御三家に生まれたので生存戦略を遂行する   作:超甘味

23 / 41

妄想と捏造の産物とご理解ください〜
では行ってらっしゃいませ。

今回は自己紹介が無いので作者が代弁します。
どうも。死にかけの禪院征哉くんです。モブクンって呼んであげて。


俺、喧嘩する。─弎─

 

 

 深く沈んだ俺の意識。闇のように暗く、影のように際限無く広い。

 始まりも終わりも何も無い、光すら通らない夜の様な異空間。そこに1人で立っていた。

 

 

「……何処だここ」

 

 

 俺の生得領域か、それとも生死の狭間か……。まぁ、どちらでもいいか。

 どーせ、俺の体は瀕死だ。でも死ぬ気はねぇから傷は治さないといけない。となれば俺に残された選択肢は今ここで領域展開か反転術式を会得するかだ。

 

 

 俺が想定している領域なら傷の治癒も出来るはずだ。

 でも展開したところで未完成の領域だった場合は頑張り損。そのまま死ぬ未来しか見えねぇ。

 

 

 ってことは消去法で反転術式に賭けるしかない。

 呪力操作は得意なんだ。掛け合わせて正の呪力を作るイメージはできて……ないけど、やるしかない。やる以外に道はない。論理派として理屈は分かるのに全然出来ねぇもんだから、まじ硝子がすげーことを再認識した。

 

 

「ん?」

 

 

 反転術式に神経を注いでしばらくした頃、目の前に1つの画面が浮かんでいることに気がついた。

 

 

「へー、記憶の断片ね」

 

 

 俺が今まで経験してきた思い出、そして記憶。それらが一つ一つアニメーションになって流れていく。

 走馬灯か?ハッ、酷いものを見せてくれる。

 

 

 前世で見た原作の内容もあったのはびっくりしたが、見覚えのない物もあった。

 例えば、俺が富士山頭のお歯黒ジジイを煽ってる姿だとか。宿儺(虎杖悠仁か?)と話してる姿、渋谷で戦ってる姿とかそんな感じ。

 

 

「……?誰だこいつ」

 

 

 一通り見終わったあと、最後に出てきた1枚の映像。雑音と掠れた画質ではまともな判断ができないが、後ろ姿で着物を着た黒髪の男が映っていた。

 

 

 心做しか俺に似ている気がするから俺の記憶かと思ったが、それにしては心当たりが無いし周りの風景が時代遅れすぎる。

 平安時代か?ってぐらい古くせぇ。……俺なのか?だとしたらいつの話だよコレ。

 

 

「(まぁ、いいか)」

 

 

 記憶を振り返るより今は反転術式の方が大事だ。散りかけた意識を呪力操作に再び集中させ、呪力を掛け合わせた。

 掛け合わせた呪力が少し変わったと感じたがそれもすぐに消え失せる。……難しい。いや、そう簡単にできていいモノでもないんだけどさ。

 

 

「呪力の核心……。悟はそれを掴んだって言ってたな」

 

 

 呪力の核心が何なのかは分からない。でも多くの場合は死にかけの状態でソレを手にする。

 もしかして生死に関係あるのだろうか?彼岸と此岸、天国と地獄。対比する2つを分かつ境界……。

 

 

 そう考えると呪術的な意味合いは大きいな。もしかすると呪力の根本はそこにあるのかもしれない。だとしたら死に触れることで根本、核心を掴むことになる。

 となれば瀕死では足りない。生から死へ逝く一瞬、生きても死んでもない状態のその一瞬こそが呪力の核心を掴むチャンスか。

 

 

「タイミングと集中力で決まるってワケね」

 

 

 失敗したら死。緊張感で心臓バクバクだわ(死にかけのブラックジョーク)。

 

 

 ……意識としてこの暗闇にどれだけ長く居ようと、外にある俺の肉体が死ぬ時は必ず来る。油断はできないし、極限まで神経を高めて待機するしかない。

 

 

「……!」

 

 

 長いようで、短いようで、辺りに注意を払ってからどれくらい経ったかは分からない。突然、暗闇が2つに裂けた。裂けた底からは水が湧き上がる。

 

 

「三途の川か!」

 

 

 生を超え死に渡る一瞬が来た。それを理解した瞬間、俺の体は強い力で彼岸に引っ張られる。

 クソ強い!踏ん張っても引き摺られる!マジどこだよ、呪力の核心!!

 

 

『背後を取られるなと、何度言ったら分かるバカ息子』

「うるっせぇ!パパは黙って……。は?」

 

 

 後ろから聞こえたパパの声に驚いて振り返った。でも幻聴だったらしい。が、その代わりに見えた眩しい光。……なるほど。あれか、俺が求めてるのは。

 

 

 ズルッ……ジャバッ!

 

 

「クッ……」

 

 

 もはや立っていられない程の引力、それでも必死に光へと手を伸ばす。

 

 

「死ぬのは老死って決まってんだよ」

 

 

 ひしひしと感じる呪力の核心。あと少し、あと……もう少し。

 

 

「邪魔するな」

 

 

 右手に触れるソレ。突然消えた引力に体が倒れたが、眩い光に覆われる異空間と現実に引き戻される感覚に身を任せた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 Noside

 

 

 征哉が眠りに落ちて間もなく、甚爾は彼に近づいていた。

 

 

「寝るだけだ。五条悟とも在ろうものがみっともねぇな」

「っ、だって、俺のせいで!征哉が死んだら、俺は!!……なんのために生きろってんだ!!!」

 

 

 悟の腕の中で目を閉じる征哉は、お世辞にもここから回復するとは思えなかった。顔色は死者のソレ、悟が気休めにかけた上着の下では内蔵がこぼれ落ちるほど抉れている。

 

 

 血も贓物も左腕も無い。じゃれあって、ふざけて抱える度に感じていた重みはいつもよりずっと軽い。冷めていく体温は悟に現実を突きつけていた。

 征哉の肩口がぐっしょりと濡れるのは触れなかった甚爾だったが、単純に男の涙に興味が無かったのかもしれないし、ゴリラなりの気遣いだったのかもしれない。

 

 

「コイツはなぁ、色んなヤツらに愛されてんだ。自覚はねぇみてぇだが」

「…………」

「始まりは、コイツが愛を与えたことだった」

 

 

 甚爾が言ったことに偽りはない。

 愛を知らない父親でさえ、息子の愛しさを知るほど征哉は愛されるタチなのだ。愛された分はきちんと返すし、返した分とは別に更に愛すのが征哉である。

 

 

 でもそれは、初めに征哉が直哉を愛し、父と向き合い、禪院の人々と関わった事で得られたものだ。

 征哉自身の愛の器は空っぽだった。愛を注いで、注いで、注がれて。そのやり取りを見ると、確かに結果的に征哉は愛されるようになったが、器が満たされることはない。

 その事に征哉が何も感じないのは、単に愛された記憶が薄いからだ。愛を与えるくせに、愛が何かを知らない。仕方があるまい、禪院に生まれた出来損ないなのだから。

 

 

「プライドは高ぇし、禪院らしくクズだ。約束は守るが、身内以外はゴミ見てぇな扱いだ。その分、限られた1部に向けられる愛は深ぇ」

「……知ってるよ」

「お前はコイツを愛してるか?」

 

 

 その問いの答えは重い。呪術を知るものなら承知、愛とは酷く重く、そして神秘的で美しい呪いでもある。まぁ、これは変な風にねじ曲がった愛のことを言うのだけれど……。

 今甚爾が問うているのは純粋に好きか嫌いかの質問だ。……多分、きっとそうであると思われる。そうでなくしても、征哉に愛というものを教えてやる人間が必要だ。

 

 

「お前がコイツに向ける愛が親愛か恋情かなんて俺にはどーでもいい。乳繰り合うのも好きにしろ」

 

 

 征哉と悟は幼い頃から一緒にいるせいか距離感がバグっている2人である。

 お互い、特に征哉は育ちが育ちだ。愛の区別もつかない年頃から共にあって、大人になりゆく過程に踏み入っていることは、周囲からしても放任されていた。

 

 

 愛してる、と征哉の声が紡ぐ度に、囁かれた人々が何処か悲壮なのを甚爾は知っている。

 薄っぺらいのだ。征哉は全身全霊を持って愛を注いでいるのだろうが、風に吹かれたら消え失せそうな感じが否めない。凡そ、征哉の愛は『可愛い、かっこいい』『弟、妹、家族』=愛という単純な方程式で成り立っているのである。

 

 

 愛が何かも知らないのに愛を語るのだ。愛を知った甚爾も、昔はそれを禪院だから仕方ないと割り切っていたが、今では顔を顰める側に回った。

 

 

 そして征哉の存在を理解した。アレは孤独に生まれ、虚空に生き、軽薄さで周囲と関わっている。

 誰か、本気でアレを求めて、その強さも我が身の半身だと愛した人間はいるのか?いないだろう。弟の直哉でさえも、尊敬や憧憬の目で見て、決して対等ではないのだ。

 

 

「俺じゃあ気付くのが遅すぎた。コイツに気を使いだしたのもココ最近だ」

「……はぁ、愛を?なにが言いてぇのかサッパリだ」

「孤独なんだよ、コイツは」

 

 

 あの頃、征哉がまだ幼く人格の形成途中だったあの頃、甚爾が禪院家にいたあの頃にそれを理解していればアレは愛に対してマトモだっただろう。天与呪縛の甚爾は征哉の隣に並び立てる人間だった。

 けれど後の祭りだ。その頃の甚爾も愛を知らなかったのだから、征哉に教えようにもできるわけが無い。

 

 

「可哀想な奴だ。お前ぐらいしかいねぇってのは」

「俺は、征哉といられんなら何でもいい」

「そう言ってると置いてかれるぞ。俺みてぇにな」

「…………」

 

 

 ……4分が経過した。だんだんと征哉の心拍数は落ちている。

 普通の人間なら30秒も経たずに死ぬ怪我だが、呪術師の体というのは頑丈なものだ。すごく粘っている征哉(肉体)である。

 ちなみにこの時点で征哉(精神)は彼岸へと引き摺られている最中だ。

 

 

「……あ?」

「どうした」

「呪力の循環が、回復してる……」

 

 

 死に近づくにつれて操作性が無くなっていく呪力循環。征哉の灘らかな川のような呪力操作が再開し始めたのを六眼は見逃さなかった。

 

 

「やっとか、制限時間ギリギリってとこだな」

「……!キズは!?」

 

 

 悟は征哉にかけた上着を捲る。そこで見たものに悟は目を見開いた。

 

 

「治りかけてる……」

「反転術式だな。腹を優先に、無くなった腕も生やしてんぞコイツ」

 

 

 負傷した内臓と大きな血管が通る腹を治し、腕を少しずつだが再生している征哉に驚きが隠せない悟だった。

 欠損部分を()()するのではなく()()するのは超高度な反転術式だ。それを可能にするのは征哉が持つ緻密な呪力操作と膨大な呪力、そして体に関する知識。

 

 

 体に関する知識については、影への攻撃を肉体に反映する【断影】や表と裏を見て色んなモノを弄くり回す【断影・改】とかいうぶっ壊れチート技を制御する上で必修な知識だったのだ。

 

 

 そういう面では硝子の次に肉体には詳しい。故に細胞・神経・血管・筋肉がどうなって肉体が構築されているのかを知っている。その知識があるからこそ完璧と言える再生ができるのだ。

 

 

「………っ」

「征哉!」

「ゴホ……、ゴホゴホ」

「おい、体を横に傾けろ。血が溜まってんだ」

 

 

 甚爾が悟に向けた指示は妥当だ。腹を治したはいいが気管に溜まってしまった血を吐き出さないと窒息してしまう。

 咳をしながら血を吐く征哉を見てると苦しくなるが、そもそもこのケガを負わせたのは自分だ、と思った悟は気落ちした。傷物()にしてしまった負い目を感じているのである。責任を取らなくては。

 

 

「ぅ、……」

「起きたかクソガキ。遅ぇぞ」

「……ァ?」

 

 

 瞼を震わして目を開けた征哉にゴリラは声をかけた。だがその金色は焦点が合っていない。

 

 

「…………」

 

 

 ヌルッと起き上がった征哉は自身の腹と再生しきった左腕を見た。手を握ったり開いたりして正常に動作するかを確かめる。

 その間は誰も喋らなかった。否、喋れなかった。

 

 

「征哉、だよな?」

「………そうだけど?」

 

 

 征哉の顔は表情が抜け落ちていた。瞳は感情の突飛がない凪の金色。

 

 

「その顔怖ぇぞ。(五条悟もそうだったが、反転術式を会得したら人格変わんのか?)」

 

 

 別人とも捉えられる変わりようにゴリラは目を丸めて驚いていた。

 だがそんな気も知らないで征哉は悟を見つめている。いや、何かを考えているようだ。

 

 

「……悟、俺も反転術式できるようになったけどさ」

「………あぁ」

「コレ、気分いいねぇ」

 

 

 目を細めてうっすら笑った征哉にゾッとして思わず1歩下がる悟。甚爾も様子がおかしい征哉に警戒し始めた。

 

 

「なんでも出来るって錯覚する……、生物としての格が上がった様な心地」

 

 

 コン、コン、とブーツのつま先を鳴らし、コートを脱ぐ。口の端に付いた血を拭って悟と甚爾を見据えた。

 

 

「お前もこんな気分だった……?高揚して自分を抑えられないくらい、呪力が馴染むこの感覚!!」

 

 

 先程の無表情とは一変し、目をガン開きにしながら笑う征哉。加えて、「世界が心地いい」と言う姿は誰がどう見たってハイになってるのがわかるだろう。

 

 

「アハッ!脳も冴えてるし、いい事も思いついた」

「征哉!」

「五条悟に続いてお前までハイになってんじゃねぇよ。めんどくせぇな……」

「なァ、試してみよう。俺がどれだけ強くなってるか!!」

「はぁ……。オイ、五条悟。合わせろ」

「お前が合わせろオッサン」

 

 

 全く話を聞いていない征哉に呆れるゴリラであった。原作のセリフを借りるなら、コイツ、ハイになってやがる!!である。

 呆れながらも呪具を取り出し戦闘態勢をとる所は流石のフィジカルギフテッド。悟も遅れず構えをとった。

 

 

「まず手始めに……」

 

 

 予備動作を挟まずに術式を発動。悟に向かって征哉本体が赴き、甚爾にはマーキングの恩恵である自動戦闘の影を送り出した。

 征哉の術式『幻影法術(げんのかげほうじゅつ)』には基本的に掌印が必要ない。予備動作が存在しないため、いつどのタイミングで攻撃が来るのか分からないのだ。

 

 

「影如きで俺を止められるって?」

「本命なワケねぇよ!俺が今本気で戦いたいのは悟だ。第2ラウンドだよ!!」

「だろうな、ぬるくて準備運動にもなりやしねぇ」

 

 

 いきなりの術式発動は素人からしたら厄介であるが、悟や甚爾などの手馴れた強者なら対応も難しくない。

 現に甚爾は影の攻撃を問題なく弾き避けている。なんの術式効果も乗っていないただの影では天逆鉾を使用するのに至らないのだ。

 

 

「よそ見か?してる暇あんのかよ!」

「お前の【蒼】も【赫】も見飽きた。どーせ全部【絶影】で掻き消えるんだからさぁ。アレ、出せよ!!!」

「その前にお前を正気に戻す」

「……!チッ」

 

 

 無限を絶影で中和しながら悟と体術を交えるが、背後から甚爾が迫ってきたのを感じ空中へ逃げた征哉。

 鑑賞している人影からしたら、覚醒した悟、既に覚醒してるゴリラ、覚醒した征哉。と、まぁ、この場にはバケモンが揃いに揃っている。息をするのも辛いくらい重苦しい呪いの気配だ。

 

 

「はぁ、2対1はひっどくない!?ふ、ははは」

「1回殴らねぇとダメか?」

「いや、アイツは殴るより戦闘で冷やした方がいい。お前と同じだ」

 

 

 征哉は「2対1は対等じゃない」と、自らの影で作った即席の分身を一体仕向ける。

 分身を自身の影で作ることにより、術式の1部を扱えるようにしたのだ。と言っても甚爾と天逆鉾には適わないのだが。

 

 

「甚爾……、俺が手加減してるの分からない?退けって言ってんだよ」

「聞こえねぇな?身内贔屓は止めとけよ、痛い目見るぜ」

「………あっそ、なら動けなくするまで!!!!」

 

 

 一切の動作を許さぬよう、影を固定し動きを封じる。停止した甚爾を見る気もせずに悟への攻撃を再開した。

 これで悟と存分に戦えると思った征哉だが、その考えはすぐに破綻した。

 

 

「ガハッ……!!あ''!?んで動けんだよ!!!」

「ナイスだおっさん!」

「あれぐらいで俺が動けなくなるワケねーんだわ」

 

 

 悟との戦闘で甚爾の介入が無くなったことへの警戒の希薄。その薄れた警戒を突いて甚爾は征哉に重い体術を繰り出した。先程ぶりに征哉は口から血を吐き出す。

 

 

 知っての通り、天与呪縛によるフィジカルギフテッドである伏黒甚爾の肉体は魂より先にある。

 通常、影を固定された状態で無理やり動けば体が千切れるが、魂より強い甚爾の肉体が傷付くことはまず無い。それにより、無理やり体を動かしても少しぎこちない程度で大きな支障ないのだ。

 

 

 肉体と魂の所在を知ってはいたが考慮しなかったのが征哉の落ち度である。先程作った分身は既に甚爾によって破壊されていた。

 

 

「ったく、忙しいねぇ!でもイイ!!!」

「「………」」

 

 

 体術はゴリラと戦いながら、術式は白髪(しらが)と打ち消しの無効化でドンパチ。

 ゴリラと素でやると100%負けるので【赫麟躍動】のドーピングも厭わないし、呪力強化もゴリゴリにしている。

 

 

 収容したエネルギーを打撃と足技に乗せて強化、エネルギーが乗った呪力を斬撃として放つこともした。

 これだけで言えば十分強いし頭のいい戦い方である。だがこれらは元々できる事だ。覚醒してから新たに……という内容ではない。

 

 

「イイけど、……やっぱ足りねーよなぁ」

「足りない?」

 

 

 征哉の実力は底知れない。それは皆が承知の事実。

 解釈次第で無限の可能性がある術式と、それを理解して思考する脳を持つ征哉だからこそできる神業の数々。

 幻影法術は技量も持ち合わせた征哉との相性が1番いい術式だ。それは自他ともに認める事である。

 

 

 歴代にも似た術式を持つ者はいたが、誰1人としてまともに扱いきれた者はいない。制御不能の上に術式に殺された例も少なくない。

 解釈云々もある上に、幻影法術は概念系の術式である。それ相応の難易度であり、前提が必要なのだ。

 

 

「俺の術式は影を操るだけの、相伝掠った出来損ないってみんな言ってる。影の概念を現実に持ってくるんだって俺もそう思ってた」

 

 

 甚爾と悟から距離を取り、空中へ浮かんだ。黄昏時の夕の光が征哉を照らして神々しさが増す。悟の『天上天下唯我独尊』と全く似ている場面だ。

 

 

「でも、違ったらしい……」

 

 

 両手を広げ、地上にいる2人に語り掛けるように話す征哉(最強)

 呪力の核心を掴んだあの時に征哉は全てを見直した。自分の思考、術式、影への解釈。

 

 

「影の概念、影が持つ概念を操作する術式だって思ってたんだ。まぁ、それはそれで正しいんだけどよォ。でもそれはあくまで裏だった!!」

「まさか………」

 

 

 裏があれば表がある。征哉が行った今までの解釈は大体がその裏にあたるモノだった。

 

 

「概念の影!!!これが幻影法術の本質!!!!!」

 

 

 影の概念『裏』と概念の影『表』。後者のこれは、己の術式の思考的な反転と言える。そしてこの2つが持つ意味は違う。

 

 

 影の概念は、影の存在を定義するモノだ。高次元な影の存在を認識し、()()に引っ張り操ることができる。

 

 

 一方概念の影は、概念としての影をそのまま操作するモノだ。高次元な存在であることに変わりはないが、決して()()の域を出ない未知数の存在。

 

 

「現実と概念の違い、その差と行き来する術式!!!だからか、俺の術式に(まぼろし)って字が入ってるのは……」

 

 

 先程征哉は概念の影こそが本質だと言っていた。これには理由がある。

 彼も薄々気が付いていたことだが、影が持つ概念(現実で操ること)で出来ることは少ない。

 

 

 これは幼少期から術式に向き合い、覚醒した悟との戦いの最中で提示した解釈と死に際の見直しで結論づけられた揺るぎない真実。

 今までは影の概念ナンタラ〜とか、ぶつけて相殺とかナントカ言っていたが、アレらはこれに当てはまるモノでは無かった。

 

 

 現実で操ると言ったら、単純に影を操り攻撃・捕縛・防御・移動と言ったところだろう。

 影の概念自体が強力なため攻撃力も捕縛力も高いが、逆に出来る事といったらそれくらいしかない。概念の存在と釣り合っていなく、はっきり言ってしょぼい。

 

 

 ただ、限られた先代達にはそれしか出来なかった。それ以上は身を滅ぼした。だから術式が腐っていった。

 本領を発揮し、輝く前に捨てられた石ころ(宝玉)。クソもったいないとはこのことである。

 

 

「ペラペラと、さっきの俺みてーじゃねぇか」

「まじかアイツ……。ここに来てとんでもねぇ解釈の追加をしやがった!!」

「オッサン、そんなにまずいのか?」

「まずいどころじゃねぇぞ。今までアイツが築き上げた解釈の全てが覆された。技の威力も桁違いになる!!!」

 

 

 先程述べた影の概念とは反対に、概念の域を出ない影で出来ることは幅広い。

 目に見えない術式効果や解釈によって生み出された技、……先代達が到達し得なかったその次元。それらは全て概念の影によるモノだった。

 

 

 【式神】【絶影】【断影】【断影・改】【模倣】【拡張術式】……これから生み出される技も、全てが概念の影からの賜物。【領域展開】もこの解釈があることで会得することができよう。

 

 

 言うなれば、征哉が操る影、影の概念、概念の影、現実の影問わずは全て領域内から引っ張り現実に顕現させたものだと予想される。それならチートも頷けるだろう。

 

 

 そしてそれを自覚してしまった征哉の術式への理解は深まる。

 解釈の終局、と言っていい程のこれを己の術式に完全に締結させてしまえば術式全体の威力も上がる。

 

 

 思えば、対五条悟で影の概念で無限を中和していた征哉だが、実の所は概念の影で中和していたのだろう。

 現実に出てしまった影と概念の域を出ない影ではその存在に若干の差がある。後者の方がレートが高いし存在が尊いのだ。これをゴリラのくせに頭が回るゴリラは理解してしまった。

 

 

 今までの解釈の殆どが概念の影に当てはまった。

 かと言って元々の解釈達が崩れる訳では無い。術式を使用する上で共存しているのだ。

 

 

 並の術師では脳が焼き切れてしまう所業。あまりの解釈の重さに耐えられるはずが無い。普通なら死ぬ。

 だが相性がいい術式と呪力に限界がない征哉にとっては対して気にする問題でもなかった。征哉の為の術式は、ここに存在した。

 

 

「あ、そうだ。反転術式も会得したし……、アレ、やってみようか」

 

 

 征哉は正の呪力を己が術式、この場合拡張術式に流し込んだ。

 拡張術式【反転】は呪力を受け渡すことが出来る術だ。受け渡すモノによっては効果が大きく変わる。

 

 

 正の呪力を他者に受け渡せばアウトプット可能な反転術式になるし、負の呪力を与えれば他者に呪力補充をさせることもできる。

 無機物に呪力を流して爆散やら、振動させることも可能だ。

 呪力を吸い取る(奪う)【順転】と違い、汎用性が高いことが見て取れるだろう。そして征哉は今、空気に呪力を流している。

 

 

「あー、分子でも原子でも、なんでもいいけど……。存在さえ確認出来れば俺の術式の対象だ」

「……音が聞こえるな」

「あ?なんも聞こえねぇよオッサン」

 

 

 音とは、空気などの気体、水などの液体、そのほかにも机や壁などの個体を介して伝わる振動のことをいう。そしてその振動は波のような形をしている。

 つまり音の正体は波。 この波を一般的に音波という。

 

 

「お前ら音響兵器って知ってるか?」

 

 

 音響兵器は、音波を投射することにより、人の行動能力・判断能力を奪うことや聴覚器官や脳にダメージを与えたり、物体を破壊することを目的とする兵器である。

 恐ろしい内容に聞こえるだろうが、出力を調整すると兵器としてだけでなく音響装置(スピーカー)としても利用可能な物もある。まぁ、今征哉がやろうとしているのは前者の方だが。

 

 

「……ちっ、俺は退く。五条悟、お前がアレをどうにかしろ」

「は?逃げんのかよ!」

「生身の俺じゃ回避できねぇっつってんだ。お前なら無限でガード出来んだろ!!!」

 

 

 鋼な肉体筋肉ダルマなフィジカルゴリラでも五感に直接くる音響攻撃は回避しにくい。

 回避出来なくはないが強化された五感では聴こえすぎてしまってダメージを受けるだろう。脳へのダメージもあるかもしれない、とか考えると後遺症とかは御免なのだ。

 

 

 そのためこのパパ黒は退避を選んだ。ま、五条悟(最強)いるし大丈夫だろ、的なノリである。

 

 

 言いたいことを言い終わったゴリラはすんごい速さで消えた。

 できる限り遠くに行こうとしているのだろう。途中にこちらを鑑賞していた人影を腕に抱えたのを征哉は見た気がした。気のせいかもしれないが。

 

 

「アハハ!!!音量上げようぜぇ!?!?」

 

 

 でもハイになってる征哉はゴリラのことなんて一瞬でどうでもよくなった。元から本命は悟なのだ。

 征哉は視線を悟に向けて上記のセリフを放った。ヴィランか何かと勘違いしそうだ。400年前の某術師の『音量上げろ!生前葬だ!!』じゃあないはずなんだが……。

 

 

 コイツ呪術師だよな?と悟が疑うレベルのテンション。おめぇも人のこと言えなかったけどな、とツッコミたいが、生憎ゴリラは逃げたし征哉はハイになってるので無理だ。この2人、似た者同士である。

 

 

「……災害だろ、コレ」

 

 

 鼓膜が破れるにとどまらない大音量と、脳に影響する破壊振動は上昇し続けている。呪力が流れる音はパンピーがいう音響兵器より威力が高かった。

 悟は呪力と無限でガードしているため影響を受けないが、それでもパンピーや建物にとってはタダじゃ済まない。

 

 

 戦闘中に移動したため征哉の後ろには盤星教『時の器の会』の本部がある。中にいる非術師と建物は文字通り悲鳴をあげていた。

 

 

 こりゃ廃人が量産されそうだ、と悟は思ったが、バカでかい【戒鯨(かいきょう)】が顕現してあるのを見るにイカれた非術師も最低限は守るらしい。

 征哉の事だから何かの間違いで、偶然、うっかり、教信者パンピーを殺すのかと思っていた悟は驚いた。実に心外である。

 

 

 ……余裕ある征哉だ。いっそ呪詛師として殺した方が世界の為なのでは?と禪院征哉のことを気に入らない1部のヤツは思うだろう。

 

 

 バリバリ!!!バキ……!

 

 

 物体を破壊する程の音波でコンクリの地面が割れた。蜘蛛の巣のように伝線し、地盤の崩壊を招いた。

 周りの木々も折れて木屑に、更に分子も原子も周囲一体の全てを震わせることで塵以下のまっさらな更地と化す。何もかもが殺風景な世界を、ただの音で作り上げてしまった。

 

 

 悟が零した災害という言葉は正しいだろう。もう禪院征哉は特級でいいと思う。

 

 

「フフッ……アハハハ!!!すごいねぇ。こんな事ができるとか、思って無かった!!」

 

 

 普通できねぇのが当たり前。征哉の解釈故にこんな災害技ができるのだ。頭おかしいよ、禪院征哉とかいうバケモン。

 

 

「バン!と、やっちゃおっか♡」

 

 

 調子に乗った征哉はどデカい音波を生成した。デカすぎる音の波は衝撃波に類似するものがある。

 無限を張った悟と【戒鯨】が張った結界内は無事だが、それ以外の周辺は吹き飛んだ。また1層、いや、4層ほど地盤が消し飛び、沈下した。上空から見れば隕石が落下したのかと錯覚するほどのクレーターが征哉の周囲に生成されている。

 

 

「お前……2級止めとけよ」

「あ''ー?上のジジイに言えよ」

 

 

 覚醒した征哉の技や解釈が重すぎて胃もたれしそうな悟。どうやって止めればいいのかと頭を回した。無理だ、何をしても止められる自信が無い。征哉は呪術に関して優れすぎている。

 

 

「征哉、1発勝負しようぜ」

「……何?」

「俺は【茈】を打つ。だからお前はどうにかしてそれを止めろ」

「へぇ、俺がチャレンジャーってこと?いいよ、やろう」

 

 

 悟はもうヤケクソである。何したってハイになった征哉が止まりそうにないので虚式【茈】をぶち込むことを決めた。

 

 

 征哉は100m程向かい側に浮いた悟を見た。ただ見るだけじゃない、また新たな解釈で新技を作り出そうとしているのだ。恐れ多くば覚悟を決めろ。

 

 

 今の征哉の脳内は「(俺も順転と反転の掛け合わせやってみよ!!)」である。

 掛け合わせvs掛け合わせとかろくな事にならないのは想像に容易い。撤退したゴリラと人影が遠い目をした気がした。

 

 

「『奪取』と『供与』が掛け合わさったらどうなると思う?悟」

「プラマイゼロ」

「惜しいな、半分正解だ!」

 

 

 『奪取と供与』が同時に存在した場合、その関係は反比例で表される。一方が減れば一方が増える現象だ。逆もまた然り。

 +1と−1が混ざればその差は2……、だが0にもなる。つまり2の場合は仮想の質量となり、0の場合は虚無が生れるのだ。

 

 

 解釈は人それぞれ。多少事実や現実と違ったところで術者が適応していれば少しの矛盾は無くなる。

 今の解釈も征哉がそうだと思っているから成り立つのだ。

 

 

 分からない人のために言うと、人の言う事聞かないで自己完結するクソガキだけどなんだかんだ成功してるってこと。

 こんなヤツでも明確な解釈で術式が使用できるんだから困ったもんである。

 

 

「征哉……、俺と一緒に特級なろうよ」

「ヤダね、公式問題児認定はお断りだ」

「今更だろ」

 

 

 お互いに指で弾く構えを取る。茈と銀の光が両者の指先に集まった。

 征哉が今回使うのは0の方。虚無、全てを消滅させる方だ。それで仮想の質量()を相打ちさせるらしい。

 

 

「終わったら一緒に先生に怒られようぜ」

「……俺、悪くねぇし。悟が俺を殺しかけたせいだし」

 

 

 ハイになった征哉も流石にドンパチしすぎて冷静になってきている。

 しかし最後の最後まで手を抜く気はない。悟と同じく征哉もヤケクソになった。

 

 

 ……準備は整った。これで最強同士の喧嘩は幕を終える。

 

 

「いくぞ」

「あぁ」

 

 

「「虚式/比礼」」

 

 

 放たれた2つ。戦いの火が消える最後の一撃。

 

 

「「【(むらさき)】/【(うずみび)】」」

 

 

 2つがぶつかった瞬間は幻想的とも言え、この世の崩壊とも言えるようだった。

 

 

 ここで少し視点は変わり、しっぽ巻いて逃げたゴリラと人影sideを見てみよう。

 

 

 ぶつかった2つの光は混じり合ったと思ったら、反発し合い消滅した。

 そして反発と消滅をしている最中は周辺への被害が尋常ではなかった。地面が無くなり木々が掻き消える……、たったの一瞬で更地の完成である。もう声も出ない有様だった。特に人影の方。

 

 

「……とんでもねぇな、アイツら」

「………」

 

 

 征哉が生き返った辺りから居た前髪が変な人影。バケモン共の戦闘をちょっと遠くの物陰から見ていたのである。

 

 

 雰囲気も呪力の質だって何もかもが変わった2人を見た夏油傑は言葉が出ないくらい動揺した。

 そして動揺してる最中に世界で一番ヤバイ喧嘩を目撃して言葉も失った。

 

 

 そうこうして固まってる間にゴリラに抱えられて遠くに避難させられるわ、征哉が呪力の音波で環境破壊するわ、虚式【茈】と比礼【熄】でラストの一手を打つわ、でもう失神した方が救いまであった。

 

 

「何があったんだ……」

 

 

 変わってしまった2人、最強になってしまった2人を見たサマーの心情はブレブレに不安定である。

 どんまいと声をかけたいがその場合もっとメンタルがやられるのでどうしようもない。お口をチャックしよう。

 

 

 まっさらな更地の上空には更地にした原因2人が会話をしていた。どうやら征哉のハイは治ったようだ。

 だがそれを見る傑の瞳は暗い。無理もないのだが。

 

 

「俺は帰る、お前は勝手にしろ」

 

 

 甚爾はそのまま踵を返した。

 征哉に「終わったら禪院家に連れ帰ってやる」とは言われたが、あれは演技だしスルーでいいや、と甚爾は考えたのだ。

 

 

 傑としては自分を追い込んだ甚爾に怒りが湧くし、ここで逃がしたくなかったが、生憎今はそんな気力もなかった。ただ、変わってしまった親友達を諦めた風に見ることしか出来なかった。

 

 

「……あぁ、そうか」

 

 

 2人は高専へ帰ったのか、瞬間移動で姿を消した。

 その場に1人残された傑。2人が当然のようにする瞬間移動ですら、傑には出来ない神業だ。

 

 

 この場に置いていかれたことも、立場の差というものを感じた。完全に隔てられてしまった。

 思えばあの2人とは出生すら違う。御三家と一般家系出身、術式も持て囃される相伝と忌み嫌う敵を操る呪霊操術。今まで気にしなかったそれら全てが、今は心に刺さる鋭槍となった。

 

 

「置いて、いかれたのか……」

 

 

 誰もいないこの場には、親友たちの存在を感じ得なかった。

 

 

 

 

 

 





最大の解釈を書けた!超満足!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。