もしニナとルーデウスが接触に成功していたら……というifです。
独自解釈などあるので注意です。
ラノア魔法大学は獣族の見学者でごった返していた。
ドルディア族の姫君が発情期にあり、求婚を申し込む者が殺到していたのだ。
その群衆の中に、別の目的を持ったある女がいた。
ニナ=ファリオン、浅黒い肌に青みがかった黒髪の女剣士だ。
ルーデウスを倒し、あの山猿エリスに奴隷となった彼を見せる。
凹ませてやろうという訳だった。
決闘を申し込む獣族の青年について行き、ルーデウスを見つけることができたニナだが、そこで思わぬ事態が起こってしまった。
声を張り上げて口上を述べると、青年はルーデウスと決闘を始めた。
すぐに泥沼の魔術に嵌められ動けなくなり、万事窮すかと思われた。
しかし、ルーデウスは珍しく、僅かに失敗した。
青年は恵まれた身体能力を活かし、追撃に飛んできた岩砲弾の魔術を、身を捩って回避したのだ。
慌てず、ルーデウスは第2撃で仕留めた。
時間にして4秒足らず。それでも楽勝と言えただろう。
問題はなかった。
青年の真後ろに居たニナが、気絶していることを除けば。
◆ルーデウス視点◆
やってしまった。
決闘相手は大したことがない奴だったが、油断した。
後ろに居た女剣士風の人を巻き込んでしまった。
取りあえず、医務室にでも連れて行こう。
起きたら謝るしかないか……
身体を要求されたらどうしよう。残念ながらマイサンは役立たずだ。
お詫びはそれ以外にしてもらおう。
医務室に寝かせ、治癒魔術を掛けると間もなく女性は目を覚ました。
ハッとした顔をして辺りを見回している。
「気が付きましたか?」
「ええ」
すぐに俺は土下座の体勢に入る。
「すみませんでした!かわされるとは思ってなかったんです。身体以外で良ければ何でもお詫びさせてください!」
女剣士は少し考えると、何やら悪い笑みを浮かべたように見えた。
「なら、私の奴隷になってくれないかしら」
「え?」
全く想定していなかった言葉に、俺はしばらく呆然とすることになった。
◆ ◆ ◆
女剣士はニナ=ファリオンと言う名で、剣の聖地という場所から来たそうだ。
ニナの話を聞くことにしたのは、彼女の口から「エリスの男」 という言葉が聞こえたからだ。
俺が質問すると慌てて取り繕っていたが、怪しい。
エリスについて、何か知っているのかもしれない。
彼女の奴隷になったフリをして、ついて行くことにした。
剣の聖地までの旅路の間、奴隷と言っても酷い扱いはされなかった。
ニナはせっかちで気も強いが、親しみやすい人柄にも思える。
俺を奴隷にして何をさせたいのだろう。
もし、エリスが剣の聖地に居るのだとしたら、どうしようか。
俺を捨てた理由を確かめる?
気になるが、どうでもいいと言われたら、俺は立ち直れるだろうか。
期待と不安がないまぜになった気持ちのまま、剣の聖地に到着した。
着いてから、俺はニナに縄で腕を縛られた。
奴隷らしくしてほしいらしい。
柄の悪い連中が多く、ピリピリとした雰囲気のある土地だ。
目を付けられませんように……
そう念じながら歩いた。
大きな道場のような場所に着くと、周りの連中が俺を睨みつけてくる。
ちびりそうだ。
道着を来た男の一人が、俺とニナに話しかけてきた。
「誰だ。そいつは」
「ジノ、この男はルーデウスよ。私の奴隷なの」
ニナが合わせるようにと、視線でプレッシャーをかけてくる。
「はい」
俺が同意すると、ジノが俺を睨みつけてきた。
「なぜ奴隷なんかが必要なんだ!お、俺じゃ駄目なのか?」
おい、何だか変な空気になってきたぞ。
「そうよ。はぐれ赤竜を退治したと言うあの『泥沼のルーデウス』よ? あなたとは比べ物にならないわ」
このジノという男、どうやらニナのことが好きらしい。ニナは気付いていないようだ。
これ、まずいんじゃないの?
彼、さっきから俺に殺意を込めた視線を向けてるよ?
ジノが手に持った木刀を振り上げたと思った、その時だった。
「誰の物に手を出してんのよ!」
目の前に赤い髪の女が立っていた。
そのウェーブの掛かった赤い髪はよく覚えている。
忘れたくても、忘れられなかった女。
エリスだ。
木刀を持った彼女がジノの攻撃を受け止めている。
エリスは受け止めただけでなく、ジノを散々に打ちのめした。
止めに入ろうとしたのか、剣を抜こうとしたニナも、先手を取ってボコボコにした。
昔見た時よりも遥かに速い斬撃で、軌道が見えない。
持っていたのが、真剣であれば彼らは死んでいただろう。
「エリス……」
久しぶりに見たエリスは、俺が知る姿よりも髪が短くて、野性味のある姿になっていた。
様々な感情が溢れて言葉にならない。
さっきの行動でわかってしまった。
俺はきっと、勘違いをしていたのだと。
「なによ……」
エリスは俺の様子を見て困惑しているようだ。
辛かった2年間を思い出すと涙が溢れてきた。
「ルーデウス、泣かないでよ」
「辛かったんだよ!起きたら居なくなってて、どうして行ったのか分からなくて、アレも勃たなくなって!」
俺はエリスの胸にすがって、しばらく泣き続けた。
その後、麓の街の宿屋に俺とエリスは居た。
宿屋の一階の酒場で向かい合って座り、話し合う。
エリスはどうやら、俺がオルステッドと再戦するつもりだと思っており、このままの自分では釣り合いが取れないと、修行の旅に出たということだった。
捨てられたと思ったのは、俺の勘違いということになる。
別れてからのことをかいつまんで、お互いに話した。
俺の話を、エリスは真剣な表情で聞いていた。
「ルーデウス、悪かったわ。その……アレが立たないのよね?」
「はい」
エリスに捨てられたのが勘違いと分かってからは、体に力がみなぎってきている気がする。
「今から部屋に行くわよ?」
「はい」
部屋に入るとベッドに2人で並んで座った。
別れた日を思い出すな。
あの時の記憶を思い出すと未だに涙が出てくる。
「エリス、今度はもうどこにも行かないでください」
「……わかったわ」
「服、脱がすよ?」
エリスは真っ赤な顔で頷いた。
俺は彼女の道着を脱がしていく。
汗くさい臭いが鼻腔を突いたが、不思議と不快には思わなかった。
なんだか安心する臭いだ。
肩を掴み、エリスにキスをする。彼女からもキスし返してきた。
そのまま、流れで彼女をベッドに押し倒した。
傷つけたお詫びと思っているのだろうか。エリスからの抵抗はなかった。
エリスの身体には以前見た時よりも、筋肉がついているように見える。
加えて胸も成長しているようだ。
その裸体を見て、久しく覚えていなかった感覚が股間にあった。
復活している。
雄々しくそそり立ったマイサンは、今すぐその狂犬に躾をしろと主張しているかのようだった。
ここは、一度言ってみたかった台詞を使う時じゃないだろうか。
「今夜は寝かさないよ」
「なに言ってんのよ……」
冷静にツッコミをされてしまったが、溜まりに溜まった、いくつかの感情をぶつけたいのは本当だ。
俺はすぐに野獣となり、エリスにそれをぶつけた。
エリスもそれに応えてくれた。むしろ、搾り尽くさん勢いで求めてきた。
すれ違いで生まれた溝を、埋め合わせるかのごとく、求め合った。
翌朝、目を覚ますと隣を探す。
――居る。
エリスは目の前で寝息を立てている。
ほっと俺は溜息を吐くと、しばらくその端正な寝顔を眺めていた。
どれくらい眺めていただろうか。
エリスが目を覚ました。
「おはようございます、エリス」
「おはよう、ルーデウス」
エリスはニマニマしている。
俺もつられて笑う。
別れたあの日以来、久しぶりに幸せな気持ちで、朝を迎えることができたのだった。
◆ ◆ ◆
一方その頃のラノア魔法大学では、「ルーデウスの帰りを待つ」と言い、特待生として入学した魔王と、何かを決意した表情で馬に乗り、北へ向かう白髪の少年が居たという――