Re: 一方通行、狂人神父に成り代わる。   作:ミツヒコ

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今回は特に変わり映えもなく、淡々と。







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第十七話

 サーゼクス・ルシファーにとって、悪魔祓いというのは大した存在ではない。種族的には天敵に該当する存在だが、聖剣を振るうような上澄みならともかく、単なる悪魔祓いを相手取るだけなら、片手どころか指の二、三本でも十二分と言えるだろう。

 それ故、フリード・セルゼンという名前を出されても、北欧の英雄の名前を想起する程度だった。聞いたことがあるかもしれない。それぐらいの感想しか抱かなかったし、それ以上の何かしらを考えることもなかった。

 大事な妹の領地に悪魔祓いが一人現れたとはいっても、気にするほどのことではない。リアスと眷属達の実力を信用していたというのもあったが、それは兄としての視点。魔王としては、領地内のことは領主が解決しろという思考があった。

 とにもかくにも、フリード・セルゼンのことは脳の片隅にある程度だったのだ。はぐれ悪魔祓いだというのに、元聖女の身柄を巡って堕天使と諍いを起こした挙句、悪魔と協力体制を築いた変人。

 

「君がフリード君だね」

 

 扉を開けて早々、内部の喧騒が止んだ。一部は大慌てで頭を下げ、膝をついているのも数名見られる。大多数はそれに遅れて頭を垂らし、件の少年と談笑していたであろうフェニックス家の令嬢も同様だった。

 彼らの動きに同調しないのは、僅かに二人のみ。一人はまだ空気を読もうという素振りを見せているものの、もう一人は違う。

 

「そォいうオマエが魔王サマってやつか」

 

 椅子に座ったまま、体を向けることもない。背もたれに乗せた頭を後ろに傾け、扉の前に立つサーゼクスを見ている。

 傍若無人。グレイフィアから聞いた通りの少年だと思いながら、魔王は悪魔祓いの隣に座った。あり得ない状況であるにも拘らず、周りは何も言わない。言えなかった。

 

「何か飲むかい?」

「人間が飲めるよォなもンがあンなら」

「人間の嗜好品は悪魔にとっても嗜好品さ」

 

 魔王という御伽話の存在が登場し、オロオロしているアーシア。魔王が近くにやってきたせいで、ガクガクと震えているレイヴェル。彼女達を気にせずに会話をする二人。四人の横を涼しい顔で通り抜け、流石の速さでカップを準備するグレイフィア。

 

「来てくれるとは思わなかったよ」

「俺も来るつもりはなかったンだが」

 

 どうして来てくれたのか。それは聞くまでもなかった。フリードの視線が、彼の隣に座る少女へ向けられていたから。言葉は特になくとも、それだけで何となく理解はできる。サーゼクスにも似たような経験はある。妻や母、妹に息子。そういう時は足掻けないのが男だ。

 そんな姿を目の当たりにして、彼は認識を完全に改めた。ある程度はグレイフィアからも聞いていたし、何となくの予想はしていたのだ。ただ、予想よりも似ていた。唯一と言っても良い同格の友人、そして自分自身と。

 

「コーヒーです」

「慣れてンな」

「メイドですから」

 

 単なる変人ではないと分かったのが、ほんの少し前のこと。小競り合い程度とはいえ、ライザー・フェニックスを完封したという報告を受けたのがキッカケだ。不死鳥の力を使うことを許さず、炎を浴びても無傷。いくら対悪魔に特化している悪魔祓いでも、異常であるのは間違いない。

 サーゼクス本来の力を発揮すれば、そういう状況に持ち込むことはできる。だが、双方普段通りの状態からならば、無傷とはいかないだろう。ライザーは間違いなく上級の悪魔で、由緒正しいフェニックス家の三男だ。悪魔の中でも実力者に分類しても良いぐらいで、正面から戦うのはかなり厄介な存在だ。そんな彼が一方的にやられたというのは、魔王としては多少危険視すべきだろう。

 しかし、サーゼクスはグレモリー家出身の悪魔だ。そして自他共に認めるシスコンだ。リアスの婚約騒動が良い方に傾いたのは、サーゼクス個人としては喜ばしいことだった。

 

「初めて会った気がしないね」

「気持ち悪りィこと言ってンじゃねェ」

 

 魔王に対する態度ではない。元よりそれに不快感を覚えるようなタイプではないが、フリードのそれはむしろ好ましいぐらいだった。

 中級や下級の悪魔であれば、問答無用で膝をついてしまう。かと言って、貴族連中とは腹の中を探り合うような小難しい言葉の応酬。普通の話ができるとなると、自身と同じ立場にある魔王やグレイフィア、親族であるグレモリーの悪魔ぐらいだ。

 

「私はグレイフィア一筋だよ」

「悪魔らしくねェな」

 

 口元を歪ませてそっぽを向く少年を見て、サーゼクスは声を上げて笑った。メイド服姿の妻に踏まれた爪先は気にせず、フリードと同じ方に目を向ける。

 まだ試合は動き出していない。各陣営は未だに作戦会議をしていた。一方は余裕があるから。もう一方は慎重になっていたから。何も知らない悪魔であれば、両者のんびりしているように見えただろう。しかし、ある程度の経験がある悪魔達は、両陣営の差を何となく理解できていた。

 

「どっちが勝つだろうね」

「グレモリー」

 

 即答だった。サーゼクスは笑みの一部を担っていた目を、ほんの一瞬で丸くする。その速さではなく、内容に驚いて。

 確かにリアス達は強い。自分と同じ特性を持つ魔力を扱い、眷属達にも恵まれている。だからと言って、ライザーも決して弱くはない。フリードのおかげで人数的には五分。経験値的にはライザー有利。潜在能力だけならば、リアスが明らかに上。ただ、あくまでも潜在能力。表に出てくるのが何時になるか。

 個人としてはリアスの勝ちを望んでいるものの、蓋を開けてみなければ分からない。だからこそ、彼の口から妹の名が出てきたのは、かなり意外だった。

 

「おや、友人を信じてるのかな」

「何言ってンだ?」

 

 茶化すような物言いをしたのは事実。しかし、目を細めて鼻で笑われては、流石の魔王も顔を顰めるしかない。

 

「まず人数が同じなら、個人の能力で比較するしかねェ。普通のスポーツでもそォだろォが」

 

 歯に衣着せぬ物言い。セラフォルーとは別の意味で外交が得意そうだと思いつつ、サーゼクスは無言で続きを促す。何となく、彼からの妹達の評価が気になった。

 

「木場と兵藤は神器保持者。グレモリーはオマエと同じ血筋。姫島と塔城は知らねェが、まァ何かしらあンだろ?」

「否定はしないよ」

 

 何かしら。それで終わらせて良いのか分からないぐらいのものがある。

 もし血統書があるのであれば、下手な上級悪魔よりも余程上だ。しかし、他人の口から話すようなものではない。どちらも禍根は未だに解決しておらず、その真っ只中と言っても良い状態だ。本人の口から語るべきことであり、他人が言うにしても、せめて本人の許可を得てから。

 特にサーゼクスからの返答も気にしていない様子で、フリードはカップを片手に続ける。

 

「フェニックス側はどォしよォもねェ」

 

 嘲りと表現する程ではないが、どことなく馬鹿にしているような声色だった。

 どうしようもない。その言葉だけ切り取るなら、ライザー達がリアス達相手に勝ち目がないという意味にも取れるだろう。しかし、それだけなら嘲りになるはずがない。

 

「あのホスト崩れが一騎当千万夫不当の大悪魔っつーなら話は別だが、不死鳥ってだけだ」

 

 要するに、弱すぎて話にならない。そういう意味での“どうしようもない”という言葉。サーゼクスにも理解はできる。不死鳥というだけなら、いくらでもやりようはあるのだ。

 ただ、それはある程度の力があってこそ。紛れもない事実であっても、あまり口に出したくない事実ではあるが、少なくとも。

 

「リーア達にそれをやる力はない」

「人力でぶち抜くのが無理なら、王水でも何でも使えばイイ。弱点だらけの不死鳥なンか、店売りの落花生と変わンねェよ」

「弱点?」

「オマエら悪魔共通のがいくらでもあンだろ」

 

 手をポンと鳴らしたくなった。あまりに間の抜けた振る舞いである為、やるまでには至らなかっただけだ。

 サーゼクスには思いつかない。というよりも、大抵の悪魔は思いつかないだろう。天使や堕天使、もしくは悪魔祓いならではの視点だった。悪魔同士での衝突であれば、それは基本的に最初に除外される可能性だから。

 

「十字架に聖水、それに光力。再生の途中で傷口に塗り込ンだら、まともに肉体形成もできねェ肉の塊の完成だ。ぶつ切りにして聖水漬けにしたら、一体全体どォなるンだろォな。案外適応して、プラナリアみてェに増殖し始めンのか?」

「渡したのかい?」

 

 サーゼクスの問いかけに対し、ピクリとしたのはフリードではなかった。金髪をヴェールで覆っている少女だ。しかしながら、ピクリとしただけ。若干怯えているような雰囲気は漂わせているものの、フリードの祭服をギュッと握って耐えていた。

 それを察知したフリードが、ほんの少しだけ魔王に視線を向ける。構えも何もしていない。だが、妙な隙間風が部屋に吹き込んできた。それを察知するや否や、サーゼクスは首を振る。それで納得したらしく、奇妙な風音は瞬時に消えた。

 

「さァな」

 

 ルールブックには書いていない。武器なのだと言われれば、それは取り上げようがない。そのようなことをしてしまえば、どこからどこまでがフェアプレイなのかという、不毛な議論が始まってしまう。

 堕天使から転生した悪魔ならば、光の槍を使うことがあるだろう。悪魔祓いから転生すれば、主な武器は光力を利用した武器になるはずだ。そういったことを考えると、今後もルールブックに書き加えられることはないだろう。

 

「他の奴らも雑兵だ。兵藤が殴るだけでも沈むンじゃねェの」

 

 つまるところ、リアス達が強いというよりも、ライザー側が弱いという評価。それもリアスが買われているというより、新人悪魔の何かしらを買っている様子だった。

 腐っても鯛とは言うものの、流石に目覚めてから日の浅い存在を何故そこまで評価しているのか。そんな疑問が思い浮かんだが、口に出す間はなかった。

 

「コイツが出てたンなら、もォ少しマシな試合だっただろォな」

「わ、私ですの?」

 

 唐突に話を振られたのは、彼らの横で素知らぬ顔をしていたレイヴェル。ただでさえカチカチだった背筋と表情筋が更に酷いことになっていたが、一応は言葉を発することができていた。

 

「死なねェなら、爆薬腹に巻いて突撃してもイイな。それなりに筋力あるなら、コイツをそのまま腕に括り付けて盾にすンのもアリだ。いくらでも使える」

 

 外道とは言わない。特性を活かすのであれば、それが最も強い不死の使い方だ。それが適切か否かはもう少し考える必要があるが、間違いなくサーゼクスも考える戦術の一つだ。

 

「お、お兄様はそんな命令しませんわ」

「だからグレモリーみてェな甘ちゃンにも負けンだよ」

 

 まだ何も始まっていないというのに、まるで未来を見てきたように。バカにするようなジェスチャーと共に、彼は言った。

 

「オマエにやらせなくても、アイツ自ら初手で敵陣に自爆特攻かましてやればイインだよ。変なプライドがあンのか、それともナメてンのかは知らねェが、それができねェ時点で負けは確実だ。後はどれだけ足掻けンのかって話だな」

「き、貴族としての」

 

 そこまで言われて、黙っていられるような性格ではない。ただ、言い返そうにも、相手が最悪と言って良いほど悪かった。レイヴェル自身、それは理解している。それはそれとして、兄が負けると言われるのも癪だった。兄だけならともかく、自分と仲良くしている他の眷属達も弱い者扱い。それで文句を言わない方が難しいはずだ。

 だが、赤い瞳がジロリと覗いていた。恐ろしくはない。慣れ親しんでもいないが、魔王の存在よりはマシなはずだった。しかしながら、それに言葉を遮られてしまったのも事実。喉は波の生成を止めてしまい、口も閉じてしまった。

 

「どォせ最後は捨てるだろォが、そンなもン」

「捨てるなんて」

「三十センチでゴールに辿り着けンなら、泥だらけになって這いずってでもゴールすンだろ。無様とか、不細工とかは関係ねェよ。それが賞賛できねェ奴こそ、貴族どころか勝負事の世界に立つべきじゃねェ」

「そう、ですけれど……」

「強者の余裕って言えるほど、アイツに余裕はねェよな。貴族がどォだっつーなら、グレモリーもそォなる。俺が口出してイーブンにした時点で、あのバカには何の強みも残されてねェンだよ。捨てる以前の問題だな」

 

 勝負アリどころか、死体蹴りのようになってしまっている。少なくとも、サーゼクスにはそう見えた。

 既にレイヴェルはプルプルと震えており、返す言葉を必死に探している様子。それでも見つからず、ギュッとドレスの裾を握っていた。否定しようにも、その負けず嫌いな部分があるからこそ、フリードの言葉を否定し切れない。

 

「それでも、お兄様は」

「そもそもの話、そンなにグレモリーが欲しいなら本気でやる。つまり、別に要らねェンだろ」

 

 魔王は無言で同意をした。正直なところ、人目を憚らずに首を上下に振りたいぐらいだった。魔王としての威厳を保つ為にジッとしていたが、兄としては何十何百と肯定したい言葉だ。

 

「そ、そんなことは……」

「オマエらは騎士じゃねェンだ。罵られよォが、泥の擦り付け合いになろォが、最終的に勝っちまえばそれでイイだろ。イイ子ちゃンの行儀イイ試合が見てェなら、オマエら悪魔のゲームなンか見る必要はねェ。正々堂々っつー言葉なンて、溝に捨てとけ。卑怯に狡賢く立ち回って、騙し討ちして大将首取る方が悪魔らしくてイイだろ」

 

 フリードは呆れるような笑みを見せ、カップに口をつけた。レイヴェルは納得がいっていない様子ではあったが、黙って唇を尖らせている。あまり首を縦に振りたくはないものの、納得せざるを得なかったらしい。

 

「なるほど」

 

 サーゼクスはぼんやりと呟く。フリードの言葉に納得したというのもあった。だが、それは二割程度。

 噂通りならば、悪魔だけでなく、悪魔と関わった人間も殺す人非人。神父失格のはぐれ悪魔祓い。追放されて当然の人間性の持ち主であるはずなのだが、実際はかけ離れている。多重人格や記憶喪失を疑うぐらいになっており、別人の可能性も十分にある。

 そういう話を聞いていたからこそ、先の言葉が出た。猫を被っているという可能性もあったが、どうにもそうは見えない。リアスとグレイフィアの評価は間違いではないと、世紀単位の経験が告げていた。

 悪魔のことを理解して、悪魔はそういうものだと納得している。その上で共に生きることができないと切り捨てているのではなく、協力者として共存の道を選んでいるのだ。

 それが悪魔祓いなのか。はぐれに身を落とすような人間なのか。自問自答をする間もなく、答えは見えた。この少年はフリード・セルゼンではない。それの良し悪しは分からないが、ひとまずの結論はそれだった。

 

「オマエはどォなンだ……つっても、聞く意味はねェか」

「そうだね。概ね同じだ」

 

 そうこうしているうちに、両陣営が動き出していた。  

 意気揚々とイッセー達が飛び出し、それに呼応するようにライザー陣営も飛び出す。人数が人数である為、両陣営が塊になって動いている。一つだけ差があるとすれば、王が出て来ているか否か。

 一方は相手を侮り、もう一方は実力を認めている。その差が顕著に現れた行動だろう。

 

 先陣を切ったのは、新米兵士の兵藤一誠。赤い籠手を振り上げ、名前も知らない少女に向けて駆け出した。純粋な殴り合いになる。誰もがそう思うはずだが、妙な雰囲気が漂っていた。

 というのも、彼の顔つきがややおかしかったのである。初陣で切込隊長をするのだから、テンションが少しばかり狂っていても仕方はない。だがしかし、獰猛な笑みを浮かべているだとか、目をキョロキョロとさせて落ち着きがないとかではない。

 セクハラをして楽しげにしている中年。その顔面をそのまま貼り付けたような、つまるところ、下卑た笑みとでも言うべき面だ。どういう方向性にしろ、何かしらの良からぬことを考えているのは明白だ。

 

『アルジェント、こっち見ろ』

『え?』

 

 初めに気づいたのは、フリードだった。顔を顰めたかと思えば、アーシアの頬をやや雑に掴んだ。そのまま自身の方に顔を固定させ、赤い瞳を向ける。彼女は彼女で彼のことを信用し切っているので、子供のやるタコの真似のような顔にされても、抵抗のての字もしない。

 ジーッと少年神父の顔を見つめて、崩れた顔のまま首を傾げようとする。それも叶わないぐらいには、妙な力加減で押さえ込まれてしまっているのだが。

 

『あの、フリードさん?』

 

 時間にすれば、ほんの数秒。何をされることを想像したのか、少女は目を瞑った。そのまま僅かに頬を紅潮させるも、肝心の少年がそれ以上の動きを見せない。

 そんな間抜けな空間が出来上がった瞬間、肌色の面積が倍増した。この場にいる面々のではなく、映像の中の。端的に言ってしまえば、イッセーの対峙した少女達の衣服が弾け飛んだ。会場では悲鳴と歓声が飛び交い、映像内でも遅れて悲鳴が上がる。

 

「何やってンだ、あのバカ」

 

 包み隠さず、罵倒。間髪入れずに溜め息を吐く。もし手がもう一本あれば、フリードは反射的に頭を抱えていただろう。

 

「あれが君の推している一誠君かい?」

 

 揶揄うように声を掛けると、更に溜め息が一つ。

 

「別人じゃねェか?」

 

 やけに格好良く技名を叫んでいたが、やっていることは最悪極まりない。自分の欲望に忠実であることは、確かに悪魔としては悪くないだろう。しかし、一応は元人間であるはずだ。多少は理性でブレーキを掛けるだろう。そもそもの話、生まれつきの悪魔でもそこまで欲を隠せないのはいないが。

 

「な、何をしてますの!あの野蛮人は!」

 

 仲間のあられもない姿。それを見せられただけなら、レイヴェルも別に何とも思わない。ただ、それなりの人数が見ている場所でそんなことをされた。しかも、本人達の意思ではない。

 しかし、レイヴェルにどうにかして隠そうという思いはあっても、モニター一枚を覆い隠す術はない。身に纏っているドレスを綺麗に切り裂いたとしても、到底無理だろう。物理的に大炎上させるという手段もあるが、それをした瞬間にテロリスト扱い。令嬢から囚人に早変わりである。

 

 どうしたものかと慌てふためく令嬢の横で、未だに顔を挟まれているアーシア。いつの間にやら耳も塞がれ、何となく何か起こっていることしか把握できなくなっていた。

 

『ど、どうしたんですか?何かあったんですか?』

『何もねェ』

 

 モニターの中では、イッセーが裸の少女を追いかけ回す映像が流れている。そういう企画のそういうビデオでもなければ、中々ない映像だ。

 鼻の下を伸ばしていたり、変態少年をジトっとした目で見ていたり。会場の悪魔達はそれぞれの反応を示していたが、サーゼクスは何とも言えない顔をしていた。個人的には面白いと思うものの、倫理的には中々に最悪な技であるし、グレイフィアも頭を抱えている。これでサーゼクスが映像に釘付けになっていたとしたら、爪先を踏まれるだけでは済まなかっただろう。

 

「方法は良くないけれど、相手のペースは乱した。乱すどころか、破壊したと言っても良い」

「まァ、普通の女ならリタイアだな」

 

 案の定、全裸の少女達はリタイアを宣言。ライザー陣営が軒並み女であったことが災いした。とはいえ、対策のしようがないのも事実だ。

 神をも殺せるという触れ込みの神器を駆使し、僅かばかりの魔力と同年代の中でも強めの性欲を合わせた結果、異性の服を弾き飛ばすという最悪な技を生み出す。一体全体、ライザー陣営の誰がそんなことを想像できただろうか。

 画面からライザー眷属が消えるのを確認し、白い少年は手を離した。アーシアは未だに状況を飲み込めておらず、知らぬ間に試合が進展していることにやや不服そうな様子だった。

 

「流石に映像はお蔵入りかな」

 

 腕を組み、呟く。

 

「お蔵入りどころか、抹消です」

 

 何となく口に出した独り言は、不機嫌なメイドに拾われてしまった。当然の処遇だとは思いつつ、サーゼクスは目を合わせようとはしなかった。何百年という長い付き合いだからこそ、あまり触れるべきではないタイミングも理解しているのだ。

 

「君の言った通りだったね」

「殴った内に入ンのか、アレ」

 

 微妙なラインである。新米兵士一人に沈められてしまったのは確かだが、単純な殴り合いには分類されない。どちらかと言えば、本当にどちらかと言えばにはなってしまうものの、恐らくは心理戦の類だ。

 パンツを見られようが、裸を見られようが、どう足掻いても消せない羞恥心を無視することさえ出来れば、普通に戦うことは出来るだろう。問題はその心構えというのが中々出来ないのと、今回はそんなものを知る由もなかったということ。

 ついでに言えば、イッセーは十中八九心理戦など考えていない。自分の欲望の赴くままに行動した結果、あの裸体を生み出しただけだ。殴る蹴るだとか、ポーカーフェイスだとか、そういう土俵にすら入っていない。偶然である。

 

「……どっちみち、残りは鳥一匹。呆気なかったな」

 

 少年の横では少女が一人、むぅと若干膨れっ面。それを無視しているのか、はたまた本気で気にしていないのか。フリードは何事もなかったかのように、頬杖を突いて画面を眺めている。先程よりも興味なさげに、今にでも欠伸をしてしまいそうな、眠たげな瞳で眺めている。

 紅髪の魔王も、気分は似たようなものだった。気になることがあるとすれば、どのような戦い方をするのか。久々に見るリアスの眷属達。まだ年若い悪魔の成長を見る絶好の機会ではあるが、本当にそれだけだ。

 試合の勝ち負けは最早明白。フリードの言った通りになってしまうのは時間の問題。過程がどうであれ、結果は考えるまでもない。楽な姿勢こそ取らないものの、グラスの中身を口に含み、嚥下と共に気を抜いていく。

 

「君がライザー君なら、どう立て直す?」

「校舎の中で潜伏。時間制限がねェなら、グレモリー眷属が捜索すンのに散開したところを各個撃破。あンなら、グレモリーだけ狙って特攻」

「君と同じ頭があったなら、この試合も面白くなっただろうね」

 

 何とも冷たい言葉だった。それはつまるところ、ここから先は盛り下がる一方。そう言っているも同然だ。

 サーゼクス自身、口が滑ったとは思いつつ、訂正しようとは思わない。妹達の前に降り立った不死鳥が、そう思わせてしまっていた。自分の大事な存在を辱められ、自分にとって大事な試合をナメているとしか思えない技で掻き乱され、怒り心頭になってしまうのは分かる。昔のサーゼクスなら、似たような行動に出ていたかもしれない。

 

 しかし、勝つ為なら違う行動をすべきだった。いくら不死鳥であっても、多勢に無勢。各々が交代で殺し続けていれば、いつか限界は来てしまう。

 それが単なる拳同士の試合ならともかく、相手は未熟とはいえ赤龍帝。悪魔に対する特効薬を手にしている上、どうにも覚悟が決まっているようだった。当然、他の眷属達も負けることなど考えていない。

 

「決まったな」

 

 二人とも、席を立つことはなかった。けれども、その視線は孤軍奮闘する男の方へは向かない。敬愛する王の為、ただ一人前に出て拳を振るっている少年を見ている。酷い技を披露した少年ではあるが、その中にある感情は本物だ。全身全霊で拳を振るい、格上を相手に一歩も引かない。その姿は、ヒーローと呼んでも差し支えないものだろう。

 

 決着まで、そう時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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