境界の外から来た者   作:最上 イズモ

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5話 和平

刹那、境界の向こうから放たれる紫の猛攻が、嵐のようにイズモを叩きつけていた。

空間そのものが裂け、攻撃があらゆる角度から同時に襲いかかる。

 

イズモは歯を食いしばりながら空中で態勢を立て直す。

この相手は、これまで対峙してきたどんな存在とも違う。

 

イズモ(やはり強い。このままじゃジリ貧だ。なんとか隙を見つけないと……そうだ、あれを使えばいけるか?)

 

イズモは即座に通信機を起動する。

イズモ「全職員に次ぐ。幻想郷付近にある次元断層へ、ピースギア保有の殺傷兵器を撃ち込め。大規模破壊兵器でも構わない」

 

通信を終えた瞬間、イズモは叫ぶ。

イズモ「今だ!」

 

次元断層の周囲に潜んでいた無人兵器と自動魔導端末が、一斉に火を噴いた。

光と衝撃が重なり、空間が悲鳴を上げる。

 

イズモ「ナイスタイミングだ!」

 

イズモはブラックホール砲、携帯型波動砲、マナレーザーを同時に解放する。

三種のエネルギーが絡み合い、逃げ場のない破壊の奔流となって紫を飲み込んだ。

 

紫「あらあら、まさかこんなことしてくるとはね」

 

紫は微笑んだまま、身体をスキマへ滑り込ませる。

攻撃は虚空を貫き、すり抜けた。

 

イズモ「かかったな!」

 

イズモは口元を歪める。

攻撃そのものではなく、空間全体を封じる狙いだった。

 

イズモ「これで終わりだ」

 

全魔力を叩き込み、巨大な魔方陣を展開する。

魔方陣の中心から、世界を焼き切るほどの超高出力ビームが放たれた。

 

イズモ「どうだ!」

 

紫「なかなか楽しかったわよ」

 

煙が晴れた先に、無傷の紫が立っていた。

衣服の乱れ一つない。

 

イズモ「嘘だろ……ピースギアの全兵器使っても、ダメージなしだと」

 

紫「残念ながら、あなたでは私には勝てないわ」

 

イズモ「くそったれ……」

 

紫は扇子を静かに閉じる。

紫「さようなら」

 

イズモ「ぐっ……」

 

全身を貫く衝撃に、イズモは意識を失い、地へ落ちた。

 

紫「お疲れ様」

 

イズモ(あー、これは死んだな。まあ、悔いはないかな)

 

イズモは目を閉じる。

 

しかし、いつまで経っても終わりは来なかった。

 

イズモ(ん?攻撃が来ないぞ。なんでだ?)

 

恐る恐る目を開けると、紫がすぐ目の前に立っていた。

 

紫「最後に言い残すことはあるかしら?」

 

イズモ「俺の負けだよ」

 

紫「ふふ、潔いわね。気に入ったわ」

 

イズモ「そりゃどうも」

 

紫「あなた、名前はなんていうの?」

 

イズモ「俺はイズモだ」

 

紫「イズモね。覚えておくわ」

 

イズモ「そいつは光栄だ」

 

紫「あなたは幻想郷の住人にしてあげるわ」

 

イズモ「マジで!?」

 

紫「えぇ、本当よ」

 

イズモ「そっか」

 

紫「じゃあ、また会いましょう」

 

イズモ「おう」

 

紫は手を差し出す。

イズモは一瞬迷い、それを握り返した。

 

その瞬間、視界が暗転する。

 

次に目を覚ました時、イズモは畳の上に寝かされていた。

 

イズモ「ここはどこだ?」

 

霊夢「あっ!やっと起きた!」

 

霊夢「突然、歪みから落ちてきたのよ」

イズモ「そうだったのか」

 

霊夢「それにしても、すごい怪我してたけど大丈夫なの?治す?」

 

イズモ「大丈夫だ」

 

魔理沙「大丈夫じゃないぜ」

魔理沙「肋骨二本に、右腕の骨全部折れてるんだぜ」

 

そこへ、見慣れない洋装の吸血鬼が現れる。

???「大丈夫かい?少年」

 

イズモ「誰?」

レミリア「私はレミリア。レミリア・スカーレットよ」

 

イズモ「俺はイズモだ」

 

咲夜「私は十六夜咲夜です」

フラン「私はフランドール・スカーレットよ」

アリス「私はアリス・マーガトロイドよ」

パチュリー「私はパチュリー・ノーレッジよ」

小悪魔「私はこぁと呼んでください!」

美鈴「私は紅美鈴と言います」

チルノ「あたいはさいきょーだからサイキョーって呼んでいいよ!」

大妖精「私は大ちゃんでお願いします」

ルーミア「私はルーミアなのだ〜」

ミスティア「私はみすちーで!」

リグル「僕はリグルで」

 

イズモ「めっちゃ多いな。あと、みんなどうしたの?」

霊夢「あんたが倒れてから、自己紹介が始まったのよ」

イズモ「なるほど」

 

紫「話は終わったかしら?」

 

全員「うわっ!!」

 

いつの間にか紫がそこに立っていた。

 

紫「そんな驚かなくてもいいじゃない」

イズモ「急に出てくるからだろ」

 

イズモ「それで、何しに来たんだよ」

紫「もちろん、あなたの歓迎をしに来たのよ」

イズモ「そりゃどうも」

紫「それと、幻想郷に住む許可をあげるわ」

イズモ「それはありがたい」

 

イズモ「そういえば、幻想郷で余ってる土地ない?」

イズモ「家建てようと思うんだけど」

 

紫「あるわよ」

イズモ「マジで?」

紫「えぇ、あるわよ」

イズモ「よし!決まりだな」

 

紫「あなたも来るの?」

イズモ「ああ。俺もついていかせてくれ」

紫「別に構わないわよ。あなた、強いみたいだし」

イズモ「そりゃどーも」

 

紫「それじゃあ、早速出発よ」

イズモ「わかった」

紫「あなた達、準備できたら来て頂戴」

霊夢「わかったわ」

 

イズモ「ほら、さっさといくわよ」

イズモ「おう」

 

イズモたちは紫についていった。

 

紫「ここよ」

 

そこには、静かで美しい森が広がっていた。

風が木々を揺らし、澄んだ気配が満ちている。

 

イズモ「こんな場所があるのか」

紫「えぇ」

イズモ「ここにするか」

紫「じゃあ、頑張ってね」

 

イズモ「さてと。ピースギア幻想郷支部の建設を始めるか」

 

空間拡張と重力制御技術を展開し、一軒家ほどの外観に対して、内部は十キロ四方の巨大構造物を形成する。

その内部に地下都市を構築し、外部には居住施設や畑を配置する。

続いて基地設備を設置し、防衛システムを張り巡らせる。

紫の許可を得て、ピースギア職員およそ一万人を幻想郷支部へ配置する。

 

最後に、イズモは中枢へ入り、すべての設備を起動させた。

建物全体が光り輝き、森を照らす。

 

数分後、光が収まる。

そこには巨大なドーム型建築物がそびえ立っていた。

 

イズモ「完成だ」

 

紫「流石ね」

イズモ「お前もいたのかよ」

紫「えぇ」

イズモ「まあいいか。それより、なんか用か?」

 

紫「えぇ。あなたに伝えておくことがあるの」

イズモ「なんだ?」

紫「実は最近、変な組織が動き始めてるの」

イズモ「変な組織?」

紫「えぇ」

イズモ「どんな奴らだ?」

紫「よくわからないけど、強力な力を持っているらしいわ」

 

イズモ「なるほど」

紫「一応、気をつけておいてね」

イズモ「わかった」

 

イズモ(嫌な予感しかしないな)

 

胸の奥に、重い不安が沈んだ。

 

その後、イズモは幻想郷の山奥に立っていた。

深い緑と澄んだ空気が広がる。

 

イズモ「やっぱり幻想郷は自然豊かだな」

 

境界は静かに震えていた。

八雲紫はその揺らぎの中心で、扇子を軽く開いたまま立っていた。

向こう側から溢れ出す異質な力。

幻想郷の理から明確に逸脱した存在。

それが、イズモという男だった。

 

紫は最初の衝突の瞬間から理解していた。

この相手は、単なる侵入者ではない。

世界を兵器として扱う者。

無数の世界を渡り、管理し、破壊し、再構築する側の人間。

幻想郷にとって、あまりにも危険で、あまりにも興味深い存在だった。

 

紫は境界を開き、紫の奔流を解き放つ。

空間を折り畳み、裏返し、上下左右という概念そのものを破壊する攻撃。

通常の存在であれば、認識した瞬間に消滅する。

それでも、イズモは耐えた。

 

紫(なるほど……やはり只者ではないわね)

 

空中で体勢を立て直すイズモの動きは、洗練されていた。

恐怖よりも先に計算が走る目。

敗北を理解しながらも、諦めを選ばない精神構造。

紫は、思わず口元を緩めた。

 

その直後、空間に異変が走る。

次元断層の周囲に展開される、無数の兵器反応。

幻想郷の外側から、意図的に撃ち込まれる殺意。

 

紫(あらあら……本当にやるのね)

 

光が炸裂し、世界が悲鳴を上げる。

ブラックホール、波動、魔力。

三重に重なった破壊は、確かに致命的だった。

幻想郷そのものを揺るがしかねないほどの火力。

 

紫はスキマへと身を滑り込ませる。

攻撃はすべて虚空を貫き、消えた。

だが、紫は気づいていた。

彼の狙いは自分ではない。

空間そのものを封じるための、強制的な世界固定。

 

紫(やるじゃない)

 

魔方陣が展開され、世界を焼く光が迫る。

それでも紫は動じない。

境界を管理するということは、世界の終わりと始まりを同時に握るということだ。

 

紫「なかなか楽しかったわよ」

 

煙が晴れたとき、紫は無傷で立っていた。

イズモの絶望が、はっきりと伝わってくる。

 

紫(ここまでね)

 

扇子を閉じ、境界を一点に収束させる。

攻撃ではない。

存在そのものを落とすための、優しい終わり。

 

紫「さようなら」

 

衝撃とともに、イズモの意識が落ちていくのを感じる。

紫はその様子を見届けながら、静かに息を吐いた。

 

紫(殺すこともできたけれど……それは面白くないわ)

 

意識の底に沈みかけたイズモを、紫は境界で引き留める。

目を閉じた彼に、問いを投げかける。

 

紫「最後に言い残すことはあるかしら?」

 

敗北を受け入れる声。

潔く、驕りのない響き。

 

紫(やっぱり、気に入ったわ)

 

紫は決めた。

この男は、敵で終わらせるには惜しい。

幻想郷という閉じた世界に、新しい歪みを持ち込む存在。

管理者としてではなく、観測者として迎え入れる価値がある。

 

紫「あなたは幻想郷の住人にしてあげるわ」

 

驚き、戸惑い、それでも受け入れる反応。

そのすべてが、紫には愉快だった。

 

手を差し出し、境界を越えさせる。

次の瞬間、彼は博麗神社の畳の上に落とされた。

 

紫は少し離れた場所から、その後を眺めていた。

霊夢と魔理沙。

紅魔館の住人たち。

幻想郷の顔役たちが、次々と集まってくる。

 

紫(ふふ……随分と賑やかになりそうね)

 

自己紹介が始まり、混乱し、受け入れられていく流れ。

幻想郷らしい光景だった。

 

紫はスキマから姿を現す。

全員が驚くのを見て、満足そうに微笑む。

 

紫「そんなに驚かなくてもいいじゃない」

 

歓迎と許可。

住居の話。

支部の建設。

 

イズモが展開する技術は、紫の想定を遥かに超えていた。

一軒家の外観に、地下都市。

世界を食い潰すほどの技術力。

 

紫(やっぱり、とんでもないものを連れてきたわね)

 

それでも、紫は止めなかった。

幻想郷は停滞している。

変化を拒み続ければ、いずれ内部から崩れる。

 

ならば。

制御できる歪みを、あえて受け入れる。

 

完成したドームを見上げながら、紫は確信する。

この男は、幻想郷に波紋を広げる。

良くも悪くも。

 

紫「最近、変な組織が動き始めてるの」

 

それは警告であり、誘いでもあった。

イズモの反応を見て、紫は内心で笑う。

 

紫(やっぱり、嵐は近いわね)

 

幻想郷は静かだ。

だが、その静けさは嵐の前触れ。

 

紫は境界を閉じながら、次の一手を思案していた。

 

 

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