天魔「実は『歪みの空間』を生み出した人間たちは、外の世界からやってきた存在だ。だから幻想郷各地に同時多発的に現れたことも説明がつく」
天魔は真剣な眼差しで続ける。
天魔「我々と協力し、この『歪みの空間』を消し去りたい。力を貸してもらえないだろうか?」
一瞬の沈黙の後、イズモが短く答えた。
イズモ「分かった。協力しよう」
即断だった。
その言葉にレムは驚いた表情を浮かべるが、すぐに覚悟を決めたように頷く。
天魔は安堵したように微笑み、深く頭を下げた。
天魔「感謝する」
その後、天魔から『歪みの空間』を生み出した人間たちの詳細な説明がなされた。
装備、行動、戦術。
話を聞くうち、レムの表情が強張っていく。
イズモ「ピースギア……いや、クデュックと同じ装備だ」
イズモは確信を帯びた声で続ける。
イズモ「だが、クデュックが侵略や洗脳を行う理由が分からない……」
レムは一歩前に出て言った。
レム「おそらく、この『歪みの空間』を利用して幻想郷そのものを支配しようとしているんです!」
イズモ「なるほどな……」
思考を巡らせながら、低く呟く。
天魔「では、我々はどう動けばよい?」
レムは即座に作戦案を説明した。
各地の空間を監視しつつ、発生源を突き止め、指揮系統を断つ。
天魔はしばらく考え込んだ後、力強く頷いた。
天魔「承知した」
天魔は他の天狗たちを招集し、緊急会議を開く決断を下した。
それから一か月が経過した。
妖怪の山に避難していた住民たちは、山の地下施設での生活を余儀なくされていた。
外では霧が晴れず、異変は終息の兆しを見せない。
イズモ「相手がクデュックとなると、相当ギリギリの戦いになるな」
険しい表情で呟く。
レム「そうですね。でも、負けるわけにはいきません!」
イズモ「それと、相手の総司令官だが……心当たりがある。このやり方だ」
レム「誰ですか?」
イズモ「ゼーレだ。多分、AI化か使徒化している。永遠の命を持っている可能性が高い」
レム「なるほど……だからクデュックは幻想郷を侵略しようとしているんですね」
イズモ「ああ。おそらくゼーレに心酔している」
レムは拳を握りしめる。
レム「このままじゃ被害が広がります!」
イズモ「そうだな。ここで止めなければ、幻想郷全土が征服される」
レム「絶対に食い止めましょう!」
二人の視線が交わり、決意が固まった。
その後、レムは天魔の部隊と合流し、『歪みの空間』の出現地点を調査していた。
そこへイズモから通信が入る。
イズモ「空間座標は割り出せるが、世界線座標が不明だ。このままじゃ進行できない」
レム「どうしますか?」
イズモ「幻想郷の実力者たちに声をかけるしかないだろう」
レムは頷き、即座に連絡を取り始めた。
同時刻、妖怪の山では天魔が全天狗を集めて会議を開いていた。
異変の根源を突き止めるため、偵察部隊の派遣が決定される。
そして、その部隊の一員にレムが選ばれた。
天魔との打ち合わせを終え、レムは装備を整える。
同行するのは、選び抜かれた天狗の精鋭たちだった。
レム「では、行ってきます」
そう告げ、妖怪の山を後にした。
目的地は、『歪みの空間』が発生した幻想郷中心部。
そこには、ピースギアのものとは異なる立方体状のポータルが浮かんでいた。
レムは警戒しながら近づく。
次の瞬間、青い光が走った。
咄嗟に回避するが、攻撃は正確で速い。
敵は明らかに手練れだった。
レム「この動き……どこかで……」
必死に応戦するが、攻撃は当たらない。
徐々に追い詰められ、ついに一撃が命中する。
痛みはない。
ただ、身体の感覚がズレるような違和感だけが残った。
レム「これは……まさか!」
次の瞬間、背後から衝撃を受け、地面に叩きつけられる。
視界が揺れ、立ち上がった時には周囲を敵に囲まれていた。
それが、最後の記憶だった。
イズモ「え!?レムがさらわれた!?」
レム無線「敵が空間操作を……っ」
その声を最後に通信が途切れる。
レムは助けを求める思考だけを残し、意識を失った。
イズモは即座に動いた。
幻想郷各地を巡り、情報収集を開始する。
一か月後、断片的な情報が集まった。
『歪みの空間』は神社、寺、森など、幻想郷全域で発生していた。
だが、レムの連れ去られた正確な場所は分からなかった。
レムは自分の居場所を把握できなかった。
淡く青白く光る蛍光の光が、壁や床を鋭く浮かび上がらせる。
光源の位置は不明で、影が微かに揺れているだけだった。
その冷たさが、皮膚の下まで凍りつくように感じられる。
耳に届くのは、断続的な機械音と遠くで響く金属の擦れる低い音だけだ。
自分の心臓の鼓動や呼吸がやけに大きく、恐怖心を増幅させる。足を動かしても床は無反応のように感じ、音は自分の動作を嘲笑うかのように空間に吸い込まれていった。
空気はひんやりと乾き、呼吸のたびに喉の奥を冷たい風が通り抜ける。
かすかに化学薬品の匂いが漂い、湿った鉄や埃の匂いが混ざって鼻を刺す。
自分が閉じ込められているのは、現実の空間なのか幻影なのか、混乱してくる。
周囲を見渡そうと目を凝らすが、壁や床の距離感がつかめず、空間は広いのか狭いのか分からない。
閉塞感が重くのしかかり、動くたびに圧迫されるような感覚がする。
自分の存在が空間に吸い込まれてしまうような、根拠のない不安が胸を締め付ける。
背後に冷たい視線を感じた瞬間、レムは全身の毛穴が開くような感覚に襲われた。
振り向く間もなく、スクリーンが空中に浮かび上がる。
映像が再生され、モノリスの姿が映った瞬間、背筋に冷たい震えが走る。
モノリス「目が覚めたようだな、ピースギアのレム」
声は静かだが重く、部屋の冷たさに混ざって心臓の奥まで届く。
レムは歯を食いしばり、拳を握りしめる。
恐怖を押し殺すようにして視線を返すが、内心では孤独と無力感が渦巻く。
スクリーンには幻想郷各地の映像が次々と映し出され、家や支部の様子が確認できる。
見慣れた風景に安堵の余地はない。
洗脳され、制御されている仲間たちの姿が無情に映り、胸が締め付けられた。
モノリス「その通りだ。お前の仲間も、すでにクデュックに取り込まれている」
モノリスの言葉が、部屋の冷気と共鳴する。
レムは拳をさらに強く握り、震える呼吸を抑えながら、ただ怒りと焦りを胸に押し込めた。
外の光、音、匂い、肌触り――すべてが消え去ったかのような孤独な空間で、レムは闘志だけを唯一の支えに立ち上がる。
部屋は静寂に包まれ、しかしその沈黙は恐怖をさらに増幅させる。
外界の光も音も届かず、自分の感覚だけが鋭敏になったこの空間で、レムは決意を固めた。
――ここからが、本当の戦いの始まりなのだ、と。