うどんげ「わかりました~」
永琳は薬棚の前で手を止め、表情をわずかに曇らせた。
永琳「あの人間についてなんだけど……」
うどんげ「なんです?」
永琳「実は彼、別の世界から来た人みたいなの」
うどんげ「へ~そうなんですね~」
永琳「驚かないの?」
うどんげ「前に一回ありましたし」
永琳「そうよね……。だから、しばらく彼の面倒を見てくれないかしら?」
うどんげ「分かりました~」
永遠亭の門前。
深い竹林を抜け、息を整えながらイズモは門を見上げた。
イズモ「やっと着いた」
うどんげ「お師匠さまのお薬、買ってきたウサか?」
イズモ「うん」
うどんげ「お師匠さまのお薬は高いから気をつけるウサよ」
イズモ「大丈夫。お金はあるから」
内心、日本円が通用して助かったと思いながら微笑む。
うどんげ「なら良かったウサ」
イズモ「それじゃあ俺はこれで失礼します」
うどんげ「また来るといいウサ」
イズモ「ああ。じゃあな」
永遠亭の中。
永琳「帰ったわよ」
輝夜「おかえりなさい」
永琳「お土産もあるのよ」
輝夜「本当?」
永琳「ええ」
てゐ「お帰りウサ」
永琳「てゐ、お客さんが来た時くらい、しっかり起きなさい」
てゐ「お兄さんウサね?わかってるウサ」
イズモ「こんにちは」
てゐ「いらっしゃいウサ」
永琳「早速だけど、彼にこの世界のことと能力のことを説明してあげて」
てゐ「了解したウサ」
イズモ「よろしく頼む」
てゐは座敷に腰を下ろし、いつもの軽い調子で話し始めた。
てゐ「まずこの世界のことから話すウサ」
イズモ「ああ」
てゐ「この世界は結界によって、外の世界とは隔離されているウサ」
イズモ「結界?どういうものなんだ?」
てゐ「妖怪や幽霊が外に出ないようにするための壁みたいなものウサ」
イズモ「なるほど。誰が作ってる?」
てゐ「神様が作ったって言われてるウサ。人間が簡単に入って来ないためでもあるウサよ」
イズモ「そうか……」
この世界が閉じた箱庭であることを、イズモは改めて実感した。
イズモ「じゃあ次は俺の能力について話す」
てゐ「どんな能力ウサ?」
イズモ「『創造の能力』だ」
てゐ「なにそれすごいウサ!」
イズモ「ありがとう。じゃあ逆に聞くけど、お前は?」
てゐ「私は『他人を幸せにする程度の能力』ウサ」
イズモ「なるほどな……」
イズモ「なら俺がお前の悩み、聞いてやるよ」
てゐ「え!?」
イズモ「何か抱えてるだろ」
てゐ「なんで分かったウサか?」
イズモ「さっきから無理して笑ってる」
てゐ「……やっぱり分かるウサか」
イズモ「話せば楽になる」
てゐ「実は……」
てゐ「私、友達がいないウサ……」
イズモ「そうだったのか」
てゐ「愛想よく振る舞ってたら、いつの間にか人気者になってただけウサ」
イズモ「本当の自分を隠すのは、辛くないか?」
てゐ「そんなことないウサ。私はこれでいいウサ」
イズモ「無理すんな」
てゐ「無理なんてしてないウサ」
イズモ「強がりだ」
てゐ「……お兄さんは分かってくれるけど、他の人は違うウサ」
イズモ「そうか」
てゐ「もう終わりウサ?」
イズモ「ああ。最後に一つだけ」
てゐ「なにウサ?」
イズモ「俺は、お前の味方だ」
てゐ「お兄さん……」
涙をこらえ、てゐは顔を伏せた。
てゐ「ありがとうお兄さん……お休みなさいウサ」
イズモ「おう。おやすみ」
翌朝。
てゐ「おはようございます~お兄さん」
イズモ「おはよー」
てゐ「昨日はよく眠れましたか?」
イズモ「ああ。ぐっすりだ」
てゐ「それは良かったウサ」
永琳「てゐ、目の下にクマが出来てるわよ」
てゐ「大丈夫ですよ~」
永琳「ダメよ」
てゐ「うぅ……わかりました……」
永琳「今日は何をする予定ですか?」
イズモ「この世界のことをもっと知りたい」
永琳「では朝食の後にしましょう」
イズモ「うどんげは?」
永琳「あの子は昼まで起きません」
イズモ「そうか」
朝食後。
イズモ「ごちそうさまでした」
永琳「お粗末さまでした」
永琳「幻想郷について説明しましょう」
イズモ「ああ」
永琳「ここは結界で隔離された土地で、妖怪や妖精など様々な種族が暮らしています」
イズモ「なるほど」
永琳「外の世界で忘れられたものが流れ着く場所でもあるのです」
イズモ「忘れられたら、ここに来る……」
永琳「そういうことです」
イズモ「じゃあ俺も、いずれ……」
永琳「可能性はありますね」
イズモ「この世界のルールは?」
永琳「基本は『人間は襲わない』です」
イズモ「妖怪でも?」
永琳「ええ。善悪は人間も妖怪も同じです」
イズモ「歴史は?」
永琳「約五百年前、異変が起きました」
イズモ「そんな昔に」
永琳「博麗の巫女が解決したと伝えられています」
イズモ「どんな人物だ?」
永琳「空を飛ぶ能力を持ち、スペルカードルールを作った初代の巫女です」
イズモ「一人だけ?」
永琳「ええ。それきりです」
イズモ「不思議だな」
イズモ「能力はどうやって手に入れる?」
永琳「自分の力を解放することです」
イズモ「ありがとう」
イズモ「最後に一つ。この世界線で異常な歪みを観測した。震源地は幻想郷だった。心当たりは?」
永琳「さぁ……私は知らないわ」
てゐ「私もわからないウサ」
イズモ「そうか……」
永琳「そろそろ行きますか?」
てゐ「また来て下さいウサ」
イズモ「ああ」
夜。
永琳「今日は楽しかったですか?」
イズモ「ああ。有意義だった」
永琳「それは良かったです」
翌朝。
輝夜「あら、やっと起きたのね」
妹紅「朝飯持ってきたぞー!」
イズモ「助かる」
食後。
輝夜「今日は何するの?」
イズモ「最近の異変を聞いて回る」
妹紅「私は竹林の見回りだ」
永琳「今日は月の民が来る日ですから」
イズモ「了解。行ってくる」
永琳「行ってらっしゃい」