刹那、境界の向こうから放たれる紫の猛攻が、嵐のようにイズモを叩きつけていた。
空間そのものが裂け、攻撃があらゆる角度から同時に襲いかかる。
イズモは歯を食いしばりながら空中で態勢を立て直す。
この相手は、これまで対峙してきたどんな存在とも違う。
イズモ(やはり強い。このままじゃジリ貧だ。なんとか隙を見つけないと……そうだ、あれを使えばいけるか?)
イズモは即座に通信機を起動する。
イズモ「全職員に次ぐ。幻想郷付近にある次元断層へ、ピースギア保有の殺傷兵器を撃ち込め。大規模破壊兵器でも構わない」
通信を終えた瞬間、イズモは叫ぶ。
イズモ「今だ!」
次元断層の周囲に潜んでいた無人兵器と自動魔導端末が、一斉に火を噴いた。
光と衝撃が重なり、空間が悲鳴を上げる。
イズモ「ナイスタイミングだ!」
イズモはブラックホール砲、携帯型波動砲、マナレーザーを同時に解放する。
三種のエネルギーが絡み合い、逃げ場のない破壊の奔流となって紫を飲み込んだ。
紫「あらあら、まさかこんなことしてくるとはね」
紫は微笑んだまま、身体をスキマへ滑り込ませる。
攻撃は虚空を貫き、すり抜けた。
イズモ「かかったな!」
イズモは口元を歪める。
攻撃そのものではなく、空間全体を封じる狙いだった。
イズモ「これで終わりだ」
全魔力を叩き込み、巨大な魔方陣を展開する。
魔方陣の中心から、世界を焼き切るほどの超高出力ビームが放たれた。
イズモ「どうだ!」
紫「なかなか楽しかったわよ」
煙が晴れた先に、無傷の紫が立っていた。
衣服の乱れ一つない。
イズモ「嘘だろ……ピースギアの全兵器使っても、ダメージなしだと」
紫「残念ながら、あなたでは私には勝てないわ」
イズモ「くそったれ……」
紫は扇子を静かに閉じる。
紫「さようなら」
イズモ「ぐっ……」
全身を貫く衝撃に、イズモは意識を失い、地へ落ちた。
紫「お疲れ様」
イズモ(あー、これは死んだな。まあ、悔いはないかな)
イズモは目を閉じる。
しかし、いつまで経っても終わりは来なかった。
イズモ(ん?攻撃が来ないぞ。なんでだ?)
恐る恐る目を開けると、紫がすぐ目の前に立っていた。
紫「最後に言い残すことはあるかしら?」
イズモ「俺の負けだよ」
紫「ふふ、潔いわね。気に入ったわ」
イズモ「そりゃどうも」
紫「あなた、名前はなんていうの?」
イズモ「俺はイズモだ」
紫「イズモね。覚えておくわ」
イズモ「そいつは光栄だ」
紫「あなたは幻想郷の住人にしてあげるわ」
イズモ「マジで!?」
紫「えぇ、本当よ」
イズモ「そっか」
紫「じゃあ、また会いましょう」
イズモ「おう」
紫は手を差し出す。
イズモは一瞬迷い、それを握り返した。
その瞬間、視界が暗転する。
次に目を覚ました時、イズモは畳の上に寝かされていた。
イズモ「ここはどこだ?」
霊夢「あっ!やっと起きた!」
霊夢「突然、歪みから落ちてきたのよ」
イズモ「そうだったのか」
霊夢「それにしても、すごい怪我してたけど大丈夫なの?治す?」
イズモ「大丈夫だ」
魔理沙「大丈夫じゃないぜ」
魔理沙「肋骨二本に、右腕の骨全部折れてるんだぜ」
そこへ、見慣れない洋装の吸血鬼が現れる。
???「大丈夫かい?少年」
イズモ「誰?」
レミリア「私はレミリア。レミリア・スカーレットよ」
イズモ「俺はイズモだ」
咲夜「私は十六夜咲夜です」
フラン「私はフランドール・スカーレットよ」
アリス「私はアリス・マーガトロイドよ」
パチュリー「私はパチュリー・ノーレッジよ」
小悪魔「私はこぁと呼んでください!」
美鈴「私は紅美鈴と言います」
チルノ「あたいはさいきょーだからサイキョーって呼んでいいよ!」
大妖精「私は大ちゃんでお願いします」
ルーミア「私はルーミアなのだ〜」
ミスティア「私はみすちーで!」
リグル「僕はリグルで」
イズモ「めっちゃ多いな。あと、みんなどうしたの?」
霊夢「あんたが倒れてから、自己紹介が始まったのよ」
イズモ「なるほど」
紫「話は終わったかしら?」
全員「うわっ!!」
いつの間にか紫がそこに立っていた。
紫「そんな驚かなくてもいいじゃない」
イズモ「急に出てくるからだろ」
イズモ「それで、何しに来たんだよ」
紫「もちろん、あなたの歓迎をしに来たのよ」
イズモ「そりゃどうも」
紫「それと、幻想郷に住む許可をあげるわ」
イズモ「それはありがたい」
イズモ「そういえば、幻想郷で余ってる土地ない?」
イズモ「家建てようと思うんだけど」
紫「あるわよ」
イズモ「マジで?」
紫「えぇ、あるわよ」
イズモ「よし!決まりだな」
紫「あなたも来るの?」
イズモ「ああ。俺もついていかせてくれ」
紫「別に構わないわよ。あなた、強いみたいだし」
イズモ「そりゃどーも」
紫「それじゃあ、早速出発よ」
イズモ「わかった」
紫「あなた達、準備できたら来て頂戴」
霊夢「わかったわ」
イズモ「ほら、さっさといくわよ」
イズモ「おう」
イズモたちは紫についていった。
紫「ここよ」
そこには、静かで美しい森が広がっていた。
風が木々を揺らし、澄んだ気配が満ちている。
イズモ「こんな場所があるのか」
紫「えぇ」
イズモ「ここにするか」
紫「じゃあ、頑張ってね」
イズモ「さてと。ピースギア幻想郷支部の建設を始めるか」
空間拡張と重力制御技術を展開し、一軒家ほどの外観に対して、内部は十キロ四方の巨大構造物を形成する。
その内部に地下都市を構築し、外部には居住施設や畑を配置する。
続いて基地設備を設置し、防衛システムを張り巡らせる。
紫の許可を得て、ピースギア職員およそ一万人を幻想郷支部へ配置する。
最後に、イズモは中枢へ入り、すべての設備を起動させた。
建物全体が光り輝き、森を照らす。
数分後、光が収まる。
そこには巨大なドーム型建築物がそびえ立っていた。
イズモ「完成だ」
紫「流石ね」
イズモ「お前もいたのかよ」
紫「えぇ」
イズモ「まあいいか。それより、なんか用か?」
紫「えぇ。あなたに伝えておくことがあるの」
イズモ「なんだ?」
紫「実は最近、変な組織が動き始めてるの」
イズモ「変な組織?」
紫「えぇ」
イズモ「どんな奴らだ?」
紫「よくわからないけど、強力な力を持っているらしいわ」
イズモ「なるほど」
紫「一応、気をつけておいてね」
イズモ「わかった」
イズモ(嫌な予感しかしないな)
胸の奥に、重い不安が沈んだ。
その後、イズモは幻想郷の山奥に立っていた。
深い緑と澄んだ空気が広がる。
イズモ「やっぱり幻想郷は自然豊かだな」
境界は静かに震えていた。
八雲紫はその揺らぎの中心で、扇子を軽く開いたまま立っていた。
向こう側から溢れ出す異質な力。
幻想郷の理から明確に逸脱した存在。
それが、イズモという男だった。
紫は最初の衝突の瞬間から理解していた。
この相手は、単なる侵入者ではない。
世界を兵器として扱う者。
無数の世界を渡り、管理し、破壊し、再構築する側の人間。
幻想郷にとって、あまりにも危険で、あまりにも興味深い存在だった。
紫は境界を開き、紫の奔流を解き放つ。
空間を折り畳み、裏返し、上下左右という概念そのものを破壊する攻撃。
通常の存在であれば、認識した瞬間に消滅する。
それでも、イズモは耐えた。
紫(なるほど……やはり只者ではないわね)
空中で体勢を立て直すイズモの動きは、洗練されていた。
恐怖よりも先に計算が走る目。
敗北を理解しながらも、諦めを選ばない精神構造。
紫は、思わず口元を緩めた。
その直後、空間に異変が走る。
次元断層の周囲に展開される、無数の兵器反応。
幻想郷の外側から、意図的に撃ち込まれる殺意。
紫(あらあら……本当にやるのね)
光が炸裂し、世界が悲鳴を上げる。
ブラックホール、波動、魔力。
三重に重なった破壊は、確かに致命的だった。
幻想郷そのものを揺るがしかねないほどの火力。
紫はスキマへと身を滑り込ませる。
攻撃はすべて虚空を貫き、消えた。
だが、紫は気づいていた。
彼の狙いは自分ではない。
空間そのものを封じるための、強制的な世界固定。
紫(やるじゃない)
魔方陣が展開され、世界を焼く光が迫る。
それでも紫は動じない。
境界を管理するということは、世界の終わりと始まりを同時に握るということだ。
紫「なかなか楽しかったわよ」
煙が晴れたとき、紫は無傷で立っていた。
イズモの絶望が、はっきりと伝わってくる。
紫(ここまでね)
扇子を閉じ、境界を一点に収束させる。
攻撃ではない。
存在そのものを落とすための、優しい終わり。
紫「さようなら」
衝撃とともに、イズモの意識が落ちていくのを感じる。
紫はその様子を見届けながら、静かに息を吐いた。
紫(殺すこともできたけれど……それは面白くないわ)
意識の底に沈みかけたイズモを、紫は境界で引き留める。
目を閉じた彼に、問いを投げかける。
紫「最後に言い残すことはあるかしら?」
敗北を受け入れる声。
潔く、驕りのない響き。
紫(やっぱり、気に入ったわ)
紫は決めた。
この男は、敵で終わらせるには惜しい。
幻想郷という閉じた世界に、新しい歪みを持ち込む存在。
管理者としてではなく、観測者として迎え入れる価値がある。
紫「あなたは幻想郷の住人にしてあげるわ」
驚き、戸惑い、それでも受け入れる反応。
そのすべてが、紫には愉快だった。
手を差し出し、境界を越えさせる。
次の瞬間、彼は博麗神社の畳の上に落とされた。
紫は少し離れた場所から、その後を眺めていた。
霊夢と魔理沙。
紅魔館の住人たち。
幻想郷の顔役たちが、次々と集まってくる。
紫(ふふ……随分と賑やかになりそうね)
自己紹介が始まり、混乱し、受け入れられていく流れ。
幻想郷らしい光景だった。
紫はスキマから姿を現す。
全員が驚くのを見て、満足そうに微笑む。
紫「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
歓迎と許可。
住居の話。
支部の建設。
イズモが展開する技術は、紫の想定を遥かに超えていた。
一軒家の外観に、地下都市。
世界を食い潰すほどの技術力。
紫(やっぱり、とんでもないものを連れてきたわね)
それでも、紫は止めなかった。
幻想郷は停滞している。
変化を拒み続ければ、いずれ内部から崩れる。
ならば。
制御できる歪みを、あえて受け入れる。
完成したドームを見上げながら、紫は確信する。
この男は、幻想郷に波紋を広げる。
良くも悪くも。
紫「最近、変な組織が動き始めてるの」
それは警告であり、誘いでもあった。
イズモの反応を見て、紫は内心で笑う。
紫(やっぱり、嵐は近いわね)
幻想郷は静かだ。
だが、その静けさは嵐の前触れ。
紫は境界を閉じながら、次の一手を思案していた。