御三家に生まれたので生存戦略を遂行する   作:超甘味

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妄想と捏造の産物とご理解ください。
では行ってらっしゃいませ〜

暗躍‪√‬・みんな仲良く生き地獄♡‪√‬
主人公は北へ・ほんのりBのLが顔を出す


if【そうしてオレは手紙を叩きつけた】

 

 

 17歳、高専3年生の夏。

 1ヶ月も悩んだ長文を何度も書き直したそれは、結局簡潔な一言で終結した。虚しくも僕の努力は散ったわけだ。

 

 

 あの日は平日の昼間だっていうのに妙に人が多かった。そんな中、胸を打つ心臓は僕の行動を促しているようで、濁流の様な人の流れに逆らって商店街を進んだ。

 

 

「僕はこの世界が大嫌いだ。……でも、悟の横では心の底から笑えたよ」

 

 

 すました僕に向かって怒鳴ってくるお前は、眉をこれでもかって寄せて年寄りのジジイみたいにワナワナ震えてた。

 

 

 何か言おうとして口を開け閉めしてたな。青鯖みたいな顔だった。

 だから名残惜しくなる前に、手に持った白いブツを無駄にイケメンな顔面に叩きつけてやった。普通に無限で防がれたけど。

 

 

「聞かせろ!ほんとにお前がやったのか?あんなの間違いなんじゃねぇの!?」

「残穢は僕の物だったんだろ。なら間違いじゃない」

 

 

 顔面にべチン!ってならなかったのは残念だった。でも空中停止したブツを手に取ってグシャッて潰したのは笑ったよ。

 悩みまくって書いた直筆の手紙を粗相にしたお前をガチ目に潰そうかと思った。耐えた僕凄いよ。命拾いしたなテメェ。

 

 

 でもさ、やっぱお前らしいなってちょっとだけ笑った。お前は多分、気付かなかったろ。これでもポーカーフェイスは得意だったんだぜ。

 最後の最後でも笑わせてくれるお前は、僕にとって眩しい太陽()だった。それをちゃんとお前に言えたら、何か未来は変わってたのかな。

 

 

「じゃあな」

「待てよ!おい、征哉!!せーや!!!!」

 

 

 背を向けるのと同時に幻術を掛けた。前世で培えた僕の幻術は最高峰だから、お前では決して破ることは出来ないだろう。幻術返しは訓練を積まないと会得できないし、超高度な術だから。

 

 

 僕達はもう前の様に過ごせない。僕は光に戻れないと、解っていた。でも光を護る影でいることはできそうだった。それが僕に残された選択だった。

 

 

「……悟」

 

 

 僕が叩きつけた白いブツを握りしめて不自然に固まったお前を見る。

 

 17歳、夏の終わりだった。

 己の金眼が一生忘れぬように、碧を深く焼き付けた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 よう!俺は最高にイケてて最高にクレイジーな禪院征哉。クソゴミ御三家に生まれて今年で17年だ。

 なんやかんやお家改革、弟の教育、ジジイ共の対処、呪霊狩りをして過ごしてきた平凡男子高専生である。(当社比)

 

 

 ……うん、巫山戯るのはやめて本題に移ろうか。実はついこの間後輩が死にかけた。原作にあった産土神任務だ。

 生きてたから良かったけど、その任務を下ろした上層部の腐ったミカンが言うには誰かが絡んでるらしかった。その誰かが今俺の目の前にいる。マジ最悪。

 

 

「何れ知る事だから名乗っておこうか。私の名は羂索。迎えに来たよ、月詠」

「……その体、補助監督のものか。それに俺は月詠なんて知らねぇよ。人違いだ」

「いいや、違わない。疑問に思わなかったかい?生まれながらにして別の記憶があることに。前世の君は、私でも犯そうとしなかった世界の禁忌を犯したからねぇ」

「………。(なんでこいつが知ってやがる。こいつが言ってる前世は俺の知ってる前世とは別物か?何なんだクソが……)」

 

 

 この状況は非常に不味いと言えた。奴は俺の知らない俺を知っていたし、実力的に見ても為す術が無い状況だ。相手は1000年生きながらえているクソメロンパンだしな。

 

 

 何かを思い出すように脳裏に浮かんでは、はっきりとしないまま消えていく。初めての出来事に動揺した。一体俺は何をした?とか、俺は一体誰だ?とかそんな感じ。

 

 

「お前、……何を知ってる」

「知りたいかい?」

「……」

「おいで、私と一緒に。全て思い出させてあげよう」

 

 

 バカも程々だったけど、どうしても俺自身について知らなくちゃいけない気がしたんだ。伸ばされた手を取る以外の選択が出来なかった自分にどうしようもなくイラついた。最早呆れまで湧いてくる。

 

 

「あ''ぁ、……っ!く、っ……」

「ほら、ゆっくり息をして。もう終わったよ」

「はぁ、は、ぁ''……ッ」

 

 

 ってな訳でヤツの手を握って攫われた俺。いつの間にかクソメロンパンは補助監督のガワを脱いで俺のそっくりさん(受肉した俺の前世の肉体らしい)になった。なるほど分からん。

 

 

 自分と同じ顔に背中をさすられても嬉しくねぇってのが率直の感想だった。どうせならボンキュッボンのバーの年上お姉さんとか悟とかが良かったな。サマーは嫌だ。胡散臭いもん。

 

 

「ぉ、えっ……うっ……お''ぇ」

「平気じゃ無さそうだね。君がしてきた事の数々は決して許されない事だ。今更遅いよ」

「ほ、っとけ……う、ぇ''……う、う''ぅ……ッ」

 

 

 今俺が苦しそうな声で喘いでるのは脳ミソに記憶をぶち込まれたからだ。

 反転術式がなかったら意識トばして脳が死にかけてたねって冗談を言いたいけど、俺にそんな余裕はなかった。

 

 

 頭が痛い……。吐きまくって胃の中にはもう何も無いレベル。喉が胃酸で爛れそうだった。涙が止めどなく溢れて蹲る俺を羂索は抱き上げる。

 人間の道具として過ごした日々、藤原や安倍等の出会いと別れ、弟──虚月(こげつ)と8人目の生まれ変わりの虚羅(そら)、一族と末裔の鏖殺、神として行った虐殺と救い……。全部、全部思い出した。

 

 

「おれ、は、ッ弟を……」

「よしよし、寝てしまえ。気落ちしてる時は寝た方がいい」

「あ、ぁあ!俺は、なんて事を……ッひ、人をあんなに殺「月詠」ッ……」

「大丈夫、君がいくら絶望しても私が傍にいよう。今はお休み。起きたら悩みの種も消えてるからね」

 

 

 諭す優しい声がキモかった。

 俺を子供みたいに軽々抱っこするのがウザくて、背中を撫でる暖かい手がキショかった。そんなのに縋るしかない俺は酷く弱いと自覚した。

 

 

「おやすみ」

 

 

 そんな風に泣いて吐き疲れた俺は気絶するように寝た。

 起きたらアイツは居なくて、俺はふかふかなベットに横たわってた。ズボンは履いてるけど上は首長インナーだけ。前にサマーにエロって言われたヤツだ。

 

 

 側のデスクには着物が何着と月柄の長羽織があったから一応コーディネートして着た。首長のインナーは手放せないからその上から着物を着てる。なかなか似合ってた。

 

 

「……何か?」

「あっいいえ!チェックアウトですね。あの、良かったら連絡先とか……!」

「すまない、急いでいるんだ」

 

 

 ここがホテルって事が分かった後は、部屋のキーを探して勝手にチェックアウトした。部屋のドアに挟まってたメモに駅前カフェって書いてあったからそこに行くつもりだ。

 

 

 フロントのバイトの子に俺のガチガチ和装と美人イケメンフェイスをガン見された。駅前カフェに行く道中もガン見された。俺の面がいいからだな。

 まぁ、有象無象はどうでもいい。今のテンションは底辺なんだ。メンタルにキてるんだよ。

 

 

「ようやく起きたかい?君が起きる3日間、ここに通いつめる羽目になったよ」

「そうかよ」

「ありゃ、元気ないね」

 

 

 当たり前だろ。クソみたいな事しかしてこなかった記憶を思い出していい気分でいられるかっつーの。

 

 

「月詠にとって人間と世界は憎ぶべき対象だった。人間は月詠を呪い、私利私欲の為に縛ったし、世界は人間なんかの願いに応えて生粋の神として生まれるはずだった月詠を半人半神にした。君の一族の行く末がああなるのが運命だったとしたら君はどうする?」

「あーあー、言うな言うな!俺の前世だ。全部思い出してるんだから嫌な記憶を呼び出すな。弟と俺が一族を殺して、俺が弟を殺すのが決まっていた事ならとんだクソったれだ」

「おっとすまない。で、どうだい?世界を変えてみないか。君が理想とする世界に」

 

 

 俺が前世の俺なら……って、なんか一人称が混じって困惑するから今世の一人称は『僕』にしよう。

 

 

 話を戻そう。()だったならこんな腐った世界ぶっ壊すだけだった。

 それはつまりクソメロンパンに同調して2人はプリキュア♡して、暇つぶしに1億呪霊造ったり死滅回游で血祭りしたり世界を破滅させたりってことだ。

 

 

「かつてそれに並ぶ禁忌を犯した。輪廻転生への干渉は……。まぁ、俺はそれを含めた全ての罪を今世の死後に償うことになる」

 

 

 でもね、クソメロンパン。お前は1つ勘違いをしてる。

 

 

「その話、乗った。世界を変えてやろう。俺の力なら達成しうる」

 

 

 俺は俺であって俺じゃない。お前がよく知るのは冷酷で無情で可哀想な【月詠】だろうけど、僕は俺によってこの世界に呼び出された平行世界の僕、【禪院征哉】だ。

 

 

 世界を変える?あぁ、変えてやる。僕もこの呪いが蔓延ってる世界は嫌いだ。だから変えよう、呪いが無い世界に。

 

 

「私達で変えよう。より良い世界に」

 

 

 その一説に含まれた真の意味を知るのはお前、その一説に含まれた相互の違いを知るのは僕だけでいい。

 

 

 僕が元より目指しているのは皆が生きてしわくちゃのジジババになって死ぬ平和な世界だ。

 呪霊がいないなんて尚良。呪術師側でも呪詛師側でもどんな道を通っても茨なら、僕は最も進みやすい茨の道を選ぶ。

 

 

「手始めに前世の魂を全て集めよう。……あぁ、今更だけどなんて呼べばいい?」

「月詠でいい」

「ふふ、では月詠。離反するのにどれくらい掛かる?」

「……一月だ。その間に全て終わらせる」

 

 

 僕はもうとっくに許されないから、許しも請わないから。せめて僕の大切な人達は今度こそ守りたかった。

 これ以上はいくら罪を重ねても課せられる罰は重くなりえないでしょ。言うなれば限界値突破。もう一個くらい禁忌を犯したって変わらないさ。

 

 

「手紙、書くか」

 

 

 ──【報告】 9月‪23日午後9時頃 上層本部並びに上層部重鎮御宅

 多量の血痕と識別不可能な死体を計■■体確認。御宅に倒れたご遺体はその親族が発見。上層部本部は一人を除いて全滅とみられる。

 生き残った者は呪術総監である禪院征哉直属の秘書のみ。その者の証言と現場証拠によると──……。

 

 

 そして冒頭に戻る。悟の顔面に叩きつけた白いブツは僕が書いた手紙だった。内容?……それは秘密。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 僕が秘書くん以外の上層部の腐ったミカン共を殺して、高専から離反して11年。

 きな臭ぇ呪詛師と呪術師も殺して連勝中(最強だから当たり前だけど)の禪院征哉だよ。ちなみに今の僕、特級呪詛師として指名手配中ですピースピース。

 

 

「我ながら流石と言うべきか、上手い具合に虎杖悠仁が宿儺の器として機能してくれてるよ」

「あっそ。んじゃ、そろそろ地獄が始まるのか」

「月詠、楽しい地獄にしようね」

「ハッ」

 

 

 この11年、原作が始まるまでは特に僕が介入する事もなかったから、僕は僕でやらなきゃいけないことをやってた。

 まず1つ目は僕の前世、【月詠】の魂を全て集めること。現状は後1つだけクソメロンパンが持ってる。受肉用として使うから破壊は待ってくれってさ。

 

 

 2つ目は天元が封印した僕の記憶の回収&天元に直談判。結界についてる警報がならないように忍び込むのは苦労した。

 天元が封印を解いてくれて、弟の骨粉が呪具【影楼】の原材料とか僕のツヨツヨ魔虚羅が弟をイメージした出来損ないとかを思い出した。また僕のメンタルは沈んだ。いっぱい泣いた。あれで涙は枯れたと思う。

 

 

「で、使えそうな駒ゲフンゲフン……薄汚い呪霊ゴホンゴホン……仲間を紹介したいんだけど、来る?」

「隠せてないよ。俺は行かない。呪霊と徒党を組むほど成り下がったつもりは無い」

 

 

 3つ目は存在の更新。目的の為には神に出戻りしないといけないから、来る時は前世の魂と残り香を使って世界を変える。

 その準備っていうか、話し合いってやつを神々と済ませてきた。月詠の姉弟らしき【天照】と【須佐之男】は僕に会って大号泣してた。僕はショックで気絶しそうだった。

 

 

「そっ、じゃあ好きにしな。行ってくるよ、ハニー」

「……」

 

 

 メロンパンよ、サラッと僕のおでこにキスしてくるのはやめて欲しい。

 あぁ、違うぞ。違うからな。これは決して愛し合ってるっていう素敵な理由じゃないからな。

 

 

 僕は肉体改造ができるから、それってつまり女性になれて子を成せるって訳。クソメロンパンは()との子供に興味があるんだよ。クソキモイ。死ね。ってか殺す。

 

 

「……サイドテール、彼奴は邪魔だな」

「気に触った?」

「うん」

「仕方ないね。君の前に連れてくるよ」

 

 

 聞けば今日は交流会らしい。前に吉野順平を諭して高専に入学するように誘導してから大分時間が経っていた。

 

 

 サイドテールは原作の渋谷事変で地味に被害を出してるから処理しなきゃね。だから彼には悪いけど、自白効果のある幻術をかけて高専に投げ捨てといた。9月、交流会の日の事だった。

 

 

「……!お前は!!特級呪詛師禪院征哉!」

「死にたくなかったら黙れ、与幸吉」

「……ちっ、俺をどうするつもりだ?」

「黙れと言っている。心配しなくとも、何もしないさ」

 

 

 そこから間もなく、今度は究極メカ丸の事件だ。

 都合よく「使えるから俺に寄越せ」と言ってトドメを刺されそうだった与幸吉をツギハギ呪霊からかっさらった。

 

 

 与幸吉は驚いて目を見開いてたよ。そんなに僕が呪術師を助けるのが意外だったかな?ククッ、僕の評価も落ちたものだ。10月19日、渋谷事変まで後少しだった。

 

 

「おいおいおい、何やってんの?お歯黒くん」

 

 

 僕とクソメロンパンは協力プレーしてるように見えるけど、協力関係は見栄えだけだ。

 だからメロンパンから今後の計画を聞かされてもアイツは力を貸せなんて言ってこないし、逆に言えば僕の為に何かをやってくれる、なんてことも無い。

 

 

『なんじゃあ?儂の邪魔をするつもりか、月詠』

「うん。そうだね。ここで宿儺に暴れ回られると困るんだ」

『ほう……?殺るか』

「お前如きが俺を殺れるとでも?自惚れるな、虫螻」

『あ''ぁん?』

 

 

 ということで、僕が目の前にいる富士山ハゲとお熱い闘いしてから殺しても、タコ呪霊を領域で殺しても、ペーペーお花畑呪霊を潰して殺しても、ツギハギクソ呪霊を瀕死にさせて行動不能にしてもクソメロンパンからは何も言われない。

 

 

 どうせアイツにとってこいつらは足の踏み台で駒。僕が殺した事で支障が出ても「ちょっと期待外れだったね」って言って次の日には忘れてる。

 埃みたいにペラッペラな命なら僕がって話だ。たかがゴミの分際で僕の大切な人が死ぬのは許せないから、僕が世の塵を払ってやる。

 

 

「見てよ月詠。五条悟封印できちゃった」

「……」

「君は守り番として獄門彊を守ってくれ。まぁ、無理だろうけどくれぐれも封印を解くなよ」

「さっさと寄越せ」

 

 

 クソメロンパンが僕の事をどう思ってるかはよく分からない。でも僕を右腕立場として信用してはいるらしい。

 信頼……はしてないだろうな。結構自分勝手にやってるって自分でも思ってるし。

 

 

「甚爾」

「あ''?……征哉」

「渋谷事変前に禪院家に避難したのは懸命だ。過去に僕が屋敷に張り巡らせた結界が破れることはないしね。だが、世間話をしてる暇はない。これをやる」

「んだこの箱」

「【天逆鉾】はまだ持っているだろ。上手く使え」

 

 

 有無を言わせず獄門彊をゴリラに渡した。禪院の敷地外でフラフラしてくれて助かった。実家に突撃するのは気まずかったから。

 

 

 もし直哉に鉢合わせでもしたら絞め殺されそうだな。何も言わないでいきなり高専を離反したし、禪院家時期当主だった僕が殺傷事件引き起こしたんだもん。

 

 

「なんか事情があんだろ。裏世界で生きてるやつでお前みたいな顔をした奴は少ねぇ」

「……だろうな。大体は殺しを楽しむ変態かイカレポンチだ」

「何があった」

「……それは、今言うべきことか?」

 

 

 ゴリラは脳筋ゴリラの癖に冴えてる。最後にゴリラが手に持った獄門彊に目を配って瞬間移動した。

 冴えてるゴリラなら今何が優先されるかくらい分かるだろ。大丈夫だよ、悟。死んでもお前を守るから。

 

 

「人外魔境新宿、いいねぇ!」

「俺は」

「いい分かってる。どうやら君と私は根本的に違ったようだ。君に殺されるのもまた本坊だよ」

「俺の相手は宿儺(小僧)だ。お前では無い」

「それは残念だ。とてもね」

 

 

 僕の意図を正しく解釈したゴリラはあいつの封印を解いた。死滅回游も幕を閉じたし、上層部の変な命令も全て取り消しになった。

 

 

 まぁ、良かったと思う。そのまま夜蛾先生を処刑とか宿儺の器の処刑とか五条悟の永久追放とかほざいてたら、僕はもう1回上層部を皆殺しにしなくちゃいけなかったから。

 

 

「俺の残り1つの呪具が、まさかお前の器になっていようとは」

「ケヒッ、中々いい体だ。しかし世界を断つ斬撃をどうやって受け止めた?」

「世界には世界をぶつけるのが鉄則だろう。事実をねじ曲げるのもまた俺の領分」

 

 

 その日、僕の全てをかけた死闘をした。一瞬の緩みが死を招く戦いだ。

 12月24日、僕の最期の日だった。

 

 

 原作では伏黒恵が宿儺に乗っ取られていたが、この世界では俺の受肉体に移ったようだ。

 でもやっと最後の魂の一欠片が集め終わった。【月詠】の魂が完成したことで神様モードも発動可能だ。大仕掛けの術も今まで世界を飛び回って陣やら準備した甲斐があった。

 

 

「クッハハ!そうか、また!お前は神に成ったのか!魂に刻まれたソレの切り替えか?それとも前世の残り火か」

「どちらでもいいだろ。どうせ一回限りだ。それはそうと、その体に付与されたのは十種か。当たりを引いたね」

「フン、それももう使えん。五条悟に式神を破壊、奴の領域で体も傷んだ。雷のヤツ(鹿紫雲一)で本来の姿に戻ってしまったしなァ」

 

 

 この決戦の前、悟が仲間から激励として背中とケツをぶっ叩かれてる間に幻術で暗示を掛けておいた。『月詠を殺したら下がる事』ってな。その判定は宿儺が意図して中断していた受肉の変身までだ。

 

 

 原作みたく胴体と下半身をサヨナラさせたくなかった。悟だけは絶対に、何があっても死なせるか。俺が家族以外で初めて激情を抱いた相手だぞ。

 ……きっと、僕が悟に抱く感情は綺麗なモノじゃなかったんだろう。もっとドロドロとした溺れるような何かだ。それを自覚するには年月が経っていたけど。

 

 

「今際の際だぞ、小僧」

「かつての親子喧嘩の再開か?」

「ふっ、そうだな。1000年振りに満足させてやる」

 

 

 悔いのない死は無いっていつかの夜蛾センは言ってた。その通りだよセンセー。もっと家族と仲間に何かしてあげれば良かった。

 かわいい、かっこいい、似合ってる、好き、大好き、愛してる。どれも全部言い足りない。

 

 

「お前の領域はそんなものか、小僧!」

「チッ、やはり今まで1度たりとも本気を出していなかったか!月詠!!」

 

 

 悲しい、苦しい、辛い、痛い、悔しい、嬉しい、楽しい、心地いい、大好き、愛してる、ありがとう、ごめん。……お前らに、お前に、言えば良かった。

 もっと素直になればよかった。でも無理だよな。()達は17歳の思春期だったんだ。

 

 

「もっとだ、もっと本気を出せ!その程度で神を殺せると思うな!」

「隙も与えぬくせによく言うなぁ!」

「それだけ俺は殺意に満ちている。ほら、もう一度だ!領域展開【神采盈夜(しさいえんよう)】」

「領域展開【伏魔御廚子】」

 

 

 赤、赤、赤。餓鬼の頃によく目線を合わせてあげた赤い目が好きだった。ちょこまかと小さな手足で後を追って来て、もどかしく思ったそれを俺が腕に抱えてやった。我が子のように思った日もあった。

 奴の四肢を千切り、内蔵を全て潰す。呪力を練る臓器も脳も、全てだ。奴を殺す気で【断影】と【断影・改】を仕掛けて、奴の存在を領域で侵食した。

 

 

 金、黒、赤。餓鬼の頃を過ごした育て親が赤に染まっていく。鮮やかな血の色だった。小さき頃は背を追いかけては抱えられ、高くなった視線で金瞳と目を合わせた。その時ばかりは珍しく穏やかな顔をしていたように思う。

 

 

 奴の領域で僕の体は切り刻まれる。それを反転術式ではなく肉体改造の方で対処し、領域と術式の精度を維持させた。

 もうあの頃には戻れないのだ。お前を殺して、僕も終焉を迎えよう。

 

 

「楽しいか?」

「いい、いいぞ!!こんな戦いは初めてだ!」

「俺は如何なる時代でもお前より強い。遊びにくらい付き合ってやる」

「遊び?ククッ、愉快な物言いをする」

 

 

 最強同士の戦いは次元が違う。現に今、お互いに領域を奪い合っている。どっからどう見ても並大抵の領域の押し合いじゃない。

 領域の奪い合い。これは互いの領域の要件の全てが一致した時だけ起こる特殊な現象だ。詳しい説明をしたいところだが、生憎戦闘中につき失礼する。

 

 

「埒が明かん。出ろ、全て受け止めてみせる!」

「威勢のいい小僧だ。いいだろう」

 

 

 これが誘い受けか……なんて、意味が掠ってもないアホみたいな考えが浮かんだ。死闘、決戦の最中だっていうのにどこか俯瞰した気分で僕は戦ってたよ。

 現実味がない訳でもないが、何処か夢でも見ている気持ちだった。これが夢ならいいと、何度も思った。

 

 

 両者領域を解いた後は無我夢中に戦いに没頭した。

 領域解除後はしばらくインターバルがあるから、呪力強化と体術で基礎のゴリ押し。これが意外となめちゃいかんよ。僕なら術式云々より基礎ゴリ押しの方が怖い。

 

 

「魔虚羅、適応しろ」

「!影法術の魔虚羅か、味見だな」

派生(十種)と比べるな。俺のはそう簡単にいかぬ」

 

 

 術式が回復したら順転と反転を掛け合わせた『比礼【熄】』と『比礼【燈】』を複数発動してブッパしたり、指向性を弄らないで無制限のソレらを撃ったりした。

 被害の件で今まで出来なかった最大出力のどデカいやつをバーンってやったり、……楽しかったな。

 

 

 最後の最後に、僕のすべてを出し切った気がする。

 

 

「『十戒』『天光』『逆罪と導』」

 

 

 

 他にも魔虚羅の宿儺への適応を手本に、世界を断つ斬撃とその他普通の斬撃を認識したりとか、逆に僕が世界に幻術をかけたりとか、とりあえず出来ることは色々やった。

 

 

 僕のツヨツヨ魔虚羅があんなに手負いになってるのは初めて見たよ。でもやっぱり楽しかった。強さだけ見れば、自分の養い子が立派に育って少し嬉しかったかも。

 

 

「『布瑠部由良由良と布瑠部』」

 

 

 全力を尽くした。

 宿儺、よく僕についてきたね。僕は誇らしいよ。あぁ、天晴れだ。お前の親になれて……たかはイマイチだが、お前を育てられて良かった。

 

 

 これで最後だ。悔いは腐るほどあるよ。

 

 

 決戦前に出した分身がずっと掌印と詠唱を唱えてくれていた。僕の術の威力は底上げされてるし、僕も1回きりの神様モード発動中だから世界の理を相手に出来る。

 禁忌は犯してはいけない。それは神であっても。でもね、『呪いが存在する』っていう世界の理だけは変えなきゃいけないんだ。それが僕の使命で、意義であるから。だから、

 

 

「もう二度と会わないことを願うよ、宿儺。極の番【────】」

「は、ははは!!!……先に逝くぞ!月詠」

「あぁ」

 

 

 ガコン、と重苦しい音が頭上の歯車から鳴り響く。

 僕の技が、権能が、呪いが、万物に適応された音だった。

 

 

 あばよ、クソみてぇな呪いの世界。

 そして初めまして、呪いが無い世界。

 

 

「……言えばよかった」

 

 

 目的を成し遂げた後の虚無感とはまた違う。どちらかと言うと脱力と安心だ。でも走馬灯のようにああすれば良かった、こうしたら良かったってのはポンポン出てくる。

 本当に、言えばよかった。自分の本音に向き合ってちょっとでも後悔しないように気持ちを言葉に出来たらと思った。

 

 

 俺は男で、アイツも男だけど。こうやって今際の際でうじうじしてるより良かったんだろうな。

 そういえば、手紙書いてたんだっけ。所謂ラブレター(笑)ってやつだ。

 

 

「……──渡せなかったな」

 

 

 改めまして、新しい世界でもって自己紹介をしよう。

 俺の名は禪院征哉。ただの平凡な元男子高専生だ。

 

 

 そして、死にゆく大犯罪者でもある。

 きっと来世は見込めないだろう。二度と大切な人にも会えない。そう思うと枯れたはずの涙が目を湿した。

 

 

「──」

 

 

 ──見上げた空は青かった。

 直視できない輝きに、眼を閉じる。いつかの俺の金眼に焼き付けた碧を思い出した。

 

 

 あぁ、悟。俺は……おま、え……

 

 

『征哉!』

 

 

 目蓋の裏に、笑うアイツがいたんだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 秘書side

 

 

 ある大バカクソ上司の話をしよう。

 

 

「秘書くーん。見て見て!弟くんの寝顔可愛くない!?」

「ハイハイ、そうですね。はい、これ追加の仕事です」

「えっ?」

 

 

 あの人は馬鹿で阿呆で最強だった。

 まだガキだった頃に上層部入りして媚び売りまくって中堅、仕舞いには呪術総監になってた。

 

 

「これ終わったら明日から1週間休みですよ」

「マジ?頑張るわ」

 

 

 オレが唯一信用信頼尊敬してたすげぇ人。あの人だけには敬語も使ってたし、一人称も昔のオレじゃ想像もつかない『私』なんかを使ってた。

 

 

 すげぇ人だったんだ。なんでも一人でこなしちゃう天才。だからオレは調子乗って追加って言いくるめて先の分の仕事をやらせてた。

 そんで2週間くらい纏まった休みを取らせて、家族が待ってる家に帰らせてたりした。

 

 

 あれ、オレなりの気遣いだったんですよ。貴方、知らなかったでしょ?

 

 

「貴方って最強なのに馬鹿ですよね。どうにかならないんですか?」

「は?」

 

 

 オレには無い術師としての圧倒的な才能を羨まなかったと言ったら嘘になる。でもあの人みたいに並外れて、アッチ側に行きたい訳じゃなかった。

 程よく強くて1級術師くらいになれれば万々歳。適当に老後を過ごして死ねればいいなーって。

 

 

 オレは至ってふうつの人間だった。でも呪術界では普通が普通ではいられない。マトモなやつから死んでく。

 オレの弱い心はそりゃ簡単に折れたさ。実力的にはまぁまぁ強かったんじゃないかな、オレって。でも心が持たなかったから補助監督に逃げた。

 

 

「京都のお土産頼みます。八ツ橋食べたいです」

「おっけー。最近は宇治抹茶プリンが有名だけど、どう?」

「それもお願いします」

「ん」

 

 

 そんな時にあの人に出会った。

 上層部と高専で忙しいから秘書が欲しいって上のジジイに言ったらしい。ちょうど補助監督になったばっかりでフリーだったオレはあの人の秘書に適任だった。

 

 

 あの人はオレを秘書くんって呼んでた。両親には悪いけど、名前よりそっちの呼び名の方が気に入ってた。

 

 

 あの人はなぁ、誰もが認めるすげぇ人だった。あぁ、この人がいれば全部解決するな、この人だけは絶対的な味方だな、って本気で思ってた。あの人が好きだった。

 だからあの日の出来事はすごく衝撃だった。

 

 

「総監?」

「……やぁ、秘書くん。居たんだ」

 

 

 上層部本部でたくさんの無惨な死体を見た。それを報告しようとして総監の執務室に駆け込んだら、あの人に襲われた。

 返り血を頭から被って、綺麗な金色の目をギラギラさせてあの人はオレに呪具を向けたんだ。霞むようで原型が定まらないそれは今まで見たことの無い呪具だった。

 

 

「秘書くんには証人になってもらう。酷だろうけどね」

 

 

 そう言ってあの人はオレに幻術をかけた。伝えたい部分を最低限に、これからの予定と計画も脳に流れ込んできた。

 オレは秘書なだけあって頭はいいからさ、あの人が求めてる通りに予想して動いてやったよ。上層部の殺傷事件としての事情聴取もあの人の為に言葉を紡いだ。あの人は離反して影ながら皆を守るつもりだったんだ。

 

 

「私だけが、あの人の良さを知ってる」

「でも五条先生の敵なんでしょ?」

「さぁ、私にはわかりかねます。あの二人の関係は特に」

 

 

 人外魔境新宿決戦。皆が液晶画面で見守る中、宿儺の器とそんな会話をした。

 あの人はずっと戦ってる。仲間を守る為に命を懸けて戦ってる。それを私以外は知らない。皆あの人が最悪の呪詛師で、最凶の敵だって認識してる。あの五条悟でさえも。

 

 

 多分、あの人は五条悟のことが好きだったんだと思う。

 幻術にかけられて見たあの人記憶の中で、五条悟だけ嫌にはっきりとキラキラして見えたから。あれがあの人目線での記憶なら説明もつく。五条悟にあの人は勿体ないと思うけど。

 

 

「やべぇな……。結界を閉じない領域、領域展延、世界に干渉する術、呪力総量も呪力効率もどれもバケモンだ」

「日下部さんはできますか?それ全部」

「なめんな、できるわけねーだろ」

 

 

 五条悟に向ける感情が報われないのはあの人も承知だったでしょう。男同士だし、進む道は正反対だったし。

 でもあまりにも可哀想だった。見てるこっちが哀しくなる。なんにも言わずに、或いは言えずに離反して影ながら支えて、感情を殺して機会を待って、最後は前世の罪で死ぬだなんて。

 

 

 正直になれば良かったんだ、あの人は。

 もっと貪欲に求めればもしもがあったかもしれないのに、黙って一人で解決しちゃうんだぜ?そーゆーのは良くない。

 

 

 オレにさえ言ってくれれば、オレだけは貴方の味方だったのに。

 オレなら貴方を悲しませないし、裏切らないし、地獄でも一緒に逝くのに。

 

 

『手紙を書いたんだ。執務室の本棚、1番上の右から3番目。黒い背表紙の本に挟まってる』

 

 

 酷い人。オレの気持ちを知りもしないで、信頼の全てを向けてくる。

 あの人から任された全てが腹心の証だけど、オレは貴方の隣にいたかった。

 

 

 決戦が始まる前に、あの人はオレに会いに来てくれてそう言った。

 別にその手紙はオレ宛でもない。オレが、渡せって事なんだろうな。是の返事を返したら、あの人は昔みたいに緩く笑ってた。

 

 

「五条先生、あの人はなんで宿儺と戦ってるの?仲間なんでしょ?」

「……分からない」

「先生?」

「ごめん」

 

 

 オレは正直、五条悟が嫌いだ。あの人の想い人の癖に、ちゃらんぽらんな馬鹿目隠しだし、なんならクズみたいな態度はあの人の性格を元にしてるとか抜かしやがる。キレそうだった。

 

 

 あの人も当時はそこまで自覚は無かったんだろう。だって17歳の子供だったし、恋だ愛だなんだっていわれてもピンと来るわけねぇじゃん?

 でも決戦前に手紙を書いたって事は、まぁ、遅咲きで自覚したんじゃねぇのかな。素直にはなれなかったっぽいけど。

 

 

「あれは!?」

「禪院征哉の術式【幻影法術】と【月詠】の神権の合併技。でも今の禪院は人間だ。いくら前世の残り火でもこれは……」

「硝子」

「……死ぬよ。確実に」

 

 

 皆あんまり驚いてる様子は無い。それも、そうか。

 あの人は上層部をオレ以外皆殺しにして離反、呪術師の敵になった。みんな、あの人の柔らかい部分を知らないんだ。

 

 

 

 この戦いが敵同士の潰し合いに見えるんだろ。……クソったれが。言えないって事がこんなに辛いとは思わなかった。

 あの人はよく耐えてるよ。

 

 

 ずっと黙って画面を見つめる五条悟の事を、オレは胸ぐら掴んでグーパンチしたいくらいだった。

 宿儺による世界を断つ斬撃、それが当たる寸前にあの人の術式でこの観戦場までトばされた五条悟さんよォ、今どんな気持ちだよ?あの人に助けられて代わりに宿儺と戦わせてるの、どんな気持ちで見てんだよ。なァ?

 

 

『──』

「ッ!……総監っ」

 

 

 地形がどんどん変わって、瓦礫すらも塵になる戦い。そんな人外最強同士の大戦はあの人の奥義で終わった。

 宿儺が負けた(死んだ)んだ。そしてあの人の命も消えかけてる。

 

 

 液晶画面じゃ死にかけのあの人の言葉は聞こえないけど、オレには何故だか分かるような気がした。

 やっと言えた本音だ。呪いも無いなら、好きなだけ言えるもんな。最期に、やっと。

 

 

「う''っ……ぅう''……」

 

 

 なんでそんな事を言ったのか、理解出来たオレはボロッボロに泣いた。

 

 手にはあの人が書いて執務室の本棚に隠した白いブツを持ってる。

 燃やしてやりたかったけど、あの人の生きた名残りを手離したくない。かといって素直を渡したくもないが。

 

 

 珍しく、今回はオレが追加の仕事を受け取る立場だった。いつもはあの人がオレから仕事を受け取ってたのに。

 全部変わったし、終わった。羂索ってやつも高専らが相手をしてなんとかギリギリ倒せたし、宿儺もあの人のおかげで殺せた。

 

 

 皆が新宿に足を運んだ。

 オレは顔をぐちゃぐちゃにして、しゃくりを上げながら、瓦礫に躓いて転んでも気にしないであの人の元に向かった。不格好に駆け寄って、二度と離さないと体を抱き締めた。……解っている。この人はもう、戻って来ない。

 

 

「は……、なっんで、笑ッてんですか……ズビッ」

「……家入さん」

「死んでるよ。……大馬鹿野郎」

 

 

 あの人はちょっとだけ笑ってた。悔いは沢山あるはずなのに、全部ひっくり返して戦って世界を弄って笑って死んでしまった。

 こんなにオレは負の感情を溢れさせてるのに、自分に呪力は感じなかった。周りもそうだ。あの人は本当に世界を変えて一人で三途の川を越えた。酷い、酷い人。

 

 

「宿儺は?」

「こっちも死んでる」

「ねぇ、呪力が全く感じないんだけど」

「僕も……」

 

 

 別に疑ってた訳じゃないけど、やり遂げるとも思ってなかった。やっぱりそこは最強なんだなって、あの人がいれば何もかもが上手くいくんだって改めて心に打ち付けられた。

 

 

 オレはもっと泣いた。オレはあの人より年上だけど、そんなのはどうでもいいようにあの人の亡骸に縋って、声を上げて泣いた。

 首元に縋りついた。脈も鼓動も感じられない。悲痛な慟哭を抑えても、喉から唸りをあげてしまう。死んだ。死んだのだ、オレの大切な人が。

 

 

「あ''ぁ''!……う''ぅ、ひっく、」

「お、おい。大丈夫か?」

「ぁああ!!どうして、どうしてっ!!!」

 

 

 あの人が命を捨ててまで望んだ世界に、あの人は存在しない。

 呪いがなくて、家族が欠けていなくて、仲間が笑って生きている。でもそこにあの人だけがいない。オレの生きる意味は消え去った。

 

 

 あの人の弟を抜きにしたら、オレだけがあの人の良さを知ってる。

 あの人の優しいところも、クソイラつくところも、仲間思いで愛情が深いところも、全部、全部、あの人がやった事の全ての理由を知っている。あの人が秘書のオレだけに教えてくれたから。

 

 

「もう、……おわ、ったんだよね?」

「そうだな、終わった。俺ァガチめに死ぬかと思ったが」

「や、やった、良かったぁ……。ほんと、皆生きてるよね?」

 

 

 あの人の事情を微塵も知らない奴は呑気に敵の死を喜んでる。

 オレはあの人が死んでこんなに悲しくて悔しいってのに、お前らは笑って戦いの終わりに喜んでる。巫山戯んな。

 

 

 喜びつつも顔を曇らせてるのはあの人の同期の3人と後輩3人。あとは禪院の親族だった。巫山戯んな!

 もっと悲しめよ!オレみたいに、泣き叫べよ!!イカれた呪術師どもが!!感情を麻痺させやがって、だからオレはフツーすぎて呪術師なんかやってられなかったんだ。

 

 

 なぁ、総監。貴方は本当にこれで良かったんですか。誰も、と言ったら大袈裟ですけど、貴方の死を悲しんでる人ってオレくらいじゃないですか。

 そんなの寂しいですよ。オレに一人は寂しいって言ってたのって貴方じゃないですか。

 

 

「なんで……」

 

 

 なんで貴方だったの。

 オレ達はヒーローじゃないから、責任転嫁でもしたら良かったのに。せめて誰かと一緒に背負えばよかったのに。

 オレ、貴方の側近でいられるなら呪詛師でも良かったんですよ。なんでオレを置いてったんですか。死ぬならオレも殺してよ。ねぇ、なんで……

 

 

「……好きになったの、アイツなの」

 

 

 アイツを想って笑った死に顔を見たくなくて、オレはこの人の首筋に頭を埋めたまま頭を擦り付ける。甘えるようにしたが、反応が帰ってくることはない。

 相変わらずいい匂いがした。あぁ、今にも起きてきそうなのに、こんなにも体が冷たい。

 

 

 思えば、昔もよく昼寝してたな。執務室のソファが寝心地いいって、オレがあの人から注文されたマシュマロ入りココアを作ってる間に何度も寝落ちしてた。

 それをずっとオレは見つめて、満足したら冷えきったココアを入れ直してから声をかけて起こすんだ。トロっとした甘い眼がオレだけを見つめるのが好きだったなァ。

 

 

「五条悟、聞かせろ」

「……なに」

 

 

 オレがそんな感情を抱いても、あの人の金眼に深く入り込んでたのはいつだって清々しい碧だった。無自覚であってもオレには分かった。

 オレからしたら五条悟の碧にもいつも金が写ってた。オレに勝ち目無し。知ってたけど、辛いものは辛い。

 

 

 あの人も五条悟も言葉が足りてない。腹をさらけ出して好き、愛してる、って言えば良かったのに。

 あの人に関しては呪いが無い世界にするつもりだったんだから呪い()の言葉とか遠慮なく言っちゃえば良かったのに。あぁ、でも最期には言えたんだったね。それだけは良かったと言える。

 

 

「征哉の事、どう思ってた」

 

 

 初めてあの人の下の名前を呼んだ。あーあ、どうせならあの人が生きてる内に呼んであげたかった。

 

 

 そうしたらきっと、貴方は驚いた顔をしながらオレに笑いかけてくるんだろうな。

 そんで調子を合わせて『秘書くん』じゃなくてオレを下の名前で呼ぶんだ。そこまで考えてオレの涙の制御装置は完璧にぶっ壊れた。存在しない記憶だ。ありもしない未来だった。

 

 

「征哉は俺にとって親友で、運命共同体で……そんで……大事な人、だった」

 

 

 ほらな、予想通りクソみてぇな回答だ。

 やっぱりお前の事嫌いだわ、五条悟。

 

 

「そうかよ。模範解答、ズビッ、だな」

「これが素か。さっきまでの敬語どうしたわけ?」

「う''る''せ''ぇ''、ク''ソ''!死ね!!!」

 

 

 マジで貴方はこんな奴のどこを好きになったんだろう。ただのクズじゃん。オレの方が絶対貴方の事を想ってたのに。

 でもオレは知ってますよ。五条悟が上半身と下半身でぶった切られそうになった時、貴方めっちゃ焦ってましたよね。

 

 

 ポーカーフェイスで顔には出てないけど、オレには分かりました。貴方にそんなに心配されるなんていいなーってちょっと思いました。悔しいけどオレの負け。

 貴方にこんなに愛されてるのに五条悟はヘラヘラしてるし、今じゃ誰も貴方の死に悲しまないし、気分はもう最っ悪だった。

 

 

「今はもう、呪術って概念が存在しないんですよね」

「え、うん」

「無限、ないんですよね」

「うん」

 

 

 オレは後追いはしませんよ。貴方が悲しむだろうから。

 だからオレが人生を全うして死んだら、またオレのこと秘書くんって呼んでください。

 

 

 貴方の声をまた聞きたい。オレが好きな貴方の眼を見せて欲しい。

 また、オレと出会って欲しい。神様、お願いだ。オレの全部をあげるから、あの人に来世のチャンスをあげてくれ。

 

 

「へー、ぅ''ッ……ズズッ、じゃぁ。いっか」

 

 

 ……昔、オレがあの人の秘書になる前に、あの人が態々オレの元に出向いてスカウトしてくれた。

 オレはその時、フリーで適任でもなんでオレに限定するのかって聞いた。

 

 

 そしたらあの人は「嫌いな奴に遠慮して、いつ誰に本気出すんだよ。あ、君が嫌いって意味じゃないよ?上層部ね。だから一緒に一泡吹かせようぜ」ってはっちゃけた顔をして言ってきた。

 それにオレは確かにって思って笑って、オレは秘書くんとしてあの人の傍を選んだ。本音であの人がいいって思った。あの人だけだったんだよ。

 

 

「すぅ……はぁ〜〜……」

 

 

 何度でも言ってやる。オレは五条悟が嫌いだ。大嫌いだ。あの人がコレを愛していてもオレは無理。

 

 

 あの人の亡骸から顔を上げて、丁寧に体を横たわらせる。手をすくい上げて忠誠を誓うキスを送った。なに、これが最初で最後だ。

 

 

 そして憎き碧を見た。その碧の中に金が居たような気がしてまたオレは泣いた。

 泣きながら深呼吸して、ずっと握りしめたままだった白いブツを構え直す。

 

 

 皆薄情だよ。貴方の努力も葛藤も悲しみも理解してくれない。だからオレだけはいっぱい泣いて死んでも貴方を想ってやる。

 あの世で貴方は罰を受けてるんだろうけど、オレも一緒に受けるよ。オレは薄情じゃないからさ。そして今度はオレを選んで愛してよ。

 

 

「五条悟、貴様にお届け物だ!」

 

 

 遠慮はなかった。呪術が無いオレ達はちょっと特殊な過去を持つ一般人に成り下がったし、嫌いな奴には憎しみを込めて本気を出した。だってあの人がそう言ったたんだから。

 

 

 右腕を振り上げて、呪力の代わりに取っておきの邪念と力を込める。白いブツは潔くオレの掌から離れた。

 

 

「ぶべッ!!」

 

 

 べチン!と痛そうな音が響き渡る。オレが大嫌いで貴方の大好きな奴の顔に白いブツは張り付いた。

 

 

 ちゃんと渡されたのをして確認して、オレは顔を涙でびちゃびちゃにしながらあの人の亡骸を再度抱え直し、渋谷を後にした。その後は続々と解散したらしい。

 

 

 だからオレはあの憎い碧から水が溢れてたのを知らない。

 後日、五条悟が白いブツと付属の写真を抱えてあの人の墓の前で独白と本音を告げてたなんて、暇があれば墓に行って泣いてるなんて、知らないったら知らない。

 

 

「貴方って人は本当に大馬鹿者ですよ。来世はオレを選んでくれること、期待してますからね」

 

 

 そんな馬鹿で阿呆で最強な、オレのクソみたいにすげぇ上司の話。

 

 

「おやすみなさい、……愛しい人」

 

 

 毎日毎日、豪勢な墓に薔薇を手向ける。

 頼まれたあの人からの最後の仕事は、オレの嫌いな奴へのお届け物。白いブツはあの人が書いた手紙だった。そうして────。

 

 

 

 





この征哉に来世は無い。
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