「どうかしら、現状は?」
紫は『歪みの空間』に設えられた会議場で、静かに問いかけた。
ハルヒ「ええ、だいたい把握できたわ」
レム「こちらもです」
二人は異変解決に向けた情報を整理し、頭の中でいくつもの可能性を組み立てていた。
会議は一旦区切りとなり、幻想郷支部のメンバーはそれぞれの拠点へ戻っていく。
静まり返った空間で、紫は一人考え込む。
この選択は本当に正しいのか。
幻想郷全体を巻き込む覚悟は、すでにできているのか。
翌日。
幻想郷支部の主要メンバーは再び『歪みの空間』に集結していた。
空間は不安定に揺らぎ、空気そのものが緊張を孕んでいる。
紫「じゃあ、異変解決に向けた具体策を詰めましょう」
ハルヒ「まず、私たちは何から手を付けるべきかしら?」
レム「優先すべきは、妖怪や神々への洗脳解除ですね」
紫は顎に手を当て、少しだけ視線を伏せる。
紫「そうね……でも、どこか引っかかるのよ」
ハルヒはその違和感に頷いた。
紫「本来の目的は『歪みの空間』の破壊よ。
でも、幻想郷支部の総力をもってしても完全破壊はできなかった」
レム「……だから霊夢さん、ですか?」
レムははっとしたように顔を上げる。
レム「博麗神社なら、何か手がかりがあるかもしれません」
ハルヒ「確かに。異変といえば、まずはあそこよね」
紫は小さく笑みを浮かべた。
紫「ええ。博麗神社に向かう価値はあるわ」
だが、すぐに表情を引き締める。
紫「ただし、その前にやるべきことがある」
空気が一段、重くなる。
紫「これから私たちがやろうとしていることは、幻想郷全体に危険を及ぼす可能性があるわ。
だからまず、住民の避難が最優先よ」
ハルヒ「妖怪たちが暴走したら、被害は避けられないわね。
でも、幻想郷の全住民をどうやって?」
紫は即答する。
紫「外の世界へ避難させるわ」
その瞬間、イズモが口を挟んだ。
イズモ「緊急避難マニュアルは整ってる。
避難したくない人向けに、環境を九十九パーセント再現した専用エリアも急ピッチで用意してる」
ハルヒ「……いつの間にそんなものを?」
イズモ「異世界に関わる以上、技術水準の調査は必須だからね。事前に研究してた」
レムと紫は思わず顔を見合わせる。
用意周到という言葉が、これほど似合う人物もいない。
だが問題は別にあった。
幻想郷の住民が、果たして素直に避難に応じるのか。
その疑問に答えるかのように、空がざわめいた。
妖怪の山から、大天狗が姿を現す。
大天狗「緊急事態です。
幻想郷各地で異変が発生しています。
この『歪みの空間』内にも、妖怪が大量に出現しています」
イズモ「ピースギア内部の内乱に、外部組織が関与している可能性が高い。
その戦闘に幻想郷が巻き込まれる恐れがあるため、避難を計画していました」
大天狗は即座に頷いた。
大天狗「ならば私も同行させてください。
妖怪の山も幻想郷の一部です」
紫「もちろんよ。
では、全住民を安全な場所へ避難させましょう。
『歪みの空間』の処理は、その後で」
大天狗は深く一礼し、空へと飛び立った。
ほどなくして、幻想郷の住民が一か所に集められる。
紫「これで全員かしら?」
大天狗「ええ……間違いありません」
不満げな声が漏れる。
妖怪「避難生活なんて、退屈で敵わんぞ……」
イズモ「大丈夫。
環境は幻想郷とほぼ同じにしてある」
大天狗「専用エリア、食料、生活物資はすべて揃えています。
安心してください」
ハルヒ「それなら……大丈夫そうね」
準備は整った。
紫は『歪みの空間』消滅作戦のメンバーを選定する。
イズモ、レム、紫。
紫の護衛として魔理沙。
妖怪の山から大天狗と烏天狗。
八雲藍と橙。
さらに、鬼の四天王や酒呑童子。
幻想郷屈指の実力者が揃っていた。
紫はスキマを開きながら言う。
紫「それじゃあ、行きましょうか」
『歪みの空間』消滅作戦が始動した。
スキマの中を進みながら、紫は状況を説明する。
一度は洗脳から解放された妖怪たち。
だが、一部が再び暴走し、リーダー格となって空間を支配している。
そいつを抑えなければ、異変は終わらない。
やがて、一行は黒い渦の前に辿り着く。
中からは、禍々しい気配が溢れ出していた。
紫「覚悟はいい?」
全員が無言で頷く。
次の瞬間、彼らは渦の中へと飛び込んだ。
『歪みの空間』内部。
景色は幻想郷と酷似している。
山も森も、見慣れた風景のはずだった。
だが、そこにいる妖怪たちの目は虚ろだった。
正気を失い、操られている。
紫「やはり……洗脳されているわね」
レム「ええ。
しかも相当強引です。意志を完全に捻じ曲げています」
ハルヒ「なら話は早いわ。
拠点を叩きに行くわよ」
紫は首を横に振る。
紫「その前に、援軍が必要よ。
私たちだけじゃ、この空間は消せない」
ハルヒは納得する。
レム「では、幻想郷支部の全員に連絡を」
紫「ええ。始めましょう」
スキマが開き、連絡が飛ばされていく。
その間も他のメンバーは妖怪たちを抑え続けていた。
戦いは、ここからが本番だった。