。適度にボディソープを泡立てて、体に湯を浴びせる。そして湯船に白い体を沈ませ、目元には濡れたタオルを被せた。
少し前の堕天使達の騒動を考えると、一方通行はあまりにも平穏な毎日を過ごしている。学園都市にいた頃から、彼の周りは平穏とは程遠かった。大きなトラブルの渦中に毎回いるということはなかったが、一方的な喧嘩を売られるだとか、逆恨みで家が荒らされているということは日常茶飯事。一方通行自身には傷一つなくとも、彼の周囲がボロボロなのは普通だった。
「どォなンだか」
腑抜けてしまったのとは違う。丸くなったかと言われたら、多少はそういう部分もあるかもしれない。それが悪いことであるのか、一方通行には判断がつかない。寝ていたとしても、風呂に入っている最中だとしても、反射を切ってしまうほど呆けているわけではないのだ。一体、何が変わってしまったのか。そんな疑問が浮かびはするが、解決しようと腐心するほどではない。
タオルで覆われた視界の中で、ボーッとする時間。アーシアと共に夕食を食べる時間。フラフラと目的もなく出歩いている時間。それら自体は全く悪いものではない。それなりに心地が良い、微睡みのような時間の使い方だ。
「にしても、静か過ぎな気はするけどなァ」
アーシアとの邂逅から始まった激動の一週間と少しのことを考えれば、彼がそう考えてしまうのも仕方がない。はぐれ悪魔を捕える、もしくは殺す。その作業は平凡とはかけ離れたものではあるが、日常的な仕事の範疇なのだ。
面倒など起こらないに越したことはない。それは間違いなかったとしても、明らかに面倒なピースが揃っている町に住んでいる以上、一方通行もある程度は覚悟している。
魔王の妹であるリアス・グレモリー。同じく魔王の妹だというソーナ・シトリー。つい先日、赤龍帝という存在であると判明した兵藤一誠。現在も何処かの悪魔に狙われている可能性のあるアーシア。そして理由も分からないまま、駒王町に住み着いた一方通行。最後はともかく、中々に面倒な面子が並んでいる。それだけの存在が揃っていて、何も起こらない方がおかしな話だ。
『フリードさん、明日の朝って』
そんな調子で考え込んでいると、アーシアの声が聞こえてきた。続けて響くパタパタという足音。最後に脱衣所のドアノブに手を掛ける音。何か用事があるのかと、一方通行はタオルを頭に乗せ直す。
しかし、脱衣所のドアが開く音と同時に聞こえたのは、全く予想外の悲鳴だった。異常事態が起こったというよりも、虫か何かが突然現れたような声量ではあったものの、悲鳴であることには変わりない。慌てて浴槽を飛び出そうとしたのも束の間、続けて聞こえてきたのは比較的落ち着いた声だった。
『ど、どちら様でしょうか?』
「貴女がアーシア・アルジェントですね。フリード・セルゼンは今何処に?」
『え?お風呂にいるはずですけど……』
変な体勢で止まった一方通行の耳に入ってきたのは、知らない声による日本語と、聞き慣れた声による異国の言葉の問答。その後にガラリと風呂場の戸を開け放ったのは、やはり一方通行が全く知らない人物だった。銀髪のメイド。一言で表すなら、それが一番適切だろう。
「……特殊なプレイがしてェなら、グレモリーの眷属の兵藤ってヤツに頼ンだ方がイイと思うぜ」
「ヒョウドウ……ああ、新しい兵士もいましたね。忘れていました」
忘れられていた少年を哀れに思いつつ、真っ白な少年は浴槽の中に座り直した後、手を握り合わせた。形は子供がよくやる水鉄砲と一緒だが、ベクトルを弄られたそれは洗車場の高圧洗浄機と大差ない。それ以上の威力、つまるところ鉄板を切るようなこともできなくはないが、流石にそれは浴室にも被害が出るので抑えていた。
「不審者ではありません」
「どの口が言ってンだ」
バシュ。ベチ。繰り返される攻防の見た目はかなり間抜けなモノ。けれど、やっていることは中々に凄まじい。一方通行が撃ち出すそれなりの高圧水流を、銀髪の女は魔力を纏わせた手で叩き落としているのだ。もしこれがミッテルトやレイナーレなら、抵抗できずに体の何処かを赤くする羽目になっていただろう。
「教会に入ってンのはともかく、人の風呂堂々と覗いてンのはオマエの趣味か?それともご主人様の命令か?」
適当なことを口に出しつつ、相手の正体について思考していく。言語のことを考えると、まず人間ではない。異様なバイリンガルという線はほぼゼロだ。水流での攻防の際に生じたモノは魔力だった為、天使と堕天使という線は消える。可能性としては悪魔が一番高い。ついでに一誠の存在を知っていたということは、リアス・グレモリーの眷族かその関係者。
「視姦は趣味ではありませんし、主もそのような方では」
そもそも敵意があるのなら、一方通行ではなくアーシアを捕らえて人質にする方が賢い。どんな間抜けな悪党でも、馬鹿正直に真正面からの戦闘をすることはないだろう。もし目の前の女と立場が逆ならば、一方通行は間違いなくそうしている。それ故、彼は女を警戒しつつも、半ば遊びのような威嚇行為をしていた。
「それで、誰だオマエ」
一方通行の問い掛けに対し、銀髪の女は目を僅かに丸くした。
「……悪魔祓いと聞いていましたが、私のことをご存知ないのですね」
「自意識過剰だな。生憎、俺の部屋の本棚にあンのは植物図鑑ぐらいだ。悪魔名鑑なンざ持ってねェンだよ」
「いえ、お嬢様が説明しているかと思っていました」
「お嬢様?ンな小綺麗な名詞が似合う悪魔なンざ知らねェな」
風呂場に突入してきた銀髪のメイドと、浴槽の内側でタオルを頭に乗せている一方通行。そして脱衣所に佇んだまま、緑色の瞳を二人の間で行ったり来たりさせているアーシア。部外者であるメイドの口数が少ないせいで、教会暮らしの二人組は動き出すこともできない。これが単なる敵襲ならば、高圧水流で身体を上下に分断することもできるのだが、敵対している雰囲気はない。
醸し出しているのは、焦燥感と苛立ち。その対象は挑発した一方通行でも、オロオロしているアーシアでもない。自分自身でもなさそうだったが、変数が多過ぎる式を放り出されては、流石の一方通行にも解は導き出せない。
「私はグレイフィア・ルキフグス。グレモリー家に仕えています」
「用件は」
悪魔が関わっている以上、何らかの事件なのは確定的。それもグレモリーの関係者となると、町に何らかの問題が起こっている可能性もある。一方通行が動く必要があるかはともかく、状況を知っておく必要があった。
「お嬢さ……リアス・グレモリーの居場所に心当たりは?」
「ンなモン、俺が知ってるわけねェだろォが」
貴族の娘が失踪した。そういう話なのかもしれないが、それならばもっと焦っているのが普通だ。悪魔の世界に警察があるのかは一方通行も知らないが、単なるメイドが出張ってくるのはおかしい。
人間的な基準で考えるならば、身内で早々に解決したい問題。御家騒動というヤツが近いだろうか。単なる学生だった一方通行にも、少しばかり有名だったアーシアにも縁のない話だが、グレモリーというそこそこ有名な悪魔の家なら可能性はある。
「騎士と兵士、それから貴方以外の男性との交友関係について聞いていたりは」
『アルジェント、何か知らねェのか』
突然話を振られて肩を跳ねさせるも、少女はすぐに口を開いた。
『リアスさんと仲の良い男の人……ですよね?』
「はい」
『イッセーさん達とフリードさん……学校で話す人はいるらしいですけど、仲良しじゃなさそうでした。ミルたんさんのことも知ってるみたいでしたけど、ミルたんさんはここ何日か駒王町にいないみたいですし』
「なら、次は兵士の所に行ってみることにします」
言い終わると同時にグレイフィアの足元が輝き始める。浴室の床にそういうギミックがあるわけではなく、彼女の持つ魔力が陣を描き始めたのが原因だ。
「失礼しました。ではまた」
丁寧なお辞儀をし、綺麗さっぱり消え去るメイド。取り残された二人を小馬鹿にするように、何処からか水がピチョンと跳ねる音が響いた。
『何だったんでしょう』
『分っかンねェ。悪さしに来たわけじゃねェみたいだがな』
それを台風一過と言うべきか、嵐の前の静けさと言うべきか。前者の方が良いと思いつつ、一方通行は何となく嫌な気配を感じ取っていた。自分一人が巻き込まれるならともかく、悪魔の事件である以上はアーシアも絡んでくる可能性がある。首を突っ込むまではせずとも、遠目から見るぐらいはしておくべき案件だ。
「めンどくせェ」
ため息を漏らし、少年は湯の中に沈み込む。とりあえず今は、一時の平穏と静寂を楽しみたかった。