妄想と捏造の産物とご理解ください〜。
では行ってらっしゃいませ。
Noside
時計を確認する暇すら惜しい。とりあえず悟がいるであろう東京メトロ渋谷駅B5Fに向かって征哉は走った。
入り組んだ建物を横切って道を何度も曲がる。
ものの数分でたどり着いた渋谷ヒカリエの中に入ると、普段はグラサンに隠れているはずの美貌を歪めた。
「……(植物呪霊か)」
B5Fの副都心線ホームに行くための近道。それが原作で五条が降り立った大穴だ。
当の征哉もそこから飛び降りようとしたのだが、木の根に塞がれているようで通ることが出来ない。影の偵察によれば階段や通路も塞がれているようである。
「まだスマホ繋がらないんだけど〜?」
「まぁ、そのうち助けが来るっしょ」
「人多いよね。みんな電車待ちかな」
「なんかさっき誘導してる人がいたぜ。変な服装だったけど多分コスプレ」
「……ふむ。(人を集める係の呪霊、もしくは呪詛師かな?)」
呪術を使って道を作ろうにも人が沢山いる中では誤って殺してしまうかもしれない。
一体どうやって進もうかと辺りを見渡しながら考えた。これまた明らかに、弱者への配慮が征哉の鎖となっている。
走っている間に既に術式は回復している。領域展開で消費された呪力もストックから補充して万全な状態に回復させた。
いつでもバチコラできるぜ!と征哉は意気込み、高速で頭を回して木の根の突破方法を導き出す。
「【絶影】に任せて進む。うん、これで行こう」
通常の【絶影】は呪術を影の概念とぶつけて相殺する(それか跳ね返す)+万物を影で拒絶する事で絶対防御が成り立つ。
それを少し弄って、呪術もしくは呪術で生成されたものを取り込む【絶影】に変更した。
これにより拒絶型ではなく吸収型の絶影に一変したのである。
「はい、ごめーん。通してー」
「うぉ!」
「おい押すなよ!狭ぇーんだから!」
多分、この絶影は今回しか使わないだろう。
だが締結さえしなければその場に合わせた術式の使い方が出来るから、解釈の変更とは便利なのだ。己の頭の良さに感謝感激雨あられである。
「あの人の足元の木、溶けてない?いや、無くなってるのかな」
「て、足元に木???そもそも浮いてるよね??何言ってんのアンタ」
「あの人イケメン……超タイプなんだけど!!」
呪術が見える人と見えない人がいる中、どちらからしても征哉は異様だった。まぁ、これが正常の反応であるため気にしない。
慣れっこな反応で騒ぐ周囲を余所に、ストン!と足元の木の根が影に取り込まれていくのを征哉は見つめた。丁度B5Fまで落ちたところで変更した絶影の性能を戻す。
さぁ、ここからが運命の分かれ道だ。ドキドキ(意味深)と可愛くない音で征哉の心臓が暴れだした。
追い込みで過剰なアドレナリンも分泌し始めたのでハイになるまで後もう少しである。
「よぉ、久しぶり〜」
『お前は!』
「ペーペーにお歯黒。やぁっと見つけた♡」
ご自慢の金色の瞳に呪霊を映す。征哉の気分は上がっていた。
つい先程のタコとの戦闘はクソつまんなかったが、味がありそうなお歯黒を殺れるのは少し楽しみだったのだ。ちな、ペーペーは弱いから眼中に無いらしい。
「そこの雑草、会うのは3度目だな。舐めた真似しやがって。まずはお前から
悟がセリフを聞くにまだ戦闘は始まったばかり。ギリギリ間に合った征哉は心の中で息を吐いた。
心の中で息を吐いたところで征哉の考えることは物騒だ。「(悟がペーペーを
「征哉、アイツら領域に身を包んでる。簡易領域みたいなモンだ」
「術式の中和かな?なるほどね、それなら僕と悟にも攻撃が当たる」
だが、問題無し。悟と征哉はそれぞれの敵を相手するために線路に降りた。
悟は無限を、征哉は絶影を解く。言葉で言わずともやろうとしてることは伝わっているのだ。ズッ友ここにあり!運命共同体だ。
「ほら、来いよ。どうした?」
「逃げんなっつったのはお前らの方だろ」
『でやっ!!!』
『ふっ!』
悟はお歯黒の腕を掴んで投げ、征哉もペーペーの蹴りを足技で制止して転ばす。
体制を崩したお歯黒の右腕に跨る悟と、ペーペーの左足に跨る征哉。2人とも非常にえっちい体制である。
『うおっ!……ガッ!!!』
『グッ、ああ''!!』
「「せぇ〜の!!」」
ボキッ、ボギュっと音が鳴って呪霊の四肢の1部がもげた。無様な呪霊を双方は投げ飛ばす。反響する音を響かせながらコンクリの壁にめり込んだ。
体重と呪力操作のみでコレだ。彼らに触れられたことで呪霊側も征哉と悟が術式を解いていることに気付いたことだろう。作戦名、ゴリラ廻戦☆近接フルボッコである。
「(先刻の宣言は心理誘導か。そして彼ら、術式を解いている!)」
2人は術式の微調整を捨て、非術師がはけ始めたスペースで呪力操作だけのコンパクトな攻めに回った。
人混みに混じる必要も無い。ならばこちらは術式を使うまで。
そう考えて花御は術式を発動する。綺麗な程に征哉と悟のブラフに引っ掛かった植物呪霊。ほぅら、だから征哉にペーペーなんて言われるのだ。
「ハハッ」
「アハッ」
『ッ!展延を解くな花御!!』
嗤う悟と征哉はお目目をガン開きにしてハイになっていた。そんな目で植物呪霊に鋭利な視線をぶつける。
無理もない。なかなか骨のある相手なんて久しぶりなのだ。許せ、呪霊。
「ここ、弱いんだって?」
「ねぇ、僕だけ見て、感じて?」
それぞれの相手を交代し、タイミングよくすれ違いながら悟はペーペー、征哉はお歯黒の元に迫った。
悟はペーペーの目元の木を鷲掴みして勢いよく引っこ抜く。征哉はお歯黒の上に馬乗りになり、影で四肢を拘束して首を絞めた。ペーペーから発せられたべちゃべちゃと水気を含む音に最強達はほくそ笑む。
『ギャアアアア!!!!!!』
「やっぱりな!展延と生得術式は同時には使えない」
『ガッ…!……!!』
「こらこら、僕を見てって言ったでしょ?浮気〜?首落とすぞコラ」
判断を誤ったペーペーは再び領域展延を身に纏う。ゼロ距離の征哉に首を絞められているお歯黒も影による拘束から逃れようと、展延で術式を中和した。
ここで少し補足しよう。本来、付かず離れずでこの場にいるはずの脹相の姿はない。
B5Fの戦いは他の者達より2時間遅れているため、脹相も悠仁との戦いをしているor終えた頃なのだ。
仮に呪霊側に脹相の助けがあったとしても
つまり、いてもいなくても変わらない。なので脹相のことはスルーしよう。
「いいのか?お前らが展延で術式を中和するほど、僕らはより強く術式を保とうとする」
『ぐっ』
「悟の方の
『……!』
最強2人がハイになってる様は怖すぎる。どちらも目がキマッてやがるのだ。息ピッタリで口角アゲアゲである。
、そのくせどこか冷静であることが冷徹さを助長させる。
こんなにハイになるのは11年前の星漿体の任務以来だろう。
中々惜しい相手を蹂躙するのは興が乗って心が擽られてしまう。この界隈での最強と変態は同義であった。
「フッフフフッ」
『ううっうっ……ぐっ!!!』
「ハハッ、アハハッ」
『あ''あ……うっ!!』
解いた術式を発動し直し、2人は無限と絶影を纏った。悟はペーペーを壁に、征哉はお歯黒を床に押し付け圧迫する。
バリバリ……!ヂヂヂ!!と、どこが音源かも分からない騒音が駅のホームに響き渡った。
無限が花御の肉体を割り、すり潰す音である。見えてる人からしたら結構グロい。
『うっ……う''うぁ''』
『ッ五条悟!こっちを見ろ!!』
「シー、静かに。見るのはお前の方だろ?ほら、イくらしいよ」
『ぐっ、禪院征哉!貴様ァ!花御しっかりするのだ!』
『ぁ''あ''あ''、ぅあ''あ────!!!』
──バァン!!!…ヂヂッ……!
限界を迎えて花御は弾ける。未だ征哉の絶影で床に押し付けられている漏瑚はそれを目の当たりにした。その表情は人間で言う絶望だろうか。
『花、御……』
「派手な死に様だねぇ。お花らしく盛大に散れたようだ」
「…………次、征哉の方」
「分かってる。ククッ……、見てよ。コイツの顔、すっごい興奮する」
仲間が死ぬ瞬間を見せるのは性格が悪い。
兄ちゃん非道いなぁ(爆笑)と弟が両手を叩きながら言うのが想像できた。
ペーペーが死んだ瞬間、お歯黒の呪力が乱れたのを征哉は感じた。
馬乗りになったまま、その暗い顔をより一層味わうために下から顔を覗き見る。あまりにも人間臭いイイ顔をするものだから、可笑しく思って嗤ってしまった。
弾け飛んだ際の衝撃波によって電気が点滅、見えない非術師は呑気に天井を見上げた。
きっと今のシーンは見えない方が幸せだろう。見えてる一般人からしたら
「でも殺す前に……。ん、あったあった」
「……?何してんの?」
お歯黒の服の中に手を突っ込んで
「いいモノ持ってんじゃん」と言って掴んだソレは巻物に括りつけて封印されている宿儺の指、計10本だった。
件の姉妹校交流会の襲撃で高専の忌庫から盗まれたものである。
「これ、忌庫から盗まれたやつでしょ?」
「あぁ……、ハゲが持ってたのか。何をしようとしたんだか」
「傑に渡すよ」
「影には?」
「式神化呪霊がいるから無理。僕のは傑みたいに完璧な使役じゃないから」
征哉は【
影で送ることも可能ではあるが、それも道中での式神化呪霊の様子が心配なため【大海蛇】に運んでもらう。
原作のように
……そんな事に思考を割いたからだろう。押し付けていたお歯黒が力を振り絞って征哉に殴りかかってきた。
予想外の反撃に思わず征哉は反射的に飛び退く。あ''、と声を漏らし、一瞬だけ己の反射神経の良さを恨んだ。
お歯黒は逃げ足の早いことで、人混みに紛れてしまった。
『(……すまぬ花御)』
「あーあ、据え膳食わぬは男の恥……」
「最終的にヤれればいい。アイツを頼む」
「ん、頼まれた」
人、人、人。ホームに溢れかえるその間を征哉はゆっくり歩いて進む。
悟はペーペーを殺せた事で少しばかりハイも落ち着いたようだが、征哉はそんな事無かった。歪な笑顔を抑えて真顔にはなったが、目が怖いのは継続中だ。
ガンッ!
「わっ!」
「キャッ!」
逃げた呪霊を追って駅のホームに登る。コツコツ、と靴が静かに鳴った。
せめてもの抵抗か、呪霊は征哉に向かって人を投げるが、投げられた人は絶影に拒まれて空中で停止する。
浮いたまま停止している人達と外野は驚いて征哉を凝視した。その視線を諸共せず、征哉の目線は呪力を辿り呪霊を追いかける。
『ぐっ……』
「うぉっ!!」
「うわ〜!!」
「(花御の死を無駄にするな。人間に紛れ、ヒット&アウェイに徹するのだ!)」
「……はぁ」
ちょこちょこと人を投げて逃げ回る呪霊がウザイ。徐々に人々も異常現象の起こる征哉の周りを避け始めた。
このままスペースが出来れば動きやすくなるが、9割無理だろうから期待はしない。
人間の、特に平和大国日本人の危機感の無さを征哉はよく知っている。
現に死人が出ているこの状況でもスマホを構えて動画を撮っているバカがいるのだ。よっぽど死にたいらしい。
その上その他大勢の逃げるまでの行動も遅い。
今更征哉を避け始めるとか脳内お花畑かよってレベル。そもそも脳ミソにお花畑すらも詰まってないと思われる。
「(さっきみたいに術式を解いて誘うのは無しだな。近接フルボッコはもう晒したし)」
この狭い駅のホーム〜無能で馬鹿な非術師を添えて〜でどうやってお歯黒を祓おうかと考えた。そこで征哉の優秀な脳はピン!最適解を閃く。
征哉の瞬間移動は影の性質を応用して影中を移動しているものだ。
自分以外を転送させたことはないのだが、【大海蛇】がよくやっているのを征哉はちょくちょく見ていた。
式神にもできるなら僕にもできるだろ理論である。パクリはいつの時代でも至れり尽くせりだった。
「……クク」
『(何を笑っている……)っなに!?』
征哉は模倣した赫鱗躍動を使い動体視力を底上げする。
目の奥が熱くなり、動き回る呪霊の姿を1寸遅れずに捉えた。
呪霊の動きが遅く感じられる視界で、高速でお歯黒を捕まえる。
呪霊からしたら幾分か距離があったはずの術師がいきなり目の前に現れたようなモノだ。それでも瞬間移動では無いので甘く見てもらっては困る。
《八両編成で参ります。黄色い線のブロックの内側でお待ちください》
『(来たか!)』
「……悟!!!」
「っ!何?」
よく通る機械の声。
呪霊をがっちり掴んだ征哉の耳にアナウンスが入った事でこれからの展開を悟った。
念の為に影で索敵するが、結果は予想と同じ。ツギハギと電車に乗った改造人間が近づいている。
この駅に着いた時点で場は混沌と化すだろう。肩を竦め、流し目で悟を見つめて声を張り上げた。
《ホームドアから手や顔を出したり、もたれ掛かるのはお止め下さい》
「今の警笛、聞こえたろ。ツギハギと大量の改造人間が来る。僕はお歯黒を外で相手するからここを任せていいか」
「ここじゃ狭すぎるってか」
「うん」
『くっ、離せ!』
「黙れザコ」
電車の音に「助かった!」と騒ぐ一般人。地獄への片道切符車両なのに、と征哉は心の中で零した。
手中で暴れる呪霊はさながら反抗期、いや更年期のジジイだ。あまり時間をかけるとまた逃げられるので早速影での移動を開始した。
「一応、言うけど。額に縫い目のある僕は偽物だからね」
「……分身ってこと?どちにせよ、ここが終わったらすぐ行く」
「いや、うん。ゆっくりでいいよ。きっと間に合わない」
「あ''?」
悟には征哉が何を言っているのかが分からなかった。しかし問い詰めようとも長く話している暇は無い。
悟が首を捻っている間に影が征哉と呪霊を飲み込んだ。ごめんね、と誰に、と言うまでもない言葉を影中で零したのを悟は知らない。
「ほらよ。いい加減僕にくっ付くのやめろよ猫背ジジイ」
『儂は離せと、言ったはずだ!』
「来い、【
暗くなりそうな気分を切り替えて、拘束していたお歯黒を影に投げ飛ばす。影から出た先はきちんと目的の外であった。
結界術に長けた【
どうやら此方側より相手の方が帳の技術は上らしい、と現場を見て判断した征哉は式神を帳突破班に向かわせた。
ついでに【
既に帳は破壊されてるかもしれないが、まぁ、一応ということだ。溢れた改造人間の処理役も用意してある。
これにて現在顕現中の式神は【
はっきり言ってキッツー!!だが呪力はストックから勝手に使っている様だ。これだから自立思考型は愛して止まない。
「いいね。ほら、僕の興が冷めるまで付き合ってやるよ」
『……殺す』
「ふふ、でもそちらの協力者サマは僕に心酔してるようだけど?」
『出来れば、の話だ。貴様は我等に着く気は無いのだろう?ならば殺すのみ』
「どうだろうね。僕にかすり傷でも付けられるなら期間限定で協力してもいいけど」
立ち並ぶビル群は流石の東京・渋谷らしい。人っ子一人いないそこは開放感に溢れていた。
少し不穏な発言をしている征哉だが、これらは闇堕ち宣言という訳では無い。
征哉の最終目標はクソメロンパンを如何にしても殺す事。それが遂行出来れば呪術師側でも呪詛師側でも関係無いのだ。
アイツ殺すまでならお仲間ごっこしてやってもいいけど?と超絶上から目線で言っているのである。普通にムカつく。
「まぁ、無理だろうけどね」
『……何だと?』
「弱ぇって言ってんの。僕と殺りたいなら宿儺とか、お前らの協力者を連れて来て欲しかったな」
取るに足らない。そう言って嘲笑えば呪霊は頭を煮えたぎらせた。
火山の火口を出現させて征哉を焼き殺そうとする。一瞬で辺りは炎の原野に成り果てた。
灼熱の攻撃は全ては絶影によって防がれる。
熱気すら感じない中で征哉は偶に絶影を解いて体術を仕掛けた。お歯黒からの傷は1つも見当たらない。
『二言は無いな?先の言葉、忘れるなよ』
「フッフフフ!!」
『けっ!』
「それだけか?……ん」
炎を纏って伸ばされる呪霊の右腕。その炎の部分を避けて腕を絡め取り、締め上げる。そこで呪霊は自らの腕を切断し、距離を取った。
火の火力と素早い動きが奴の武器であることが丸わかりだ。動きを止めてから押す事がお歯黒との戦いで重要だと征哉は見抜く。
「来い、【
『ほう?式神に逃げるのか?』
「認知症の相手はダルくてね。小言も多いから黙って欲しいのよ」
要はさっさと死ね、という意味だ。
よって征哉はお歯黒を相手に機動力が優秀な【幻狼】を顕現させ、動きを止める役割をさせるた。ガウッ!と吠えた幻狼とお歯黒の追い駆けっこである。
『ウ''ウ''ゥ''!!』
『ちっ、この犬っころめが!』
「幻狼。戻れ」
『ッ!ぐァッ!!!!』
仕事が出来る式神達は大好きだ。
自我のある式神は征哉の考えも汲み取って行動してくれる。式神を作ってよかった、と征哉は心から思った。
慣れてしまった戦闘に、体は自然と動く。
【幻狼】がお歯黒の喉に噛み付いたのをキリに、できた隙を狙って思いっきり蹴りあげた。蹂躙サッカー空中戦☆のスタートだ。
「ほら、もっと足掻けよ!もっと、なァ!!」
『がッ!ぐっ、あ!お''ぇ、ああ''!!』
征哉が思いっきり蹴り上げた事で空中に放り出されたお歯黒。
その行く先々(空中)に征哉は転移し、鋭い蹴りと殴りを与える。そのうち何発か黒閃も出ていた。
空中に停滞できる征哉と違ってお歯黒は自由落下、もしくは征哉の攻撃によって吹き飛ぶ事しか出来ない。ダメージの受け方を見るに、勝敗は期していた。
バシッ!ボキ!!!ギチュ!!!!
『……!!(分かっていたが、あの話は誠なのか……っ!)』
浮遊感と痛みをひたすらに感じた漏瑚。負って直せど新しい傷が増えていく。
攻撃後に体制を立て直せばいいのだが、吹き飛ぶ先には既に最強がいる。空中サッカーは影が満ちる夜だからこそできる所業だった。
「ハハッ!」──バチィ!!!
『かはっ……!(まさかここまでとは!例の儀式が終わったらどうなると言うのだ……!!)』
ぐっ……と、征哉の脚が呪霊の腹にめり込む。腹に風穴が開き、紫の謎液が征哉の頬につく。
父親譲りの足技はあの甚爾ですら痛いと思うレベルだ。そんな蹴り(全力の黒閃付き)を受けたお歯黒はビル群をぶっ壊しながら結構な距離を移動した。
「ハハッ、最っ高だね!!」
征哉はかつてのペーペーと同じように空中ランデブーをしているお歯黒を追う。その顔には狂気が滲む笑みを浮かべていた。
愉快な殺意、それが正しい表現である。ハイになった頭と視界は敵しか映さなかった。
◇◇◇
夏油傑side
「ん?」
「あ、……」
__……ン!バン!バン!!バン!!!
ズドンッ……!!!!!!!
ビル群を突き破る衝撃と勢いのある墜落は地響きとなって渋谷の各地に響き渡る。
数分前に征哉の式神から宿儺の指を受け取り、鉢合わせした日下部班と合流した私の耳にもそれは勿論入った。
この場には私以外にも美々子や菜々子、かつて拾った術師達もいる。轟音に皆の意識が向いたのを感じた。
「おいおい、なんだ!?」
「近づいてきてるぞ!気をつけろ!」
「この呪力は……征哉か?」
分かりやすい呪力だね。乙骨程じゃないにしてもその肉体に宿る呪力量は桁外れ。灘らかな水のような呪力の質も、征哉特有のものだ。
……バァン!!!!!!
「フフフ!フハハハハ!!!そんなものか?」
『まだ、……まだだ!』
「呪霊!!!!」
墜落音と爆破音のした方向から2つの影が空中へと飛ぶ。
そのうちの片方が征哉だろう。轟々と燃える炎がよく見える。悟が言ってた富士山頭かな?あ、頭からビーム撃ってる。
うーん。それにしても、征哉は悪魔か何か?ハイにも程があると思うのだが、こりゃダメだね。あの笑い方は手遅れだ。私にも止められない。
「暑っつ!」
「夜なのに空が赤いぞ。やばくねーか?」
「日下部さん、少し離れましょう。ここにいては征哉の邪魔になる」
肌寒い季節だというのに汗をかいてしまった。急激に気温が上昇している。真夏かよ。
あの赤い空、その真下のビルは崩壊している。一端の炎では無いね。マグマかそこら辺か?アイツのことだから心配なんて杞憂だろうけど。
バババ!!ズドンッ!!バリバリバリ!!!
「破壊の限りじゃねーかよ。とんだ問題児だな……」
「総監すげ〜。パンダにはアレ無理」
日下部さんとパンダがボソッと呟いたのを横目に、暴れる征哉を見た。
ビルに押しつぶされそうでもビルごと断ち切るし、呪霊を押さえつけて蹴り殴り、そのままビルにぶち当てながら最上階から地上まで一気に叩き付ける。
人がいない分日頃の鬱憤を晴らしてるのかな……。それでも暴れすぎだとは思うけど。
ドン、ドン!ドン!!バン!!!!
「ハッ!!!そうだ、目ェ奪われちまったたけど、特級同士がやり合ってるんだ。アリんこの上で象がタップダンス踊ってんの!!!!お前ら逃げっぞ!!!」
「早く!早く!!」
「一応言うけど!俺たちがアリなァ!!!!」
「うん、早く逃げた方がいい。私は平気だけどね」
「傑ゥ!!パンダ連れて逃げてぇー!!!おーねーがーいー!」
「はいはい」
呪霊を叩き付けたビルが物理的に大炎上している。業火だよ。
あの中に征哉がいるのもヤバいけど、調子こいてピンピンしてるだろうから、心配するだけ無駄ってのは経験から分かってる。
彼の事だ、呪霊に暴言吐いて怒らせてるんだろうね。口が悪い節があるし。っと、やばい。あの呪霊、大技出そうとしてるな。
『極ノ番【隕】!』
「パンダ!無駄口叩くな!!逃げるぞ!!!」
「全員、そこから動くな」
「「「「!!!」」」」
「お、征哉」
「やぁ、傑」
ふと、逃げようと背を向けた背後から聞き馴染んだ声が聞こえた。
やっぱりね。私がいるんだもの、征哉が私を守らないはずがない。対して焦っていない様子を見ると、戦場ってことを忘れて一安心してしまうよ。
きっと何か策があるんだろう。……ん、おっと?領域を展開するのか??え、ここで???
いやはや、コスト的に予想外だけど、あの大きさの熱々な隕石だと領域展開の方が安くつくのかな。
ヘタな解釈で頭回すより必中効果で
あぁ、これだから征哉の術式は恐ろしい。無を有に、有を無に変えちゃうんだから。
「領域展開【
紡がれた言葉とともに広範囲の領域は展開された。
私が見た限り、必殺効果を捨て、代わりに広大な範囲を得たんだろう。敢えて
パラパラ……。
『ぐぬゥ!!!』
「今の技、良かったよ。でもなんで領域を使わなかった?」
『領域の押し合いで勝てないことはわかっている』
「ククッ、僕の領域は今が初めてなのに?あぁ、悟での経験則か。負け犬根性極まれりだな」
『くっ……』
あの巨大な隕石が消えた。いや、消えたと言うより崩壊かな。
砂塵と化して崩れていく。その背景に、征哉の領域の特徴ともいえるやたら眩しく輝く黄金月が見えた。
彼らの会話を聞くに、どうやら征哉と呪霊は火力勝負をするらしい。
あれだけ炎はエネルギーの燃費が悪いって言って使わなかったのにね。最期くらいってやつかな。
「お前の得意といこう」
『(炎!?やつの術式は影を操るのでは無かったのか!)』
「知らないんだ?あ、そっか。アイツ、お前らに僕の存在だけしか伝えてないのね。……可哀想に」
征哉が言うアイツ、とは誰だろう。内通者?いや、メカ丸からはそんな話は聞いてない。
はぁ、……また何か1人で抱え込んでいるのか。何回私達の胃を痛めれば気が済むんだか。悟が知ったら怒るぞ?
人の気も知らないで、征哉は熱く揺らめく蒼炎を纏う。
赤い炎は不完全燃焼。青い炎は完全燃焼だ。そもそもの温度がまず違う。強弱は瞭然だった。
「解。……なァ、お前。人間になりたかったの?」
『……』
「分かってる。人間の位地だろう?お前さ、向上心ないんだよ」
『……は』
「100年後の荒野?己じゃなくともそこに呪霊がいたらいい?人として立ちたいって望むならお前自信が立てばよかったんだ。捨て身は愚策。お前は所詮、逃げてるだけだろ」
夜のような征哉の領域が解ける。……燃えている。呪霊が征哉の火力に負けて燃えている。
征哉の炎は燃費が最悪な代わりに高温で火元が大きい。
一言で言えば扱いやすいものではない。よって彼は炎を使いたがらない。
常識として、炎は温度や燃焼状態、燃焼物質によって変わるが、征哉は素で色が付く。
最上位の白まで出せるらしいが、最初に白炎を作り上げた時は危うく焼死しかけたと聞く。というのも、火力が両極端すぎるあまり赤か白の炎しか扱う気になれず、その間の炎はコントロールが難しい、と。
征哉の炎は術者を含める全てを燃やさんとする。
制御困難でコスパ最悪だが、最下位の赤でも高火力すぎる。あの富士山頭にも勝るだろう。だが、態々必要のない蒼炎を出すくらい相手を認めたのは意外だった。
『そう……かもしれんな』
「訂正しようか。お前は今まで僕が戦ってきた奴らでも差をつけてマシだった。誇れ、お前は強い」
『……な、なんだ。これは』
「さぁな」
涙。呪霊が本来流すはずのないモノだ。
こういうのを見ると複雑だな。術師、呪霊、人、その差か。私の目に悪いものだ。そこのところ征哉は何も思ってなさそうだが。
「死んだか。……は?征哉?」
「……残念。迎えが来たようだ」
「せ、征哉サーン。総監ーー。どっちが本物かなー……?」
「パンダ、帰った方がいい。日下部さん達もね」
「別に帰らなくてもいいよ。すぐ終わるから」
「チッ、お前は黙ってろよストーカー」
呪霊が焼け死んだ。征哉によって祓われた。そこまではいい。でも、なんで。なんで征哉が2人いる?
目の前には今し方呪霊を払った征哉、その目線の延長線上にも征哉がいる。
は?私がおかしいのか?いや、でも、パンダも日下部さんも見えている。
待て、待て待て。変身の術式か?だとしても呪力の質まで同じなのはおかしいだろう。
「皆、下がってな。それか逃げろ」
「パンダ、逃げます!!ほら、お前らも行くぞ!!!」
「ッおう。何が起こってんのか分かんねぇが、今は逃げだな。ここにいたらマズイ」
「なーんだ。逃げちゃうの?驚かそうかと思ってたのに。ま、いっか。一先ずおめでとう。君は選ばれた」
「ちっとも嬉しくねぇよ変態」
分からない。何ひとつ理解出来ない。でも征哉は動揺していない。クソッ、知ってたのか!
カラン、……コロン、と音がした。征哉の足元からだ。私はその
禍々しい気配だ。恐らく、破壊するのを断念するレベルの呪具。嫌な予感しかしないんだが??
「悟かなってずっと思ってたけど、まぁお前のことだからって納得したよ。僕の事大好きだしね?……僕はまだまだ強くなれる。それこそこの世界の誰よりも強く。総合的に見て悟より厄介だもんね」
「ご明察。記憶が蘇った暁には是非とも君の答えを聞きたいね。私はいつでも受け入れるよ」
何処からか【
……やられた。自己犠牲か?征哉はそんな柄じゃないでしょ。あー、何なんだこの親友は!手の焼ける!!!
「征哉!!出てくるんだ!!」
「【獄門疆】開門」
偽の征哉(多分)の方が言った言葉で呪具は発動した。大きな赤い単眼が征哉を見つめている。
……なんだ、アレは。見たことないぞ。第六感が警告を鳴らしてる。早く離れろよ。ねぇ、征哉。早く逃げないと。
「ごめんね、傑。悟にも言っておいて欲しいな」
──
「バカ、自分で言わないでくれるかな!何しようとしてる!!!」
「ご覧の通り。僕って結構訳ありでさ〜」
そんなの分かってる!だから脳が情報の処理に徹してるんじゃないか!
仲間も結界を割ろうとしてるけど無理だ。征哉の結界術は天元の次に優秀なんだぞ。殴ろうが攻撃しようが絶対に割れない。式神の縛りがあるなら尚更な!!!
「約束。覚えてるか?」
「……な、何だい。覚えてるさ。忘れもしないよ」
「ふっ、ならいい」
──
「そのとき時は躊躇せずに、本気で殺せよ」
「は……」
──名は【月詠】
それはかつて存在した誰かの名だった。日いづる国の、神の名称だった。
刹那、征哉は力無く倒れた。式神の顕現も解け、体から肉片を伸ばしたようなものが生える。
きっとあの呪具の効果だ。……分かってしまった。あの状態から覆すことは出来ない。もう1人の征哉が何かしたんだ。
「10回だ。10回、詠唱を唱えた」
「は?」
「彼の前世……今世の肉体に封印されていた前世の魂を解放するための『布瑠の言』だよ。呪力も体力も、贄も、大分使ったなァ〜。準備に時間かかっちゃったよ」
征哉と瓜二つな顔で言った。解かれた封印に基づき、征哉の脳内には前世の数百年分の記憶が流れ込んだのだと。それ故に征哉の脳はショート、気絶した。
よりにもよって呪術的因果の前世……!!とんでもない爆弾を抱えてやがるじゃないか!?
コレは絶対悟も知らないだろう。クソッ!いつもいつも私達をヒヤヒヤさせやがって!!!
「は……?傑、どういう事だ」
「や、悟!」
「悟!よく聞け!!奴は偽物だ!!!」
瞬間移動で現れた悟に今の状況を簡潔に説明した。
式神が解かれて結界が解かれたため、悟が征哉の傍に駆け寄るが眉を寄せて険しい顔をする。その指先が征哉に触れるのを躊躇っているように感じた。
普段の悟なら、征哉を抱き抱えるくらいのベタベタなスキンシップをとるだろうに……。一体六眼に、何が視えているのだろうか。
動揺しながらも私は偽の征哉を警戒しながら臨戦態勢をとった。
悟は、私に聞こえるように小声で話をした。体は緩急しきっており、呪力も感じられない。呪物の異質な呪力により覆われている。詰みだ、と悟は言う。
依然として舌打ちをした。最強の禪院征哉を拘束するような呪具をなぜ敵が持っている。
「記憶、って言ったか。脳がヒートを起こしてるから負荷が掛かってるはずだ。意識不明で自己治癒もできない。このままだと死ぬ」
「何とかならないのか」
「……僕には、何も。お前は」
「くそっ……!」
そんなこと言われたって絶望的だろ。
呪具は恐らく封印系のモノだ。悟なら詳細を知ってるかもしれないが、「詰みだ」と言った時点で察している。
悟が征哉の頬に手伸ばす。
薄ら開いたままの目は虚ろだった。金色は濁りきり、鼻血も出している。夢でも見ているかのようなぼうっとした顔だった。重症だろう。ここまで自分の無力感を感じたことは無い……!
「それからそこのお前。征哉の偽物、それとも変身の術式か?」
征哉を背に庇って言い放つ悟。その瞳は揺れてる。心が乱れているのを必死に隠しているようだ。
……あぁ、そうか。悟も困惑しているのか。私でも呪力の質が同じだと分かったんだ。悟の六眼も、情報としてはヤツを禪院征哉と認識するだろう。
「で、誰だよ?お前」
「禪院征哉だよ。どう見てもそうでしょ?」
「肉体も呪力も、……この
悟は表に出さないだけで、その内面ではガキっぽく苦悩している。ヤツが出てきた一瞬、私でも思考が止まった。アレは間違いなく本物、でも中身が違う。アレは征哉ではない。
ガワを被っているんだ。原理は知らない。が、征哉と特段長い付き合いをしてる悟の心情は想像に容易い。私も怒っているから。
「だが、俺の魂がそれを否定してんだよ!!!さっさと答えろ!お前は、誰だ!!!」
「……キッショ。なんで分かるんだよ」
目を疑う光景だった。
ヤツは額の傷から接続糸を抜き取り、頭蓋骨の上部を外す。開け放たれた白い脳みそが生者とは思えない有様だ。気色が悪いのはどっちだ……。
「ッ!!」
「そういう術式でね。この体も許可はある。前世の彼のだけど」
脳を入れ替えて肉体を操る術式。ンな事が有り得るのか。
征哉の体で、征哉の顔で、ソレをするのを止めろ。憤怒でどうにかなりそうだ。
脳汁ダラダラ出しやがって。汚いゲス顔も、お前がやる全てが私達の神経を逆撫でする要因だ。
「肉体に刻まれた術式も使えるよ。まぁ彼、あ、前世の彼がね、保険を掛けてくれたおかげで不自由は多いけど」
「「……」」
「全く……困っちゃうよね。でも私の目的には使えるから、当たりが引けて良かったよ。安っぽいギャンブルは得意じゃ無いんだけど、彼が折角用意したプレゼントだし受け取らなくてはね。私からも約束通りに記憶をあげれたし、あとは彼が戻ってきてくれればいいかな」
ペラペラと中身の脳みそはお喋りが好きなようだ。征哉ならこんな長話は絶対にしない。寧ろ言葉足らずの方が多い。分かりやすいほど、完璧に偽物だ、コイツ。
……待て、奴は今なんと言った。が戻ってきてくれれば……だと?まさか……いや、可能性は大いにある。
ピクッ……。
「お!噂をすればかな。フフ、おはよう、月詠」
征哉はゆっくりとした動作で頬に触れた悟の手から抜ける。顔をあげて偽物の方を見た。
視線が合わない。何故私と悟を見ない?先程の可能性が頭を過ぎる。頼むから、嘘だと言って欲しい。私にも、それより悟にとってそれは酷がすぎるだろう。
「……久しいな、マセ餓鬼。あれから何年経った?」
「ざっと1000年かな。会いたかったよ〜」
「そうか。……人間、俺の顔に何か付いているか?凝視されるのは実に不快だ」
最悪だ。なんてこった。
封印された記憶が解かれたならその記憶に飲み込まれることもある。今の征哉はまさにその状態だ。昔を生きた前世が征哉の肉体に浮き出てきている。
「なっ……せ、征哉。お前……」
「ほう?五条家の者か。摩訶不思議。縁は繋がるのだな」
「月詠、君やってくれたよね。いやーしっかり騙された」
「ククッ、気に入ったか?体を貸すとは言ったが全てを扱えるとも、捨て置いていいとも言っておらんからな」
ダメだ。悟は精神的に限界だ。私もだいぶSAN値がヤバいが。ここで発狂したらもっとヤバくなる。耐えろ。耐えるんだ。
「……月詠と言ったかい?征哉は、征哉は戻るのか?」
「そう心配することはない。今は記憶を馴染ませているところだ。従来、同一人物だからな。死なせはせぬ」
口調は征哉と変わらない。少し古臭い気もするがそこまでだ。ただ表情が違う。いつもの明るい雰囲気ではない。冷たく静かなそれが漂っている。
「で、何故俺は封印されそうになっている?」
「君が言ったんじゃないか。記憶を馴染ませてるって。つまり暫くしたら君は月詠では無く、月詠の記憶を持つ禪院征哉に成るんだ。君強すぎるからね。味方なら心強いけど敵の場合私の目的に邪魔なの」
「ほう、卑屈め。俺の信者らが黙ってないぞ」
「だろうね。だからいつか封印は解除するよ」
少し、征哉の前世と偽物の関係が分かった気がする。めちゃくちゃにコイツ嫌いってのが征哉(前世)から伝わったね。
これ以上ないってくらい絶対零度で背筋が凍る眼だった。禪院征哉じゃ、見た事ない顔だよ。
ここまで来て段々と征哉の雰囲気が戻ってきたのを感じる。
偽物の言葉を借りるなら、月詠がただの記憶に戻り始めたということだ。あくまでも前世の彼は記憶の域をでないらしい。それは、良かった。本当に、良かったね悟。
「おやすみ、月詠。新しい世界でまた会おう」
「征哉!!起きろよ、聞こえてんだろ!」
体は共通。今は意識が分離しているが融合の途中だ。征哉も今起こってる事は分かっているはずなんだ。だから悟もそれに呼びかけている。
「偽物ら征哉の見た目で好き勝手するの止めてくれないかな?あらぬ誤解が生まれるんだ」
「あはは、それは無理なお願いだね夏油傑。移動できるならとっくにしてるよ!でも彼の肉体は特別だから、なんせ彼は「おい」……おっと」
「人の過去をベラベラ喋ってんじゃねぇよ。それは僕の地雷だストーカー野郎め」
「ッはは!征哉、で合ってるよね?」
「あぁ、頭がクソ痛ぇけど禪院征哉だよ」
え……。悟が嬉しそうなのはまぁ、いいとして。記憶の融合早すぎじゃないか?
確か数百年分の記憶だろう?死んでない事にもびっくりなのに元気が過ぎるんじゃないか。
しかし、振り返ってみれば、征哉があの約束を掘り返したということは覚悟もしてたって事だ。
融合と言えど、いつ人格や考えが変わるか分からない。それこそ封印解除後に敵か味方かなんて見分けがつかない。
「おーい、さっさとしてくれよ。むさっ苦しいうえ眺めも悪い」
「そうだね。もう少し話したかったがそれはまた次の楽しみとしよう。言い残すことは?」
「あるね。悟、傑。僕が封印されてヤバい事は分かってるだろ。だからあとは任せた。」
「……あぁ。すぐ出してやるから」
「私と悟がどうにかする。アレは殺していいんだよね?」
「勿論。アレに付与されてる術式は面倒いよ。影の兵士だ」
所謂私の呪霊操術のパクリだ。式神化呪霊よりよっぽど使い勝手の良い『影の兵士』。それが付与されてる体となると……なるほど、非常に厄介だ。
応用として影の兵士との場所の入れ替えもできるだろう。征哉のような影の性質は無いはずだから瞬間移動でないだけマシかもしれない。
「はい、いいよ」
「ククッ、閉門」
私と悟は征哉から距離をとった。
呆気ない封印だ。最後に私達を見た瞳に応えられるように、今は全力でやるべき事をやる。
──ズドン!!!
「ッなんて奴!!さすがだな」
手のひらサイズになった呪具が地面にめり込む。蒸気のような音を立てながらバグを起こしているみたいだ。
大方、征哉の情報を呪具が処理出来てないんだろう。大丈夫、あれを取り返せばいい。絶対に逃がすものか。
「「やるぞ、傑/やるよ、悟」」
3人で最強なんだ。一人も欠けることは許さない。
◇◇◇
禪院征哉side
「まずったなぁ……。これやばいよなぁ、予想はしてたけど」
ズキズキと鼓動と共に伝わる頭痛に米神を押さえた。頭の中で巡る記憶も脳が拒絶しているようで理解し難い。
思った以上に前世が過酷な生い立ちと人生だった。ありゃ闇堕ちしても仕方ない。うん。それにしても色々と謎、というか保険の原理が見えて良かったかも。
「経験値引き継ぎかな?まーた強くなっちゃった」
記憶を取り戻したことで前世スペックも自動的に受け取ったらしい。嬉しくは無いな。あんな記憶を見たら逆に死にたくなってくるわ。
ヤダヤダ。いっそ闇堕ちした方が楽なのは昔の僕に共感する。
……あ、だから前世は闇堕ちしちゃったのか。何も見たくないし考えたくなかったんだ。
「……はぁ、ここから出たら考えよっと。それより獄門疆の中ってこうなのか」
物理的時間は流れてない。でも骸骨が五月蝿い。考えすぎると発狂するパターンの内側ね?
カタカタ、と過去に封印されて自死した骨がいっぱいある。考えすぎると発狂はアタリかな。呪具の封印系って大体はそれだし。
「まぁ、何とかなるか。頼んだよ、皆」
出来ることはやってきたつもりだ。後は皆に任せるしかない。
することもないから発狂するのを防ぐために目を閉じた。……1人ってやっぱ寂しいね。
チートがいなくなったことに作者も一息。どうせすぐ出てくるだろうけど。