境界の外から来た者   作:最上 イズモ

14 / 18
14話 洗脳

天魔「実は『歪みの空間』を生み出した人間たちは、外の世界からやってきた存在だ。だから幻想郷各地に同時多発的に現れたことも説明がつく」

天魔は真剣な眼差しで続ける。

天魔「我々と協力し、この『歪みの空間』を消し去りたい。力を貸してもらえないだろうか?」

 

一瞬の沈黙の後、イズモが短く答えた。

イズモ「分かった。協力しよう」

 

即断だった。

その言葉にレムは驚いた表情を浮かべるが、すぐに覚悟を決めたように頷く。

天魔は安堵したように微笑み、深く頭を下げた。

天魔「感謝する」

 

その後、天魔から『歪みの空間』を生み出した人間たちの詳細な説明がなされた。

装備、行動、戦術。

話を聞くうち、レムの表情が強張っていく。

 

イズモ「ピースギア……いや、クデュックと同じ装備だ」

イズモは確信を帯びた声で続ける。

イズモ「だが、クデュックが侵略や洗脳を行う理由が分からない……」

 

レムは一歩前に出て言った。

レム「おそらく、この『歪みの空間』を利用して幻想郷そのものを支配しようとしているんです!」

 

イズモ「なるほどな……」

思考を巡らせながら、低く呟く。

 

天魔「では、我々はどう動けばよい?」

 

レムは即座に作戦案を説明した。

各地の空間を監視しつつ、発生源を突き止め、指揮系統を断つ。

天魔はしばらく考え込んだ後、力強く頷いた。

天魔「承知した」

 

天魔は他の天狗たちを招集し、緊急会議を開く決断を下した。

 

それから一か月が経過した。

妖怪の山に避難していた住民たちは、山の地下施設での生活を余儀なくされていた。

外では霧が晴れず、異変は終息の兆しを見せない。

 

イズモ「相手がクデュックとなると、相当ギリギリの戦いになるな」

険しい表情で呟く。

 

レム「そうですね。でも、負けるわけにはいきません!」

 

イズモ「それと、相手の総司令官だが……心当たりがある。このやり方だ」

レム「誰ですか?」

 

イズモ「ゼーレだ。多分、AI化か使徒化している。永遠の命を持っている可能性が高い」

レム「なるほど……だからクデュックは幻想郷を侵略しようとしているんですね」

イズモ「ああ。おそらくゼーレに心酔している」

 

レムは拳を握りしめる。

レム「このままじゃ被害が広がります!」

イズモ「そうだな。ここで止めなければ、幻想郷全土が征服される」

レム「絶対に食い止めましょう!」

 

二人の視線が交わり、決意が固まった。

 

その後、レムは天魔の部隊と合流し、『歪みの空間』の出現地点を調査していた。

そこへイズモから通信が入る。

 

イズモ「空間座標は割り出せるが、世界線座標が不明だ。このままじゃ進行できない」

レム「どうしますか?」

イズモ「幻想郷の実力者たちに声をかけるしかないだろう」

 

レムは頷き、即座に連絡を取り始めた。

 

同時刻、妖怪の山では天魔が全天狗を集めて会議を開いていた。

異変の根源を突き止めるため、偵察部隊の派遣が決定される。

そして、その部隊の一員にレムが選ばれた。

 

天魔との打ち合わせを終え、レムは装備を整える。

同行するのは、選び抜かれた天狗の精鋭たちだった。

 

レム「では、行ってきます」

 

そう告げ、妖怪の山を後にした。

目的地は、『歪みの空間』が発生した幻想郷中心部。

 

そこには、ピースギアのものとは異なる立方体状のポータルが浮かんでいた。

レムは警戒しながら近づく。

 

次の瞬間、青い光が走った。

咄嗟に回避するが、攻撃は正確で速い。

敵は明らかに手練れだった。

 

レム「この動き……どこかで……」

 

必死に応戦するが、攻撃は当たらない。

徐々に追い詰められ、ついに一撃が命中する。

 

痛みはない。

ただ、身体の感覚がズレるような違和感だけが残った。

 

レム「これは……まさか!」

 

次の瞬間、背後から衝撃を受け、地面に叩きつけられる。

視界が揺れ、立ち上がった時には周囲を敵に囲まれていた。

 

それが、最後の記憶だった。

 

イズモ「え!?レムがさらわれた!?」

レム無線「敵が空間操作を……っ」

 

その声を最後に通信が途切れる。

レムは助けを求める思考だけを残し、意識を失った。

 

イズモは即座に動いた。

幻想郷各地を巡り、情報収集を開始する。

 

一か月後、断片的な情報が集まった。

『歪みの空間』は神社、寺、森など、幻想郷全域で発生していた。

だが、レムの連れ去られた正確な場所は分からなかった。

 

レムは自分の居場所を把握できなかった。

淡く青白く光る蛍光の光が、壁や床を鋭く浮かび上がらせる。

光源の位置は不明で、影が微かに揺れているだけだった。

その冷たさが、皮膚の下まで凍りつくように感じられる。

 

耳に届くのは、断続的な機械音と遠くで響く金属の擦れる低い音だけだ。

自分の心臓の鼓動や呼吸がやけに大きく、恐怖心を増幅させる。足を動かしても床は無反応のように感じ、音は自分の動作を嘲笑うかのように空間に吸い込まれていった。

 

空気はひんやりと乾き、呼吸のたびに喉の奥を冷たい風が通り抜ける。

かすかに化学薬品の匂いが漂い、湿った鉄や埃の匂いが混ざって鼻を刺す。

自分が閉じ込められているのは、現実の空間なのか幻影なのか、混乱してくる。

周囲を見渡そうと目を凝らすが、壁や床の距離感がつかめず、空間は広いのか狭いのか分からない。

閉塞感が重くのしかかり、動くたびに圧迫されるような感覚がする。

自分の存在が空間に吸い込まれてしまうような、根拠のない不安が胸を締め付ける。

背後に冷たい視線を感じた瞬間、レムは全身の毛穴が開くような感覚に襲われた。

振り向く間もなく、スクリーンが空中に浮かび上がる。

映像が再生され、モノリスの姿が映った瞬間、背筋に冷たい震えが走る。

 

モノリス「目が覚めたようだな、ピースギアのレム」

 

声は静かだが重く、部屋の冷たさに混ざって心臓の奥まで届く。

レムは歯を食いしばり、拳を握りしめる。

恐怖を押し殺すようにして視線を返すが、内心では孤独と無力感が渦巻く。

スクリーンには幻想郷各地の映像が次々と映し出され、家や支部の様子が確認できる。

見慣れた風景に安堵の余地はない。

洗脳され、制御されている仲間たちの姿が無情に映り、胸が締め付けられた。

 

モノリス「その通りだ。お前の仲間も、すでにクデュックに取り込まれている」

 

モノリスの言葉が、部屋の冷気と共鳴する。

レムは拳をさらに強く握り、震える呼吸を抑えながら、ただ怒りと焦りを胸に押し込めた。

外の光、音、匂い、肌触り――すべてが消え去ったかのような孤独な空間で、レムは闘志だけを唯一の支えに立ち上がる。

部屋は静寂に包まれ、しかしその沈黙は恐怖をさらに増幅させる。

外界の光も音も届かず、自分の感覚だけが鋭敏になったこの空間で、レムは決意を固めた。

 

――ここからが、本当の戦いの始まりなのだ、と。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。