御三家に生まれたので生存戦略を遂行する   作:超甘味

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本編で書けなかった青春と日常第2弾!



お前らに小話を聞かせてやる。─弐─

 

 

【押しかけ】直哉(1年)&征哉(2年覚醒前)in京都校

 

 

「兄ちゃんと同じとこ行きたかった!!!!!」

「アハハ……。別に呪術家系の人って高専に行かなくてもいいし、通わせてくれただけジジイに感謝「したないわ!!!!」……ククッ、そっかそっか」

 

 

 仲の良い兄弟の会話にホッコリ……するのは当人らのみだ。

 ここは呪術高専京都校。周りの人は遠巻きに知らない(征哉)に興味深々で意識を向けていた。

 

 

「歌姫先輩、誰ですかあの人……」

「あぁ、アレは禪院征哉ね。彼の兄よ」

 

 

 唯一、征哉を知るのは庵歌姫であった。京都校1年生(以降はモブAとしよう)は見慣れない美人系イケメンに心臓が痛いようだ。

 

 

 だがそんなことを知らない征哉は東京校から無断で外出、弟がいる京都校に押しかけて気分がホクホクだった。この身勝手な行動には流石の歌姫も舌打ちをした。

 

 

「ちょっと禪院!いきなり来られると迷惑なのよ。さっさと帰ってくれる!?」

「はぁー?歌姫のケチ〜!暫くぶりの弟ちゃんを堪能させろよ」

「まず会いたいなら正式に手続きを踏んでから「あーあー聞こえなーい」チッ!!!」

 

 

 クソガキ禪院とはこういう事である。ブラコンの直哉ですら兄のガキ具合に目を細めた。所謂チベスナ顔だ。

 クズ(直哉)先輩の珍しい顔にモブAは写真を連射していた。頼れるのは自分だけの状態である歌姫は、征哉が登場してから感じ始めた頭痛が余計に増して今にも吐きそうだ。非常にウケる。

 

 

「征哉殿」

「……!ご無沙汰しております、楽巌寺学長」

「この老いぼれた爺にかしこまる必要は無い。だが連絡くらいはせんか」

「はは、すみません。一刻も早く家族に会いたくて」

 

 

 歌姫を煽るクソガキ禪院を呼び止めた鶴の一声。京都校の学長且つ上層部保守派の楽巌寺嘉伸であった。

 出た、兄ちゃんの媚び売り……。と直哉は内心思ったそうな。

 

 

「エッ、え''っ……!?!?」

「センパイ、知らへんかったん?兄ちゃん目上の前じゃいつもあないな感じやで」

「うひぉ!!!あの禪院征哉様のこんな一面が見れるなんて!!写真に収めなくては!!!!!」

「程々にしぃ1年」

「善処します!!!!あ、やっぱ無理ー!こっち見てファンサして!!!!!!」

 

 

 征哉の態度の変わりように10歩くらい後退した歌姫。それに耳打ちする弟ちゃんとガラケーが写真でいっぱいになりそうなモブA。

 現場は正しくウケるで溢れていた。実際、モブAの同期のモブBは爆笑している。

 

 

「それにしても京都校の生徒さんは素晴らしいですね。皆呪術師としての才がよく引き出されています」

「ほう……。やはり分かるか」

「えぇ、俺が言うんですから間違いないですよ。特に歌姫先輩は後方サポートとして優秀ですし、俺の弟は1級審査の結果待ちでしょう?」

「今年の若人らも中々いい者が集まっておる。暇があれば見てやってくれ」

「勿論。将来死なないように指導してあげるので、その時はご連絡ください」

「あぁ、助かるぞ征哉殿」

 

 

 歌姫は失神しそうだった。

 自分達の学長がクズ(征哉)に敬意を払って『殿』呼びにしているのに腰が抜ける程驚くし、初めて聞いた自分の印象やさり気ない弟自慢、加えてみんな優秀とか稽古つけてあげるとか言われたら情報量過多で処理落ちしそうだ。

 

 

 一方、弟ちゃんと後輩モブ達はべた褒めされてニッコニコの笑顔を貼り付けていた。

 限界オタクモブAに関しては微笑みながらお花を飛ばし、鼻血をブッシャーしながらぶっ倒れている。器用なものだと、歌姫はハンカチを投げ渡した。

 

 

「そちらの学長にご挨拶もしたし、そろっと帰るね〜」

「気を付けるのだぞ」

「はい、ご心配ありがとうございます」

「兄ちゃんまたね〜。今度は俺が行くさかい!」

「OK、待ってる!!!」

 

 

 歌姫は考えるのをやめた。もうこれ以上征哉で脳のリソースを割きたくないのだ。じゃないと血管がブチ切れてしまう。

 

 

「あ、歌姫」

「……何よ」

「優秀とは言ったけど冥さんよりは弱いから調子乗んなよ?」

 

 

 前言撤回。早速ブチッと抑えていた血管が切れた。

 今の征哉のセリフには悪意しかないように思えて、実は純粋に天狗の鼻になって死なないように言っただけである。勘違いする言い回しとはこのことだ。

 

 

「うるっっさいわ!!!!さっさと帰れ!!!!!」

「は?なんで怒ってんだよ」

 

 

 「お前のせいじゃい!!!!!!」と叫んだ歌姫だった。割とマジで嫌いな奴その2である。

 

 

 

 

 

 

【日常】さしすせ組(2年覚醒前)+灰原七海(1年)

 

 

「先輩達もこっち方面なんですか?」

「お、灰原と七海じゃん。1年ズも?」

「こんにちは五条さん。私達は合同です。先輩達は違いそうですね」

 

 

 後輩と同期が共に、偶然にも任務場所が集合していた高専生達。都内某所でばったり会ったのが事の始まりだった。

 

 

「方面が一緒なんだよ。でもそんなに距離も離れてないから勝手に合同任務で処理してるんだ」

「え!それっていいんですか夏油さん」

「心配しなくても大丈夫だよ灰原。報告書はジャン負けで征哉が書くことになってるから」

「サマーひっど!!!地味にダルいの押し付けやがって……」

「あちゃー、禪院さんファイトです!!!!」

 

 

 元は個々それぞれに振り分けられた任務のはずだったが、距離も近いし雑魚だからまとめて協力プレーで手短に終わらそう!という結論になったのが話し合いの結果だった。

 

 

 任務地点近くの病院にも呪いの被害に遭った重症患者が駆け込まれたらしく、今回は珍しく硝子も同席である。……とは言いつつも、パパっと仕事を終わらせてきた皆は暇になったため東京の街中をフラフラしていた。

 

 

「すぐ終わっちゃいましたね!僕と七海なんて特にすること無かったですよ」

「焦るなよ後輩クン。そうだ、サマーに体術教えてもらいなよ。覚えてて損ないし、あいつ上手だから」

「!!いいですか夏油さん!!!」

「ハハ、いつでも歓迎さ。術式については征哉、呪力については悟に聞くといいよ」

「こうして聞くといい具合に分担されてますね」

「あ、七海もそう思う?やっぱり先輩達凄いな〜」

 

 

 前を歩く1年ズの後に続く征哉と傑。元気な後輩達にパイセンは優しい笑みを浮かべた。

 悟は硝子を迎えに行っているため後から合流予定らしい。落書きがある路地裏を歩き回り、錆びた鉄の手摺を掴んでパルクールモドキをしながら時間を潰していた。

 

 

「みんなー、おつかれ〜」

「硝子お疲れ様。悟も硝子のお迎えありがとう」

「おう!なぁ、自販機知らね?なんか飲みたい」

「あっちにあったよ」

「見て七海!!猫だよ猫!!!」

「ハイハイ、見てますよ」

 

 

 今は平日の昼間である。故に、ガワだけ遠出した学生を装う為に皆はスクールバックを持参している。中身はほとんど呪具かそこらだが、束の間の『普通』を味わうには十分だった。

 

 

「皆この後暇か?」

「ちょっと待ってスケジュール確認する」

「私は暇だよ。どこか行く?」

「うわ、征哉の予定表ギチギチだね」

「おいコラ、お前らがサボる分俺に回ってきてんだよ」

「またまたそんなこと言って……」

 

 

 「きな臭い任務や高難易度の任務も自分に振り分けてるくせに」と傑が小声で言ったところ征哉にどつかれていた。それを灰原はキュキルキュルお目目で首を傾げて見ている。

 どうやら他の人には聞こえなかったようだと征哉は息を吐いた。サマーが危険なオトコすぎて辛い。匂わせ発言やめてくれ。

 

 

「フラフラしようぜ?何気にみんな集まる機会ってねーし」

「「「賛成」」」

「高専に戻ったら稽古つけてください!」

「私もお願いします」

「「「任せろ」」」

「アハハー、クズ共相手にヤル気すげ〜」

 

 

 都内をフラフラし、自販機で飲み物を買う。レンタルした自転車を乗り回し、無理に3人乗りしてコケて、川辺で遊んで……。ただの日常がそこにはあった。

 

 高専帰宅後はパイセンが後輩にスパルタ稽古を施した。それで怪我をした灰原を硝子が治している様子も見受けられる。

 因みに、後方で騒ぐクズ共にキレた硝子が治療中の灰原の腹を殴っていた。グホッ!!!と零される灰原の声に征哉は笑った。

 

 

 その光景にどこか既視感があった征哉は前世の記憶を引っ張り出した。少し頭を捻り、そういえばアニメのOPでこんなのがあったような?と1人納得したのだった。

 

 

「……まぁ、たまには悪くないか」

「せーや!!アイス溶ける!早くー」

「はいはーい!!!今行くよー!!!!」

 

 

 少し溶けたアイスはハーゲンダッツだったそう。暑い日にはもってこいの、青春の1ページだった。

 

 

 

 

 

 

【蹂躙】最強組(2年、交流会)in東京校

 

 

「オラオラオラァ!!去年俺の事ボロクソに言ったやつ名乗り出ろォ!!!!今なら半殺しで許してやるよォ!!!!!」

「stay征哉。まだ始まってないよ」

 

 

 時は来た!!!いざ、参ろう。京都校を蹂躙する姉妹校交流会!!!

 ま、交流会なんぞ最強が集う我らが東京校の独断場であるのは言わずもがなだが。

 

 

 征哉は今、昨年の交流会で大層に舐められたことに怒りを感じて身を震わせている。

 昨年は征哉こそ不参加だったが、悟とサマーは人数合わせのため参加していたのだ。勝敗は勿論圧勝だ。何故なら征哉を悪く言った奴らをマブダチ共は許さなかったから。

 

 

「硝子はどうする?殺る?」

「いや、私は戦えないから観戦。去年の恨み晴らしてきなよ。特に禪院」

「私と悟はマークされるだろうね。去年も出場してたし」

「そうだよお前ら。去年はなんか相手側と喋ってるなーって思ったら俺の悪口言ってたらしいじゃん?はぁ???」

「誤解だよ。相手側が舐め腐ってただけで私達は反論してたんだよ?」

 

 

 ケッ、どーだか!!!と言って征哉は拗ねた。拗ねながらも準備運動と暗器の確認をしているだけ殺意はマシマシである。

 しかも、今回はバリッバリ術式を駆使する予定のため相手の命はほぼない。99.9%殺す気である。征哉は壊滅的な料理センス弄りの他に、舐められるのが地雷なのだ。相手方には早速墓を用意しておこう。

 

 

『ではスタート。征哉、自重しなさい』

「あ?ヤガセン、そりゃ無理なお願いだわ」

「俺と傑は呪霊、征哉は人な」

「了解。まぁ、呪霊は雑魚だろうから本命は征哉だね。気張りなよ」

「言われなくとも?俺を舐めやがった事を後悔させてやる。弟ちゃんにも協力仰いだしね」

 

 

 兄ちゃん大好きのブラコン直哉にとって、「そっち(京都校)の先輩方に借りがあるからさ、俺の方にさりげなく誘導してくれない?」なーんて言われたら断れるわけが無い。

 兄のためなら自分のチームですら裏切るブラコンぶり。なんという幸せそうな兄弟であるか……。

 

 

「うぉい!嵌めたな禪院!!!」

「ん〜?かなんなぁセンパイ。それやと兄ちゃんと区別つかへんやん。直哉って呼んでや♡」

「そうそう、俺らどっちも禪院だからさぁ?と言っても俺の恨みを晴らすためにそっちの禪院取っちゃった!フフ、ごめんちゃい♡」

 

 

 これ即ち、クソガキ禪院ズである。幼少期からの悪ふざけ大好きな性格が存分に発揮されていた。

 

 

「あ''ーやめてやめて!!!ズボン剥ぎ取らないで!!!!」

「悪かった!!お前の事雑魚とか、意気地無しとか!!!御三家の出来損ないとか言って悪かった!!!!だから全裸にしないで!!ア''ーー!!!!」

「「フフフ……、今更遅いわ!!/遅いで!!」」

 

 

 謝ったとしても兄弟の悪ふざけは止まらない。

 昨年舐められた征哉に関しては、(野郎に触りたくはないので)術式を使って縛り上げ、男子生徒の服を破いてパンツ一丁にしていた。これを画面上で見ている夜蛾先生はそっと胃と頭を抑えた。

 

 

「そうや兄ちゃん、触手プレイしいひん?」

「おー、いいねぇ!」

「え、エッチな方ですか……???」

「変態!!東京校は変態!!うちの後輩も!!!」

「ンなわけあらへんやろ。あんたらの濡れ場なんて需要皆無やわ。死ねボケ!!!!お前らキショいねん!!!!」

「……う''、仮にも俺達、君の先輩なんだけど……」

「辛辣!!うちの後輩辛辣!!!!」

「ブハハハ!!!お前ら人望無いんだね!!先輩なのに!!!!」

 

 

 征哉の一言で京都校の先輩は泣いた。人望……が、無い……だと。と心にダメージを受けたようだ。

 そんな放心状態のセンパイをさて置き、征哉は再度術式を発動した。影を触手のようにうねらせ、こちょこちょ地獄や引き摺り体験を開催したのだ。

 

 

 足を掴んで振り回し、遠心力で吹っ飛んだのを見た禪院兄弟は笑った。

 吹っ飛んでる最中にパンツと体が離れ離れになったのを見た時は流石の腹筋も吊ったようだ。笑い死んでリタイアしそうである。

 

 

「ヒィ!ヒィ!!!死ぬ、笑いすぎて死ぬ!!!!」

「アハハッ!!!!傑作やわ!!!誰かビデオ撮ってへん!?!?何本か欲しいわ」

「死んだな、心が。これぞ精神的蹂躙!!!誰も怪我しない最高の戦法!!」

「全裸で空飛ぶんはあかんわ!!女子の目の前に墜落したらどないすんやろ。……ブフッ!!!」

「やめろ直哉。これ以上俺を、笑わ……ングッ……フフフ!!」

 

 

 どうやら征哉は肉体的蹂躙でボコボコにするより、自尊心や理性をフルボッコにする方を選んだようだ。

 まだ体が傷だらけの方が良かったかもしれない。京都校のセンパイ方は立ち直るのに時間が掛かるだろう。可哀想だから誰か記憶消してやれ。

 

 

「「……ぁぁあああ!!!!!!」」

 

「「ん?」」

「なぁ、あの方向って……」

「空飛ぶ全裸が見えるね。犯人は征哉か」

「……なぁ。写真撮ってバラまこうぜ」

「奇遇だね悟。私もそう思ってた所だ」

 

 

 一方、呪霊を祓うのに専念していた悟と傑はそんな会話をしていたそうだ。蹂躙って最高!!

 

 

 

 

 

 

【逃亡】最強組、天内+黒井さん

 

 

「金良し、住居良し、戸籍良し!この間海外出張行った時に予定変更して、こっそり逃亡先にマーキングも残したからいつでもトべるぜ!!!」

「さぁ、天内。海外に行ってこい!!死にたくなければ二度と日本に近づくなよー!!!」

「なんで2人はこんなにテンション上がってるの……」

「アハハ、悟と征哉はここ最近頑張ってたんだよ。理子ちゃん達の逃亡を完璧にするためにね」

「夏油さんもありがとうございます。話し相手になってくれて……」

 

 

 とにかく頑張った最強組だ。ついに全ての準備が終わり、天内達を海外に逃がす時がやって来た。

 サマーも不安がってる2人に付き添い、メンタルケアをしてきただけはある。ボーナスが出てもいいくらい皆頑張ったのだ。

 

 

「よし、じゃあトぶぞ。俺に捕まれ」

「こ、こう?」

「理子様、もう少し触らないと落ちてしまいますよ」

「う''……」

 

 

 乙女な天内は征哉の腕に抱きつくのが恥ずかしいようだ。仕方ないので皆には片腕に触れてもらい、天内を脇に抱えてトんだ。

 

 

「長距離の瞬間移動は凄いね。流石征哉だ」

「ありがとサマー。マーキング機能開発して良かったわ。一生重宝できる」

「び、びっくりしたぁ。いきなりはやめてよ!」

「お尻が痛くなる長時間フライトよりマシでしょ?文句言うなよ天内」

「……ここが、異国ですか」

「そ、俺と征哉で候補から選んだの。いい場所だろ?」

 

 

 逃亡先の住居は自然が溢れ、海が近くにある場所だ。お値段は高いがその分安全性が高水準だし周囲は所有地のため人も来ない。

 少し車を出せばショッピングモールや朝市、屋台なども充実している。住むには最高の場所だ。

 

 

「わ〜!すごい!!」

「おうおう。感謝しろよ、天内」

「ちょっとビーチ行かね?俺遊びたい!」

「「行く!!」」

「……ありがとうございます。私達のためにここまでしてくれて」

「いえ、私達のワガママなので。生きていてくれればそれでいいんですよ」

「本当に、ありがとうございます……!」

「ハハ、気にしないでください」

 

 

 沖縄の時のように、ビーチで遊ぶ3人を横目にサマーと黒井は話していた。

 もうあの時のように命を狙われる心配は無い。これからは新しい戸籍で、新しい人生がスタートするのだ。

 

 

「またねー!みんなー!!!」

「皆様、お元気で!」

「寂しくなったらいつでも連絡しろよ〜」

「またね。理子ちゃん、黒井さん」

「じゃーねー2人とも〜」

 

 

 30分程別れを惜しんだ。その後、連絡先を交換した最強組は日本へトんだのだった。

 後日、トイレが詰まったと連絡が来てまたトんだのは別の話。

 

 

 

 

 

 

【旧友】征哉(3年生)産土神任務後〜退学

 

 

 監視カメラや残穢を確認する征哉の姿が高専内の一室にあった。

 先日の産土神任務を下ろした上層部保守派の一人は「征哉が困っていると言われた。だからやった」と今際の際でうわ言のように口ずさんでいた。

 

 

「あのジジイ、誰に言われたんだよ……」

 

 

 何者かが絡んでいるのは明白。ただ、その人物は征哉の情報網を持ってしても特定出来ないでいた。

 正直監視カメラなんぞ役に立たない。でも一雫の可能性を信じて高専内の映像を再生していた。

 

 

「……ん?」

 

 

 映像を追う中、1人の男性補助監督が上層部が集う会議用の一室に入っていくのを見た。部屋のカメラに切り替えて映像を見てみる。そいつしか写ってないが、その人の口元が動いているのを見るに会話をしているらしい。

 書類でその日の履歴を確認すれば丁度その時間帯に会議があったようだ。呪術により遠隔で映されたジジイ共はカメラに映らないため、その補助監督が1人で喋っているように見えるのは納得であった。

 

 

「ふーん、こいつが何か言ったのか。空気が変わったな」

 

 

 呪術によって発生された音声も映像端末の記録には残らない。そのため断定は出来ないが、征哉の勘が()()()()()()()()()と告げていた。心做しか補助監督の口元が上がっているのが見える。

 

 

 実は補助監督によって発言された言葉、そして上層部が頷いた時点で征哉の退学は決まっていた。が、今の征哉はそれを知らない。ただ、補助監督が何かしたというのは今の映像で征哉本人も分かっていた。

 

 

 ギィ……。ギシ。

 

 

「……?」

「こんな夜遅くまでどうしたんですか?」

 

 

 扉が開く音と床が軋む音で征哉の意識は思考の海から戻った。話しかけてきた声に身に覚えは無い。

 後ろを振り向けば知らない人物(男性)。スーツ姿のため補助監督と見受ける。

 

 

「夜は神様が降りますよ。影が貴方を連れ去る前に、早く部屋に戻った方がいいです」

「……そう、ご忠告ありがとう」

 

 

 征哉は己に変な語りを告げる男の顔を見た。何故か見覚えがある顔で、あぁ、さっき監視カメラに映ってた奴だ、と点と点を繋げた。

 怪しいし変な奴だなと思い部屋を出ようとするとドアの前で行く手を遮られた。

 

 

「何か用?僕、戻るんだけど」

「……ふむ。貴方、私の顔に見覚えは?先程まで監視カメラを確認していたようですけど」

「見たよ。お前、上層部に何か言ってたよね。何を言った?」

「おや、そんなに真顔で詰め寄らないでください。フフ……。ただ、貴方はここにいるべき人じゃない、と伝えたまでですよ」

 

 

 その言葉に征哉は内心首を傾げた。

 どう言う意味だ、と問い詰めると笑みを浮かべたまま男は次の言葉を放った。

 

 

「貴方、退学らしいですよ。お上様は貴方を手元に置いて、次世代を担う人物にすべく囲いたいらしいです。私の言葉で決まったそうですが」

「……やっぱお前か。映像を見ていて何かしたんだろうなとは思っていたさ。そのうちの1人にも耳打ちしたんだろ?僕が後輩で困ってる……ってさ」

「相変わらず聡明ですね。ですが私が耳打ちしたお1人も、既に亡くなっているそうですよ?フフ、無惨にも血痕だけが残っていたとか」

「ふーん、僕が殺ったって言いたいの?」

「嘘では無いでしょう?」

「……」

 

 

 どうやら男は征哉が殺ったと確信を持っているようだ。誤魔化せないと悟った征哉は目の前の男を殺そうか迷った。

 しかし征哉は無駄な犠牲は払わない主義だ。快楽殺人鬼でも無いため出来るだけ殺しは控えたかった。

 

 

「おや?口封じはしないのですか?」

「気分じゃ無い。それに、縛りでも結べば問題無い」

「へぇ……。変わりましたね。昔の貴方なら即斬り捨てていましたよ」

「はぁ?何の話だ」

「昔の話ですよ、む・か・し」

 

 

 男は唇が重なりそうな近距離にまで顔を近づけて、瞳を覗いてきた。

 男が言うことにマジで心当たりがない征哉は顔を顰めた。何言ってんだコイツ……頭おかしいんか。という表情だ。

 

 

「久しぶりの談笑もいいですが、本題に入りましょう。……いつまでぬるま湯に浸かってるんです?今のまま、中立を装って俯瞰するのは楽しいですか?えぇ……えぇ!さぞかし愉快でしょう。五条悟を騙し続け、上層部を慕うようで欺き、己はフラフラと彷徨(ほうこう)する」

「……あ''?」

 

 

 男の口から溢れる言葉は征哉の癪に触った。人を煽るのが上手い奴だと征哉は思いつつ、浮き上がる青筋を抑えることが出来なかった。

 

 

「上層部を革新、呪術界を改革?無理でしょう。深く根付いた風習はそう簡単に取れませんよ。特に、今の貴方ではね」

「……で?」

「フフ。はっきり言う所、変わりませんね。私が言いたいのはズバリ、貴方は光側ではないということです。彷徨っているのでしょう?だから革新派と保守派の間で暗躍なぞしている。可哀想に……貴方の努力と結果は釣り合っていない」

 

 

 ペラペラと口数が多い。要は、この男は征哉を闇堕ちさせたいわけだ。理由までは分からないが、少なくとも産土神任務はそれを目的としたのだろう。後輩が死ぬ事で心が折れてくれたら……、と目論んでいそうだ。

 

 

「あのねぇ、中立と言うには僕は汚れてる。かと言って僕は闇側じゃないんだよ」

「光側でもないでしょう?どちらかと言えば思考も相性も闇に偏っている。光は似合いませんよ」

「ハッ、それは知ってる。それでも僕が改革を諦めることは無い。僕は今の呪術界に呆れてるんだ」

「………はぁー。そうですか。少し期待はずれですが、まぁ、いいです。ですが、宿願を果たすには今のままでは厳しいですよ。貴方なら分かっているでしょう?」

「………」

 

 

 あぁ、分かっている。理解しているとも。先程男が述べた()()は正しい。今のままでは硝子にバレた時のようにボロは出るし、進度も遅い。無駄に気を使って精神を疲労させているのは征哉自身も感じていたことだ。

 上層部バレ以外にも例を挙げるなら、自主的に行う各術師に振り分けられる任務の確認、任務難易度が高いものを自分に割り当てる自己犠牲のような行い、上層部での立ち回りとそれ絡みの『お仕事』。こんな生活は肉体的にも限界が近くなる。

 

 

「お前は、僕が上層部一途である事が最善と言うのか。馬鹿げてるね」

「本音は呪詛師になって邪魔者をパパっと殺して……ですけどね。貴方の周りがどーーしても光側に縛り付けたいようし、貴方自身もそれを望んでいないようですから」

「……不愉快。僕に指図しようとは」

「フフ。でも実際、置く身を決めなければ成せるものも成せませんよ。五条側なんてもっともです」

 

 

 悟側に立つ選択は危険が伴う。少ない仲間と改革を目指したとしても数の暴力で妨害を受けるのだ。後世を育んだとしてもどれほど時間がかかることやら……。

 故に、征哉は既にこの道を選択肢から外していた。己が上層部を乗っ取れさえすれば勝算はあるのだけれど、それをするにはまず自分が上層部側に立ってトップとして率いねばならない。その為の媚び売り、立ち回り、『お仕事』だ。

 

 

「仮に僕がどちらかを選ぶとするなら……」

 

 

 何度も考えた最善と最良。悟に己の立ち位置を告げ、友好的且つ最速に革新を進められる方法。……こんな理想があれば楽だった。

 夢見ることは簡単だし語るのは自由だ。だが現実を見てみれば上記の方法での勝算は低い。何より征哉の負担が大きい。征哉とて全てを守ることは出来ないのだ。

 

 

 ……苦渋の決断であった。つい先日、傑と九十九由基との会話で自分は本音を選択しないと言ったばかりだと言うのに、もう選択を迫られている。

 どちらも取る選択。……この場合、悟に告げて上層部を乗っ取り、己が1人で全てを守ることがそれに当たるが、その選択は既に掻き消えている。

 

 

「上層部か、悟か……」

「猶予はありませんよ。早く決めてください。貴方らしくないですから」

 

 

 急かされても焦りは無かった。そして、明確であった。

 

 

「……悟側では成しえない、か。はぁ〜〜……。腹を括ろう」

「フフフ!やはり……貴方なら上層部を選ぶと思ってましたよ。五条悟に付くにはデメリットが多すぎますからね」

 

 

 上層部だけならなんとかなる。いつしかも言ったが、元々上層部は己1人でどうにかするつもりだったのだ。……ただ、目的が昔に戻っただけだ。悩む必要は、ない。

 

 

 征哉は気づかないうちに全てを守ろうとしていた。無駄な犠牲を払わないため、と言って知らぬ術師の安全も図り、悟側に有力な手助けもしていた。

 全て、たった1人で。己が背負っていた責任は酷く重かった。誰にも頼れず……あぁ、強いて言うなら己の分身体に頼りはしたが、それでもやはり賄いきれない重責だった。

 

 

あちら(五条側)はあちらで好きにやるのでしょう。私は貴方が気になるだけです。貴方と私は昔から気が合いますからね」

 

 

 征哉以外は心底どうでもいいと言うように軽薄そうに笑った男。

 己を見透かしたような発言をし、己の知らぬ事まで知るように語る者……征哉からしたら一等苦手な人種だった。しかも顔見知りでもない他人が、だ。征哉は強い不快感を感じていた。

 

 

「……!おい、どこに行く」

「貴方の決定をお上様の耳に入れなくては。本当は堕ちてくれれば良かったのですけど……まぁ、貴方と殺りあっても私が死ぬ未来しか見えないので止めておきます。この肉体は戦闘には不向きなので」

「は?……お前、まさか」

 

 

 男が言う意味深な発言。()()という言葉で脳裏に過った可能性。その肉体……、つまるところ仮初の姿。

 ちらりと前髪の隙間から見えた縫い目の跡。征哉は目を見開き固まった。

 

 

「いい逢瀬でした。ですがやはり、記憶のある貴方の方が面白い話ができそうです。また会いましょう、友よ」

「は、……」

 

 

 己を友と呼ぶその男──羂索は、固まる旧友に笑いながら去っていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 拝啓、1000年前の旧友へ。

 また会えて嬉しいよ。だが前世の記憶が無いようで残念だ。いや、無垢な君を喜ぶべきか?

 まぁ、次に再会する時は五条悟ではなく、私が隣にいることを願うよ。君のトリガーは私が持っている。そういう契約だからね。然るべき時に使わせてもらうよ。  敬具

 

 

 

 

 ひっそりと部屋の机に置かれた手紙。征哉はソレを読み終えた後、誰にも知られぬように影に落とした。

 

 

 

 





またまた、主人公についてサラッと大事なこと言ってる。
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