御三家に生まれたので生存戦略を遂行する   作:超甘味

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妄想と捏造の産物とご理解ください〜。
では行ってらっしゃいませ。

キモイ表現が出てくるので注意。


黄昏の虚空に晴れ来り。─肆─

 

 

 

 彼は問うた。

 

 

 ──神は存在するか?

 

 

 人々は肯定する。

 

 

 ──神は救い与え、願いを叶えてくれるか?

 

 

 皆が目を向けて頷く。

 

 

 ──神は見返りを求めるか?

 

 

 ソレは迷わず首を振った。

 

 

 ──神は創れるか?それとも成れるだろうか?

 

 

 ヒトは首を傾げ、彼は金眼を閉ざした。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 月詠side

 

 

「あぁ、あぁ!私の愛しい御の子。この母上に加護を下さいな」

「執拗い」

「貴方は素晴らしい。貴方様の母になれて、この上なく喜悦ですわ。ご降臨くださって私は……!!」

「……」

 

 

 この世に俺という生命が誕生した瞬間から、きっと俺の運命は決まっていたのだろう。

 

 

 母と呼ばれる女の腹から出て、初めて日の眩さを感じた。逃れられぬ鎖に縛られたままボヤけた視界を開けたのだ。

 そして皆に祝福された。四肢に見えない鎖が巻かれた。祝福なんてものでは無かった。

 

 

「神の子!貴方が神であらせられる。どうか願いを叶えてくださいませ」

「……問おう。望みは」

「永遠なる美貌、不老と不死。私の子なら、母上の願いは叶えてくれるでしょう?」

 

 

 神、そんな存在がいるのならそれは俺ではない。

 そう思いたかったが、俺は自他ともに認める神であった。神は神でも仮初、紛い物、人間。……どれも言い当て妙だ。

 

 

 女の腹に宿ったのは確かに人の生命だった。

 だがそれがどうだ?望み(呪い)が曲がりに曲がって『神』ができてしまった。そこには決して、俺の意思なんぞ無い。

 

 

「……父上が呼んでいた」

「へぇ、あのサルが?」

 

 

 近親交配。俺が産まれた時代にそんな言葉は無かったが、大体の人間は意味が理解出来るだろう。

 親戚同士が夫婦となり、子供を産む。その子供同士も親戚と……、そんな家に俺は生まれた。それを知った時は絶望した。最悪だ、この家。最悪以外のなんでもない。呪いと血が濃すぎる。

 

 

「女ァ!子種の時間だぞ!!」

「チッ、耳に触るわ。ねぇ、貴方。次はもっとお話しましょう?」

「父上は手に焼ける。……母上も、早く行った方がいい」

「はぁ……。早く大人になってね。母と目交いましょう」

「………」

「早くしろ!待たせるな女!!!」

「叔父上様、そう大声を出さないでくださいませ!!この子の体に障ります!」

 

 父上と母上は家系図的に叔父と姪の関係だ。俺の知る中で3世代も続いて兄妹で番ったヤツもいる。

 その4世代目には女が1人だけ生まれたそうだ。それが5つ上の、俺の従姉妹。

 

 

 女が1人、と噂で聞いて可哀想だと思った。

 この家の女子で初潮を迎えたら最後、夜になる度に艶めかしい喘ぎ声が放たれる。鳴き声も、泣き声も、嘆き声も。狂いそうだった。

 

 

 5つ上の従姉妹は既に初潮を迎えたため男に喰われている。

 2週間ほど前まで許嫁がいたそうだが、病弱故に死してしまったらしい。血が濃いせいだろう。

 

 

『あん♡あっ、ぁ''あ〜〜♡♡も、っと♡くださ、ッ〜〜♡♡♡♡』

『ほぅら、お前が好きなッ、魔羅だ♡♡!!』

 

 

 それからというもの、夜になれば従姉妹の、彼女の快楽に堕ちる声がよく聞こえてくるようになった。

 伴侶が亡くなった途端にコレだ、言葉など出てこなかった。いっそ死んだのが許嫁ではなく、貴女であれば良かったのに。

 

 

 伴侶が決まらぬ限り、男子共は手当たり次第に交配する。発情期の野獣のように、理性など無く。

 無論、伴侶と番った者達も毎晩のようにお盛んだ。名ばかりの関係値であることが、あの化け物共の首輪となっている。しかし、手綱が無ければ意味が無い。

 

 

 奴らがやることは子供を作り、血を残す為と説明されるが……気色が悪い。肌と肌がぶつかる湿った音も、やたら女を触る男の手も、醜い喘ぎも全てを嫌悪する。

 

 

「ヤらねばできるものも出来んぞ!できる限り子を産む、それがお前の仕事だろう?」

「まぁ、なんてこと、叔父上様……」

 

 

 世代を重ねたせいで頭もイカれて、性格と感性も悪い。挙句には呪いを扱い、神を創った。これを化け物と言わずして、なんと言う。

 近親交配は血が濃くなりすぎて遺伝子疾患が多くなる。子供もできにくいし奇形児も生まれる。

 

 

「この子の前でなんとはしたない……」

「構うものか、ガキが分かるわけもない」

「御身は御神体で在らせられるのですよ?何より、私がお恥ずかしいのです!」

 

 

 子供ができなければ絶えるだけだ。盛んになればなるほど、血の濃さに拍車がかかってしまった。

 それでもなぜ子供ができないのか奴らは理解していない。だから、一族に他の血を入れようとせず余計に子作りに励む。負の連鎖だ。

 

 

 何もかもが常識から外れていた。他の貴族も近親交配はするだろうが、そこには情も愛も互いの承諾もあったはずだろう。

 ……ココに、そんなものは無い。獣が人の皮を被っているだけだ。

 

 

「貴方ももう10でしょう。そろそろ妻を娶ってはどうです?」

「……」

「神の血を引く我等には、その血をより濃く永続させる必要がございます。そうだわ!叔父上様の娘、貴方の腹違いの姉が12でしょう。その娘にしましょう!」

「……好きにしろ」

 

 

 先程言った通り、家は時期が来たらすぐにヤルことをヤル。

 だから俺を含めた父や母との年の差はそこまでない。故に次世代を迎えるのも早い。

 

 

 50年あったら5、6世代はいくだろう。俺が初代から何世代目かは知らんが、一族のイカれ具合から予想するに長い間こうしてきたと思われる。

 

 

 子供が生きて産まれても、成長していることが奇跡なくらい繁殖にも影響しているらしい。

 従姉妹の許嫁がそうであったように、大抵は若くして死んでいく。30まで生きられたら御の字だ。

 

 

 俺の上にも兄や姉がいたそうだが、八割は皆生まれる前か、幼いうちに死んだと聞いた。

 失礼だが、死んでよかったと思う。生まれても性交で乱れるだけ。負の感情で生きるなら、その魂が新しい親の元に向かう方がいい。

 

 

「私は叔父上様と夜を共にしてきますが……、もし貴方に下の子ができたら新たな神にいたしましょうね。貴方の未来の子にも。私達の一族ならきっとできますわ」

「どうだろうな」

 

 

 目の前の女が言う『神の血』など自称だろう。

 俺が神になったのは先祖返りでも神の血を引くからでもない。そうであれと望まれたからそうなっただけだ。皮肉にも、人間の手によって。

 

 

 人々が集団で生活し、稲作や争いが起こった時代からこの家の血を守る行為は始まった。

 そして今に至り、折り重なった悪習は俺に注がれた。……凡庸な人間共が。神たる俺を呪うなど虫唾が走る。

 

 

「望んだ訳では無い」

「私達は嬉しく思いますわ。加護を一身に受けるのですもの……」

「おい、いつまで待たせる!早く来いと言ったろう!」

「あら、少しは待ってくださってもいいのでは?今夜は長くなるのですから……♡」

「くっははは!それでこそ俺の女だなァ!!」

 

 

 ……不快、実に不快だ。所詮人間共は『神』を望みを叶えるための道具としてしか見ていない。

 父をサルと言った女も、本人の前ではこうして媚びを売る。意味が分からない。やはりこれも血が濃くなった影響か?

 

 

「我等が神。夜の神よ……。また会いましょうね。決してこの部屋から出てはいけませんよ」

「……」

 

 

 問おう。世界の頂点に立つはずの人間が、何故自らより遥か最上に立つ存在を作り出したのか。

 

 

 ……それは即ち『欲』だ。

 

 

 人間共は己が手に入れられないものを永遠と求め続けるのだ。ひとつ手に入れたらまた1つ願う、身の程知らず。

 それに溺れた人間を見るのは面白いが、そろそろ見すぎて飽きた。この家は意心地も悪い。

 

 

「返事は?もう一度言います。決してこの部屋から出てはなりませんよ!!いいですか!?」

「……分かっている。早く行け」

 

 

 騒がしい女だ。

 痴れ者めが、分を弁えろ。俺に命令するな。毎度毎度、俺の牢に訪れて()に縋りやがって、対価を寄越さねば釣り合わぬだろうが。

 

 

 俺からしたら人間は都合よく神を信仰し、助けを乞う忌み物だ。

 周りが愚図なのもあるのだろうが、神を崇高で高尚、尊い御方と称すのならそのような下賎な行為は万死に値する筈であろう?

 

 

 もし俺がその気なら今すぐにでも神罰を下してやった。それが出来ないのは、俺に流れる人間の血が、奴らの血が俺の自由を縛り殺しているからだ。

 

 

『カァ!カァ!』

「……ん。君達は飽きないのか?こんな所に来てもつまらんだろう」

『カァ……』

「そうか。烏は頭がいいからな。俺達は案外いい話し相手だと思う」

『カァ?』

「なぜ会話ができるのか?……考えたことは無かったな。まぁ、俺が神だからということにしよう」

 

 

 あぁ、そうだ。話がズレてしまった。

 

 

 俺が神として産ま(創ら)れた所までは話しただろう。生命の誕生、つまり受精の一瞬くらいは人だったと思うが、不本意ながら次の瞬間には神になってしまった訳だ。

 

 

 どれもこれも、全ては汚物の巣窟であるこの家のせい。

 

 

 当時の、ただの力無き赤子も道順に従うと少年になる。俺が考える頭を持つようになって最初に思った事は、人間は非常に愚かだということだ。

 

 

 所詮は猿の進化系だろう。この世界は人間が頂上に立っているのに、さらに上の神という仮想を想像した。

 いつかの日には、いるのかも分からぬソレを信じてるバカな猿共が酷く滑稽に思えて、俺は声を出して笑った。温度のない笑いだった。

 

 

「聞いて、弟か妹が出来たわ!あのサルとの子ですのよ」

「そうか」

 

 

 気がついたら子作りに部屋を出ていった女が、大きくなった腹を抑えて俺の御前に座っていた。

 俺はこの家の者を化け物などと罵るが、俺もその一味だ。最初に感じた違和感は、時間の感覚だったか。神である分、死のない世界は時の流れが早い。

 

 

 兄弟ができとて俺の心は動かん。どうせ他の人間共と同じく育つのだろう?ならば興味も薄い。……少なくとも、当時はそうであった。

 

 

「ん、んん!」

「……。こ、こうか?」

「上手ですわ。そう。首に腕を添えて」

「きゃぁ!」

「……あ、暖かい」

 

 

 徐々に深刻になりゆく違和感に、俺が神であることを感じざるを得なかった。

 また気がついたら時が流れていた。俺の腕の中にはふわふわの赤子がいる。どうやら弟らしい。

 

 

 よく、生まれてきてくれたと思う。死んでいた方が良かったとは思うが、生まれたからには生きて、普通に暮らせることを願う。

 血が濃くなった影響は堕胎にもあるが、弟はそれを問題とせずに元気に生まれてきた。なんの病弱も無いらしいく、よく食べよく寝る子だと。

 

 

 そう考えると、以前は夜以外伽藍としていた家に子供が多い気もする。子供、と言っても1人では何も出来ないくらいの年頃の子だ。

 

 

 化け物が毎日ヤっていたらそりゃ子供もできるだろうが、それにしても出生が跳ね上がったように感じる。俺が生まれてから何かが変わったのだろうか。

 だとしたら俺の現状も変化してくれたらいいのに、と格子が張った窓から青空を見上げた。憎たらしいほど、美しかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「にぃ……んぁ!」

「……また来たのか。おいで、寒いだろう」

 

 

 白く、軽い雪が降る冬の日だった。弟は這いつくばりながらやってきた。

 

 

 赤子の四足歩行、というやつか?使用人も連れずに寒い中、1人で屋敷を移動しまくり俺の部屋(というより座敷牢に近いが)にまでやってきたようだ。弟は結構、お転婆らしい。

 

 

 何故か知らないがあの子は俺によく懐いていた。

 俺も最低限の態度はとるが、赤子に対しての情は生まれなかった。そもそも感情がよく分からない。

 

 

 他の人間のように俺を利用したらいいものの、赤子が考えることは理解できなかった。大人なら扱いも楽なのにと、そんな事ばかりを考えていた。

 

 

「ん!」

「いたっ。こら、髪を引っ張るな……」

 

 

 弟はぺちぺちと俺の頬を叩いて、髪を勢いよく引っ張った。

 赤子の割には強い力に狼狽えたのを覚えている。呪力が微量すら感じ取れない事で前々からの予想は正しいようだ。

 

 

「生まれ持った縛りか」

「ぅ?」

「なんでもない。ほら、そろそろ帰りなさい」

 

 

 最近よく聞く『天与呪縛』というやつらしい。

 これもまた俺が生まれてから多く現れている。一族も、他の呪術家系にも急増した呪いを扱う子供達といい、世界が均衡を取っているのだろう。

 

 

 天与呪縛が増えて術師も増える。不備を術師の数で補っているのを感じるな。

 その筋で行くと天与呪縛で子供達が奪われたモノも()への献上品か?……実に笑えない。

 

 

「人を呼んでやる。もう来るなよ」

「や!」

「はは、言っても聞かないか」

 

 

 俺が覚えている限り、弟の姿を見たのはあれで最後だ。

 それからあの子は1度たりとも俺の元に来ていない。

 

 

 屋敷のどこを探してもあの子の気配を感じないのだ。勘当されたか、死んだのだろう。名前を聞けば良かったと後尾を引かれた。

 

 

「……私、別の人との婚約が決まったの。って聞いてる?」

「あぁ、聞いてる。おめでとう」

「それだけ?もっと姉に何かないわけ?」

「異母姉だろうが。良かったな、俺のような腹違いの弟と添い遂げなくて」

「貴方もね。貴方のお母様は少し頭がおかしかったもの。昔、『私があの子と目交うのよ!』って私に宣戦布告してきたわ」

「……昔?」

「はぁ、またぼーっとしてたのね。あれから15年は経ってるわ。貴方のお母様も死んだし……忘れたの?」

 

 

 言われてみればそうだった気もする。

 ……そうか、この異母姉は俺の元婚約者だったな。母親だったあの女が俺の嫁にと言っていたやつだ。

 

 

 また時が飛んでいる。弟が死んでから、酷くよく起こるようになった。記憶も疎かになりつつある。何故だろうか。

 この感覚は何時だって慣れないが、15年も経っているのは驚いた。今までで1番長い気がする。どうやら、俺も完全にイカれたか。

 

 

「段々と自我が無くなっていく。末期だな」

「……私達のせいね。ごめんなさい」

「何故お前が謝る?」

「馬鹿な一族が貴方を創ったからよ」

 

 

 人が神で、神は道具。信仰は都合のいい呪い。俺の自我が消えかけているのは人々がそうであれと望んだからだ。

 

 

 純粋な神なら人に左右されることもなかったのだろうが、俺は他の神と違って人の血が流れている。

 人間の体が神格化された例外であり、少々特殊な存在だ。だから俺のような成り上がりの神は外界的影響を受けやすい。つまり、この一族の血だ。それが解けない呪いとなっている。

 

 

「ごめんね。貴方をこんなところに縛ってしまって。自由を奪ってしまって」

「………。お前の、名はなんだったか」

「……環玉(かんぎょく)よ。貴方が忘れても、っ何度でも言ってあげるわ」

 

 

 その言葉を言われたことで、俺の中で歯車が回った。

 初めて感じた激情。人間にもあの子()環玉()のような、マシな奴がいることを忘れたくないと思った。この記憶を忘れるべきでは無いはずだ。

 

 

 だが、もう遅いだろう。

 今の俺は殆ど頭が回っていない。ただ存在して、ヒトの願いを叶えるだけの道具だ。

 

 

 何れ今の会話も含めた全ての記憶が消失し、神の肩書きを持った傀儡となる。とんだ運命だ。生まれたことから、こうなることが定められていた。

 

 

「あの子の、名は」

「あの子……貴方の弟の?確か、虚月(こげつ)だったかしら」

「どうなったか知ってるか」

「……死んだわ。……貴方に無礼を働いたとか身の程を弁えなかったって」

「……ハッ、どの口が」

 

 

 言いにくそうに口篭って知らされた弟の話に、やはり、と目を逸らした。

 

 

 汚物共は自分達の事を棚に上げているようだ。あぁ、苛つく。

 家のヤツらはあの子を殺したのか。概ね危険因子の排除という所だろう。

 

 

 ……いいさ。人間共がそうしたのなら俺も殺した奴を呪ってやろう。そいつが死ねば、俺の苛立ちも少しは晴れるはずだ。

 そもそも、なぜ今更、感情らしき情を感じ始めた。無駄な癖に。

 

 

「私達は多くの罪がある。貴方にはそれを裁く権利も」

「止せ。お前は、悪くない」

「でも貴方は忘れてしまう。それに浸かって皆が貴方を利用する!!自我のない貴方がいいようにされているのを黙って見ていろと!?」

「……逃げられはしないだろう」

 

 

 姉に向かって酷な事を言っている自覚はある。

 だが、俺には逃げ出す事が出来ない。逃げ出す理由もない。このまま死ねたら、楽なんだろうとさえ思う。

 一方で世界を知り、自由に外を歩いて姉や弟と過ごしたいとも思う。最後の最後に、人間らしくなったな。

 

 

「待ってて。絶対、絶対貴方を救ってあげるから」

「俺は忘れるぞ」

「姉はやるわよ。やればできるわ。こんな一族ぶっ潰しちゃいましょう」

「……ふはっ、なら俺も忘れぬように努力はしよう」

「日記でもつける?あ、貴方、式神術はできる?」

「あぁ」

「なら私の式神作ってよ。ずっと傍に置いていたら嫌でも忘れないでしょう?」

 

 

 人好きの良さそうな笑顔で姉は言った。

 姉はたまに突拍子も無いことを言うがなかなか冴えている。こうして何度も姉の評価を見直してきた。

 

 

 ……式神か。姉のはいい案だと思う。どうせなら優秀な式神にしよう。ただの式神ではつまらんな。俺の術式効果を付与できるだろうか?

 

 

「おぉ?無気力な弟のヤル気が出てきた?」

「あぁ、……環玉の術式はなんだ?奪うのは気が引ける。俺なりに模倣して付与しようかと思うのだが」

「無いわよ。でも反転術式が使えるわ。貴方もでしょ?」

「そうか。なら今すぐでも作れそうだ」

「ふふ、見ていていい?」

「帰れ」

「えー……」

「帰れ」

 

 

 子供のように渋る姉の背中を押して無理矢理退場してもらった。

 集中力のいる作業に姉のお喋りは気が削がれるのだ。

 

 

 その後俺は記憶がトばない内にと蝶型の式神を作った。

 名は【(たまき)】。姉から取った名前だ。忘れないように、何度も口ずさんだ。

 

 

 ──ん、んまぁ、あぅ!

 

 

「っ……は……」

「あら、久しぶり。起きたのね」

「あぶぅ……んぅ!」

「……かん、ぎょく?」

「えぇそうよ。良かったー、覚えてるのね。毎回人形みたいな貴方に話しかけるのはつまらなかったの」

「その子は、……お前の子か?」

「そうよ!可愛いでしょ〜」

 

 

 魂の輪廻を体感した。きっと俺が神だったから分かったことだ。

 姉が子を産んでいたことは勿論、姉の子供から感じたソレに目を見開いた。

 

 

 また時が飛んでいる。あまりの衝撃にゆらゆらと漂っていた意識が戻り、一瞬で自我を取り戻してしまった。

 震える手を押さえつけて、再度姉が抱く赤子を見やる。

 

 

 似ていた。俺によく懐いていた実弟が、あの時の記憶のまま現実に現れたかのようにそっくりだった。

 見た目の話では無い。中身の魂が同じだった。

 

 

 一瞬自分の幻覚かと疑ったが、何度見てもあの子と同じ魂だ。

 肉体的にも呪力が全く無い所まで同じだ。直感で輪廻転生だと悟った。

 

 

「分かるわ。きっと虚月の生まれ変わりよ」

「驚きすぎて目が覚めたぞ」

「いいじゃない。寝坊助にはちょうどいいわ」

「ぅん、あぃ!」

「いてっ。俺の頬を叩くのもそっくりだな……」

 

 

 少々複雑だ。また巡り会えたのは喜ばしいが、この家にもう一度生まれ変わるなぞ同情する。知らない家で、幸せに生きていればよいものを。

 

 

 姉も老けたな。俺の見た目は若々しいまま止まっているのに、姉の顔には皺が出始めている。

 

 

「この子の式神も作ってくれない?」

「あぁ……。そうだな」

「あのね。私の旦那がこの家の当主になったのよ。貴方の呪いを解呪しようと組織を作ってる。……持ち堪えれそう?」

「……無理だ。俺の意思で話せるのも、これが最後だろう」

「……そう。私の世代じゃどうしても間に合わないようね」

 

 

 暗い顔をされても俺にはどうにもできない。

 呪いの解呪を進めたって、解呪するよりも多くの呪いが掛かったら意味も無いだろう。一族の血が繁栄する限り、俺に自由はない。

 

 

「に、ぃ!にーぃ!」

「……っ」

「私は力不足だった。でも、きっと後世のいい人達が貴方を救ってくれるわ。心配しないで、大丈夫よ」

 

 

 返す言葉も無い。さっきから絶え間なく睡魔が押し寄せてくるのもある。

 俺の膝の上に座っている赤子が暖かくて今にも寝てしまいそうだ。

 

 

 だがこれだけは言わなくては。彼女と弟の生まれ変わりに、俺個人としても、神としても感謝と幸福を……。

 

 

「……また会えるわ。おやすみ、影月(いんげつ)

「───」

「!ふふ、やっと分かったのね。私もよ」

 

 

 ちゃんと言えただろうか。もしかしたら噛んでしまったかもしれない。だが結果的に伝わったのならいい。

 覚えているのはたったひと握りの記憶だが、それでも彼女らには充分過ぎるほどの愛を貰った気がする。だから俺からも、返してやりたかった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 時々、ふっと希薄だった世界が色付く事がある。自我を失ってからというもの朦朧としていた頭が、まるで目覚めを促すように緩やかに回転し出すのだ。

 

 

 しかしそれも一瞬の事。ずっと続く訳では無い。

 その一瞬で辺りを見渡せば、見る度に物の配置や外の景色が変わっている。姉と話したあの日から、何十、何百年の月日が流れていることを見て取れた。

 

 

「───。──」

 

 

 存在しない記憶が頭を巡る時もある。いや、もしかしたら俺の自我が無い間に実際にあった出来事なのかもしれない。

 覚えてはいないが、脳裏に浮かぶということはそういう事なのだろう。

 

 

「──!──」

 

 

 いつも誰かが俺に話しかけている。子供や大人、年寄りの時もある。

 信者が俺に祈る風景では無い。そんなゴミのような記憶はあって無いようなものだから、思い出す事などありはしない。

 

 

「……──。───」

 

 

 では誰だろうか、と問われても分からない。

 頭が回らない今の状態で思考は出来ない。人間の言われた通りに願いを叶える以外に何も出来ないのだ。

 

 

 姉はいつか俺が救われると言っていたが、正直期待はしていない。

 長い時間が過ぎても尚、俺が囚われているのに変わりが無いのだ。人間共もこんなに都合がいい道具を逃す筈がないだろう。

 

 

「─い、お───!〜?」

 

 

 今回、俺に話しかけているのは少年らしい。耳に水膜が張ったような聴こえだが、次第に若い声が鮮明になってきた。

 ……可笑しい。もう目覚めることはないと思っていたのに、また意識が浮上する。何故だろう。

 

 

「かーみーさーまー!起きてます?」

「……」

「あれー。おかしいですね。私って加護の対象なのに」

 

 

 喋れはしないがはっきりと聞こえる。

 だがその前に、加護の対象とはなんだ。もしかして俺の弟とその生まれ変わりがソレとは言わんだろうな。

 

 

 だとしたら俺は弟に呪いをかけてしまったという事になる。若しくは因果が誕生したかだ。

 心当たりは大いにあるが、神の加護とは何だ。誰がそんな言葉を言い始めた。

 

 

「仕方ないですね……。また来ます!私は貴方の弟君の生まれ変わりらしいですし」

「……。(何を根拠に……)」

「では、兄様。また会いましょう」

 

 

 バタバタと部屋を出ていく後ろ姿になんだか騒がしい子だったと息を吐いた。

 

 死んだ俺の弟が生きていたらあんな感じになったのだろうか。まぁ、きっとそうだろう。

 俺の毛根を引きちぎる勢いで髪を掴んできたし、ご尊顔に平手打ちもしてきたのだ。根性論で有り得る。

 

 

「兄様!今日は父と蹴鞠をしたんです。お恥ずかしながら、勢い余って屋敷の屋根を吹っ飛ばしてしまいました。鞠は破裂ですよ!面白いでしょう?」

「……」

「はぁ……兄様と出会って1年。聞こえているんでしょう?目元が動いていますよー」

 

 

 理由は分からぬが、この1年は特に記憶をトばすことも無く、意識が落ちることもなかった。

 従来食事も睡眠も必要がない俺は呆然とするか、毎日訪れる弟の生まれ変わりの話を聞くことぐらいしかすることがない。

 

 

 欲に狂った信者が来ないのは有難いが、だからこそ暇だ。暇潰しの名人と自分で名乗ってもいい。

 

 

「それに喋れますよね。顔の筋肉を見ると分かります」

「……五感が鋭いのか」

「ッ!!エッ!?やっと喋りましたね!?!?」

「騒がしい」

 

 

 少しくらいこの子と話してやってもいいかと思った。

 閉じた声帯から久々に放たれる声は思ったほど掠れていなかった。

 

 

「あ、えっと、私は月夜見虚羅(つくよみのそら)と申します。気軽に虚羅と呼んでください」

「名は知っている。……お前が弟の生まれ変わりであることもな」

 

 

 1年間見てきた。その魂も輪廻した弟のものだと確認済みだ。

 容姿や性格は全て違うから戸惑う時もあるが、弟であることは変わりない。……たかが赤子をここまで引き摺るのは我ながら重いな。

 

 

「あ、質問なんですが、私って何回死んで生まれ変わってるんでしょう」

「知りたいか?」

「はい。できれば」

 

 

 面白い。過去など死して罪も罰も清められて忘れることが出来るのに、態々己から求めるとは何とも奇妙だ。だが俺は神。求められたら与えねばな?

 

 

 そうだな……ぼんやりとした頃の記憶を頼りにしたら、過去に8回ほど弟の生まれ変わりと出会った気がする。

 可哀想な事に全てこの家の生まれだったのは、俺との繋がりがあるせいだろう。神が一個人に呪いをかけてしまうなんて恥でしかない。同族に揶揄われてしまう。

 

 

「俺が知る限り、これで8つ」

「えー結構死んでるんですね。しかも1番最初、兄様の弟だった時は赤子のうちに殺されたって書物にありました」

「?」

「著者は環玉って人です。兄様の腹違いの姉って自称してありますよ」

「………はぁ」

 

 紙なんて日いづる国では最高級品だろう。そもそもあの時代に流通していなかったはずだ。

 手に入れた経路も気になるが、俺の事を書物に残すなぞ何をしてくれたのだあの人は。

 

 

「そうだ。あれは本当ですか?式神はある人達を忘れないためだってやつです」

「……誠だ。色々あったのでな」

「あぁ、説明は不要です。全部この書物に書いてあるので」

「はぁ……」

「それぞれの式神が誰に関係するかも分かりますよ。10体ですもんね」

 

 

 指南書か何かと疑う。いつか「ここ指南書でやった所だ!」とか言い出すのではなかろうか。そんな姿は見たくない。

 

 

 それより、式神が10体だと?俺の式神は【環】だけのはずだが、まさか自我が無いうちに9体も作ったのだろうか?

 ……だとしたら無意識とは恐ろしい。後で確認しなくては。

 

 

「安倍に藤原、菅原などなど。過去に参拝しに来た人達の式神らしいじゃないですか。兄様が忘れたくないって人ならきっといい人だったんでしょうね」

「そうなのかもしれぬ。俺にその記憶は無いが」

「歴代の生まれ変わりから伝言もあるんです」

「は?」

 

 

 開いた口が塞がらない。訪れない信者といい、一体この家はどうなった。伝言なんて巫山戯た真似ができるほど余裕があるのか。

 姉が自分の子に何か言ったんだろうか。姉の子供も確か弟の生まれ変わりだったはず。よもや姉が戦犯だったか……。

 

 

「なんと聞いている」

「兄様を解放しようとする組織はご存知で?何代か前の御当主が設立したらしいですが、私の代で1番厄介な呪いが解かれるそうなんです」

「……血の縛りか」

 

 

 覚えている限りの記憶を遡れば、俺を一族に縛っている最大の鎖がそれだった。

 中身は至って単純『一族がお前を創った、だからお前は一族に従え』というやつだ。クソすぎる縛りであろう?俺に一切の拒否権が無いのだ。

 

 

 血縁関係で結ばれた縛りは天与呪縛に続き、濃く深い。神と結ばれたそれは多くの犠牲と時間を掛けることでしか解決出来ないだろう。

 ……なるほどな、道理で数百年も掛かる訳だ。姉が言ったことの希望が見えるかもしれん。

 

 

「自由になったら何がしたいですか?」

 

 

 思ってもいなかったことだ。そもそも自由が何が俺は知らない。あぁ……でも、友人というものを作ってみたい。他にも色々とだ。

 

 

 きっと手を打ち始めたのは姉なんだろう。

 愛情に加えて恩まで重ねる事になってしまった。また彼女に会いたいが、遠くで俺とは無縁に生活して欲しいとも思う。

 

 

「解放の時が近いとは夢のようだ」

「で、何がしたいですか?」

「そうだなぁ……。甘味という嗜好品が食べたい」

「えー、それだけですか?仕方ないから私が決めてあげますよ。神なんかやめて人間になる!これでどうです?」

「……微妙だな」

 

 

 人。……人か。人間は嫌いなんだがな。

 弟のような善人になれるなら考えてやらんことも無い。……()なら実弟の願いは叶えてやらねばな?

 

 

 

 

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